[7月14日16:00.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界共和党事務所]
事務所は2階建てになっていた。
1階は受付と、その奥に事務所がある。
受付に座っていたのは、パラパラ茜雌のオークまたはゴブリンかと思うほどのデブス肥満体の女性であった。
用件を伝えると、ぶっきらぼうながらも、奥の応接コーナーへ案内してくれた。
事務所とは衝立で仕切っただけの所にある、簡単な応接セットがあるだけの場所だった。
1人用の安っぽいソファが4つ、テーブルを挟んで向かい合わせに並んでいる。
一応、お茶まで出されたところで、2階から初老のスーツ姿の男性が下りて来た。
坂本:「どうも、こんにちは。こちらの事務所で所長をやっております、坂本です」
坂本は白髪交じりの頭を七三に分け、シングルの黒スーツを着ている。
確か、安倍首相と同じく、この王国の建国に大きく関わった人物のはずだ。
それがどうして、こんな村の選挙事務所にいるのかは分からなかった。
勇太:「どうも、お忙しいところを突然すいません。魔道士のダンテ一門のイリーナ組の2番弟子、稲生勇太と申します」
坂本:「あなたのことは、首相から聞いていますよ」
勇太:「えっ!?」
坂本:「何でも陛下のお気に入りで、特別に宮中晩餐会に呼ばれるのだとか……」
勇太:「あ、はあ……おかげさまで……」
その理由は1つだけである。
坂本:「女王陛下はO型の血液が大好物だ。しかし何故か、共和党員にはO型は少ないのです。私もA型です」
勇太:「そうなんですか」
マリアは何だったかなと首を傾げた勇太。
だが、同じ血液型ではなかったと思う。
もしそうなら、それも共通点だと喜んで覚えただろう。
実際、マリアも宮中晩餐会に呼ばれたことはあったが、ルーシー女王は鼻にも掛けなかった。
勇太:「もしかして、宮中晩餐会の参加者リストに、血液型も記載されてましたか?」
坂本:「そんなことは無いのですが、陛下は鼻が利かれますので……」
勇太:(蚊じゃあるまいし……)
勇太は、蚊もO型の血液型を好み、体臭でそれと分かって吸血してくることを思い出した。
そして、ルーシー女王は勇太の背後に瞬間移動したかと思うと、首筋の匂いを嗅いで、勇太に献血を求めたのである。
坂本:「ですので、そんなあなたの話がどんなものなのか、興味があります。一体、何でしょう?」
それなら、目的を話しても良いかなと思った勇太だった。
勇太:「実は僕達、安倍首相にお会いしたいのです」
坂本:「首相に?それはまたどうしてですか?」
勇太:「首相に、早まった行動をして頂きたくはないからです」
勇太はもっと詳しい理由を坂本に話した。
最初、坂本はポカンとした顔で話を聞いていたが……。
坂本:「何だ、そんなことでしたか!」
そして、大きく笑う。
勇太:「坂本所長にとっては、笑い話ですか?」
坂本:「いや、これは失礼。ただ、うちの首相はそんな短絡的な人物ではないですよ」
勇太:「すると、魔界の穴を開けることはないと?」
坂本:「100%無いとは言い切れないですが、色々と政治的な駆け引きがありますのでね。私も政権与党の幹部として見ていますが、少なくとも今、魔界の穴を開けることに対し、我が国にも党にも、何のメリットも無いんですよ。ただ、あくまで駆け引きとして、『そういうことも有り得る』と言っているだけでね」
勇太:「何だ……そうでしたか」
坂本:「なので、その辺は御安心ください」
勇太:「僕個人的には、坂本所長が保証して下されば、それで良いとは思っているのですが……」
坂本:「と、言いますと?」
勇太:「僕達はイリーナ先生に頼まれて、ここまで来ました。なので、どうしても安倍首相と面会し、その保証を取り付けたという所まで行きたいのです。所長のお力で、何とかお会いできませんか?」
坂本:「うーん……。稲生さんなら会わせても大丈夫だとは思いますが……。首相も、あなたのことは知らないわけではないですから」
勇太:「何が問題なんですか?御心付けなら、いくらでもお支払いしますよ!?」
勇太はプラチナカードを取り出した。
坂本:「いやいや!この国では、贈収賄罪は重罪です。最悪、党を除名されてしまう……」
勇太:「日本の自民党より厳しいですね?」
坂本:「それは私の口からは、何とも言えませんw 1つ問題があるとするならば、今は非常態勢に入っている為、幹部1人の推薦だけでは面会できないのですよ」
勇太:「と、いうことは……」
坂本:「私以外にもう1人、党幹部の推薦が必要です。但し、私からは紹介することはできません。稲生さんは、他に党幹部に知り合いはいないのですか?」
勇太:「知り合い……………………」
勇太は俯いて顔を曇らせた。
1人、知っている。
そう、1人……。
できれば、縁を切りたいくらいなのだが……。
坂本:「いないのでしたら、仕方が無いのですが、今回は出直して頂いて……」
勇太:「い、いえ、います。いますが……」
坂本:「誰ですか?御存知なら、私が確認を取りますよ?それくらいなら、しても大丈夫でしょう」
勇太:「うう……」
坂本:「何ですか?はっきりしなさい。私もヒマじゃないんです」
勇太:「よ、横田理事……横田理事です」
坂本:「おお、あの横田!ある意味、我が党の自由人ですな」
勇太:「と、トラブルメーカーだったりしません?」
坂本:「まあ、あれでも古参党員ですから。確かに、横田は推薦状が書ける代理人としての資格を持っています。今、どこにいるか、確認して差し上げましょう」
勇太:「も、申し訳ありません」
坂本:「御心付けと言いますか、政治献金でしたら、受け付けておりますよ?」
勇太:「は、はい。させて頂きます……」
坂本:「では、少々お待ちください」
政治献金といったって、現実世界でもしたことが無いのに、ここではどういう風にするのだろうと思った。
暫くして、坂本が肩を竦めて戻って来た。
坂本:「何だかよく分からん」
勇太:「どうしたんですか?」
坂本:「横田のヤツ、こんな時に休暇を取って、そららさんの世界に温泉旅行に行ってるんですよ」
勇太:「はあ!?」
坂本:「いや、さすがは自由人だ」
勇太:「どこの温泉ですか!?」
坂本:「明日までに調べておきますから、また明日、来てください。政治献金は、その時、お支払いして頂ければ結構です」
勇太:「……因みに、おいくらほどお支払いすれば……?」
坂本:「そうですね……。ざっと1万ゴッズほど頂ければ……」
勇太:「分かりました。明日、御用意致します」
坂本:「ありがとうございます。こちらも、全力でお調べ致します」
勇太:「明日、いつ頃お伺いすれば宜しいでしょう?」
坂本:「そうですね……。午前中までには、お調べできるかと……」
勇太:「では明日、11時頃、お伺い致します」
坂本:「かしこまりました。では、また後ほど……」
勇太は一旦、退所することにした。
坂吹:「稲生さん、お帰りなさい」
事務所の外で待っていたのは、坂吹だった。
勇太:「あれ、坂吹君?」
坂吹:「後輩と交替しました。帰りの車夫は、某(それがし)が務めさせて頂きます」
勇太:「そうなんだ。あれ?あと、美狐ちゃんがいたと思うけど……」
坂吹:「ああ、御嬢は今、用足しで……」
トイレに行っているらしい。
この近くだと、駅のトイレにでも行っているのだろうか。
美狐:「お待たせー!」
タタタッと小走りながら、しかし素早い動きで戻って来た。
勇太:「買い物は済んだのかい?」
美狐:「この通り!」
美狐は巾着袋を見せた。
この国における、エコバッグのようなものだろう。
坂吹:「それでは社(やしろ)に戻りたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
勇太:「うん。宜しく頼むよ」
美狐:「安全第一でね!」
坂吹:「かしこまりました」
坂吹は勇太と美狐を乗せた人力車を、軽やかな速度で引いた。
事務所は2階建てになっていた。
1階は受付と、その奥に事務所がある。
受付に座っていたのは、
用件を伝えると、ぶっきらぼうながらも、奥の応接コーナーへ案内してくれた。
事務所とは衝立で仕切っただけの所にある、簡単な応接セットがあるだけの場所だった。
1人用の安っぽいソファが4つ、テーブルを挟んで向かい合わせに並んでいる。
一応、お茶まで出されたところで、2階から初老のスーツ姿の男性が下りて来た。
坂本:「どうも、こんにちは。こちらの事務所で所長をやっております、坂本です」
坂本は白髪交じりの頭を七三に分け、シングルの黒スーツを着ている。
確か、安倍首相と同じく、この王国の建国に大きく関わった人物のはずだ。
それがどうして、こんな村の選挙事務所にいるのかは分からなかった。
勇太:「どうも、お忙しいところを突然すいません。魔道士のダンテ一門のイリーナ組の2番弟子、稲生勇太と申します」
坂本:「あなたのことは、首相から聞いていますよ」
勇太:「えっ!?」
坂本:「何でも陛下のお気に入りで、特別に宮中晩餐会に呼ばれるのだとか……」
勇太:「あ、はあ……おかげさまで……」
その理由は1つだけである。
坂本:「女王陛下はO型の血液が大好物だ。しかし何故か、共和党員にはO型は少ないのです。私もA型です」
勇太:「そうなんですか」
マリアは何だったかなと首を傾げた勇太。
だが、同じ血液型ではなかったと思う。
もしそうなら、それも共通点だと喜んで覚えただろう。
実際、マリアも宮中晩餐会に呼ばれたことはあったが、ルーシー女王は鼻にも掛けなかった。
勇太:「もしかして、宮中晩餐会の参加者リストに、血液型も記載されてましたか?」
坂本:「そんなことは無いのですが、陛下は鼻が利かれますので……」
勇太:(蚊じゃあるまいし……)
勇太は、蚊もO型の血液型を好み、体臭でそれと分かって吸血してくることを思い出した。
そして、ルーシー女王は勇太の背後に瞬間移動したかと思うと、首筋の匂いを嗅いで、勇太に献血を求めたのである。
坂本:「ですので、そんなあなたの話がどんなものなのか、興味があります。一体、何でしょう?」
それなら、目的を話しても良いかなと思った勇太だった。
勇太:「実は僕達、安倍首相にお会いしたいのです」
坂本:「首相に?それはまたどうしてですか?」
勇太:「首相に、早まった行動をして頂きたくはないからです」
勇太はもっと詳しい理由を坂本に話した。
最初、坂本はポカンとした顔で話を聞いていたが……。
坂本:「何だ、そんなことでしたか!」
そして、大きく笑う。
勇太:「坂本所長にとっては、笑い話ですか?」
坂本:「いや、これは失礼。ただ、うちの首相はそんな短絡的な人物ではないですよ」
勇太:「すると、魔界の穴を開けることはないと?」
坂本:「100%無いとは言い切れないですが、色々と政治的な駆け引きがありますのでね。私も政権与党の幹部として見ていますが、少なくとも今、魔界の穴を開けることに対し、我が国にも党にも、何のメリットも無いんですよ。ただ、あくまで駆け引きとして、『そういうことも有り得る』と言っているだけでね」
勇太:「何だ……そうでしたか」
坂本:「なので、その辺は御安心ください」
勇太:「僕個人的には、坂本所長が保証して下されば、それで良いとは思っているのですが……」
坂本:「と、言いますと?」
勇太:「僕達はイリーナ先生に頼まれて、ここまで来ました。なので、どうしても安倍首相と面会し、その保証を取り付けたという所まで行きたいのです。所長のお力で、何とかお会いできませんか?」
坂本:「うーん……。稲生さんなら会わせても大丈夫だとは思いますが……。首相も、あなたのことは知らないわけではないですから」
勇太:「何が問題なんですか?御心付けなら、いくらでもお支払いしますよ!?」
勇太はプラチナカードを取り出した。
坂本:「いやいや!この国では、贈収賄罪は重罪です。最悪、党を除名されてしまう……」
勇太:「日本の自民党より厳しいですね?」
坂本:「それは私の口からは、何とも言えませんw 1つ問題があるとするならば、今は非常態勢に入っている為、幹部1人の推薦だけでは面会できないのですよ」
勇太:「と、いうことは……」
坂本:「私以外にもう1人、党幹部の推薦が必要です。但し、私からは紹介することはできません。稲生さんは、他に党幹部に知り合いはいないのですか?」
勇太:「知り合い……………………」
勇太は俯いて顔を曇らせた。
1人、知っている。
そう、1人……。
できれば、縁を切りたいくらいなのだが……。
坂本:「いないのでしたら、仕方が無いのですが、今回は出直して頂いて……」
勇太:「い、いえ、います。いますが……」
坂本:「誰ですか?御存知なら、私が確認を取りますよ?それくらいなら、しても大丈夫でしょう」
勇太:「うう……」
坂本:「何ですか?はっきりしなさい。私もヒマじゃないんです」
勇太:「よ、横田理事……横田理事です」
坂本:「おお、あの横田!ある意味、我が党の自由人ですな」
勇太:「と、トラブルメーカーだったりしません?」
坂本:「まあ、あれでも古参党員ですから。確かに、横田は推薦状が書ける代理人としての資格を持っています。今、どこにいるか、確認して差し上げましょう」
勇太:「も、申し訳ありません」
坂本:「御心付けと言いますか、政治献金でしたら、受け付けておりますよ?」
勇太:「は、はい。させて頂きます……」
坂本:「では、少々お待ちください」
政治献金といったって、現実世界でもしたことが無いのに、ここではどういう風にするのだろうと思った。
暫くして、坂本が肩を竦めて戻って来た。
坂本:「何だかよく分からん」
勇太:「どうしたんですか?」
坂本:「横田のヤツ、こんな時に休暇を取って、そららさんの世界に温泉旅行に行ってるんですよ」
勇太:「はあ!?」
坂本:「いや、さすがは自由人だ」
勇太:「どこの温泉ですか!?」
坂本:「明日までに調べておきますから、また明日、来てください。政治献金は、その時、お支払いして頂ければ結構です」
勇太:「……因みに、おいくらほどお支払いすれば……?」
坂本:「そうですね……。ざっと1万ゴッズほど頂ければ……」
勇太:「分かりました。明日、御用意致します」
坂本:「ありがとうございます。こちらも、全力でお調べ致します」
勇太:「明日、いつ頃お伺いすれば宜しいでしょう?」
坂本:「そうですね……。午前中までには、お調べできるかと……」
勇太:「では明日、11時頃、お伺い致します」
坂本:「かしこまりました。では、また後ほど……」
勇太は一旦、退所することにした。
坂吹:「稲生さん、お帰りなさい」
事務所の外で待っていたのは、坂吹だった。
勇太:「あれ、坂吹君?」
坂吹:「後輩と交替しました。帰りの車夫は、某(それがし)が務めさせて頂きます」
勇太:「そうなんだ。あれ?あと、美狐ちゃんがいたと思うけど……」
坂吹:「ああ、御嬢は今、用足しで……」
トイレに行っているらしい。
この近くだと、駅のトイレにでも行っているのだろうか。
美狐:「お待たせー!」
タタタッと小走りながら、しかし素早い動きで戻って来た。
勇太:「買い物は済んだのかい?」
美狐:「この通り!」
美狐は巾着袋を見せた。
この国における、エコバッグのようなものだろう。
坂吹:「それでは社(やしろ)に戻りたいと思いますが、宜しいでしょうか?」
勇太:「うん。宜しく頼むよ」
美狐:「安全第一でね!」
坂吹:「かしこまりました」
坂吹は勇太と美狐を乗せた人力車を、軽やかな速度で引いた。