報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界のお稲荷さん」

2022-07-27 15:11:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月14日11:30.天候:晴 アルカディアシティ・サウスエンド地区(南端村) 魔界稲荷]

 幌の上に『TAXI』と書かれた行灯を乗せた辻馬車が、鳥居の前で止まる。
 見た目はただの稲荷神社だ。
 しかし、ここが威吹の家なのである。

 御者:「それでは、こちらまで28ゴッズになります」

 ゴッズとはアルカディアシティの通貨。
 レート的には1ゴッズが10円程度と、物価はかなり安い。
 因みに外貨交換は、ワンスターホテルと魔王城で行われている。

 マリア:「釣りは要らないよ。Thank you.」

 マリアは20ゴッズ紙幣と10ゴッズ紙幣を出して、2ゴッズの釣りは受け取らなかった。

 御者:「ありがとうございます」

 辻馬車を降りて、鳥居までの階段を昇る。
 これがまた一苦労なのだ。

 マリア:「師匠みたいに、浮遊魔法が使えたらなぁ!」
 勇太:「頑張って使えるようになりましょうね!」

 長い階段を昇って、ようやく境内に入る。
 鳥居を潜ると、両脇には狐の石像が鎮座しているはずである。
 ところが、ここの神社の場合……。

 勇太:「何で、仁王像みたいなのが立ってるんだ?」
 マリア:「そりゃあ、イブキの弟子が化けてるからだろう。おい、そこのあんた、バレてるぞ」

 向かって左側に立っていた妖狐が、ポンッと煙を放って正体を現した。

 妖狐A:「上手く化けれたと思ってたのになぁ!」

 続いて右側も正体を現す。

 妖狐B:「バーカ。人の姿のままだったぞ。バレないわけがない」

 どちらも着物に袴姿だった。
 左腰には木刀を差している。
 が、直後にこの2人の妖狐の頭に小石が飛んできた。

 妖狐A&B:「いてっ!?」
 坂吹:「何がだ!2人とも失敗してるぞ!境内、うさぎ跳び10周!」
 妖狐A:「ええーっ!?」
 妖狐B:「ぴえっ!?」

 一番弟子の坂吹、今や弟弟子達の監督役らしい。

 坂吹:「威吹先生から伺っております。どうぞ、こちらへ」

 坂吹は勇太達の前で一礼をすると、そう言った。

 勇太:「あっ、ああ。ありがとう」

 少しは鍛えられたのだろうか、いきなり襲ってくることはなかった。
 神社内で、本殿の次に大きな建物に案内された。

 坂吹:「先生!お客様方の到着です!」

 すると、奥からバタバタと見覚えのある顔がやってきた。

 威吹:「ユタ!久しぶり!」
 勇太:「久しぶりだねぇ、威吹」

 両手を握って、ブンブンと上下に振る。
 なかなか激しい握手である。

 威吹:「疲れただろ!今、昼食の準備をしてるんだ!上がってよ!」
 勇太:「お邪魔します。……あ、これ、手土産の油揚げの詰め合わせセット」
 威吹:「さすがユタ、話が早い!」
 勇太:「ん?」
 マリア:「どういうことだ?」

 2人は靴を脱いで上がった。
 そして、奥の客間に通される。
 客座敷と呼ばれる、純和風の部屋だった。
 料亭の客間に行くと、こんな感じでは?といった感じだ。

 妖狐娘:「いらっしゃいませ」

 客間に行くと、同じく着物に赤い袴を穿いた少女が出迎えた。
 歳は10歳くらい。
 銀髪に、金色の瞳をしていた。

 威吹:「娘の美狐(みこ)。人間名は美子だな」

 紙の色や瞳の色は威吹に似ているが、顔はさくらに似ているような気がする。
 人間と妖狐の間に生まれた半妖というわけだ。
 その為、いわゆる『半化け』状態になっており、威吹の第1形態(つまり今の姿)で特徴的な『エルフ耳』ではなく、狐耳であった。
 人間の耳に相当する部分があるのか、おかっぱの髪の中に隠れているので不明である。
 おかっぱはマリアと似ているが、髪質が違う。
 マリアはストレートだが、美狐は癖毛であった。

 勇太:「稲生勇太です。よろしく」
 マリア:「マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット。マリアでいいよ」
 美狐:「美狐です。よろしくお願いします」
 坂吹:「先生、昼食の用意が出来上がったとのことです」
 威吹:「分かった。ここに運んでくれ」
 勇太:「何だか昼時に来ちゃって、申し訳ないね」
 威吹:「とんでもない。むしろ泊まって行ってほしいくらいだよ」
 勇太:「いやいや、そんな厚かましいこと……」
 威吹:「そんなことないよ。ボクが人間界にいた頃、ユタの家に随分と世話になったからね。是非ともユタの両親にも、来てもらいたいくらいだよ」
 マリア:「普通の人間が魔界に来たらどうなるか、分かって言ってるのか?」
 威吹:「だから、できればの話だ」

 ややもすれば、ここはあの世の一部とも言える。
 異世界転生先にもなっているくらいだから。

 坂吹:「お待たせ致しました」

 坂吹以下、数人の弟子達が昼食を運んで来る。
 運ばれて来たのは、キツネうどんだった。

 勇太:「なるほど。さすがだ」
 威吹:「弟子達を養わないといけないからね、昼は大抵、うどんかそばなんだ」
 勇太:「それでは、頂きます」
 マリア:「うどんか。確かに、向こうではまだ食べてなかったな……」
 威吹:「話は食べ終わってからにしよう」

 尚、美狐がお茶などの給仕を行っている。

 勇太:「キミは食べないの?」
 美狐:「わたしは……」
 威吹:「美狐、ここはいいから、オマエも母さんと一緒に食べてこい」
 美狐:「……はーい」

 美狐は名残惜しそうに、チラチラと勇太の方を見ながら客間を出て行った。

 威吹:「いや、すまんね、目障りで……」
 勇太:「いや、別にそんなことはないんだけどさ」
 マリア:「いや、そんなことはある。何だか、やたら勇太のことを気にしているようだった」
 威吹:「あー……。ボクが人間界に長くいたこともあって、その話をしたら、興味を持っちゃってねぇ……」
 勇太:「あの年頃の女の子は、皆そうなのかな?キノの所の妹さんも、似たようなものだったと聞くけど……」
 威吹:「どうだかねぇ……。まだ子供だし、人間界に行ったところで、受け入れ先が無いからね」
 勇太:「それならウチで……」

 しかし、マリアは両手でバツを作った。

 勇太:「……は、ダメみたいだね」
 威吹:「別にいいよ。大人になれば、何とかなるさ」
 勇太:「大学進学後の上京感覚!?」
 
コメント (1)
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