報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「威吹の娘、美狐」

2022-07-29 20:30:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[同日14:00.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷→南端村 魔界共和党選挙事務所]

 勇太が南端村内にある魔界共和党の事務所に電話すると、最初は横柄な対応であった。
 まるで、またメンド臭いクレームの電話が来たとばかりの。
 ところがイリーナの名前を出し、自分はその弟子だと名乗ると、途端に態度が変わった。
 とはいうものの、この時点で目的を言ってしまうと電話を切られる恐れがあった。
 そこで、せっかく魔界に来たのだから、幹部党員の方に御挨拶させて頂きたいと言ったところ、『幹部党員に知り合いがいるのか?』と聞かれた。
 もちろん、その中でも最高幹部の安倍春明を知っているのだが、他にも知っている者はいる。
 ……まあ、約1名、知り合いを拒否したい男がいるのだが。

 事務員:「幹部党員を御存知なのですか。そういうことでしたら、御相談に乗れるかもしれません。いつ、おいでになれますか?」
 勇太:「すぐにでもお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
 事務員:「承知しました。当事務所の開所時間は17時までなのですが……」

 まるで役所である。

 勇太:「あっ、大丈夫です。15時までには、お伺いできるかと」
 事務員:「15時ですね。承知しました。それでは、お待ちしております」

 勇太は電話を切った。
 受話器を置くと、チンというベルが一回鳴った。

 勇太:「よし、アポは取れた。次は、辻馬車の予約を……」

 勇太が再び電話の受話器を取った時だった。

 威吹:「車なら心配無いよ。ボクの方で用意するよ」

 と、威吹。

 勇太:「えっ?いつの間に馬車を導入したの?」
 威吹:「馬車ではないよ」
 勇太:「?」
 威吹:「すぐに用意させるから、ちょっと待ってて」
 勇太:「う、うん」

 客間に戻ると、マリアが卓の上に水晶玉を置いて、交信を試みていた。

 勇太:「マリア、どうだい?先生は……」
 マリア:「ダメだ。応答が無い。本当に、何かあったのかもしれない……」
 勇太:「マジか……」
 マリア:「勇太の方は?」
 勇太:「アポが取れた。これから、この村の共和党事務所に行ってくるよ」
 マリア:「大丈夫か?行っていきなり捕まったりしないだろうか……」
 勇太:「大丈夫だと思うよ。イリーナ先生の名前を出したら、いきなり態度が変わったくらいだし」

 イリーナはかつて、王宮の宮廷魔導師を1期だけ務めたことがある。
 任期1回分だけとはいえ、王室や政府の公式記録には残るわけだから、その名声は大きなものとなる。
 その弟子を何の罪も無く捕えたとあらば、政府から指弾されるであろう。

 勇太:「とにかく、行って来るよ。まずは、安倍首相に御目通りが叶う幹部を紹介してもらうことだね」
 マリア:「師匠と連絡が取れない以上、私達がやるしかない。勇太、いくらでも握らせていいからね?こっちには師匠のプラチナカードがある」
 勇太:「分かってるよ」

 普段使いのプラチナカードを弟子に預け、イリーナ自身はブラックカードを持っているようだ。
 恐らくプラチナカードは経済制裁で止められる恐れがあるが、ブラックカードは制裁が及ばないようである(フィクションです)。

 勇太:「マリアはどうする?」
 マリア:「私はもう少し交信を試みてみる。ダメなら、この町にいる他の魔道士にコンタクトするよ」
 勇太:「分かった」

 勇太は外出の準備を整えると、建物の外に出た。

 威吹:「勇太、こっちだよ」

 玄関から外に出ると、威吹が待っていた。
 そして、鳥居の前の階段を下りる。
 その前に止まっていたのは、人力車だった。

 勇太:「人力車か!」
 威吹:「そういうこと」

 車夫を務めるのは、威吹の弟子の1人である。
 観光地にあるような人力車の車夫の恰好をしていた。

 威吹:「ユタを共和党の事務所まで」
 弟子A:「かしこまりました」
 勇太:「人力車かぁ!初めて乗るなぁ!」
 弟子A:「それでは出発致し……」
 美狐:「ちょっと待ってー!」

 そこへ、威吹の娘の美狐(みこ)がバタバタと走って来た。
 先ほどの着物から、もう少しラフな格好になっている。
 形態としては作務衣に近いのだが、女の子らしい可愛い刺繍が入っていたりする。
 色は全体的にピンク色。
 下はショートパンツのようなものを穿いている。
 その下には脛まで隠れる足袋と、草鞋を履いていた。

 美狐:「街まで行くなら、ついでに乗せてってよ!」
 威吹:「美狐、ユタは遊びに行くのではないのだぞ?」
 美狐:「うん。駅前の商店街に行くだけ!」
 威吹:「ユタ、そういうことだが……」
 勇太:「僕は別に構わないけど……」
 美狐:「エヘヘ……やった!」

 ピョンと軽やかにジャンプすると、ストンと勇太の隣に座る。
 10歳くらいだと思っていたのだが、実際は12歳くらいかもしれない。
 あまり、妖怪の実年齢とかは気にしない方が良い。
 威吹の結婚した年辺りから考えて、それくらいではないかと思ったのだ。

 威吹:「イザという時には、ユタを守るのだぞ?」
 美狐:「分かってまーす!」
 勇太:「守るって、キミ強いの?」
 威吹:「一応、武芸と妖術を教えている最中だ」
 勇太:「そうなのか。じゃ、護衛を頼もうかな」
 美狐:「お任せあれ!」

 こうして、ようやく人力車は出発した。
 観光用の物はゆっくり走るのだろうが、こっちの実用的な物は案外速く走る。
 何しろ車夫が人間ではなく、妖狐なのだから当たり前だ。

 美狐:「父とは長い付き合いなんですか?」
 勇太:「そうだなぁ……。もう何年になるかな……」

 美狐はどうやら、父親と長い付き合いである勇太に興味を持ったらしい。
 威吹は勇太などに対しては饒舌だが、それ以外の者にはあまりそうでないのかもしれない。
 美狐は父親の昔の事について、色々と勇太に聞いた。
 勇太も、どこまで話して良いのか分からないので、当たり障りのない回答に留めておいた。

 勇太:(そう言えば坂吹君も、初めて会った時は、威吹の昔の話を聞きたがったな……)

 美狐の質問に答えている間、人力車はあっという間に共和党の事務所に着いたのである。

 勇太:「ありがとう」
 弟子A:「終わるまで、ここでお待ちしています」
 美狐:「その前に、商店街まで乗せてって」
 弟子A:「あ、はい。分かりました」
 勇太:「話がいつ終わるか分からない。遅くなるかもしれないから、17時まで待ってもらって、出て来ないようなら先に帰っていいよ」
 弟子A:「分かりました」

 勇太は車夫を務めた威吹の弟子に礼を言うと、事務所の中へと入っていった。
コメント (1)
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“大魔道師の弟子” 「動き出す勇太とマリア」

2022-07-29 16:06:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月14日13:00.天候:晴 アルカディアシティ・南端村 魔界稲荷]

 昼食の後で勇太達は、威吹と近況について語り合った。
 それだけで小一時間ほど取られてしまったのだが。
 その後で勇太達は用件を話した。
 といっても、その内容は近況と似たようなものであるが。

 威吹:「向こうの世界の安倍元首相が暗殺されたということは、ボク達も新聞やラジオで知ったよ」

 魔界王国アルカディアにはテレビ放送は無いが、ラジオはある。
 本当に、20世紀前半から半ばに掛けての文明の国だ。

 威吹:「詳しくは、その時の新聞を見てもらった方がいいな。……おい、あの時の新聞を持ってこい」
 坂吹:「はっ」

 威吹の脇に控えていた坂吹が立ち上がって、一旦退室する。
 坂吹は茶髪を総髪にしており、柿色の着物の下に緑色の袴を穿いている。
 柿色という所が若干違うが、色合いがまるで……。

 勇太:(湘南電車みたいだな)

 と、思った。
 湘南電車の中古車は魔界高速電鉄には無いようだが、冥界鉄道公社ではしばしば散見される。

 坂吹:「お待たせ致しました」
 威吹:「御苦労」

 坂吹が持ってきたのは、安倍元首相銃撃のあった日の夕刊だった。
 号外ではない。

 威吹:「『遠い世界の日本国において、国内の政治のみならず、世界各国との外交問題に取り組んだ親族が凶弾に斃れたことは大いに遺憾であり、真相が1日でも早く明らかにされることを願う。差し当たり今は、遠い親戚の伯父に哀悼の意を表す』とある」
 勇太:「特に、日本政府の責任を追及する言葉は無いね?」
 威吹:「ところが、だ。次」
 坂吹:「はっ」

 今度は、その翌日の朝刊。
 尚、日本語版である為、マリアは赤い縁の翻訳メガネを掛けている。

 威吹:「記者達の質問に、『もしもこれ(日本の安倍元首相暗殺事件)が何らかの政治的意図で引き起こされた事件であるなら、アルカディア王国政府宰相として、その責任者に対し、厳しく追及させて頂くことになる』と答えている」

 記者が、『武力行使も辞さないということか?』という質問をしている。
 それに対し、安倍春明首相は、『政治的意図によって引き起こされたものであるなら、その事件を意図した政敵に対し、最大限の抗議活動を行わせて頂くこともあり得る』と、答えている。

 記者:「魔界の穴を開くということですか?」
 安倍春明:「活動内容には色々なものがあるが、それも選択肢の1つだということは申し上げる」

 90年代のオカルトブーム。
 真実を隠すように様々なインチキオカルトが横行した時代であったが、令和の昨今、もはやインチキオカルトで隠すようなことはしないということだ。
 ぶっちゃけ、目の前に本物のモンスターが現れたり、目の前で人が神隠しに遭うということが起こり得るようになるということである。

 勇太:「どうなんだろう?今、こっちの安倍首相に面会できるかな?」
 威吹:「今は無理だろうね。噂では今、陳情受付は中止になっているらしい。よほどの大物でないと、今、首相に会うことは難しいと思う」
 勇太:「イリーナ先生でないとダメなのか……」
 マリア:「後で師匠に、もう1度コンタクトを取ってみる。因みに、ルーシー女王は?武力行使といったところで、ルーシー女王が許可しないとことにはできないだろう?」
 威吹:「ここに、女王の声明がある。『これは安倍一族並びに日本国の問題であるので、王室はこれに関与しない』とのことだ」
 マリア:「逃げたか、あのヴァンパイア」

 今、『魔王』の座に就いているのは、ルーシー・ブラッドプール一世。
 アメリカ出身の吸血鬼である。
 但し、先祖は教会からの迫害を逃れる為、ルーマニアから人間の移民を装ってアメリカに入国し、永住したのだとか。
 その子孫であるルーシーが、どうして今や魔界の女王になっているのかは別作品の話になるので、割愛させて頂く(立憲君主国としての現王国の建国物語である)。
 因みにルーシーという名前はとてもポピュラーなものである為、ダンテ一門のルーシーと名前被りをしているが、特に繋がりは無い。

 勇太:「魔界の穴を開けられたりしたら大変だ。僕達は何とか安倍首相に会って、真意を確かめたい」
 威吹:「普通に考えたら、それは無理だって」
 マリア:「普通に考えれば、ね」
 勇太:「マリア?」
 マリア:「魔界共和党はどうなんだろう?」
 威吹:「というと?」
 マリア:「国民からの陳情の受付は中止しているらしいが、党幹部との面会も拒絶しているのだろうか?」
 威吹:「それは分からんが……」
 マリア:「私達がいきなり魔王城に行って、『安倍総理に会わせろ』というのは無理だろう。しかし、安倍総理も魔界共和党の党員」
 勇太:「党員どころか、最高幹部だよ」
 マリア:「知ってる。最高幹部であっても、その下の幹部党員との面会まで断るほどなのだろうか?」
 威吹:「何が言いたい?」
 マリア:「最高幹部にはいきなり会えなくても、その下の上級幹部くらいなら何とか会えたりしないか?そして、その上級幹部の紹介で安倍首相に会うという作戦は無理だろうか?」
 威吹:「ボクはそんな政治家に知り合いはいないからねぇ……」

 すると、坂吹が土下座するかのような体勢を取った。

 坂吹:「恐れながら……某に、1つございます」
 勇太:「えっ、坂吹君が!?」

 見た目の年齢は10代後半くらいだ。
 そんな青少年妖狐が、国会議員に知り合いがいるというのだろうか。

 威吹:「何だ?言ってみろ」
 坂吹:「はっ。この村の中心部に、共和党の事務所がございます」
 威吹:「それは知ってる。この村を政治的に監視する為のものだろう」
 勇太:「あ、選挙事務所とかじゃないの?」
 坂吹:「看板にはそう書いてございます」
 威吹:「だからそれは表向きの話だ。実際は、一党独裁である共和党に反目する者がいないかを監視しているのだ」

 立憲君主制で一党独裁というのもおかしな話だが、野党が存在しないという意味でなら合っている。
 残念ながら文明が20世紀半ばより以前ということもあり、政治体制についても戦中以前の日本のようなものなのである。
 野党は存在しないし、それを結党しようものなら、治安維持法違反で摘発される。

 勇太:「でもそこに、魔界共和党の党員が詰めているということではあるよね?」
 威吹:「そうだけど、こんな辺境の村に送られるような輩だから、大した幹部とかではないんじゃないかい?」
 勇太:「いや、正規の党員であるなら、まだ交渉の余地がある。ちょっと電話を借りてもいいかい?」
 威吹:「いいけど……」

 世界が違う為、ここでは手持ちのスマホは通信機としての役割を行なえない。

 マリア:「共和党関係は勇太に任せる。私は、師匠や他の魔道士にコンタクトを取ってみる」
 勇太:「分かった」
 威吹:「じゃあ勇太、電話はこっちだ。案内するよ」

 白い着物に紺色の袴を穿いた威吹が席を立った。
 この文明の固定電話だから、当然そこにあるのはダイヤル式の黒電話だろう。
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