[7月22日12:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
助手の高橋が行方を眩ませてしまったので、高橋のスマホをGPSで追おうとしている現在。
愛原:「おっ!?」
私が自分のスマホで位置情報を検索しようとしていたら、そこに電話が掛かって来た。
相手は斉藤秀樹社長だ。
我が事務所の大口契約先でもあるから、失礼の無いようにしなければならない。
愛原:「はい、愛原でございます」
斉藤秀樹:「ああ、愛原さん、お昼休み中に失礼します」
愛原:「いえ、いつもお世話になっております」
斉藤秀樹:「急な事で申し訳ないんですが、ちょっと仕事の依頼がありまして、引き受けてもらえませんか?」
愛原:「いいですよ」
斉藤社長の依頼はおよそ探偵とは関係の無い仕事が多いのだが、うちのような弱小事務所は大きくなるまでは、『何でも屋』に徹しなければならない。
愛原:「どんな仕事でしょう?」
斉藤秀樹:「明日から4連休に入るじゃないですか。娘を旅行に連れて行ってもらいたいのです」
またか。
何でこの社長は家族旅行まで外注委託するかね。
ま、そのおかげでこちらは儲けさせて頂いているのだが。
愛原:「分かりました。ちょうど私達も出掛ける予定が入りそうなので、そのついででよろしければお引き受け致します」
斉藤秀樹:「おお、助かります。コロナウィルスの最中、社員達に外出自粛を求めている中、言い出しっぺが家族旅行なんて示しが付きませんからなぁ……ハッハッハッ!」
愛原:「だったら、それでいいと思いますが……」
斉藤秀樹:「娘にはなるべく外の世界を体験してもらいたいのです。それに……ここだけの話、うちの娘はコロナウィルスに感染することはありません。そちらのリサさんと同じですよ」
斉藤絵恋さんやリサの抗体をワクチン化して世界中に売り出せば、大日本製薬は世界企業へと伸し上がれるだろうに、それはできないのだそうだ。
何でも、『コロナウィルスを撃退する代わりに、ゾンビになってもいいのなら売り出しますよ』とのこと。
もちろん、そんなことは許されない。
国連組織BSAAが知ったら、即座に斉藤社長は摘発されるだろう。
つまり、わざわざ神奈川県の山奥にまで行って私達がしてきたことは、殆ど無駄になってしまったということだ。
リサの抗体を持ってすれば、コロナウィルスなど赤子の手をひねるも同然。
しかしその為には人間を辞めなくてはならない。
斉藤秀樹:「コロナ禍の中の旅行なので危険な仕事です。旅費はもちろん、報酬も弾みます」
愛原:「そうですか。行き先に指定はありますか?」
斉藤秀樹:「なるべくなら国内がいい。もっとも、今の国際航空便の運航状況は【お察しください】。国内であれば、愛原さんにお任せします」
愛原:「娘さんはどこに行きたがってます?」
斉藤秀樹:「『リサさんの行く所へならどこへでも』だそうです」
愛原:「寅さんに付いて行く、某自殺志願者のサラリーマンみたいこと言いますなぁ……。そんなこと言って、本当はリサと一緒に行きたい場所とかあるんじゃないですか?」
斉藤秀樹:「あることはあるようですが、少し遠いんですよ」
愛原:「構わないですよ。教えてください」
斉藤秀樹:「ウィーンだそうです」
愛原:「ああ、湯布院ですか。東京からだと、それは遠いですな」
斉藤秀樹:「いえ、湯布院じゃなく、ウィーンなんです」
愛原:「知ってますよ。九州で温泉が有名な所でしょ?昔、JR九州で“ゆふいんの森”なんて列車を走らせてましたけど、今でもあるんですかね」
斉藤秀樹:「あ、いえ、だから……。ま、いいです。どうせ今回は無理ですから。行き先は愛原さんにお任せします。条件はリサさんも一緒に行ってくださいということですね。後で依頼書をファックスで送りますので、よろしくお願いしますよ」
愛原:「了解しました」
私は電話を切った。
高野:「先生こそ、寅さんみたいなやり取りをしてましたね?」
愛原:「ん?何のこと?」
高野:「いいえ……」
愛原:「おっと、そんなことしてる場合じゃない。高橋の位置情報を……」
と、また電話が掛かってきた。
何だか急に忙しくなったなぁ。
スマホの画面を見ると、『公衆電話』になっていた。
んっ?もしかして高橋か!?
愛原:「も、もしもし!?」
男:「さ、サーセン!これ、愛原先生のケータイっスか!?」
電話の向こうからは、聞き覚えの無い若い男の声がした。
愛原:「そうですけど、どちら様?」
男:「お、俺、マサの友達で木村って言います!あの、本当はこれ、マサから黙ってろって言われたんスけど、黙ってらんなくなって……」
高橋の友人の木村を名乗る男は、少し慌てた様子だった。
愛原:「高橋を知ってるのか!?今どこにいるんだ!?」
木村:「俺は今、菊川駅ん中の公衆電話っス。ケータイはあるんスけど、それだと履歴とか残っちゃうじゃないスか。マサから電話番号は聞いてたんで、それで電話してるんスけど……」
愛原:「いや、そういうこと聞いてるんじゃない!高橋が今どこにいるか……」
そこで私はハッとした。
私は今、『公衆電話』だから電話に出た。
もしかしたら、高橋に対して『非通知』や私のケータイとかだと着信拒否にしているかもしれないが、『公衆電話』なら繋がるんじゃないか!?
木村:「……もしもし?もしもし?聞こえますか?」
愛原:「あ、ああ。聞こえてる。それで、高橋は今どこにいる?」
木村:「多分あいつ、東京脱出してますよ」
愛原:「東京脱出したか!」
木村:「いや、正確には脱出してないんスけど……」
愛原:「ちょっと詳しい話、聞かせてもらえるかな!?うちの事務所まで来れる?……ムリ?ああ、分かった。じゃあ、俺から行こう。菊川駅の近くに珈琲館がある。そこで話を聞かせてもらおうか!」
私はそう言って電話を切った。
愛原:「高野君、高橋の友達から有力な情報を聞き出せそうだ!今からちょっと会いに行ってくるよ!」
高野:「でも先生、そろそろ斉藤社長から依頼書が来るんじゃないですか?」
愛原:「兎にも角にも、高橋の居場所を知らない限り、行き先なんか決められないよ。取りあえず行ってくるから!」
霧崎:「私も御一緒に……」
愛原:「霧崎さんは……ああ、分かったよ!勝手にしろ!」
ここで断っても、霧崎さんがナイフを出してくるのは目に見えていた。
メイド服は目立つが、取りあえず一緒に来てもらうことにした。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
助手の高橋が行方を眩ませてしまったので、高橋のスマホをGPSで追おうとしている現在。
愛原:「おっ!?」
私が自分のスマホで位置情報を検索しようとしていたら、そこに電話が掛かって来た。
相手は斉藤秀樹社長だ。
我が事務所の大口契約先でもあるから、失礼の無いようにしなければならない。
愛原:「はい、愛原でございます」
斉藤秀樹:「ああ、愛原さん、お昼休み中に失礼します」
愛原:「いえ、いつもお世話になっております」
斉藤秀樹:「急な事で申し訳ないんですが、ちょっと仕事の依頼がありまして、引き受けてもらえませんか?」
愛原:「いいですよ」
斉藤社長の依頼はおよそ探偵とは関係の無い仕事が多いのだが、うちのような弱小事務所は大きくなるまでは、『何でも屋』に徹しなければならない。
愛原:「どんな仕事でしょう?」
斉藤秀樹:「明日から4連休に入るじゃないですか。娘を旅行に連れて行ってもらいたいのです」
またか。
何でこの社長は家族旅行まで外注委託するかね。
ま、そのおかげでこちらは儲けさせて頂いているのだが。
愛原:「分かりました。ちょうど私達も出掛ける予定が入りそうなので、そのついででよろしければお引き受け致します」
斉藤秀樹:「おお、助かります。コロナウィルスの最中、社員達に外出自粛を求めている中、言い出しっぺが家族旅行なんて示しが付きませんからなぁ……ハッハッハッ!」
愛原:「だったら、それでいいと思いますが……」
斉藤秀樹:「娘にはなるべく外の世界を体験してもらいたいのです。それに……ここだけの話、うちの娘はコロナウィルスに感染することはありません。そちらのリサさんと同じですよ」
斉藤絵恋さんやリサの抗体をワクチン化して世界中に売り出せば、大日本製薬は世界企業へと伸し上がれるだろうに、それはできないのだそうだ。
何でも、『コロナウィルスを撃退する代わりに、ゾンビになってもいいのなら売り出しますよ』とのこと。
もちろん、そんなことは許されない。
国連組織BSAAが知ったら、即座に斉藤社長は摘発されるだろう。
つまり、わざわざ神奈川県の山奥にまで行って私達がしてきたことは、殆ど無駄になってしまったということだ。
リサの抗体を持ってすれば、コロナウィルスなど赤子の手をひねるも同然。
しかしその為には人間を辞めなくてはならない。
斉藤秀樹:「コロナ禍の中の旅行なので危険な仕事です。旅費はもちろん、報酬も弾みます」
愛原:「そうですか。行き先に指定はありますか?」
斉藤秀樹:「なるべくなら国内がいい。もっとも、今の国際航空便の運航状況は【お察しください】。国内であれば、愛原さんにお任せします」
愛原:「娘さんはどこに行きたがってます?」
斉藤秀樹:「『リサさんの行く所へならどこへでも』だそうです」
愛原:「寅さんに付いて行く、某自殺志願者のサラリーマンみたいこと言いますなぁ……。そんなこと言って、本当はリサと一緒に行きたい場所とかあるんじゃないですか?」
斉藤秀樹:「あることはあるようですが、少し遠いんですよ」
愛原:「構わないですよ。教えてください」
斉藤秀樹:「ウィーンだそうです」
愛原:「ああ、湯布院ですか。東京からだと、それは遠いですな」
斉藤秀樹:「いえ、湯布院じゃなく、ウィーンなんです」
愛原:「知ってますよ。九州で温泉が有名な所でしょ?昔、JR九州で“ゆふいんの森”なんて列車を走らせてましたけど、今でもあるんですかね」
斉藤秀樹:「あ、いえ、だから……。ま、いいです。どうせ今回は無理ですから。行き先は愛原さんにお任せします。条件はリサさんも一緒に行ってくださいということですね。後で依頼書をファックスで送りますので、よろしくお願いしますよ」
愛原:「了解しました」
私は電話を切った。
高野:「先生こそ、寅さんみたいなやり取りをしてましたね?」
愛原:「ん?何のこと?」
高野:「いいえ……」
愛原:「おっと、そんなことしてる場合じゃない。高橋の位置情報を……」
と、また電話が掛かってきた。
何だか急に忙しくなったなぁ。
スマホの画面を見ると、『公衆電話』になっていた。
んっ?もしかして高橋か!?
愛原:「も、もしもし!?」
男:「さ、サーセン!これ、愛原先生のケータイっスか!?」
電話の向こうからは、聞き覚えの無い若い男の声がした。
愛原:「そうですけど、どちら様?」
男:「お、俺、マサの友達で木村って言います!あの、本当はこれ、マサから黙ってろって言われたんスけど、黙ってらんなくなって……」
高橋の友人の木村を名乗る男は、少し慌てた様子だった。
愛原:「高橋を知ってるのか!?今どこにいるんだ!?」
木村:「俺は今、菊川駅ん中の公衆電話っス。ケータイはあるんスけど、それだと履歴とか残っちゃうじゃないスか。マサから電話番号は聞いてたんで、それで電話してるんスけど……」
愛原:「いや、そういうこと聞いてるんじゃない!高橋が今どこにいるか……」
そこで私はハッとした。
私は今、『公衆電話』だから電話に出た。
もしかしたら、高橋に対して『非通知』や私のケータイとかだと着信拒否にしているかもしれないが、『公衆電話』なら繋がるんじゃないか!?
木村:「……もしもし?もしもし?聞こえますか?」
愛原:「あ、ああ。聞こえてる。それで、高橋は今どこにいる?」
木村:「多分あいつ、東京脱出してますよ」
愛原:「東京脱出したか!」
木村:「いや、正確には脱出してないんスけど……」
愛原:「ちょっと詳しい話、聞かせてもらえるかな!?うちの事務所まで来れる?……ムリ?ああ、分かった。じゃあ、俺から行こう。菊川駅の近くに珈琲館がある。そこで話を聞かせてもらおうか!」
私はそう言って電話を切った。
愛原:「高野君、高橋の友達から有力な情報を聞き出せそうだ!今からちょっと会いに行ってくるよ!」
高野:「でも先生、そろそろ斉藤社長から依頼書が来るんじゃないですか?」
愛原:「兎にも角にも、高橋の居場所を知らない限り、行き先なんか決められないよ。取りあえず行ってくるから!」
霧崎:「私も御一緒に……」
愛原:「霧崎さんは……ああ、分かったよ!勝手にしろ!」
ここで断っても、霧崎さんがナイフを出してくるのは目に見えていた。
メイド服は目立つが、取りあえず一緒に来てもらうことにした。