報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「方向転換、南へ」

2022-07-21 20:23:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日11:20.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 大宮駅西口バス停→東京空港交通バス車内]

 駅でトイレを済ませ、それから西口そごう前のバス停に向かう。
 バス停に着き、他の乗客と共にバスを待っていると、パトカーが1台停車した。
 特にサイレンは鳴らしていないが、赤色灯は点けている。
 そこから警察官が2名降りてくる。

 警察官A:「失礼。外国の方ですか?申し訳無いですが、旅券か在留カードを見せてはもらえませんか?」

 バス停に並んでいる外国人達に、パスポートか在留カードの提示を求めている。
 旅行客の外国人達は、警察官にパスポートを見せていた。

 警察官A:「ドイツ人に……台湾人……韓国人か……」
 警察官B:「あなたも外国の人ですね?パスポートか何か……」
 マリア:「Yes...」

 マリアは在留カードを出した。
 かつてはパスポートに永住許可のシールが貼られたものを所持していたが、嵩張るので在留カードを発行してもらっている。

 警察官A:「イギリス人?!」
 警察官B:「何だって!?」
 警察官A:「あ、でも、永住者だな……。失礼ですが最近、イギリスに帰国されたことは?」
 マリア:「いえ、無いです。ずっと日本です」
 警察官A:「日本国内にイギリス人のお知り合いはいますか?」
 マリア:「いえ、いません」

 確かにマリアの屋敷に、ルーシー以外のイギリス人が遊びに来ることはない。
 そのルーシーもコロナ禍で、来日できずにいる。

 警察官A:「うーむ……」

 警察官は在留カードとマリアを見比べている。

 勇太:「一体、彼女が何か?」
 警察官B:「あなたは?」
 勇太:「僕は日本人です」

 勇太は自分の運転免許証を出した。

 警察官A:「彼女との関係は?」
 勇太:「仕事仲間です。あと……将来的には結婚を……」
 警察官A:「そうですか。……失礼ですが、彼女は学生では?何か……どこかの高校の制服らしき物を着ていますが?」
 勇太:「あ、いえ、違うんです。これはただ、彼女が趣味で着ているだけで……」
 マリア:(まあ、確かに私が勇太の気を引く為に着たのが始まりだけど……。まさか、このまま着させられるとは……)
 警察官B:「そうでしたか。実はイギリス人の国際指名手配犯を追っていまして、その手配書とこちらの方の顔が似ているものですから……」
 勇太:「そうなんですか」
 警察官A:「永住者の方なら違いますね。失礼しました」

 どうやら最近、日本に入国した者であるらしい。
 警察官達は再びパトカーに乗って、去って行った。

 マリア:「これも“魔の者”の妨害か?」
 勇太:「そうなの?」
 マリア:「“魔の者”が直接日本国内に入ることはできないけど、自分の力を植え付けた人間を眷属として使役することはできるからね」
 勇太:「そ、そういえば北海道の時もそうだったような……」

 そこへ、羽田空港行きのリムジンバスが到着した。
 オレンジ色とクリーム色が特徴である。
 バス停にいた警備服の係員がやってきて、バスの荷物室のハッチを開ける。

 運転手:「お待たせしました。羽田空港行きです。乗車券をお持ちのお客様から、先にご案内致します」

 既にチケットを持っている勇太達が、優先乗車となる。

 マリア:「チケットが無くても乗れるんだ」
 勇太:「席が空いていればね」

 もっとも、少しずつ客が増えているとはいえ、ヘタしたら渋滞にハマって遅れるかもしれない空港行きは空いている事が多い。
 勇太とマリアは、運転手にチケットを渡して乗り込んだ。
 1つ手前のバス営業所から来たので、既に先客が何人か乗り込んでいる。

 勇太:「後ろに行こう。少しでも、“魔の者”の目から逃れるんだ」
 マリア:「分かった」

 2人はトイレの前の席に座った。
 これならトイレの影に隠れられる。
 バス車内は冷房が効いていて涼しかった。
 座席に座る前に、マリアはバッグに荷棚に置いてローブは脱いだ。

 勇太:「このローブも、怪しまれるのかもしれないね」
 マリア:「夏は着ない方がいいかなぁ……。でも、着てると結構便利なんだけど」
 勇太:「まあ、そうだね」

 日差しや紫外線をカットしてくれるのだが、湿気は籠るのが難点だ。
 だから、涼しい所では脱いでおいた方が良いのだろう。
 幸いこのバスは、窓はスモークガラスになっている。
 外からは、あまり車内が見えないようになっていた。
 案外、無札の乗客が多く、○○航空はどこのターミナルで降りたら良いかという質問を今更運転手に聞く外国人旅行客もいる。
 ただ、空港リムジンバス運転手にしてみれば想定内の質問なのか、すらすら答えられている。

 マリア:「こっちには、優秀な日本人ガイドがいるからね」
 勇太:「そりゃどうも」

 乗車率としては50パーセントくらいであったが、バスは数分ほど遅れて大宮駅を発車した。

 勇太:「それにしても、良かったよ」
 マリア:「何が?」
 勇太:「さっきの職務質問。羽田空港からどこに行くのか聞かれなくて。僕達のルート、明らかに怪しいしね」
 マリア:「あー、確かに。空港に行くのに、飛行機には乗らないなんて怪しいか」
 勇太:「誰かを送迎しに行くというのなら、別にいいんだけど、そうでもないしね」
 マリア:「確かに。永住者で良かった。これが観光客とか留学生とかだったら、もっと詳しく聞かれてただろうね」
 勇太:「そうだねぇ……。でも、国際指名手配食らうような犯罪をしたイギリス人って……」

 勇太はスマホを取り出して、ニュースサイトにアクセスした。
 しかし、そのような事件は報道されていなかった。

 勇太:「んん?」
 マリア:「まだニュースにはなっていないかもしれない。もしかしたら、エレーナなら知ってるかもしれないな」
 勇太:「なるほど。そうか」

 情報料を取られそうな気がするのは、気のせいだろうか。

 バスが首都高に入ると、空が曇って来た。
 しかし、雨は降らない。
 この為、これが本当の天気なのか、それとも“魔の者”の警戒なのかは分からなかった。
 もし仮に後者だとするなら、恐らく勇太達の目的地を測りかねているのかもしれない。
 羽田空港には、今のところ魔界の穴は無い。
 羽田空港からどこへ行くのかは分からないが、羽田空港が東京都大田区にある以上、上京することにはなるから、取りあえず警告として曇り空にはしておこうということなのかもしれない。
 いずれにせよ、首都高走行中はずっと曇っているだけで、雨が降って来ることはなかった。
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“大魔道師の弟子” 「2回目の 急がば回れ 遠回り」

2022-07-21 14:40:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日07:00.天候:晴 埼玉県川口市 稲生家3F]

 朝起きてシャワーを浴びるマリア。
 昨夜の寝巻はバスローブを借りた。

 マリア:(ここのシャワー、使い易くていい。うちの屋敷にも導入しようかな……)

 そんなことを考えながら、シャワールームを出る。
 近くの勇太の部屋からは、唱題の声が聞こえた。
 いつに無く元気な大きな声だ。
 何かあったのだろうか?
 そんなことを考えながらバスタオルで体を拭き、それを体に巻き付けながら、隣の洗面台でドライヤーを使用した。
 元々、さいたま市時代の稲生家には仏壇があった。
 しかし、勇太の両親の怨嫉により、処分されてしまったと聞く。
 あの頃は勇太の怨念は凄まじいものがあり、マリアがそれに振り回されるほどであった。
 佳子の乗った路線バスがコントロール不能で、電柱に激突事故を起こしたことはまだ記憶に残っている。
 マリアは黙っていたが、『怨嫉謗法の罰だ!』との勇太の言は適切ではなく、勇太自身の怨念が魔力を帯びて動作したものだとマリアは知っている。
 そのことを言うと、マリアにも怨念が向けられると思われるので、黙っているのだが。

[同日08:00.天候:晴 稲生家1Fダイニング]

 1階のダイニングに向かうと、朝食が用意されていた。
 稲生家における最後に朝食ということで、和定食である。

 佳子:「今日も天候が不安定らしいから、気をつけるのよ」
 勇太:「大丈夫。原因は分かってるから」
 佳子:「ええ?」
 マリア:「いただきまス。(“魔の者”のしわざだとは……ママに言えないな)」
 佳子:「マリアちゃん、服の洗濯終わったから、持って行ってね」
 マリア:「はい。ありがとうございます」

 今のマリアは、白いブラウスに緑色のプリーツスカートを穿いている。

 勇太:「父さんは出掛けたの?」
 佳子:「仕事が忙しいみたいよ。イリーナ先生と会えれば、また違ったんだろうけど……」
 勇太:「……!」
 マリア:「……師匠に会ったら、伝えておきます」
 佳子:「よろしくね」

 マリアは勇太の反応に気づきつつ、代わりに答えておいた。

[同日10:47.天候:曇 埼玉県蕨市 JR蕨駅→京浜東北線926A電車10号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、10時47分発、各駅停車、大宮行きです〕

 蕨駅に着くと、また空が曇り始めた。
 “魔の者”が勇太達を見つけて、警戒を始めたらしい。
 駅に着いて電車を待っていると、マリアが話し掛けてきた。

 マリア:「何かあったの?今朝から様子が変だよ?」
 勇太:「僕も予知夢を見るようになったのかなぁ……」
 マリア:「予知夢?何だそれは?」
 勇太:「凄い不吉な夢なんだ」
 マリア:「仕方が無いよ。で、なに?」
 勇太:「イリーナ先生が……」
 マリア:「師匠が?」

 その時、隣の宇都宮線の線路を中距離電車が轟音を立てて通過していった。

〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 その直後、接近放送も鳴る。
 宇都宮線はダイヤが乱れていて、京浜東北線にも数分程度の遅れが出ていた。

 勇太:「……というわけさ」
 マリア:「具体的……だな」
 勇太:「でしょう?」

 そこへ電車がやってくる。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕

 先頭車に乗り込み、空いているブルーの座席に腰かける。
 遅延しながら運転されている為、すぐに発車メロディが鳴った。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 すぐに車両のドアとホームドアが閉まる。
 蕨駅の場合、ドアというよりは稼働柵と言った方が良いかもしれない見た目だ。
 電車が動き出すまで、マリアは考え込んでいた。

〔次は、南浦和です〕
〔The next station is Minami-Urawa.JK42.〕

 電車が走り出し、自動放送が流れた後でマリアが口を開いた。

 マリア:「予知夢の内容に、具体性があればあるほど、それが正夢になる確率は高い」
 勇太:「だよね?どうしよう……」
 マリア:「とはいうものの、師匠のことだから、上手く立ち回るような気もするけどね」
 勇太:「そ、そうだよね!?」
 マリア:「師匠に訪れる危機の予知夢を、私じゃなく、勇太が見るというのが分からないな……」
 勇太:「何で僕なんだろうね?」
 マリア:「さあ……」

 しかし、マリアは1つの理由を予想した。

 マリア:(勇太の魔力は高い。多分、魔力だけなら、もう私を上回っているかもしれない。そのせいだ)
 勇太:「マリア?」
 マリア:「取りあえず、今のところは様子見。似たような夢を何度も見るようなことがあったら、要注意だよ」
 勇太:「わ、分かった。今朝の勤行で、あの夢が正夢にならないよう御祈念したから大丈夫だよね?」
 マリア:「……どうかな」

 マリアは首を傾げた。
 と、同時に電車内に夏の暑い日差しが差し込んで来る。
 どうやら“魔の者”が、2人が逆方向に向かっていると知って、上京しないと油断し始めたらしい。
 ただ、その代わり、外堀は埋めつつあるようで、乗降ドアの上のモニタからは運行情報が流れている。
 北関東や南関東、そしてチバラギ東関東のローカル線では、大雨でダイヤが乱れているらしい。
 宇都宮線や高崎線も例外ではなく、そこから逃げて来た客の混雑により、京浜東北線も数分の遅れが発生している。

 マリア:「今日はワンスターホテルに着いたら、外には出ないことだ。幸い、レストランはあるから、一泊くらいなら出なくてもいいと思う。とにかく、今は無事にワンスターホテルに着けることを考えよう」
 勇太:「う、うん。そうだね」

[同日11:02.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 電車が北の終点駅に接近しても、天候は良好のままだった。

 勇太:「ホテルに着いたら、先生に連絡しても?」
 マリア:「私からやっておく。どうせ、定時連絡はしないといけないし」
 勇太:「分かったよ」

 電車内は冷房が効いて涼しかったが、一度そこから降りると蒸し暑い。

 マリア:「久しぶりにプールで泳ぎたい」

 と、マリアは言った。
 屋敷のプールのことを言っているのだろうが、多分しばらくの間は無理だろう。
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