[7月22日07:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学のマンション]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
愛原:「おはよう」
リサ:「おはよう、先生」
私が起きてダイニングに行くと、リサは既に制服に着替えていた。
ブレザーは夏なので着ないが、東京中央学園のシンボルカラーである緑色のブラウスに、胸ポケットや左腕の部分には校章のワッペンが縫い付けられている。
リサ:「兄ちゃん、朝ご飯用意して出て行った」
リサはそれを温め直していた。
もちろん、私の分もやってくれている。
愛原:「そうか。高橋は随分朝早くに出発したみたいだな?」
リサ:「うん。5時過ぎ」
愛原:「そんなに!?」
リサ:「何か、始発電車に乗るって言ってた」
愛原:「そうなんだ」
確か菊川駅の始発電車は、上下共に5時21分だったから、確かにちょうどいい時間だな。
リサ:「兄ちゃん、どこに行ったの?」
愛原:「内緒だって」
リサ:「ええ?」
愛原:「何しろ、あの霧崎さんと一緒だからな、照れ臭くて言えないんだよ」
リサ:「ふーん……?」
リサは首を傾げた。
愛原:「ま、リサにはちょっと難しいかもしれないな」
私はそう言って、温め直した朝食を食べ始めた。
今朝は高橋が用意してくれたからいいが、昼食以降は何とかしないといけない。
愛原:「リサ、今日学校は何時頃終わるんだ?」
リサ:「今日は6時限目まで」
愛原:「すると、15時過ぎか。じゃあ、弁当がいるな」
リサ:「お弁当なら兄ちゃんが作ってくれた。先生の分も」
リサはそう言って冷蔵庫を指さした。
愛原:「何だ、そうか。それなら昼飯までは、何の心配も無いわけだ」
私は安心した。
リサ;「夜はカレーとハンバーグだって」
愛原:「高橋のヤツ、気が利いてるな!」
じゃあ、食事の心配は明日からでいいわけだ。
リサ:「それにしても、サイトーはメイドさんがいなくて大丈夫かな?」
愛原:「霧崎さんが留守の間は、代理のメイドさんが……あ、いや、どうせ明日から休みだろう?埼玉の実家に帰ればいいじゃん」
リサ:「県を跨いでの旅行はダメだって学校で言われた」
愛原:「京浜東北線の北の終点まで行くだけなのに、それは大丈夫だろ。フツーにサラリーマンは通勤してるぞ」
リサ:「そうかな?私もサイトーの家に行きたい」
愛原:「それはサイトーさんにお願いしないと。リサの口から頼めば、きっと喜んで大歓迎してくれるよ」
リサ:「おー!……でも、兄ちゃんは遠くに旅行行ったの?」
愛原:「別に『旅行するな』ってわけじゃないからな。それに、多分近場だぞ。あいつ昨日、『Go Toキャンペーン、東京は除外されましたからね。空気は読みますよ』なんて言ってからな」
リサ:「ふーん……」
朝食を食べ終わる頃、部屋のインターホンが鳴った。
愛原:「ん?誰だ?」
私がモニターを見ると、そこにはメイドさんが映っていた。
言わずとしれた霧崎さんである。
霧崎:「おはようございます。マサを迎えに来ましたー」
霧崎さんは満面の笑みをモニターの向こうで浮かべていた。
ん?てか、あれ?
愛原:「高橋?あれ?キミと一緒に出発したはずじゃ?高橋、早朝に出発したってよ?」
すると霧崎さん、いきなりインターホンに頭突き!
画面に砂嵐が走り、その後暗くなる。
霧崎:「どうしてよ……!?一緒に旅行行って、そこで婚姻届書くって言ってたのに……!」
画面は暗くなったがマイクは壊れていないのか、霧崎さんの声だけは聞こえる。
明らかに殺意と呪いの籠った声だ。
霧崎:「ひどいよ……!もしかして、先生が逃がしたの……?」
愛原:「なワケないだろ!俺も一体全体どうなってるのか知りたいくらいだよ!と、とにかくそこじゃアレだから、中に入ってくれ」
私はリサに玄関を開けさせた。
リサ:「!!!」
玄関の向こうには無表情のまま涙を浮かべ、冷たい目をした霧崎さんが立っていて、右手に大型ナイフを持っていた。
それをリサに振り下ろす。
リサはそれを咄嗟に右手で防いだ。
ナイフがリサの右手を貫通し、リサの右手から血が噴き出す。
愛原:「リサ!」
だが抜けたナイフの右手から噴き出ていた血が、まるで水道の蛇口を閉めるかのように止まっていき、完全に血が止まると、今度は傷口が見る見るうちに塞がって行った。
そして最後には傷跡すら無くなった。
これがBOWが不死身とされる所以である。
斉藤絵恋:「パール!やめなさい!リサさんに何てことするの!」
霧崎真珠:「御嬢様、申し訳ございません」
霧崎さんはリサの血を拭うと、それをメイド服のスカートの中に隠した。
斉藤:「ごめんなさい、リサさん!」
リサ:「サイトー、いい。大したことない」
普通の人間なら出血多量で死亡確実の案件なんだがな。
斉藤:「リサさん、一緒に学校行きましょう」
リサ:「ん。行ってきます」
愛原:「あ、ああ、行ってらっしゃい。霧崎さんは、ちょっと事務所で話そうか。俺だって高橋は、キミととっくのとうに婚前旅行に出発してるもんだと思ってたんだ。……ていうか、その返り血のついたメイド服、着替えてきなさい。話はそれからだ。分かったね?」
霧崎:「かしこまりました」
全く。
何の躊躇も無くナイフを振り回すとは、高橋のヤツ、実は逃げたんじゃないか?
何だか、そんな気がした。
私は霧崎さんがマンションから出るの確認してから、部屋に戻った。
そして朝食の後片付けをした後、高橋に電話してみた。
〔「お掛けになった番号は、現在、お客様の都合により、お繋ぎできません」〕
相変わらずの着信拒否か。
逆に非通知設定だと出るかな?……無理か。
しかし一体こいつは何処に行ったんだ?
とにかく、まずは高橋と旅行に行く約束をしていた霧崎さんから話を聞いてみることにしよう。
事務所なら高野君もいるしな。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
愛原:「おはよう」
リサ:「おはよう、先生」
私が起きてダイニングに行くと、リサは既に制服に着替えていた。
ブレザーは夏なので着ないが、東京中央学園のシンボルカラーである緑色のブラウスに、胸ポケットや左腕の部分には校章のワッペンが縫い付けられている。
リサ:「兄ちゃん、朝ご飯用意して出て行った」
リサはそれを温め直していた。
もちろん、私の分もやってくれている。
愛原:「そうか。高橋は随分朝早くに出発したみたいだな?」
リサ:「うん。5時過ぎ」
愛原:「そんなに!?」
リサ:「何か、始発電車に乗るって言ってた」
愛原:「そうなんだ」
確か菊川駅の始発電車は、上下共に5時21分だったから、確かにちょうどいい時間だな。
リサ:「兄ちゃん、どこに行ったの?」
愛原:「内緒だって」
リサ:「ええ?」
愛原:「何しろ、あの霧崎さんと一緒だからな、照れ臭くて言えないんだよ」
リサ:「ふーん……?」
リサは首を傾げた。
愛原:「ま、リサにはちょっと難しいかもしれないな」
私はそう言って、温め直した朝食を食べ始めた。
今朝は高橋が用意してくれたからいいが、昼食以降は何とかしないといけない。
愛原:「リサ、今日学校は何時頃終わるんだ?」
リサ:「今日は6時限目まで」
愛原:「すると、15時過ぎか。じゃあ、弁当がいるな」
リサ:「お弁当なら兄ちゃんが作ってくれた。先生の分も」
リサはそう言って冷蔵庫を指さした。
愛原:「何だ、そうか。それなら昼飯までは、何の心配も無いわけだ」
私は安心した。
リサ;「夜はカレーとハンバーグだって」
愛原:「高橋のヤツ、気が利いてるな!」
じゃあ、食事の心配は明日からでいいわけだ。
リサ:「それにしても、サイトーはメイドさんがいなくて大丈夫かな?」
愛原:「霧崎さんが留守の間は、代理のメイドさんが……あ、いや、どうせ明日から休みだろう?埼玉の実家に帰ればいいじゃん」
リサ:「県を跨いでの旅行はダメだって学校で言われた」
愛原:「京浜東北線の北の終点まで行くだけなのに、それは大丈夫だろ。フツーにサラリーマンは通勤してるぞ」
リサ:「そうかな?私もサイトーの家に行きたい」
愛原:「それはサイトーさんにお願いしないと。リサの口から頼めば、きっと喜んで大歓迎してくれるよ」
リサ:「おー!……でも、兄ちゃんは遠くに旅行行ったの?」
愛原:「別に『旅行するな』ってわけじゃないからな。それに、多分近場だぞ。あいつ昨日、『Go Toキャンペーン、東京は除外されましたからね。空気は読みますよ』なんて言ってからな」
リサ:「ふーん……」
朝食を食べ終わる頃、部屋のインターホンが鳴った。
愛原:「ん?誰だ?」
私がモニターを見ると、そこにはメイドさんが映っていた。
言わずとしれた霧崎さんである。
霧崎:「おはようございます。マサを迎えに来ましたー」
霧崎さんは満面の笑みをモニターの向こうで浮かべていた。
ん?てか、あれ?
愛原:「高橋?あれ?キミと一緒に出発したはずじゃ?高橋、早朝に出発したってよ?」
すると霧崎さん、いきなりインターホンに頭突き!
画面に砂嵐が走り、その後暗くなる。
霧崎:「どうしてよ……!?一緒に旅行行って、そこで婚姻届書くって言ってたのに……!」
画面は暗くなったがマイクは壊れていないのか、霧崎さんの声だけは聞こえる。
明らかに殺意と呪いの籠った声だ。
霧崎:「ひどいよ……!もしかして、先生が逃がしたの……?」
愛原:「なワケないだろ!俺も一体全体どうなってるのか知りたいくらいだよ!と、とにかくそこじゃアレだから、中に入ってくれ」
私はリサに玄関を開けさせた。
リサ:「!!!」
玄関の向こうには無表情のまま涙を浮かべ、冷たい目をした霧崎さんが立っていて、右手に大型ナイフを持っていた。
それをリサに振り下ろす。
リサはそれを咄嗟に右手で防いだ。
ナイフがリサの右手を貫通し、リサの右手から血が噴き出す。
愛原:「リサ!」
だが抜けたナイフの右手から噴き出ていた血が、まるで水道の蛇口を閉めるかのように止まっていき、完全に血が止まると、今度は傷口が見る見るうちに塞がって行った。
そして最後には傷跡すら無くなった。
これがBOWが不死身とされる所以である。
斉藤絵恋:「パール!やめなさい!リサさんに何てことするの!」
霧崎真珠:「御嬢様、申し訳ございません」
霧崎さんはリサの血を拭うと、それをメイド服のスカートの中に隠した。
斉藤:「ごめんなさい、リサさん!」
リサ:「サイトー、いい。大したことない」
普通の人間なら出血多量で死亡確実の案件なんだがな。
斉藤:「リサさん、一緒に学校行きましょう」
リサ:「ん。行ってきます」
愛原:「あ、ああ、行ってらっしゃい。霧崎さんは、ちょっと事務所で話そうか。俺だって高橋は、キミととっくのとうに婚前旅行に出発してるもんだと思ってたんだ。……ていうか、その返り血のついたメイド服、着替えてきなさい。話はそれからだ。分かったね?」
霧崎:「かしこまりました」
全く。
何の躊躇も無くナイフを振り回すとは、高橋のヤツ、実は逃げたんじゃないか?
何だか、そんな気がした。
私は霧崎さんがマンションから出るの確認してから、部屋に戻った。
そして朝食の後片付けをした後、高橋に電話してみた。
〔「お掛けになった番号は、現在、お客様の都合により、お繋ぎできません」〕
相変わらずの着信拒否か。
逆に非通知設定だと出るかな?……無理か。
しかし一体こいつは何処に行ったんだ?
とにかく、まずは高橋と旅行に行く約束をしていた霧崎さんから話を聞いてみることにしよう。
事務所なら高野君もいるしな。