報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の消息」

2020-07-26 19:43:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日12:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 助手の高橋が行方を眩ませてしまったので、高橋のスマホをGPSで追おうとしている現在。

 愛原:「おっ!?」

 私が自分のスマホで位置情報を検索しようとしていたら、そこに電話が掛かって来た。
 相手は斉藤秀樹社長だ。
 我が事務所の大口契約先でもあるから、失礼の無いようにしなければならない。

 愛原:「はい、愛原でございます」
 斉藤秀樹:「ああ、愛原さん、お昼休み中に失礼します」
 愛原:「いえ、いつもお世話になっております」
 斉藤秀樹:「急な事で申し訳ないんですが、ちょっと仕事の依頼がありまして、引き受けてもらえませんか?」
 愛原:「いいですよ」

 斉藤社長の依頼はおよそ探偵とは関係の無い仕事が多いのだが、うちのような弱小事務所は大きくなるまでは、『何でも屋』に徹しなければならない。

 愛原:「どんな仕事でしょう?」
 斉藤秀樹:「明日から4連休に入るじゃないですか。娘を旅行に連れて行ってもらいたいのです」

 またか。
 何でこの社長は家族旅行まで外注委託するかね。
 ま、そのおかげでこちらは儲けさせて頂いているのだが。

 愛原:「分かりました。ちょうど私達も出掛ける予定が入りそうなので、そのついででよろしければお引き受け致します」
 斉藤秀樹:「おお、助かります。コロナウィルスの最中、社員達に外出自粛を求めている中、言い出しっぺが家族旅行なんて示しが付きませんからなぁ……ハッハッハッ!」
 愛原:「だったら、それでいいと思いますが……」
 斉藤秀樹:「娘にはなるべく外の世界を体験してもらいたいのです。それに……ここだけの話、うちの娘はコロナウィルスに感染することはありません。そちらのリサさんと同じですよ」

 斉藤絵恋さんやリサの抗体をワクチン化して世界中に売り出せば、大日本製薬は世界企業へと伸し上がれるだろうに、それはできないのだそうだ。
 何でも、『コロナウィルスを撃退する代わりに、ゾンビになってもいいのなら売り出しますよ』とのこと。
 もちろん、そんなことは許されない。
 国連組織BSAAが知ったら、即座に斉藤社長は摘発されるだろう。
 つまり、わざわざ神奈川県の山奥にまで行って私達がしてきたことは、殆ど無駄になってしまったということだ。
 リサの抗体を持ってすれば、コロナウィルスなど赤子の手をひねるも同然。
 しかしその為には人間を辞めなくてはならない。

 斉藤秀樹:「コロナ禍の中の旅行なので危険な仕事です。旅費はもちろん、報酬も弾みます」
 愛原:「そうですか。行き先に指定はありますか?」
 斉藤秀樹:「なるべくなら国内がいい。もっとも、今の国際航空便の運航状況は【お察しください】。国内であれば、愛原さんにお任せします」
 愛原:「娘さんはどこに行きたがってます?」
 斉藤秀樹:「『リサさんの行く所へならどこへでも』だそうです」
 愛原:「寅さんに付いて行く、某自殺志願者のサラリーマンみたいこと言いますなぁ……。そんなこと言って、本当はリサと一緒に行きたい場所とかあるんじゃないですか?」
 斉藤秀樹:「あることはあるようですが、少し遠いんですよ」
 愛原:「構わないですよ。教えてください」
 斉藤秀樹:「ウィーンだそうです」
 愛原:「ああ、湯布院ですか。東京からだと、それは遠いですな」
 斉藤秀樹:「いえ、湯布院じゃなく、ウィーンなんです」
 愛原:「知ってますよ。九州で温泉が有名な所でしょ?昔、JR九州で“ゆふいんの森”なんて列車を走らせてましたけど、今でもあるんですかね」
 斉藤秀樹:「あ、いえ、だから……。ま、いいです。どうせ今回は無理ですから。行き先は愛原さんにお任せします。条件はリサさんも一緒に行ってくださいということですね。後で依頼書をファックスで送りますので、よろしくお願いしますよ」
 愛原:「了解しました」

 私は電話を切った。

 高野:「先生こそ、寅さんみたいなやり取りをしてましたね?」
 愛原:「ん?何のこと?」
 高野:「いいえ……」
 愛原:「おっと、そんなことしてる場合じゃない。高橋の位置情報を……」

 と、また電話が掛かってきた。
 何だか急に忙しくなったなぁ。
 スマホの画面を見ると、『公衆電話』になっていた。
 んっ?もしかして高橋か!?

 愛原:「も、もしもし!?」
 男:「さ、サーセン!これ、愛原先生のケータイっスか!?」

 電話の向こうからは、聞き覚えの無い若い男の声がした。

 愛原:「そうですけど、どちら様?」
 男:「お、俺、マサの友達で木村って言います!あの、本当はこれ、マサから黙ってろって言われたんスけど、黙ってらんなくなって……」

 高橋の友人の木村を名乗る男は、少し慌てた様子だった。

 愛原:「高橋を知ってるのか!?今どこにいるんだ!?」
 木村:「俺は今、菊川駅ん中の公衆電話っス。ケータイはあるんスけど、それだと履歴とか残っちゃうじゃないスか。マサから電話番号は聞いてたんで、それで電話してるんスけど……」
 愛原:「いや、そういうこと聞いてるんじゃない!高橋が今どこにいるか……」

 そこで私はハッとした。
 私は今、『公衆電話』だから電話に出た。
 もしかしたら、高橋に対して『非通知』や私のケータイとかだと着信拒否にしているかもしれないが、『公衆電話』なら繋がるんじゃないか!?

 木村:「……もしもし?もしもし?聞こえますか?」
 愛原:「あ、ああ。聞こえてる。それで、高橋は今どこにいる?」
 木村:「多分あいつ、東京脱出してますよ」
 愛原:「東京脱出したか!」
 木村:「いや、正確には脱出してないんスけど……」
 愛原:「ちょっと詳しい話、聞かせてもらえるかな!?うちの事務所まで来れる?……ムリ?ああ、分かった。じゃあ、俺から行こう。菊川駅の近くに珈琲館がある。そこで話を聞かせてもらおうか!」

 私はそう言って電話を切った。

 愛原:「高野君、高橋の友達から有力な情報を聞き出せそうだ!今からちょっと会いに行ってくるよ!」
 高野:「でも先生、そろそろ斉藤社長から依頼書が来るんじゃないですか?」
 愛原:「兎にも角にも、高橋の居場所を知らない限り、行き先なんか決められないよ。取りあえず行ってくるから!」
 霧崎:「私も御一緒に……」
 愛原:「霧崎さんは……ああ、分かったよ!勝手にしろ!」

 ここで断っても、霧崎さんがナイフを出してくるのは目に見えていた。
 メイド服は目立つが、取りあえず一緒に来てもらうことにした。
コメント
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