報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「出発前」

2024-11-04 21:04:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月10日07時00分 天候:晴 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮1階・朝食会場]

 リサ「ええっ!?先生を襲撃に!?」
 愛原「そうみたいだ……」

 リサと合流して、朝食会場に戻る。
 朝食会場へは浴衣姿では行けないことになっているので、部屋で私服に着替えてきた。
 リサも浴衣から制服へと着替えている。

 リサ「言ってくれれば、わたしが返り討ちにしたのに!」
 愛原「『流血の惨を見る事、必至であります』からダメだ、それは」
 リサ「そうは言ってもねぇ……」
 愛原「奴らは逃げ出したし、デイライトには通報済みだ。あとは国家機関に任せよう」
 リサ「まあ、先生がそう言うなら……」

 朝食は『ベタなホテルの法則』通り、バイキング形式である。
 おかずの中には、富士宮名物の『富士宮焼きそば』もあり、私は皿にそれを持った。

 リサ「これって、どの料理を取ってもいいの?」
 愛原「ああ、そうだよ」
 リサ「じゃ、わたし、この牛すじ煮込み……」
 愛原「鍋ごと取るんじゃない」
 リサ「え?1人1鍋じゃないの?」
 愛原「違う違うw」

 パンもいくつか種類があったが、私は御飯にした。
 どうせ明日の朝食は、パンになりそうだと思ったからだ。
 御飯に決めたら、納豆とかも取りたい。
 リサはパンにしたようだが。
 テーブル席は空いていなかったので、カウンター席に横に並ぶ。
 その時、私のスマホにメール着信があった。
 確認してみると、善場係長からだった。

 善場「お疲れ様です。善場です。愛原所長方の安全の為、静岡事務所の坪井主任が、バスの営業所まで車で送ることになりました。8時に迎えに参りますので、それまでにチェックアウトをお願いします」

 とのことだった。
 続けて……。

 善場「BSAAが警戒の為、ヘリを1機飛ばしますので、安心してください」

 とのこと。
 え、まさか、バスの走行中はBSAAのヘリが上空から監視するのか?
 凄いVIP待遇だ。
 これは新幹線の方が良かったかな……。
 私が、『今から新幹線に変更しましょうか?』と提案したが……。

 善場「いえ、逆に今から予約が取れない高速バスの方が安全です。新幹線だと、飛び込み利用できる自由席があるので」

 と、却下された。
 今から予約が取れないとは、どういうことだろうか?
 とにかく、ここはおとなしくデイライトに従っておいた方が良い。
 私はそう思った。

 愛原「8時に迎えが来るから、それまでに出発の準備な?」
 リサ「迎え?バスがここまで来るの?」
 愛原「いや……。バスの営業所まで徒歩5分なんだけど、それすら危ないからって、デイライトの人が車で送ってくれるんだって。そしてすぐなんだよな」
 リサ「そうなんだぁ。じゃあ、それまでに食べ終わらないとね」
 愛原「まだ1時間弱あるし、他の宿泊客の分もあるんだから、食べ過ぎるなよ」
 リサ「分かってるよ」

 朝食は美味く、リサほどではないが、私も結構たらふく食べてしまった。

[同日08時00分 天候:晴 同ホテル駐車場→ 同士同地区 富士急静岡バス富士宮営業所]

 坪井「おはようございます」

 時間になってホテルの外に出ると、坪井氏が待ち構えていた。

 愛原「おはようございます。お手数お掛けして、申し訳ありません」
 坪井「いいえ。これもデイライトの業務の一環ですから。バスの乗り場に向かう前に確認したいのですが、男は若いのが2人で、そこで足止めされていたわけですね?」
 愛原「そうです。コールセンターに繋いで開けてもらおうと思っていたようですが、コールセンター側も宿泊客ではない者を入れるわけにはいかなかったようです」
 坪井「賢明な判断でしたね。まさか、愛原さんはそれを狙ってこのホテルに?」
 愛原「いえ、ただの偶然です」
 坪井「偶然なのに、ここがバレてしまったということですか……」
 愛原「生憎と……」
 坪井「市内の、何の変哲も無いタクシーでこのホテルに向かって頂いたのは、それが目的でもあったんですよ。タクシーでホテルに向かうなんてよくある話ですからね」
 愛原「そうだったんですか」

 確かにデイライトの倉庫にあったゴツい車なんて使ったら、目立ってしょうがなかっただろう。
 そこで目立たないタクシーに、私達を乗せたのだ。

 坪井「男達はその後、愛原さんが警察に通報したと勘違いし、慌てて逃げたというわけですね?」
 愛原「そうです。どうも車で来ていたと見えて、車で逃げて行きました」
 坪井「あそこには中央分離帯があるので、車で逃げようとするなら、どうしても左折しなければなりません。つまり、バイパスの下り線、北山方向に逃げて行ったというわけですね。なるほど、なるほど……」

 坪井氏が物凄く関心を寄せるのは、彼もまたデイライトの人間だからだろう。

 坪井「今、車を割り出している所です。車は大衆車なので、特定に時間が掛かりそうですが、4桁のナンバーが分かっただけでも助かりますよ」
 愛原「ありがとうございます」
 坪井「ただ、偽造ナンバーを使われていたら分かりませんがね」
 愛原「ああ、やっぱり……」
 坪井「幸いこのホテルにも監視カメラはありますから、後で捜査協力依頼書でも作成して、ホテル側にカメラを見せて頂くようお願いしてみますよ」
 愛原「よろしくお願いします」

 警察を介入させないのは、あれか。
 恐らくこの坪井氏も、公安調査庁からの出向職員なのだろう。
 どうしても公安警察と捜査内容がバッティングする恐れがあり、しかも警察側が捜査を妨害してくる恐れがあるからか。
 その時は隠れ蓑のデイライトではなく、公安調査庁の名前を使って依頼書を作成するのだろう。

 坪井「というわけで、乗ってください」
 愛原「え?」

 坪井氏が指さしたのは、昨日乗車した坪井氏の軽自動車ではなく、タクシーだった。
 あれは別の宿泊客が予約したものだと思っていたのだが、違ったようだ。

 坪井「何か、事務所が、急に『今日だけタクシーで通勤しろ』というものだから、何だろうとは思っていたんですけどね。こういうことだったんですね」

 なるほど。
 方向的には、デイライト静岡事務所がある方だ。
 その途中、バスの営業所に立ち寄って、私達を降ろしてくれるということだったのか。

 愛原「了解です」

 私はタクシーのトランクに荷物を載せ、リサと一緒にリアシートに乗り込んだ。
 坪井氏は助手席に向かう。

 坪井「次は富士急静岡バスの富士宮営業所に向かってください」
 運転手「は、はい」

 タクシーの運転手も、色々な所に立ち寄らされているのか、やや困惑気味だった。
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“私立探偵 愛原学” 「早朝の事件」

2024-11-04 11:21:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月10日06時00分 天候:晴 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮]

 翌朝、早くに目が覚めた私は、朝風呂に行こうと部屋を出た。
 その前に外の様子を見ようと、縦引きカーテンを開けたら、外はカラッと晴れていた。
 どうやら、無事に台風は通り過ぎて行ったようだ。
 6月の台風だから、そんなに勢力も強くなかったのだろう。
 ただ、まだ風は強い。
 やっぱり風台風だったのだろう。
 もっとも、台風通過中は、窓ガラスに雨粒がバチバチと当たる音は響いていたので、けして雨は弱かったというわけではない。
 タオルなどを持って、エレベーターホールに向かう。
 エレベーターに乗って1階まで下りたが……。

 愛原「ん?」

 大浴場はエレベーターを降りて左だ。
 ところが、エントランスの方が何やら騒がしい。
 スーパーホテルは24時間フロントやエントランスが開いているわけではない。
 確か、午前0時から7時までは閉鎖されているはずだ。
 なので、その時間帯、既に宿泊している宿泊客以外は出入りできない。
 客室の鍵が暗証番号なのは、実はそのエントランスを開ける為でもある。
 時間外に宿泊客が出入りする場合、外側にあるテンキーを宿泊客が自分の部屋の暗証番号を打ち込むことで解錠できる。
 私が様子を見に行くと、どうやら宿泊客以外の外部の者が入ろうとしてドアが開かず、外で騒いでいるらしい。
 因みに宿泊客が暗証番号を忘れた場合、コールセンターか何かに問い合わせて確認することができるとのこと。
 逆を言えば、それ以外の者は出入りができない。

 男A「いや、だから愛原って人に用があるんだよ!」
 男B「今じゃねぇとヤベェんだって!!」

 どうやらコールセンターに繋いでいるらしいが、コールセンターもおいそれと宿泊客以外の者を入れるわけにはいかないようだ。
 この辺は、セキュリティはしっかりしているな。
 だが、話しぶりからして私に用があるようだが、あいにくと私は、この2人の男の顔を知らない。
 それどころか、高橋よりもずっと若い男達だ。
 高橋の知り合いかとも思ったが、新潟出身の彼は、そこと首都圏に知り合いは大勢いても、静岡に知り合いがいるとは聞いたことがない。
 それとも、私の記憶違いか。
 だからといって、どうも彼の切羽詰まり過ぎる態度に、私は彼らと会う気は無かった。

 愛原「愛原は私だ!だが、お前達は不審者過ぎる!これから警察を呼ぶが、いいか!?」

 私はエントランスのドア越しに彼らに叫ぶと、自分のスマホを取り出した。
 そして、110番する。

 男A「ヤベッ!」

 1人の男が逃げ出した。

 男B「おい、逃げんのかよ!?」
 男A「ケーサツはヤベェだろ!!」
 男B「いや、でも……!」
 愛原「あー、もしもし。警察ですか?ホテルのエントラスで騒いでいる男達がいるんで、来てもらいたいんですけど?……はい。場所がですね、富士宮市ひばりが丘の……」
 男B「クソがッ!」

 ついに男Bも逃げ出した。
 私はドアを開けて、外の様子を確認する。
 すると、仲間が他にもいたのか、車の後部座席に乗って、慌てて走り出す所であった。

 愛原「……なーんてな」

 私は電話を切った。
 実は掛けるフリをしただけだ。
 実際に掛けたのは、117番。
 0の左上にある7番だな。
 今の若い人は掛けたことがない、つまり彼らも若かった故に掛けたことがないのだろう。
 117番は時報だ。
 掛けたところで、向こうから現在の時刻を教えてくれるだけで、通話ができるわけじゃない。
 0を押したフリして、7を押したのだ。
 あとは、警察に繋がったフリをして演技するだけ。
 とはいうものの、このままではいいわけではない。
 私は素早く先ほどの車のナンバーと車種、色をメモすると、直ちにそれで持って善場係長に通報した。

 善場「……はい、善場です」
 愛原「善場係長、愛原です!」

 私はすぐに先ほどの出来事を係長に話した。
 電話越しに、係長の血の気が引いたのが分かった気がした。

 善場「かしこまりました!愛原所長に、ケガはありませんね!?」
 愛原「私は大丈夫です」
 善場「すぐにこちらで対処致します。20代前半くらいの男が2人ですね?」
 愛原「はい。見た目は高橋ほどヤンキーってわけでもないですが、かといって真面目に生きているっていう感じでもなかったです。あと、逃走用の車を用意していたみたいで、運転役の者もいたと思われます。車の特徴とナンバーですが……」

 車はやや離れた位置にいた為、私の視力では、4桁のナンバーがせいぜいだ。

 善場「ナンバーが……で、白のホンダ・フィットですね。かしこまりました。すぐに、うちの静岡事務所と静岡県警に連絡しておきます」
 愛原「“コネクション”には、あんな若いメンバーもいるのでしょうか?」
 善場「現時点ではまだ何とも言えません。が、その男達は外国人ではなく、日本人だったのですね?」
 愛原「在日朝鮮人の可能性もありますが、見た目はそうで、日本語も流暢でした」
 善場「……分かりました。私も国家機関の人間ですから、あまり迂闊なことは言えませんが、その若者達は、正規メンバーではないかもしれません」
 愛原「そうですか」
 善場「もしも正規メンバーが愛原所長を襲撃に来たというのなら、あまりにも計画がお粗末過ぎます。恐らく早朝の、人が少ない時間帯にホテルに忍び込み、そこで愛原所長の部屋を特定して襲撃する計画だったのでしょう。ところが、スーパーホテルは朝の7時まではエントランスが閉鎖されている。そこに気づかなかったのが、そもそもの過ちです」
 愛原「では彼らは一体……?」
 善場「愛原所長の襲撃だけの為に雇われた非正規メンバー……いや、もはやメンバーですらないかもしれませんね。ただのアルバイト、今どき流行りの言い方ですと、闇バイトの連中だったのではないでしょうか?」
 愛原「闇バイト!?」
 善場「私の、一個人の見解です。もちろん、警察が彼らを逮捕して取り調べないことには、何とも言えません。すぐにこちらから手配しますので、あとはお任せください」
 愛原「私達はこれからどうすれば良いでしょうか?」
 善場「警察にホテル周辺、バスの営業所周辺の警備を強化してもらいます。所長方は予定通りのルートで帰京してください」
 愛原「分かりました」

 何だか、朝から大変なことになった。
 私は気持ちを落ち着かせる為、善場係長の電話を切ると、大浴場に向かった。
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