報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの暴走を阻止せよ」 3

2022-07-04 20:46:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月14日07:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は土曜日であるが、事務作業が少し残っているのと、善場主任が来るので、今日は事務所に行こうと思っている。
 ので、今朝は普通の時間に起きた。
 夜中にリサが暴走して襲って来ないかと心配になったが、そんなことは無かった。
 また、逆に朝になっても起きて来ないのではないかとも思ったが……。

 リサ:「おはよう……」

 そんなことは無かった。

 愛原:「おはよう。大丈夫か?」
 リサ:「うん。大丈夫……ふあ……」

 リサは欠伸をしながら部屋から出て来た。
 第1形態に戻っているということもあり、欠伸をすると、牙が覗いた。

 愛原:「今日は善場主任が来る日だから、事務所に行くぞ?」
 リサ:「分かった」

 朝食として高橋は、昨日の米の余りと味噌汁、焼き魚と玉子焼きを作っていた。

 リサ:「いただきまーす」

 リサは普通に食べたのだが、やっぱり普通だ。
 いや、食べ方は普通ではない。
 焼き魚というのは鮭であり、骨があるのだが、リサは骨までもバリボリ食べた。
 変なのだが、これがリサにとっては通常運転であり、それを見てホッとする私がいるのも事実だ。
 今現在も進行形で、暴走に向かっていることなど、とても信じられないくらいだ。
 『1番』と違うのは、そのスピードはかなり遅いということ。
 だから、今まで気づかなかったのかもしれない。
 いや、油断していたというべきか。
 しかし、幸いなのは、まだリサの異変がこうして目に見える形で表れてくれたこと。
 もしも目に見えない形だったとしたら……すい臓がん等と同じで、気づいた時にはもう手遅れなんてことも有り得た(すい臓がんは自覚症状が殆ど無く、末期になってそれがようやく現れるという)。

 愛原:「お代わりいるか?」
 リサ:「うーん……いらない」
 愛原:「そうか。要らないか」
 リサ:「何だろうね。お腹は空いてるし、お兄ちゃんの料理は美味しいはずなんだけど……何かこう……『何か違う』って感じなの」

 リサが本当の人食い鬼へと変化しつつあるのが分かる。
 人食い鬼は、味覚がおかしくなり、普通の人間の料理が食べられなくなる。
 最後には人間の血肉しか受け付けなくなるのだ。
 『1番』は、急激にそうなったという。

 愛原:「そうか……」

 私は何とも言えなかった。
 リサがそういう状態である理由を知っているし、このまま手をこまいねていたらどうなるのかも知っている。

 リサ:「わたし、おかしくなっちゃうのかなぁ……」
 高橋:「もう既に十分おかしいだろ」
 愛原:「おい、高橋!」
 高橋:「その自覚があるだけマシってもんだ。ガチの変人や精神異常者は、そんな自覚無ェし、それを他から指摘されても頑として否定しやがる。そういうことだ」
 愛原:「いい事言うなぁ!」
 高橋:「デヘヘヘ……!そうっスか?」(∀`*ゞ)
 愛原:「照れんな!」

 『あなたは宗教に洗脳されている』と言われて……。

 ガチ勢…「そんなことは無い!」と、頑なに否定する。
 エンジョイ勢…「いやあ、そうなんですよ。もう、すっかり洗脳されちゃって……」と、照れながら肯定する。
 傍観勢…そもそもそんなことを指摘される機会が無い。

[同日11:30.天候:晴 同地区内 愛原学探偵事務所]

 朝食を食べ終わって、9時頃に事務所に行った。
 そこで行ったのは、昨夜作成したクライアントに対する報告書を郵送する作業。
 クライアントの中にはメールではなく、紙の報告書で欲しいという所もあるので。
 それを資料と共に、レターパックプラスに詰めて送るのである。

 高橋:「ただいま戻りました」

 この場合、ポストまで行って来るのは高橋の仕事。
 事務所の向かい側にポストがあるので、そこに入れて来るだけだ。

 愛原:「おう、お帰り」

 昼前だと、回収は午後になるだろう。
 そして、今日の所は東京中央郵便局に集められて、明日以降、クライアントの所に届くはずだ。
 レターパックなら土休日でも配達してもらえるが、クライアントによっては、平日でないと受け取れなかったり、或いはその逆の所もある。
 いずれにせよ、レターパックプラスなら、必ず郵便配達員が配達先のハンコかサインをもらうことになっているので、こちらもちゃんと届いたかどうかを確認することができる。

 リサ:「先生、お昼はどうするの?」

 リサは制服ではなく、私服を着ていた。
 もっとも、部屋着のようなラフな格好ではなく、一応、下は黒いプリーツスカート、上はグレーのパーカーを羽織っている。

 愛原:「それが、善場主任に任せろということだ」
 リサ:「んん?」

 そして、11時50分くらいになった時、事務所に電話が掛かって来た。
 モニタを見ると、善場主任のスマホの番号だった。

 愛原:「はい、もしもし。愛原です」
 善場:「愛原所長、お疲れさまです。善場です」
 愛原:「善場主任、お疲れさまです」
 善場:「それではこれから昼食会場に御案内致しますので、下に降りて来て頂けませんか?新大橋通り側へお願いします」
 愛原:「は、はい。分かりました」

 私は電話を切った。

 愛原:「善場主任が下でお待ちだ。行くぞ」
 高橋:「うっス!あ、でも、リサがトイレっス」
 愛原:「マジか!」

 だが、リサはすぐ戻って来た。

 リサ:「どうしたの?」
 愛原:「善場主任が下まで来たそうだから、すぐ行くぞ」
 リサ:「分かった」

 私達は事務所を閉めると、エレベーターに乗った。

〔下へ参ります〕
〔ドアが閉まります〕

 高橋:「こんな昼ギリギリってことは、近場っスかね?」
 愛原:「いや、車で行くが、昼時は混むから、それを少し外すくらいのタイミングで着ける感じで行くんじゃないか?」
 リサ:「食べれるかどうか分かんないけど、取りあえずお腹は空いた……」

〔1階でございます〕

 エレベーターが1階に着く。
 言われた通りエレベーターを降りると、駐車場側ではなく、新大橋通り側の出口から出た。

 善場:「お疲れさまです。皆さん」
 愛原:「善場主任」
 善場:「それでは、昼食会場へご案内します。こちらへどうぞ」
 愛原:「徒歩で行くんですか?」
 善場:「そうです」

 ということは、この近くなのか。
 この近くに、リサが食べれそうな肉を提供する店があっただろうか?
 あるとしたなら、灯台下暗しという諺通りだが……。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの暴走を阻止せよ」 2

2022-07-04 11:14:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日19:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原:「……よし、できた」

 クライアントへの報告書作成が終わり、私は帰る支度を始めた。
 そういえば応接室で休んでいるリサは、あれから一度も出て来ない。
 先に起こしておくことにした。

 愛原:「リサ、リサ。起きてるか?」

 応接室のドアをノックする。
 しかし、中から応答は無い。

 愛原:「開けるぞ?」

 ドアを開ける。

 リサ:「グー……グー……」

 リサは3人掛けソファに横になり、あられもない姿で寝ていた。
 あられもないというのは、上はブラウスのボタンを全部外し、下のスポブラ丸見えであり、下は下でスカートを脱いで、その下のスパッツ丸出しで寝ていた。
 そんなに寝相は悪くないはずなのに、今はそれがウソみたいな悪い寝相だ。
 で、第1形態に戻っている。

 愛原:「リサ、そろそろ起きろよ」

 私がリサの肩を揺さぶると……。

 リサ:「!」

 一瞬、鼾が止まった。
 そして……。

 リサ:「ガァァッ!!」

 飛び掛かって襲って来た。

 愛原:「うわっ!?」

 組み付かれてしまった!

(ここでクイックタイムイベント、略称QTE発生。制限時間以内にコントローラの操作が上手くできないと、愛原は暴走したリサに食い殺されてゲームオーバー)

 愛原:「やめろ、リサ!」

 私はどうやら制限時間以内にQTEをクリアできたようだ。
 リサを引き剥がし、突き飛ばした。
 リサは後ろに倒れて、床に頭をゴツンとぶつけて動かなくなった。
 と、第1形態から第0形態へと変化する。

 リサ:「うぅう……」

 そして、呻いて起き上がって来た。

 リサ:「いたたた……」
 愛原:「だ、大丈夫か?」

 今度はどうやら、暴走していないらしい。

 リサ:「大丈夫……。ああ、わたし、ソファから落ちたんだね」

 本当は私が突き飛ばしたのだが、それは黙ってておこう。

 愛原:「どうしたんだ、こんな格好で?」
 リサ:「途中で暑くなったから脱いだの。スカートは、シワになるとアレだし……」
 愛原:「そうか……。とにかく、そろそろ帰るから、早く着るんだ」
 リサ:「分かった」

 リサはブラウスのボタンを留め始めた。
 その間私は応接室を出て、高橋に電話する。

 愛原:「……ああ。今から帰る。それじゃ」

 制服を着たリサが応接室から出てくると、私は事務所をあとにした。

[同日19:15.天候:雨 同地区内 愛原のマンション]

 尚、帰り際、善場主任から電話があった。
 何でも、BOW探査アプリのアラームが一瞬だけ鳴動したのだが、何か知らないかと。
 私や高橋は感度を低く設定しているので、特に鳴動していないが、善場主任のは鳴動したらしい。
 もちろん、さっきリサが暴走した時のアレだ。
 私は知らないと答えておいた。

 愛原:「ただいまァ」
 高橋:「お帰りなさいっス!」
 愛原:「どうだ、今日の夕飯は?俺の言った通りに作れたか?」
 高橋:「はい。前回の湯豆腐にヒントをもらったんで、今回も鍋にしました」
 愛原:「その心は?」
 高橋:「はい。鶏の水炊きです」
 愛原:「おっ、そう来たか!」

 それならサッパリしているだろう。
 私は着替えて、食卓についた。
 リサも制服から部屋着に着替えている。
 シンプルにTシャツに短パンであり、寝る時もその恰好である。

 愛原:「明日、善場主任が、何か話があるらしい」
 高橋:「そうなんスか」
 愛原:「どうやら今、リサがどんな肉が食えるかを実験するらしい」
 リサ:「実験!?やだ!!」

 しまった!
 リサは実験アレルギーだった!
 第0形態だったのが、今ので第1形態に戻ってしまった。

 愛原:「ああ、違うんだ!けして、痛い実験とかじゃないから!」
 リサ:「!」

 リサは不貞腐れるように、目の前の食事をガツガツ食べ始めた。
 どうやら、食欲は落ちていないらしい。
 今のところ、普通の食事ができていれば、暴走の恐れはない。

 高橋:「でも、ムリして肉を食わないとダメなんスか?」
 愛原:「ダメらしいな。ある一定量食わないと、暴走の恐れがあるらしい」

 先ほど一瞬、暴走したのも、それが原因だろうか。
 鶏肉だけでは、抑えきれないのかもしれない。

[同日21:00.天候:曇 愛原のマンション]

 取りあえずリサは、鶏の水炊きを始めとする今回の夕食は完食した。
 それでも全盛期と比べれば、食事量は少ない。

 リサ:「本当はもっと重い物食べたい。だけど、食べたら吐いちゃう。どうしよう……」

 というのが、今のリサの悩み。
 そして、その極地が食人なのだろう。
 どこかのホラー漫画だったかな?
 鳥が食い荒らされているのを見た主人公達が、その後、食人する化け物に襲われるという描写があった。
 これはつまり、肉食を最初は鳥肉で我慢していたのが、それでも耐え切れなくなり、主人公達を見つけた化け物が、ついに人肉に手を出すという流れであったのだ。
 人間側から見ればただの恐怖の対象でしかないが、化け物側の視点で見ると、色々と物語が分かってくることもある。
 さて、どうしたものか……。

 高橋:「えっ、リサが暴走!?」

 リサが風呂に入っている時、私は高橋に事務所であったことを話した。

 高橋:「QTEに成功したんスね!でも、失敗してたら……」
 愛原:「食い殺されていただろうな」

 改めて思い返すと、背筋が寒くなるのだが。

 愛原:「どうしてもBOWの特性上、肉を食う必要があるらしい。それは、あの上野姉妹やその母親も同じだ」
 高橋:「らしいっスね」

 母親はともかく、娘達はまだ半分人間の血が入っているからいいようなものだ。
 母親の方は、人肉よりも血液の方に興味があるらしい。
 その為、藤野の施設では、献血パックが『食事』として与えられているのだとか。
 そういえばリサも、私の『足つぼマッサージ』と称して、私の足の裏から血液を摂取していた。

 愛原:「最終的には『1番』の通り、どの肉も食べれなくなり、人肉しか食べれなくなる体になるとのことだ」
 高橋:「マジっスか……」
 愛原:「しかし、うちのリサはまだ望みがある。他の肉が食べれるうちに、その肉で満足させるんだ。どうも、善場主任には考えがあるらしいから、それに期待するしかないだろう」
 高橋:「分かりました。差し当たり、明日の朝飯は何にします?」
 愛原:「まあ、普通でいいよ」
 高橋:「分かりました」

 善場主任の考えに期待しよう。
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