[同日14:00.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷→南端村 魔界共和党選挙事務所]
勇太が南端村内にある魔界共和党の事務所に電話すると、最初は横柄な対応であった。
まるで、またメンド臭いクレームの電話が来たとばかりの。
ところがイリーナの名前を出し、自分はその弟子だと名乗ると、途端に態度が変わった。
とはいうものの、この時点で目的を言ってしまうと電話を切られる恐れがあった。
そこで、せっかく魔界に来たのだから、幹部党員の方に御挨拶させて頂きたいと言ったところ、『幹部党員に知り合いがいるのか?』と聞かれた。
もちろん、その中でも最高幹部の安倍春明を知っているのだが、他にも知っている者はいる。
……まあ、約1名、知り合いを拒否したい男がいるのだが。
事務員:「幹部党員を御存知なのですか。そういうことでしたら、御相談に乗れるかもしれません。いつ、おいでになれますか?」
勇太:「すぐにでもお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
事務員:「承知しました。当事務所の開所時間は17時までなのですが……」
まるで役所である。
勇太:「あっ、大丈夫です。15時までには、お伺いできるかと」
事務員:「15時ですね。承知しました。それでは、お待ちしております」
勇太は電話を切った。
受話器を置くと、チンというベルが一回鳴った。
勇太:「よし、アポは取れた。次は、辻馬車の予約を……」
勇太が再び電話の受話器を取った時だった。
威吹:「車なら心配無いよ。ボクの方で用意するよ」
と、威吹。
勇太:「えっ?いつの間に馬車を導入したの?」
威吹:「馬車ではないよ」
勇太:「?」
威吹:「すぐに用意させるから、ちょっと待ってて」
勇太:「う、うん」
客間に戻ると、マリアが卓の上に水晶玉を置いて、交信を試みていた。
勇太:「マリア、どうだい?先生は……」
マリア:「ダメだ。応答が無い。本当に、何かあったのかもしれない……」
勇太:「マジか……」
マリア:「勇太の方は?」
勇太:「アポが取れた。これから、この村の共和党事務所に行ってくるよ」
マリア:「大丈夫か?行っていきなり捕まったりしないだろうか……」
勇太:「大丈夫だと思うよ。イリーナ先生の名前を出したら、いきなり態度が変わったくらいだし」
イリーナはかつて、王宮の宮廷魔導師を1期だけ務めたことがある。
任期1回分だけとはいえ、王室や政府の公式記録には残るわけだから、その名声は大きなものとなる。
その弟子を何の罪も無く捕えたとあらば、政府から指弾されるであろう。
勇太:「とにかく、行って来るよ。まずは、安倍首相に御目通りが叶う幹部を紹介してもらうことだね」
マリア:「師匠と連絡が取れない以上、私達がやるしかない。勇太、いくらでも握らせていいからね?こっちには師匠のプラチナカードがある」
勇太:「分かってるよ」
普段使いのプラチナカードを弟子に預け、イリーナ自身はブラックカードを持っているようだ。
恐らくプラチナカードは経済制裁で止められる恐れがあるが、ブラックカードは制裁が及ばないようである(フィクションです)。
勇太:「マリアはどうする?」
マリア:「私はもう少し交信を試みてみる。ダメなら、この町にいる他の魔道士にコンタクトするよ」
勇太:「分かった」
勇太は外出の準備を整えると、建物の外に出た。
威吹:「勇太、こっちだよ」
玄関から外に出ると、威吹が待っていた。
そして、鳥居の前の階段を下りる。
その前に止まっていたのは、人力車だった。
勇太:「人力車か!」
威吹:「そういうこと」
車夫を務めるのは、威吹の弟子の1人である。
観光地にあるような人力車の車夫の恰好をしていた。
威吹:「ユタを共和党の事務所まで」
弟子A:「かしこまりました」
勇太:「人力車かぁ!初めて乗るなぁ!」
弟子A:「それでは出発致し……」
美狐:「ちょっと待ってー!」
そこへ、威吹の娘の美狐(みこ)がバタバタと走って来た。
先ほどの着物から、もう少しラフな格好になっている。
形態としては作務衣に近いのだが、女の子らしい可愛い刺繍が入っていたりする。
色は全体的にピンク色。
下はショートパンツのようなものを穿いている。
その下には脛まで隠れる足袋と、草鞋を履いていた。
美狐:「街まで行くなら、ついでに乗せてってよ!」
威吹:「美狐、ユタは遊びに行くのではないのだぞ?」
美狐:「うん。駅前の商店街に行くだけ!」
威吹:「ユタ、そういうことだが……」
勇太:「僕は別に構わないけど……」
美狐:「エヘヘ……やった!」
ピョンと軽やかにジャンプすると、ストンと勇太の隣に座る。
10歳くらいだと思っていたのだが、実際は12歳くらいかもしれない。
あまり、妖怪の実年齢とかは気にしない方が良い。
威吹の結婚した年辺りから考えて、それくらいではないかと思ったのだ。
威吹:「イザという時には、ユタを守るのだぞ?」
美狐:「分かってまーす!」
勇太:「守るって、キミ強いの?」
威吹:「一応、武芸と妖術を教えている最中だ」
勇太:「そうなのか。じゃ、護衛を頼もうかな」
美狐:「お任せあれ!」
こうして、ようやく人力車は出発した。
観光用の物はゆっくり走るのだろうが、こっちの実用的な物は案外速く走る。
何しろ車夫が人間ではなく、妖狐なのだから当たり前だ。
美狐:「父とは長い付き合いなんですか?」
勇太:「そうだなぁ……。もう何年になるかな……」
美狐はどうやら、父親と長い付き合いである勇太に興味を持ったらしい。
威吹は勇太などに対しては饒舌だが、それ以外の者にはあまりそうでないのかもしれない。
美狐は父親の昔の事について、色々と勇太に聞いた。
勇太も、どこまで話して良いのか分からないので、当たり障りのない回答に留めておいた。
勇太:(そう言えば坂吹君も、初めて会った時は、威吹の昔の話を聞きたがったな……)
美狐の質問に答えている間、人力車はあっという間に共和党の事務所に着いたのである。
勇太:「ありがとう」
弟子A:「終わるまで、ここでお待ちしています」
美狐:「その前に、商店街まで乗せてって」
弟子A:「あ、はい。分かりました」
勇太:「話がいつ終わるか分からない。遅くなるかもしれないから、17時まで待ってもらって、出て来ないようなら先に帰っていいよ」
弟子A:「分かりました」
勇太は車夫を務めた威吹の弟子に礼を言うと、事務所の中へと入っていった。
勇太が南端村内にある魔界共和党の事務所に電話すると、最初は横柄な対応であった。
まるで、またメンド臭いクレームの電話が来たとばかりの。
ところがイリーナの名前を出し、自分はその弟子だと名乗ると、途端に態度が変わった。
とはいうものの、この時点で目的を言ってしまうと電話を切られる恐れがあった。
そこで、せっかく魔界に来たのだから、幹部党員の方に御挨拶させて頂きたいと言ったところ、『幹部党員に知り合いがいるのか?』と聞かれた。
もちろん、その中でも最高幹部の安倍春明を知っているのだが、他にも知っている者はいる。
……まあ、約1名、知り合いを拒否したい男がいるのだが。
事務員:「幹部党員を御存知なのですか。そういうことでしたら、御相談に乗れるかもしれません。いつ、おいでになれますか?」
勇太:「すぐにでもお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
事務員:「承知しました。当事務所の開所時間は17時までなのですが……」
まるで役所である。
勇太:「あっ、大丈夫です。15時までには、お伺いできるかと」
事務員:「15時ですね。承知しました。それでは、お待ちしております」
勇太は電話を切った。
受話器を置くと、チンというベルが一回鳴った。
勇太:「よし、アポは取れた。次は、辻馬車の予約を……」
勇太が再び電話の受話器を取った時だった。
威吹:「車なら心配無いよ。ボクの方で用意するよ」
と、威吹。
勇太:「えっ?いつの間に馬車を導入したの?」
威吹:「馬車ではないよ」
勇太:「?」
威吹:「すぐに用意させるから、ちょっと待ってて」
勇太:「う、うん」
客間に戻ると、マリアが卓の上に水晶玉を置いて、交信を試みていた。
勇太:「マリア、どうだい?先生は……」
マリア:「ダメだ。応答が無い。本当に、何かあったのかもしれない……」
勇太:「マジか……」
マリア:「勇太の方は?」
勇太:「アポが取れた。これから、この村の共和党事務所に行ってくるよ」
マリア:「大丈夫か?行っていきなり捕まったりしないだろうか……」
勇太:「大丈夫だと思うよ。イリーナ先生の名前を出したら、いきなり態度が変わったくらいだし」
イリーナはかつて、王宮の宮廷魔導師を1期だけ務めたことがある。
任期1回分だけとはいえ、王室や政府の公式記録には残るわけだから、その名声は大きなものとなる。
その弟子を何の罪も無く捕えたとあらば、政府から指弾されるであろう。
勇太:「とにかく、行って来るよ。まずは、安倍首相に御目通りが叶う幹部を紹介してもらうことだね」
マリア:「師匠と連絡が取れない以上、私達がやるしかない。勇太、いくらでも握らせていいからね?こっちには師匠のプラチナカードがある」
勇太:「分かってるよ」
普段使いのプラチナカードを弟子に預け、イリーナ自身はブラックカードを持っているようだ。
恐らくプラチナカードは経済制裁で止められる恐れがあるが、ブラックカードは制裁が及ばないようである(フィクションです)。
勇太:「マリアはどうする?」
マリア:「私はもう少し交信を試みてみる。ダメなら、この町にいる他の魔道士にコンタクトするよ」
勇太:「分かった」
勇太は外出の準備を整えると、建物の外に出た。
威吹:「勇太、こっちだよ」
玄関から外に出ると、威吹が待っていた。
そして、鳥居の前の階段を下りる。
その前に止まっていたのは、人力車だった。
勇太:「人力車か!」
威吹:「そういうこと」
車夫を務めるのは、威吹の弟子の1人である。
観光地にあるような人力車の車夫の恰好をしていた。
威吹:「ユタを共和党の事務所まで」
弟子A:「かしこまりました」
勇太:「人力車かぁ!初めて乗るなぁ!」
弟子A:「それでは出発致し……」
美狐:「ちょっと待ってー!」
そこへ、威吹の娘の美狐(みこ)がバタバタと走って来た。
先ほどの着物から、もう少しラフな格好になっている。
形態としては作務衣に近いのだが、女の子らしい可愛い刺繍が入っていたりする。
色は全体的にピンク色。
下はショートパンツのようなものを穿いている。
その下には脛まで隠れる足袋と、草鞋を履いていた。
美狐:「街まで行くなら、ついでに乗せてってよ!」
威吹:「美狐、ユタは遊びに行くのではないのだぞ?」
美狐:「うん。駅前の商店街に行くだけ!」
威吹:「ユタ、そういうことだが……」
勇太:「僕は別に構わないけど……」
美狐:「エヘヘ……やった!」
ピョンと軽やかにジャンプすると、ストンと勇太の隣に座る。
10歳くらいだと思っていたのだが、実際は12歳くらいかもしれない。
あまり、妖怪の実年齢とかは気にしない方が良い。
威吹の結婚した年辺りから考えて、それくらいではないかと思ったのだ。
威吹:「イザという時には、ユタを守るのだぞ?」
美狐:「分かってまーす!」
勇太:「守るって、キミ強いの?」
威吹:「一応、武芸と妖術を教えている最中だ」
勇太:「そうなのか。じゃ、護衛を頼もうかな」
美狐:「お任せあれ!」
こうして、ようやく人力車は出発した。
観光用の物はゆっくり走るのだろうが、こっちの実用的な物は案外速く走る。
何しろ車夫が人間ではなく、妖狐なのだから当たり前だ。
美狐:「父とは長い付き合いなんですか?」
勇太:「そうだなぁ……。もう何年になるかな……」
美狐はどうやら、父親と長い付き合いである勇太に興味を持ったらしい。
威吹は勇太などに対しては饒舌だが、それ以外の者にはあまりそうでないのかもしれない。
美狐は父親の昔の事について、色々と勇太に聞いた。
勇太も、どこまで話して良いのか分からないので、当たり障りのない回答に留めておいた。
勇太:(そう言えば坂吹君も、初めて会った時は、威吹の昔の話を聞きたがったな……)
美狐の質問に答えている間、人力車はあっという間に共和党の事務所に着いたのである。
勇太:「ありがとう」
弟子A:「終わるまで、ここでお待ちしています」
美狐:「その前に、商店街まで乗せてって」
弟子A:「あ、はい。分かりました」
勇太:「話がいつ終わるか分からない。遅くなるかもしれないから、17時まで待ってもらって、出て来ないようなら先に帰っていいよ」
弟子A:「分かりました」
勇太は車夫を務めた威吹の弟子に礼を言うと、事務所の中へと入っていった。