報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 5

2017-09-15 19:30:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月10日07:00.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号 イリーナ組の客室]

 イリーナ:「ん……あと5分……」

 イリーナはセミダブルベッドの中で目を覚まし、そして二度寝に入った。

 イリーナ:「ん……」

 ゴロッ……。

 イリーナ:「ん……!」

 ゴロッ……ゴロッ……。

 イリーナ:「枕が変わると目覚めいいし……」

 イリーナは大きな欠伸をして上半身を起こした。

 イリーナ:「マリア〜、今何時ぃ〜?」

 だが、答える者はいない。

 イリーナ:「んん?」

 隣のベッドを見るともぬけの殻。
 既に起きた後のようには見えない。
 何故なら、ベッドはきれいに未使用状態だったからだ。

 イリーナ:「ん?あれっ?」

 イリーナは首を傾げて室内の和室の襖を開けた。

 イリーナ:「ユウタ君もいない……」

 イリーナは下着姿のまま水晶球を取った。

 イリーナ:「マリアとユウタ君の場所を映して」

 水晶球がボウッと光り出し、そして少し経つとそこに何かが映し出される。

 イリーナ:「どこかの部屋?部屋でも間違えた?……ん、違う?……ん?誰かと一緒?……えっ?……えっ?ええーっ!?」

 いつものほほんとしたイリーナが目を見開く光景が水晶球に映し出された。
 そこに映っていたのは……。

[同日同時刻 天候:晴 同船内 別の客室]

 稲生:「うー……」

 稲生が目を覚ました。

 稲生:「頭痛ぇ……。飲み過ぎた……」

 起き上がると、痛いのは頭だけではなかった。
 カーペットの床に転がって寝ていたので、それで体も痛かった。

 稲生:「ここは……?」

 そこで稲生、今自分の置かれた状態に気づいた。

 稲生:「!!!」

 ぱんつはいてない。

 稲生:(こ、これはーっ!?)

 よく見ると、他にも真っ裸の女性がベッドにいたり床に転がったりしていた。
 他には打てば鳴るよな空の酒瓶が何本も。
 衣類はあちこちに散乱しており、稲生はその中から自分のをようやく発見した。

 稲生:(い、一体何が!?)

 幸いマリアはすぐに見つかった。
 ベッドの上に寝ており、こちらはちゃんと服を着ている。
 が、寝相は頗る悪く、スカートは捲れて中のショーツが丸見えになっていた。
 状況が状況だけに、とてもラッキースケベ!的な気持ちにはなれない。

 稲生:(え、えーと……確か……)

 稲生は二日酔いする頭を何とか回転させ、このような状況に陥った経緯を手繰り寄せた。

[同日01:32.天候:雨 同船・同客室内]

 ここはマリア・サロメ・ヨハンセン中尉の部屋。
 一介の傭兵だった彼女が魔王軍士官学校に入学してからのことや、その後何とか卒業して准尉として入隊してからのことを延々と聞かされた。
 酒をグビグビ飲みながらのことであり、この部屋にはサロメの部下達も泊まっていた。
 で、話はサロメの傭兵時代だった頃に戻って盛り上がる。

 サロメ:「だーかーらぁー!魔法使いは後方支援でいいの!前線で戦わせるなんて論外!!」

 バンバンとサロメ、稲生を叩く。

 稲生:「いてっ!やめてください!」
 マリア:「いやいや!敵の中には魔法しか効かないヤツもいるんだから、剣しか振るえない戦士こそ引っ込んでな!!」

 マリアもバンバンと稲生を叩く。

 稲生:「だからやめてくださいって!」
 サロメ:「性格がウジウジしてる時点でアウトなの!分かった!?」
 稲生:(だ、ダメだこの人達、酒を飲ませちゃダメな人達だお……)
 マリア:「ユウタっ!あんたからも一言何か言ってやって!」
 稲生:「ええーっ!?」
 サロメ:「サーシャとの冒険談聞かせろ!」
 稲生:「サーシャを知ってるの?!」
 サロメ:「あのクソ野郎、アタシより先に結婚しやがって……ヒック」
 稲生:「泣かない泣かない」
 サロメ:「サーシャとは何日間も一緒に旅したんだろ?」
 稲生:「向こうの世界じゃ、電車で数時間で移動できるのに、全部徒歩だったからびっくりしたよ」
 サロメ:「で、サーシャとはどんだけヤったんだ?」
 稲生:「え?」
 サロメ:「サーシャも性欲強いから、結構男喰いなんだよね」
 稲生:「あー、残念だけど僕みたいな軟弱者はタイプじゃないって……」
 マリア:「残念だけど?
 サロメ:「あれ?あん時、『久しぶりに魔法使いの男の童貞喰えた』とかって手紙に書いてあったよ」
 マリア:「ああッ?
 稲生:「僕じゃない!僕じゃないです!」

 マリアはグビグビと酒を流し込んだ。

 稲生:「ま、マリアさん!?」
 マリア:「どいつもこいつも……!だいたいオメーラ、皆してその怪しからんデカパイは何だ!?いくらか私に寄越せ!」
 サロメ:「む、無茶苦茶……」
 マリア:「できんのなら脱げーっ!!」

 マリア、スポポーン!と女性兵士達をスッポンポンにして行った。
 何か魔法でそういうことにをしているようだ。

 サロメ:「こら、イノーは目を伏せて!」
 稲生:「は、はいっ!てか、マリアさん、落ち着いて!」
 マリア:「ユウタも脱げーっ!」
 稲生:「わあーっ!」
 マリア:「ヒャッハーッ!酒どんどん持ってこい!全裸パーティーだ!!」
 稲生:「マリアさん、飲み過ぎですよ!」
 マリア:「飲めんのなら脱げーっ!」

[同日07:15.天候:晴 サロメの部屋]

 稲生:(お、思い出した。えーと……ここはどうするべきだろう?)

 ①このまま静かに部屋を脱出する。
 ②マリアを起こす。
 ③サロメ(全裸)を起こす。
 ④サロメの部下兵士(全裸)を起こす。
 ⑤室内にいる全員を起こす。

(※バッドエンドあります)
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“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 4

2017-09-15 12:17:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日22:00.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号 船内カジノ]

 AD:「それでは次のシーン、行きまーす!」
 多摩準急:「雲羽、あそこのライト、ズレてる。照明さんに……あれ?雲羽、あいつどこ行った!?」


(『マカオのカジノでスロットに興じるオジさん』というタイトルを付けられた雲羽百三本人)

 雲羽:「よし。これで大石寺へテロしに行く資金は稼いだ……ん?」
 多摩:「なにやってんだ、お前?」
 雲羽:「いや、ちょっとスロットを……」
 多摩:「バカ!」
 AD:「あのー、撮影の時間なんですけど……」
 雲羽:「あれ?カジノの撮影シーン、さっきので終わりじゃ?」
 多摩:「終わりじゃねーよ!まだマリアのシーン撮ってねーよ!」
 雲羽:「ええっ!?次、プールのシーンじゃないんですか?『ポロリもあるでよ』ってコンテに……」
 多摩:「書いてない書いてない」
 AD:「プールのシーンは台本に無いですねぇ……」
 雲羽:「チッ」
 多摩:「チッじゃねぇ。早くメダル戻してこい!」
 雲羽:「えー、これ換金して東海道新幹線の費用に……」
 多摩:「知るか!」
 AD:「えー、では次の撮影シーン行きまーす!5、4、3、2……」

 カチン!🎬

[9月9日22:15.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号 船内カジノ]

 不機嫌な顔でスロットマシーンの前に座るマリア。


(7が揃ってキモい笑いを浮かべる雲羽百三本人。「これで帰りの新幹線はグリーン車だァ!」 撮影者:多摩準急)

 隣では大勝してニヤニヤ笑うキモオヤジがいた。
 それに比べて、マリアの方は……。

 マリア:「あー、もうっ!Shit!Fuck!!」

 マリア、ついに不機嫌が爆発してスロット台をボカボカ叩く。

 女性:「こらこら、やめな、おチビちゃん」
 マリア:「What’s!?」

 いつの間にかマリアの隣には別の女性が座っていた。
 それは魔王軍の軍服を着た女性であった。
 女性とはいえ軍人ということもあり、マリアを「おチビちゃん」呼ばわりするほどの長身であった。
 恐らく軍服の下には引き締まった肉体もあるのだろう。

 女性:「ほら、これで厄払いしなよ」

 女性軍人はコインの束をマリアに渡した。

 マリア:「Thank you...」
 女性:「英語とはいえ、あまり汚い言葉を使うとファンが減るからね。気をつけなよ」
 マリア:「ファン!?……あ、自動翻訳魔法切れてた」
 女性:「どうだい?少し、休憩しないかい?」
 マリア:「はあ……」

 カジノの中にはバーもある。
 女性はマリアをそこへ誘った。

 バーテンダー:「いらっしゃいませ。ご注文は?」
 女性:「マティーニ」
 マリア:「ブラッディマリー」
 バーテンダー:「かしこまりました」

 バーテンダーが大きく頷いて、カクテルを作り始める。

 女性:「あー、そうそう。私の名前はマリア・S・ヨハンセン。魔王軍第2飛空艇団所属だよ」
 マリア:「ええっ?」
 マリア:「どうした?あ、階級?一応、中尉だけど……」
 マリア:「そうじゃない。私の名前、マリアンナ・ベルフェ・スカーレットで『マリア』と呼ばれることが多いんだ」
 マリア:「そうだったのか。あー、そりゃマズいね」
 マリア:「何で?」
 マリア:「多分今頃、台詞の左端の名前、全部『マリア』になってて読者が混乱してる」
 マリア:「メタ発言やめろ!」
 マリア:「どうしようか?」
 マリア:「じゃあ、私の名字、スカーレットって読んでもらおうか?」
 マリア:「いや、申し訳無いけど長い名字は呼びにくい。あ、そうだ。だったら、私のニックネームで呼んでもらおうかな。一応、気に入ってるんだ」
 マリア:「何だ?」
 マリア:「実はミドルネームはサロメでね。別に洗礼名じゃない。私がまだ一介の傭兵だった頃、そう呼ばれてたことがあった」
 マリア:「サロメ?聞いたことあるな。確か旧約聖書に出てくる……えーと……」
 バーテンダー:「お待たせ致しました。マティーニとブラッディマリーでございます」
 マリア:「ありがとう」
 マリア:「どうも」
 バーテンダー:「旧約聖書におきまして、イエス・キリストに洗礼を授けたヨハネの首を求めた人物として有名な娘ですよ」
 マリア:「そうか!……それで、そのサロメがどうしてあなたのニックネームなの?」
 マリア改めサロメ:「まだ一介の傭兵だった時、“闇の教団”と対峙したことがあってね。本拠地に乗り込んで、黒く塗られたヨハネ像の首をもぎ取ってやったら『お前はサロメか!』と突っ込まれたんだ。それ以来、私の渾名がサロメになった」
 マリア:「ユウタからしてみれば、大石寺の大御本尊とやらを真っ二つにしてやったようなものか」
 サロメ:「何それ?」
 マリア:「いや、何でも……」
 サロメ:「私のことはサロメと呼んでもらってもいいけど、さすがにあなたにはマリアンナだね。自分の名前で呼び掛けるのは気が退ける」
 マリア:「その気持ちは分かる。どうして傭兵だったのに、軍人に?」
 サロメ:「憧れかな。所詮私もミーハーだったか」
 マリア:「レナフィール大佐か」
 サロメ:「女戦士達の憧れの的だよ。正直、どうして将官になられないのか不思議なくらい」
 マリア:「『将軍様』と呼ばれるのが嫌いだとか、将官になってしまうと、どうしても作戦本部詰めで前線で戦えないからだとかは聞くね」
 サロメ:「それだけ戦うことが好きな御方なのよ」
 マリア:「ふーん……」
 サロメ:「あ、そうそう。これが昔の私」

 サロメはカメオを出した。
 そこにはビキニアーマーに身を包んだ女戦士の姿があった。

 サロメ:「今から10年くらい前の……」
 マリア:「へえ……。(いかにも魔法使いをバカにしてそうな顔だな)」

 マリアはカクテルのグラスを手に取ってあることに気づいた。

 マリア:「10年前!?」
 サロメ:「そうだけど?」
 マリア:「サロメ、今いくつ!?」
 サロメ:「今年で27歳だけど?」
 マリア:「こ、この体付きで17歳!?」
 サロメ:「まあ、そうだね。それが何か?」
 マリア:「……!……!!」

 マリアは自分の体付きとカメオの女戦士の体付きを比べて愕然となった。

 サロメ:「まあまあ。戦士の体と魔法使いの体を比べちゃダメね」
 マリア:「そういう問題かなぁ……。あ、そうそう。もしかしてさ、魔法使いをバカにしてたことがある?」
 サロメ:「う、うん。昔……昔の話ね。正に、この傭兵だった頃……」
 マリア:「『体力無くて、ちょっと強い敵とエンカウントしようものなら一発死にする役立たず』だとか、『MP制限キツくて使い勝手が悪い』だとか?」
 サロメ:「む、昔はね。今はそんなこと思ってないよ。作戦本部にも軍師として魔法使いがいるし、宮廷魔導師だって、その名の通り、戦士じゃなれないしね。それに、私の昔の仲間で魔法使いに助けられたことがあるヤツがいてね。その話を聞いて見直したこともあるし、逆に魔法使いをバカにしたことで痛い目を見たヤツも知ってる」
 マリア:「そう、か……。別の門流のヤツの話だけど、そんな女戦士にバカにされたことでムカついた男魔法使いがエグい仕返しをした話も知ってるから気をつけてくれ」
 サロメ:「どんな話?」
 マリア:「まあ、その……。男が女にする復讐って言ったら、だいたい決まってるだろ」
 サロメ:「とんでもない羞恥プレイかな」
 マリア:「まあ、似たようなものだ」

[1時間後]

 稲生:「やったーっ!ブラックジャック勝ったーっ!」
 サンモンド:「そのゴールドコインはキミのものだ。是非ともこれで次はVIPルームに行き、バカラで勝てばキミは世界の大富豪だ!」
 稲生:「はいっ!あ、その前にマリアさん呼んで来ますね!」
 サンモンド:「う、うむ。何か嫌な予感がするが、あえて止めまい」
 稲生:「え?何がですか?」

 稲生、バーでマリアを見つける。

 稲生:「マリアさん、やりましたよ!ゴールドコインです!これで一緒にVIPに……」

 ダンッ!(マリアがビールのジョッキをカウンターに叩き付けるように置く)

 稲生:Σ(゚Д゚)ビクッ!
 マリア:「ブハァ〜ッ!……ユウタぁ〜!今までどこほっつき歩いてたんだ、コラぁーっ!」
 稲生:「よ、酔ってる!?」
 サロメ:「彼女を放っておいてギャンブル漬けとは、とんだ彼氏だね?……ヒック!」
 稲生:「な、何ですか、あなた!?」
 サロメ:「テメェがおチビちゃん放ったからしにしてる間、アタシが面倒見てやってたんだよォ?分かってのんか、ああっ!?」
 稲生:「は、はいっ!すいません!」
 サロメ:「ちょっと説教してやっから、こっちへ来い、コラ!」
 マリア:「やったれやったれいーっ!」
 稲生:「ま、マリアさんまで!?」
 サンモンド:「おおっ!?両手に花だね!」

 女戦士と女魔道師に両脇をガッチリ捕まえられた稲生。

 稲生:「船長、助けてください!」
 サンモンド:「おっと!そろそろ私は仮眠時間になったので、そろそろ就寝させて頂く。これにて失礼」
 稲生:「船長ォ〜っ!?」
 サロメ:「逃げんな、コラ!」
 マリア:「これより夜の軍事教練を受けてもらう!……ック!」

 ズールズールと連行された稲生。
 夜の軍事教練とは何か?【お察しください】。
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“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 3

2017-09-13 19:22:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日21:30.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号メインホール→カジノ]

 メインホールは展望台までの吹き抜けである。
 その吹き抜けの高さほどもある大きな天文時計が時を刻んでいるのだが、大きな振り子がコーンコーンとホール内に響いているのが印象的だ。
 普通、振り子時計というものは船の揺れによって正確に時を刻めない為、船に設置されることはまずない。
 にも関わらず設置されているということは、それだけ船の揺れが小さいという自信からだろう。
 尚、稲生は天文時計を見てもさっぱり分からなかった。

 マリア:「このメインホールの設計者と魔王城のメインホールの設計者は、同一人物なんだそうだ」
 稲生:「あ、通りで。よく似てると思いましたよ」
 マリア:「魔道師として、天文時計は読めるようにしておかないとダメだぞ」
 稲生:「あ、はい」
 マリア:「もっとも、うちの屋敷には1個しか置いてないんだけどね」
 稲生:「おおかた、マリアさんの部屋辺りにあったりします?」
 マリア:「いや。師匠の昼寝部屋だ」
 稲生:「通りで見たこと無いわけだ。あそこ、辿り着くのに即死トラップ3ヶ所あるんですよ」
 マリア:「あー、それは残念。正解は4つ。照明を点けると爆発するボム・バルブが1個仕掛けられてる」
 稲生:「……マジですか?」
 マリア:「ユウタは屋敷の住人だから、スイッチを入れても点かないだけだけどね」
 稲生:「良かった。誰も電球交換しないから、そのうち僕がやる所でしたよ」
 マリア:「ミミックの亜種だから、無断で交換しようとしても爆発するよ」
 稲生:「通りで先生、『その電球、交換しといて』って言わなかったんですね」
 マリア:「その通りだ」
 稲生:「怖い屋敷」
 マリア:「まあ、ユウタの住んでる東側は大したトラップも無いから。多分」
 稲生:「多分って何ですか、多分って……」
 マリア:「1個くらい即死トラップがあるかもな」
 稲生:「それ、見つけ次第取り外しておきますからねっ!」
 マリア:「あはははは、冗談冗談」

 と、カジノに向かう2人を出迎える者がいた。

 サンモンド:「おー、この前よりも打ち解けてるねぇ。まるで恋人同士だ」
 稲生:「サンモンド船長!」
 サンモンド:「やあ、ようこそ。私の船、スターオーシャン号へ。どうだい?クイーン・アッツァーよりも良い乗り心地だろう?」
 稲生:「この船には悪霊も化け物もいませんしね」
 サンモンド:「はっはっはっ!何しろ今回は魔界共和党様の貸切運航だ。三途の川を渡る定期船とは違うからね」
 稲生:「定期船だと、アッツァーみたいな感じですか?」
 サンモンド:「近いけど、さすがにもう少し秩序はあるよ。例えばここのメインホールは、単なるカジノやプロナード、レストラン(大食堂)などへの中継点だけではないんだ。ダンスホールとしての役割もあってね。幽霊達がここで舞踏会を開いていることもあるよ」
 稲生:「怖っ!」
 サンモンド:「それよりキミ達、カジノに行くのだろう?良かったら私が案内しよう」
 稲生:「船長自らですか?」
 サンモンド:「ああ。実は私もカジノは大好きでね。船を降りたら、必ずその町のカジノに行ってたものさ。うちのカジノはこっちだ。ついて来なさい」

 カジノは船の1階にあった。
 ちょうど大時計の真裏である。
 カジノの賑わい方は、まるでこれが幽霊船とは思えないほどのものだった。
 クイーン・アッツァーの時などは、客が稲生1人だったから寂しいというものあったのだが……。

 稲生:「船長の得意なのは何ですか?」
 サンモンド:「主にカード系かな。ポーカーとブラックジャックだ」
 稲生:「ほおほお」
 支配人:「いらっしゃいませ。……おっ、これは船長!」
 サンモンド:「やあ。今日はVIPのお客様をお連れした。よろしく頼むよ」
 稲生:「VIPだなんて、そんな……」
 マリア:「ていうか貸切運航なんだから、客全員がVIPみたいなものでしょうが……」
 サンモンド:「通常の元手に、このお二方にこれを」

 サンモンドが支配人に渡したのは引換券。

 支配人:「引換券でございますね。それでは券1枚につき、チップ20枚と交換致しましょう。それにプラスして、最初の元手としてのチップ5枚も付け加えさせて頂きましょう」
 稲生:「お、アッツァーと同じルールだ」
 支配人:「お客様はクイーン・アッツァーにも御乗船されたことが?」
 稲生:「ええ、まあ、ちょっと……」
 支配人:「そうですか。向こうの支配人は、とても男前だったでしょう?」
 稲生:「えーっと……」
 サンモンド:「はっはっはっ。向こうの幽霊は意識体化していてね、顔までは分からなかっただろう。な?稲生君」
 稲生:「そ、そうですね」
 支配人:「そうでしたか。それは失礼致しました。それではどうぞ、御存分にお楽しみください」
 稲生:「ありがとう」
 サンモンド:「そうそう、稲生君。もう既にアッツァーで知っていると思うが、ブラックジャックの参加条件はチップ100枚以上稼いでからだ。バカラは200枚以上」
 稲生:「知ってます。200枚以上稼いだら、ゴールドコインがもらえるんですよね?」
 サンモンド:「そうそう。さすがはVIPルームに入れる資格を取っただけのことはある」
 マリア:「は?……ちょっと、ユウタ」
 稲生:「はい?」
 マリア:「私が船員居住区や客室エリアでクリーチャーと死闘してる間、のんびりカジノで遊んでたのか?」
 稲生:「い、いえ、あくまでも探索の1つですよ!?あのカジノのスタッフの幽霊さん達、大勝ちする客が来ないことには成仏できないって言うもんだから……!」
 マリア:「ふーん……?」
 サンモンド:「そうそう。稲生君は稲生君でカジノで戦っていたんだよ。相手がクリーチャーかそうでないかだ」
 マリア:「……私は向こうでスロットでもやってる。ユウタはポーカーでもやってたら?」
 稲生:「え、そんな!マリアさん!」
 サンモンド:「はっはっはっ!女性ってのは難しいねぇ。まあ、いいさ。勝てば機嫌も良くなるだろう。私達はお言葉に甘えて、ポーカーでもやろうか」
 稲生:「は、はあ……。(負けたらスロットマシーンが爆発してしまうかも……)」
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“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 2

2017-09-13 11:05:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日21:00.天候:晴 冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)スターオーシャン号・大食堂]

 アデランス:「それでは、宴もたけなわではございますが、まもなく終了のお時間となります。パーティーはこれにて終了致しますが、お食事や歓談などをご希望のお客様は、このままお過ごしになられても結構です。最後に、このパーティーの主役にしてアルカディア王国首相兼魔界共和党党首、安倍春明総裁に最後の締めの挨拶を賜りたいと存じます。安倍総裁、お願い致します」

 アデランス八島は魔界共和党の総務であるので、安倍は一国の首相というよりは上司である総裁なのだろう。

 安倍:「えー、皆さん。今夜はこの私の為にお集まり頂き、ありがとうございます。このパーティーは私のみならず、皆さん全員が主役であると考えております。ただ1つ、残念なことがありました。それは、このパーティーにおける2つの約束事。『ケンカ則退場』並びに『セクハラ則退場』を守れなかった人物がいたことであります。……」
 稲生:(何だかこっちの安倍総理、向こうの安倍総理と喋り方が似て来たなぁ……。これも勉強したのかな?それとも……)
 安倍:「……そのような人物におきましては厳しく、えー、強い制裁を課すことにより、党内の綱紀粛正を図るという目的を維持して行こうと、そういうつもりであります。この思い出深い船旅をどうか皆さん、一生のお土産して頂きたいと、えー、考えております。今日は本当に、どうもありがとうございました!」

 参加者一同から拍手が起きる。

 稲生:「その人物というのは……?」
 イリーナ:「横田理事に決まってんでしょう?」
 マリア:「私のガードが固いってんで、今度はポーリン組狙いやがった」
 エレーナ:「あんにゃろめ。すれ違いざま、私のオッパイもみもみして行きやがって!『嗚呼、マリアンナ様より大きい』だってさ」
 マリア:「あ?
 稲生:(僕達より年下とか言ってるけど、絶対エレーナは僕達より年上のような気がするんだけど……)
 リリアンヌ:「ヒヒ……。わらひのスカートも捲ってお尻触って来ましたので……フヒヒヒ……ヒック!……アンテナに吊るしておきました……ヒック!」
 稲生:「リリィ、キミはまた飲んで!まだ14歳でしょ!?」
 リリアンヌ:「……大丈夫です。昨日、15歳になりました。……ヒック」
 稲生:「何だ、そうか。じゃあ、もう一杯どうぞ……って、違う!」
 リリアンヌ:「ワインなら酔いません。……ヒャッハー!」
 稲生:「いや、酔ってる酔ってる」
 エレーナ:「じゃ私、リリィを連れて部屋に戻るから」
 マリア:「監視、しっかりしておけよ。またユウタの部屋に忍び込まないように」
 エレーナ:「分かってる。それじゃ」
 リリアンヌ:「エレーナ先輩、わらひ……!あのクソオヤジにスカート捲られて、『嗚呼、花柄のガーリーなおパンティ……』とか言われたんですよ……ヒック。お尻も触られて……」
 エレーナ:「分かった分かった。後で今度はスクリューに繋いでやろうね」
 稲生:「本当に軸はブレない人だなぁ、あの理事も……」
 マリア:「全く。ところで、これからどうする?」
 稲生:「どうすると言いますと?」
 イリーナ:「師匠をこれから部屋に戻すとして、その後だよ。もう寝る?」
 稲生:「あー、えっと……」

 稲生は手持ちのスマホを取り出した。
 まだ21時を過ぎたばっかりである。
 さすがにもう子供は寝る時間であるが、実年齢20代の2人が寝るにはまだ早い。
 実年齢というのは、魔道師の場合、見た目の年齢と実年齢が合わないことの方が多いからだ。
 イリーナは30代半ばの女性の姿をしているが、実際は齢1000年以上である。
 マリアも18歳で魔道師になったことで、そこから肉体年齢がほぼ停滞している(が、最近の体付きを見るに、少しは肉体年齢が進んだのではないだろうか)。

 稲生:「じゃあ、“クイーン・アッツァー”の思い出を辿ってみますか」

 “魔の者”が狙いを稲生に向け、乗っ取った冥鉄汽船“クイーン・アッツァー”号の事件。
 今乗船しているスターオーシャン号は、既に事件後に沈没したアッツァーと同型の姉妹船なのである。

[同日21:30.天候:晴 スターオーシャン号・客室フロア]

 稲生:「そういえば部屋に入るの、これからが初めてでしたね」
 マリア:「そういえばそうだ」

 出航直前の乗船であり、また、すぐパーティー会場に向かわなければならなかった為、荷物などは船内スタッフに預けていた。
 スタッフによれば、そのまま稲生達の部屋に荷物を入れておいてくれるとのことだったが……。

 稲生:「あ、ここですね」

 稲生はカードキーを取り出した。

 稲生:「アッツァーは普通の鍵だったり、或いは変なパズルを解いて開錠するパターンだったのに、こっちはカードキーとは……」
 イリーナ:「“魔の者”に乗っ取られた正真正銘のゴースト・シップか、一応はちゃんと営業している豪華客船の違いさね」
 稲生:「一応はって……」

 まあ、この船も冥鉄汽船所属という点と、魔界の海を航行しているという点で幽霊船であることに変わりは無いのだが。

 マリア:「ミスター・サンモンドがここの船長という点が、1番信用できないらしい」
 稲生:「そっかぁ……。後でサンモンド船長に御挨拶に行こうかなぁ」
 マリア:「キャプテンが夜勤やるとは思えないから、もう寝てるんじゃないか」
 稲生:「あ、そうか」

 部屋の中はさすが豪華客船ということもあって、とても広かった。
 まずはツインベッドが並んでいて、そのうちの1つにイリーナを寝かせた。

 マリア:「飲み過ぎですよ、師匠。ウォッカ一瓶空けるなんて!」
 イリーナ:「ゴメンゴメン……」

 部屋の中にはもう1つ寝室があって、何とそこは和室。
 “クイーン・アッツァー”号はツインルームやスイートルームしか無かったのだが、こちらはリニューアルされたのか、和洋室もあるようだ。
 基本的な船の構造はアッツァーとは変わらないが、今も変わらず運航を続けている客船はリニューアルも施されているようである。

 マリア:「それじゃ私達、もう少し船内を歩いてきますから」
 イリーナ:「ああ。行っといで」

 稲生とマリアは部屋を出た。

 稲生:「あんまり客室フロアは歩かなかったかな……」
 マリア:「そうか?私の時はやたらクリーチャーが襲って来たが」
 稲生:「主に戦いの場は、船底とかでしたもんね」
 マリア:「でもそれって、一般客立入禁止だろう」
 稲生:「まあ、確かに。あ、それじゃ……カジノなんてどうでしょう?」
 マリア:「カジノか。それもいいかもな」
 稲生:「じゃあ、ちょっと行ってみましょう。……ケンショーブルーがいたりして」
 マリア:「その時は海の底へ叩き落す」

[同日同時刻 天候:晴 スターオーシャン号・展望台上 通信アンテナ]

 横田:「…………」

 クルクルと回るプロペラに括り付けられている横田。

 横田:「嗚呼……人魚達の群れ……。あのコ……オッパイ大きい……」

 アンテナに括り付けられながらも、スターオーシャン号と並走する人魚達のビキニブラの中身を詮索する根性逞しい理事であった。
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“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」

2017-09-11 19:12:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日19:00.天候:晴 冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)スターオーシャン号・大食堂内]

 因みに冥界鉄道公社には自動車事業部もあって、そちらは『冥鉄バス』と呼ばれる。
 幽霊バスのことなわけだから、稲生達が乗り込んだ船は幽霊船ということになる。
 しかし……。

 稲生:「全然幽霊という感じがしないなぁ……」

 稲生達はパーティー会場となっている大食堂へ足を運んだ。

 稲生:「何だか、今でも思い出しますよ。この食堂の片隅にあるあの洗面台で、聖水を補給したこととか……」
 イリーナ:「お〜、そうだったの。じゃ、アタシもマネしようかねぇ」

 イリーナはローブの中から聖水を入れる瓶を取り出すと、それに水を入れた。

 稲生:「僕はスーツだからいいですが、先生も……イブニングドレスとかに着替えなくていいんですか?」
 イリーナ:「なーにを言ってるのー?アタシ達、魔道師にとってはこれが礼装なんだよ」
 稲生:「そうなんですか?」

 マリアも白のブラウスの上はクリーム色のベストを着ていたのだが、今は緑色のブレザーを着ている。

 アデランス:「皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今より、アルカディア王国首相にして、魔界共和党党首であります安倍春明総裁のバースデー・パーティーを開催致します。このパーティーの開催に当たりましては、冥界鉄道公社の全面協力の元、会場と致しまして、公社の誇るクルーズ船“スターオーシャン”号の貸切運行を持ちまして……」
 稲生:「げっ!あ、あれはケンショー・ブラック!?」
 マリア:「何故に!?」
 イリーナ:「党員の欠員が出たからって、横田理事が総務として縁故採用させたそうよ」
 稲生:「しまった。横田理事もまだ現役だったんだ。……ま、マリアさん、落ち着いて。ね?」
 マリア:「ああ。大丈夫だ……!」

 だが、マリアの体からは明らかに憤怒のオーラが出ていた。

 アデランス:「それではまず始めに、魔界共和党理事の横田より御挨拶をさせて頂きます」
 横田:「先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。……」
 稲生:「出た!お決まりのセリフ」
 イリーナ:「ほーんと、軸はブレない人だよねぇ……」
 マリア:「…………」

 横田の挨拶に、立ち寝する参加者が発生する。
 因みにこのパーティーは立食タイプである。

 アデランス:「……はっ!こ、これは失礼致しました。えー、横田の挨拶でした。それでは気を取り直しまして、党首・安倍春明総裁に……」
 イリーナ:「うんうん、眠くなるよねぇ……」

 拍手と共に出て来たのは、燕尾服を着た安倍春明。

 安倍:「えー、皆さん。この度は御多忙の中、私の誕生日パーティーにご参加頂きまして、真にありがとうございます。……」

 安倍が壇上で挨拶を行う。
 さすがは一国の総理大臣として、先ほどの横田と違って眠くなるような演説ではない。

 アデランス:「ありがとうございました。あ、申し遅れました。私、本日の司会進行を務めさせて頂きます、魔界共和党総務の八島と申します。人間界における業務は、横田とほぼ同じです。それでは皆様、乾杯の後は存分にお楽しみください」

 乾杯の後でパーティーが始まった。
 立食形式ではあるものの、ちゃんと椅子やテーブルもある。

 イリーナ:「あたしゃここでいいよ。ユウタ君、料理持って来て」
 稲生:「分かりました。何がいいですか?」
 イリーナ:「うーん……。あそこに乗っかっている料理、端から端まで全部」
 稲生:「はあ!?」
 マリア:(このオバハンは……)

 稲生とマリアで師匠の料理を皿に盛っていると、安倍がやってきた。

 安倍:「やあ、こんばんは」
 稲生:「総理!」
 マリア:「Good evening.」
 安倍:「久しぶりだね。この前会ったのは……ああ!“魔の者”に冥鉄汽船が乗っ取られた時だったかな?」
 稲生:「すいません、あの時は……」
 安倍:「いや、いいんだよ。さすがに後でレナにはブッ飛ばされたけどね」
 稲生:「レナ?……ああ」

 魔王軍のレナフィール・ハリシャルマン大佐。
 安倍率いる勇者一行で、女戦士だった者である。
 現在は人間の身でありながら、魔王軍の司令官を務めている。
 安倍は大将や元帥の階級を持って迎えようとしたのだが、佐官以下でないと前線に出られないからという理由で断った。
 士官学校卒業者と同じ少尉からスタートしたのだが、瞬く間に昇進し、今では大佐である。

 安倍:「女性らしく、イブニングドレスでも着てくれれば良かったのに……」
 レナ大佐:「これが軍人の礼装ですから」

 レナは礼装用の軍服を着ていた。
 スラリと高い背丈に引き締まった肉体は、とても稲生よりずっと年上の女性には見えない。
 何故か一瞬……。

 稲生:(“バイオハザード”のジル・バレンタインに見えた)

 レナ:「護衛の部下も乗船させてますので」

 その護衛の部下達の多くが女性兵士だった。
 軍幹部が女性だと、必然的にその部下も女性が多くなるのか。

 安倍:「俺とは冒険者仲間だったんだから、別に敬語はいいのに……」
 レナ:「あなたは『勇者様』だったわけですし、ここでは首相ですよ」
 安倍:「いやはや、戦士だった頃はもっとざっくらばらんな女性だったのに、軍人になってからはこれだよ」

 安倍は苦笑した。

 稲生:「その勇者様が首相ですから、物凄い出世ですね。政治のやり方は、どうやって勉強を?」
 安倍:「未だに『遠い親戚の伯父さん』から学んでるよ。だから、日本の政治と似てる所があるかもしれないけど許してね」
 稲生:「その『遠い親戚の伯父さん』とは、こちらでも向こうでも国家機密でしょうから聞かないでおきます」
 安倍:「うん、そうしてくれると助かる。……おっと!じゃ、わたしはこれで。楽しんで行ってね」
 稲生:「はい。ありがとうございます」

 安倍は別のゲストの所へ向かった。
 稲生はそれを見送った後で、イリーナの所に戻る。

 稲生:「先生、こんなんでいかがでしょうか?」
 イリーナ:「おお〜、スッパスィーバ!」
 稲生:「じゃ、今度は僕達が食べる物、持って来ましょうか」
 マリア:「そうだな」

 稲生とマリアは、再び料理が並んでいるテーブルへと向かった。
コメント (7)
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