報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルに到着」

2022-07-23 21:35:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日15:45.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 駅のエレベーターと違い、アナウンスなど何も無いエレベーターが1階に到着する。
 小さなホテルの小さなエレベーターだ。

 エレーナ:「へい、らっしゃい!」
 クロ:「らっしゃい!」

 フロントにいるエレーナと、その使い魔の黒猫のクロが出迎えた。

 マリア:「寿司屋か!」
 勇太:「ラーメン屋かw」

 外は土砂降りの雨だった。
 しかし、そんなことは想定内とばかり、全く気にしていないホテルスタッフの面々。

 エレーナ:「よくここまで無事に辿り着いたな」
 クロ:「ここは安全地帯だニャ」
 エレーナ:「こう見えても、“魔の者”を一度撃退したことのある私がここで働いている以上、もう“魔の者”の好き勝手にはさせないんだぜ」
 勇太:「それは頼もしい。……あ、これ、『運転室付きグリーン車』の猫にお土産」
 エレーナ:「運転室付きグリーン車?」
 勇太:「『クロ』だ」
 エレーナ:「おいw」
 クロ:「ちゅーる♪ちゅーる♪ニャンちゅーる~♪」
 エレーナ:「よく途中で買えたな?」
 勇太:「羽田空港のコンビニで売ってた」
 エレーナ:「マジか」
 勇太:「それで、部屋割りはどうなってるの?」
 マリア:「まさか、ツイン一室とか、ダブル一室にしてるとか……」
 エレーナ:「あぁ?ンなことするか。ちゃんとデラックスシングル2部屋にしておいたんだぜ」
 勇太:「へえ……」(←ちょっと残念な勇太)
 マリア:(デラックスシングル2つの方が、料金取れるからだな……)

 普通のシングルはシングルベッドだが、デラックスシングルはセミダブルベッドとなる。
 ツインのツインベッドよりは安いが……。

 エレーナ:「それじゃ、先に料金を頂くんだぜ」
 勇太:「はいはい。それじゃ、イリーナ先生のカードで」
 エレーナ:「毎度あり~!」

 エレーナは鍵を2つ持って来た。
 カードキーではなく、普通の鍵である。

 エレーナ:「3階の311号室と312号室だぜ」
 マリア:「そこは最上階じゃないのか」

 するとエレーナ、顔を近づけて小声で言った。

 エレーナ:「4階と5階は眺望がいい」
 マリア:「それなら……」
 エレーナ:「それはつまり、“魔の者”が外から見られやすいってことでもある」
 勇太:「……だろうね」

 だから、勇太達はなるべく鉄道は地下鉄を利用したのだ。
 幸いにして、この森下地区を通る鉄道は地下鉄しか無い。

 エレーナ:「3階から下は近隣の建物と同じくらいの高さにあるので、窓は磨りガラスになってる。一応、外からは覗かれにくい」
 勇太:「そういうことか」
 マリア:「“魔の者”の目、それくらいで誤魔化せるものなのか?」
 エレーナ:「少なくとも私は、ニューヨークはなるべく地下鉄で移動したし、ホテルも下層階に宿泊した。一応、それで上手く行ったぜ」
 勇太:「なるほど。ここは経験者を信じよう」
 マリア:「私も一応、経験者なんだが……」
 エレーナ:「『眷属』との戦いの経験者な?」
 マリア:「……確かにそうだ」
 エレーナ:「幸い“マジックスター”は鋭意営業中だぜ。食事はそこで取ればいいし、そこに自販機コーナーもある。一泊くらいなら、わざわざ外に出ることはないだろう」
 勇太:「それで明日、魔界の穴を使わせてくれるんだね?」
 エレーナ:「ああ、約束だぜ」

 2人は鍵を受け取って、再びエレベーターに乗り込んだ。

 マリア:「勇太。夕食は18時からだったな?」
 勇太:「そうだね」
 マリア:「少し疲れたから、夕食まで昼寝してる。もし寝坊したら起こして」
 勇太:「内線掛けようか?」
 マリア:「そうしてくれると助かる」
 勇太:「分かった」

 エレベーターを3階で降りる。
 311号室と312号室は、エレベーターから離れた廊下の奥にあった。
 廊下の内装は、ごく普通のビジネスホテルのそれである。
 部屋もそうなのだが、何だか少し不気味に感じられた。
 廊下には煌々と白いダウンライトが灯っている。
 ホテル廊下である以上、ビカビカに明るく照らす必要は無いのだが、前よりも薄暗く感じた。
 そもそもが、黒い雲が空を覆っている為、まだ16時にもなっていないのに、まるで19時近くの明るさなのである。

 勇太:「うっ!」

 その時、窓から稲光が差し込んだ。
 直後、ドカーンと大きな雷鳴が轟く。
 まるで、ホテルに逃げ込んだターゲットに出て来るよう警告しているが如くである。

 マリア:「小賢しいマネを……」

 部屋に着いて、マリアが鍵で部屋のドアを開ける。

 勇太:「僕も一緒にいようか?」
 マリア:「いや、いい。エレーナの言う通り、ここは安全だろう。ホテルから出たりしなければ、ね」
 勇太:「部屋からも出ない?」
 マリア:「夕食の時間までは、ね」
 勇太:「そ、そうか」
 マリア:「それじゃ、また」
 勇太:「あ、ああ」

 マリアは部屋に入った。
 すぐにドア横のスイッチに手を伸ばして、照明を点ける。
 室内の照明も、ダウンライトのみとなっていた。
 他にはライティングデスクの上に、電気スタンドがあるくらい。
 エレーナの言う通り、確かに部屋の窓は磨りガラスになっていた。
 一応、開けることもできるようだが、換気用に大きく開かないようになっているらしい。
 もちろん、開けるつもりは無かった。
 カーテンは縦引きのロールカーテン。
 それを引いて、更に窓を塞ぐ。

 マリア:「これでよし」

 マリアは大きく頷くと、ローブを脱いでコートに掛けた。
 そして、昼寝の前にシャワーを浴びることにした。

 マリア:(案外、バスルームの方が安全かもしれない)

 一糸まとわぬ姿になると、マリアはバスルームに飛び込んだ。

 一方その頃、隣の部屋の勇太はというと……。

 勇太:「あちっ!あちっ!」

 室内の湯沸かしポットでお湯を沸かし、お茶を入れていた。
 よくビジネスホテルの客室にサービスとして付いているお茶である。
 ホテルのWi-Fiに接続し、手持ちのタブレットで情報収集を始める。

 勇太:「東京都江東区と墨田区だけ大雨、雷、洪水警報?あからさま過ぎる……」

 東京23区の中でも、江東区は広い方である。
 恐らく同じ江東区でも、南部の豊洲や有明はウソみたいに晴れているのだろう。
 また、墨田区においても、隣の菊川地区とかがとばっちりを受けているだけで、錦糸町とかに行けば晴れているのかもしれない。

 勇太:「こんな嫌がらせ程度で、僕達がホテルから出て来るとで思ってるのかね……」

 夕食までの間、マリアの所に忍んで行きたいと思った勇太だったが、寝起きのマリアもなかなか機嫌が悪いことを知っているので、やめておいた。
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“大魔道師の弟子” 「“魔の者”との攻防」

2022-07-23 17:12:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日14:51.天候:雨 東京都大田区蒲田 京急蒲田駅→東京都港区高輪 品川駅]

 京急空港線内は、何とか“魔の者”には見つからずに済んだ。
 いや、恐らく見つかってたのかもしれない。
 天空橋駅からの地上区間では、確かに晴れ間が見えていた。
 しかし、大鳥居駅を通過してからの地上区間では曇っていた。
 そして、京急蒲田駅。

〔「この電車は快特、京成高砂行きです。品川、泉岳寺の順に止まります。まもなく発車致します」〕

 稲生達がこの駅で降りず、そのまま上り電車に乗り続けることを知った“魔の者”は……。

〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は快特、京成高砂行きです。品川、泉岳寺の順に止まります。泉岳寺から先、都営地下鉄浅草線内と京成押上線内は各駅に止まります。次は品川、品川です」〕

 電車が走り出すと、空には黒い雲が立ち込めた。
 そして、雷鳴と共にバケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。

〔「お客様にお知らせ致します。只今、電車、ゲリラ豪雨の中を走行しております。換気による窓開けを行っている所がございますが、雨が入る恐れがありますので、窓は閉めてご利用頂くよう、お願い申し上げます」〕

 マリア:「とんでもない“魔の者”だ」
 勇太:「いや、全く」

 勇太は隣の乗客と力を合わせて、開いている窓を閉めた。
 旧型車両でなくても、窓の開閉が重い所があったりするからだ。
 バケツをひっくり返したような雨でも、電車の運行に支障は出ず、無事に品川駅に到着した。

〔「品川です。この電車は都営浅草線、京成押上線直通、普通車、京成高砂行きです」〕

 勇太:「地下に入れば、また誤魔化せるかな?」
 マリア:「どうだろうな?」

 1分の停車の後、電車は再び発車した。
 次の泉岳寺駅から地下鉄区間になり、上空からグーグルアースの如く監視している“魔の者”の目は誤魔化せるだろう。

 マリア:「どこで降りる?」
 勇太:「そうだなぁ……」

[同日15:06.天候:不明 東京都港区浜松町 都営地下鉄大門駅→大江戸線電車先頭車内]

〔2番線は京成押上線直通、各駅停車、京成高砂行きです。大門(浜松町)、大門(浜松町)。都営大江戸線、JR線、東京モノレールは、お乗り換えです〕

 森下に行くのには、他に東日本橋駅で降りて、都営新宿線に乗り換えるというルートがある。
 しかし、勇太はその手前の大門駅での乗り換えを選択した。
 なるべく、他の地下鉄よりも地下深くを行く大江戸線で行った方が、より監視の目を誤魔化せるのではないだろうかと思ったのだ。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 大門駅にはホームドアがある。
 電車のドアとホームドアが閉まり切ってから、電車が走り去って行った。

 勇太:「よし。今度は大江戸線だ」

 勇太はマリアの手を引いて、大江戸線ホームに向かった。

〔まもなく3番線に、両国、春日経由、都庁前行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 接続を取っているのかは不明だが、そんなに待ち時間無く電車がやってくる。
 都営大江戸線は全区間地下を走行する為、車体が雨に濡れているということはなかった。
 それでもフロントガラスにワイパーが付いているのは、仕様なのだろう。
 せいぜい洗車の時にくらいしか使わないのだろうか。
 何しろ、車両基地ですら地下にあるほどである。

〔大門(浜松町)、大門(浜松町)。都営浅草線、JR線、東京モノレールはお乗り換えです〕

 電車に乗り込むと、京急線を走行した都営地下鉄の車両よりは硬い座席に腰かけた。
 短い発車サイン音が、電車の車外スピーカーから流れる。
 そして、ホームドアと車両のドアが同時に閉まった。
 浅草線の場合は車掌乗務のツーマン運転なので、その後、車掌による発車合図のブザーが鳴ってから発車していたが、大江戸線はワンマン運転なので、ドアが閉まり切ったらすぐに発車する。
 ホームドアが無かった頃は、車両のドアが閉まると同時にスッと走り出していたものだ。

〔都営大江戸線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は両国、春日経由、都庁前行きです。次は汐留(シオサイト)、汐留(シオサイト)。“ゆりかもめ”は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 こちらは雨に一切当たる心配が無い代わりに、換気の為の窓が開けられたままである。
 その為、車外からの走行音がもろに車内に入って来てやかましい。
 これはトンネルが狭いのと、カーブが多いからである。

 勇太:「これで、しばらくは凌げるだろう。問題は、駅に着いてからだね。駅からホテルまでは、どうしても地上を行かないといけない」
 マリア:「こればっかりは、ダッシュで行くしかないか……」
 勇太:「テレポーテーションで行けたりしない?瞬間移動魔法の短距離版」
 マリア:「あれかぁ……。よし、やってみよう。どこにする?」
 勇太:「そうだねぇ……」

[同日15:28.天候:不明 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]

〔森下、森下。桜鍋の“みの家”へおいでの方は、こちらでお降りください〕

 電車が森下駅に到着する。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 電車を降りて改札口に向かう。
 そして、改札口の外に出ると、2人はエレベーターに向かった。
 多目的トイレに向かうことも考えたが、人通りが多く、入った瞬間、怪しまれるだろうと思ったからである。
 密室を狙うなら、エレベーターでも良い。
 但し、他の利用客と同乗していないことが条件。
 幸いにして、この駅のエレベーターにはドアに窓が無い。
 改札外コンコースと地上を行き来するエレベーターを狙った。
 他に客がいないのを見計らうのは、勇太の役目。
 マリアは……。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。我らを飛ばせ。行き先は、ワンスターホテルなり。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」

〔上へ参ります〕

 勇太:「さ、早く」

 勇太は目を閉じて呪文の詠唱を行っているマリアをエレベーターに乗せた。

〔ドアが閉まります〕

 そして、自分も乗り込んで素早く閉めるボタンを押す。

 マリア:「Lu la!」

 2人の体は光に包まれ、そして消えた。
 エレベーターが地上階に着いた時、そこには誰もいなくなっていた。

[同日15:40.天候:雨 同地区内 ワンスターホテル・エレベーター内]

 次の瞬間、2人の体はワンスターホテルのエレベーターの中にあった。

 マリア:「真っ暗で見えないぞ!」
 勇太:「ちょっと待って!」

 エレベーターの中には、長時間使用しないと節電モードの働く機種がある。
 それが働くと、籠内の照明が消え、換気ファンも止まるのである。
 但し、閉じ込めを防止する為、開けるボタンだけは点灯しており、それを押せば、中からドアが開くようになっている。
 勇太は一旦、開けるボタンを押した。
 すると、エレベーターのドアが開く。
 どうやら、最上階の5階にいるようだ。
 再びドアを閉め、1階のボタンを押すとエレベーターは下降し始めた。

 勇太:「ふう、これでよし」
 マリア:「久しぶりにこの魔法使ったけど、上手く行って良かった」
 勇太:「さすがマリア」

 これ、結果的に上手く行ったから良かったものの、もしも多目的トイレで使用していたら大変だった。
 地下鉄の駅は、『建物』ではなく、『洞窟』と同様の扱いになっている。
 『洞窟』では瞬間移動の魔法は使えない。
 まずは地上脱出魔法で脱出してから、瞬間移動魔法を使うという手順がある。
 しかしながら、地上階とを結ぶエレベーターの中は、ぎりぎり『建物』という扱いになる為か、そこで瞬間移動魔法を使う分にはセーフだったようである。
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