不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 9

2017-09-20 23:28:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月10日20:00.天候:曇 冥鉄汽船スターオーシャン号 船内カジノ]

 
(毎度お馴染みのカントク近影。え?んなもん要るか!早よ本編やらんかいって?失礼失礼w)

 カジノで1人、スロットに興じているオジさんを尻目に、稲生とマリアはブラックジャックに興じていた。

 稲生:「……カードを1枚ください」
 マリア:「I stay.(私はこのままで)」
 稲生:(よし!僕は20だ。ほぼ勝てる!)
 ディーラー:「このゲームに勝ったのはァ〜?……マリアンナぁ〜!スカーレットぉ〜!」

 随分とノリの良いディーラーである。

 稲生:「ええっ!?」
 マリア:( ̄▽ ̄)

 ↑21ピッタリの数字を出したマリア。

 稲生:「次は負けませんよ!」
 マリア:「望むところだ」
 稲生:「……このままで」
 マリア:「Hit.(1枚くれ)」
 稲生:「……このままで」
 マリア:「Hit.」
 稲生:「!……このままで」
 マリア:「Hit.」
 稲生:「ええっ!?……こ、このままで」
 マリア:「Stay.」
 ディーラー:「このゲームに勝ったのはァ〜?……マリアンナぁ〜!スカーレットぉ〜!」
 マリア:\(^_^)/
 稲生:「またもや21ピッタリ!?」
 ディーラー:「どうする、稲生勇太ぁ〜?もう後が無いぜー?」
 稲生:「も、もう1回!もう1回お願いします!」
 マリア:「引換券まだあるから、それで引き換えて来たら?」
 稲生:「いえっ!もう1回!次は絶対勝ちますから!」
 マリア:「分かった分かった。じゃあ、ユウタが私に勝ったら何か褒美をやろう」
 稲生:「本当ですか!?」
 マリア:「何がいいかな……」
 エレーナ:「私に勝ったら、私のショーツあげよっか?」
 稲生:「エレーナ!?……それに、リリィも!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……稲生先輩、マリアンナ先輩……こんばんは……」
 エレーナ:「私も飛び入りいいっスか!?」

 すると黒人でサングラスを掛けたディーラー、白い歯をキラッと光らせた。
 着ている服は、よくある白ワイシャツに黒いベストに黒い蝶ネクタイなのだが。

 ディーラー:「おおっと!ここで飛び入りが入ったぜ!マリアンナ・B・スカーレットとはまた違った趣の美少女魔法使いだーっ!」
 エレーナ:「ポーリン組の第一弟子、エレーナ・M・マーロンよ」
 ディーラー:「OK、lady Elena!ミスター稲生の隣に座ってくんな!……Oops!忘れてたぜ!あいにくとこのゲームは大人専用だ!いかに魔法使いと言えども、セーラー服の似合うmissは御遠慮願うぜ!OK!?」
 リリィ:「フ……フフフ……やっぱりダメですか……フフフフ……」
 エレーナ:「悪いね。リリィは向こうでスロットやってきな」
 リリィ:「はい……」

 リリィはエレーナからチップの束を受け取ると、それでスロットマシーンの並んでいるコーナーへ向かった。

 
(「おおっ、やった!ちょっと性格暗めだけど、隣にプリキュアみたいなJCキターッ!」と叫ぶ変態オヤジ)

 ディーラー:「それでは早速始めるぜ!……っと、その前に。飛び入りのレディ・エレーナ!ブラックジャックのルールは理解してるかな?」
 エレーナ:「もちろんよ」
 ディーラー:「OK!早速、カードを配ろう!」
 マリア:「……1枚追加だ」
 稲生:「……1枚ください」
 エレーナ:「私もだね」

 エレーナはテーブルをポンと叩いた。

 稲生:「……このままで」
 マリア:「……1枚追加だ」
 エレーナ:「……私もこのままで」

 エレーナは手の平を下に向け、水平に振った。

 ディーラー:「Oh!レディ・エレーナはブラックジャックの手振りをよく理解してるぜ!もしかして、ここ以外のカジノに出入りしてたかー?」
 エレーナ:「HAHAHA……。ちょっとラスベガスに」
 ディーラー:「おおっと!今の聞いたか!ラスベガスに出入りしていた強者が飛び入り参加だーっ!」
 稲生:「エレーナ、それって……?」
 エレーナ:「“魔の者”を倒す為の情報収集の一環でね」
 稲生:「やっぱりそうか」
 エレーナ:「それよりね、勝ったら約束は守るから」

 エレーナはそう言って、黒いスカートの裾をつまんで少し捲り上げた。
 少しだけなので、中のショーツまでは見えない。

 稲生:「いでっ!?」

 だが、稲生の左足を踏みつけるマリアがいた。

 マリア:「どうせスカートの下はオーバー穿いてるんだから、いちいち反応するなっ!」
 稲生:「す、すいません……」
 エレーナ:「マリアンナって、オーバー穿かないよね?何で何でー?」
 マリア:「うるさいな。私はそういうの好きじゃないの」
 エレーナ:「嘘だぁ?ユウタに見せる為でしょ?ユウタと会ってからじゃん?スカート短くしたの?」
 稲生:「ええっ?でも僕と会ってしばらくの間は、ロングスカートだったでしょ?」
 エレーナ:「からのー?それがスカート短くしたその心は〜!?ズバリ!」
 ディーラー:「あ、あの……そろそろ次のターン、いいかな?」
 稲生:「おっと、そうだった!僕は1枚ください」
 ディーラー:「OK!」
 エレーナ:「ちょっといいの?」
 稲生:「えっ?」
 エレーナ:「さっき、『このままで』って言ってなかった?」
 稲生:「あっ、しまったーっ!」
 エレーナ:「私が勝ったらユウタのパンツもらおう」
 稲生:「えっ、そんなんでいいの?」
 エレーナ:「因みに今、何穿いてるの?」
 稲生:「黒のボクサーだけど……ってこれ、答えていいのかな?」
 マリア:「アホか!……私もこのままで」
 エレーナ:「マリアンナも何かあげたら?今穿いてるショーツの生脱ぎにする?」
 マリア:「オマエと違って、そんなアブノーマルなことはお断わりだ。……ユウタにキスでもするよ」
 エレーナ:「キターッ!これは一気に進展のチャーンス!」
 ディーラー:「お、Oh〜!思い出作りに一役買えて、大変光栄だぜ。レディ・エレーナはどうする?」
 エレーナ:「もちろん、このままで」
 ディーラー:「OK!このゲームに勝ったのはァ〜?……Mr.Yutaaaaaaぁ〜っ Inooooooぉぉぉッ!!」
 稲生:「えっ、これ勝ちでいいの!?」

 稲生が新たに受け取ったカードはジョーカーだった。
 普通、ブラックジャックやポーカーではジョーカーは使わないはずだが……。

 ディーラー:「このカジノのカードゲームでは、ジョーカーはフツーに使用するぜい。ま、このカジノのローカルルールってヤツだな。で、このカジノではジョーカーは最強カードってわけよ。ミスター稲生のカードは既に21。それにこのジョーカーが加わるってことはだ。……他の参加者のカードを強制的にバーストさせちまうってことよ!」
 マリア:「何だってー!?」
 エレーナ:「納得できないわ!」
 ディーラー:「当カジノのローカルルールでい。さあ!チップはミスター稲生の総取りだーっ!」

 稲生の頭の中に、何故か“アカキイロスミレイロ”がループしたという。

 稲生:「めでためェでェた〜の♪祭りの夜はー♪……」
 エレーナ:「マリアンナからご褒美あげな。ん?唇かな?」
 マリア:「っ……!ほらっ、ユウタ。御褒美」

 マリアは稲生の頬にキスをした。

 稲生:「ドドンパ♪ドドンパ♪思いのままに〜♪ハイハイハイハイ!」
 エレーナ:「あちゃー。今度は初音ミク歌い出しやがった。しかもヲタ芸付き!」
 マリア:「ほら、エレーナ。今度はお前の番だ。早く脱げっ!」
 エレーナ:「ちょちょちょっ……ちょい待ち!」
 マリア:「ああっ!?女に二言は無用だぞ!とっとと脱げーっ!」

 マリアはエレーナのスカートを捲り上げた。
 だがしかし、エレーナは本当にオーバーパンツを穿いていた。

 エレーナ:「アタシがあげるのはこれじゃない!」

 と、そこへリリィが戻ってきた。

 リリィ:「エレーナ先輩。スッカラカンになったので、チップのお代わり……ん?何してるんですか……?」
 マリア:「リリィ!オマエからも言ってやれ!敗者は全てを失うってなぁ!……ヒック!」
 稲生:「ヤバい!やっぱりマリアさん、まだ酔いが醒めてなかったーっ!」
 マリア:「利子付きでブラジャーも取れーっ!私よりデカいサイズ着けやがって!いくらか私に寄越せ!」
 エレーナ:「だからムリだっての!」
 マリア:「できんのなら脱げーっ!」
 リリィ:「ふ……フフフ……。エレーナ先輩が渡す物って、これじゃないですか……?」

 リリィはエレーナのスカートのポケットから水色のショーツを取り出した。

 エレーナ:「そう!これだよ!これ!」
 稲生:「最初から持って来てるとは……」
 リリィ:「それ、横田理事が盗んで思いっきり『使用』したヤツなんで、もうエレーナ先輩が要らないって……」
 エレーナ:「わあっ!リリィ!シーッ!」
 稲生:「元々捨てるヤツだったのか……」
 マリア:「産業廃棄物ユウタに押し付けるな!このバカ!」
 エレーナ:「カッチーン……

 直後、マリアとエレーナの取っ組み合いのケンカが始まった。

 エレーナ:「誰がバカだ、コノヤロ!」
 マリア:「オマエしかいないだろ!このバカ!変態!」
 エレーナ:「テメェ、ブッ殺してやる!!」
 稲生:「わあーっ!2人ともやめてください!」
 リリィ:「フ……フフ……フフフフフフフ……」

 この後、イリーナとポーリンが呼ばれ、大恥晒しの弟子達は【お察しください】。
 ま、何事もギャンブルは程々に……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 8

2017-09-19 15:04:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月10日15:00.天候:霧 冥鉄汽船スターオーシャン号 イリーナ組の客室]

 客室の丸窓から見える黄色い霧が白い霧に変わった。

〔「こちらは船長のサンモンドです。御乗客の皆様、船の旅はお楽しみ頂けてますでしょうか?」〕

 室内にサンモンドの船内放送が流れて来る。

 イリーナ:「バーカ。黄色い霧ばっかりで景色が見えないんじゃ、クルーズもヘッタクレも無いわよ。ねえ?ユウタ君」
 稲生:「はあ……」

 イリーナはベッドに横になりながら魔道書に目を通していたが、放送が流れて来ると、スピーカーを睨みつけて悪態をついた。

〔「船は間もなく黄泉の国を抜け、コキュートスの大河へと入ります。コキュートスにおきましては霧は出ませんので、甲板に出ても大丈夫です」〕

 イリーナ:「アホ船長。コキュートスもコキュートスで危険じゃい」
 稲生:「先生……」

〔「コキュートス最大の見所は、『氷漬けになった死者を見下ろすウェルギリウスとダンテの大像』であります。興味のあるお客様は、進行方向右手にご注目ください」〕

 稲生:「先生、大師匠様が像に?」
 イリーナ:「大魔王バァル……通名はウェルギリウスと名乗っていたけど、まだうちの先生と仲が良かった時の話よ。何かもう色々やらしたこともあって、石像を向こうの住民に建てられたみたいね」
 稲生:「かなりいいことをしたんですね」
 イリーナ:「どうかな……。韓国の慰安婦像と大して変わんないんじゃない?」
 稲生:「大師匠様、何か謝罪と賠償を要求されるようなことをしたんですか!?」
 イリーナ:「とにかく、あんまり見るものじゃないよ。早く魔界の海域に戻ってもらいたいものね」

 広い意味では黄泉もコキュートスも魔界の一種であろう。
 因みに黄色い霧が薄くなると、うっすらと岸壁が見える。
 そこには何やら多くの人影が立っているのが分かるのだが……。
 明らかに地獄界に堕ちた罪人達が、そこから救い出されたいが為に手を振っているようにしか見えなかった。
 もちろん、客船は運賃を払っていない乗客は乗せない。

 稲生:「ん?あれは何でしょうか?」
 イリーナ:「なに?」

 船から岸壁に向かって銃弾が飛んでいる。
 岸壁にいた亡者達は被弾してバタバタと倒れて行く。

 稲生:「あ、あれは虐殺だ!」
 イリーナ:「一体、誰がやってるのかしら?」

[同日15:15.天候:霧 同船内左舷デッキ]

 サトー:「ヒャッハーッ!汚物は消毒だぜっ、ああっ?!」
 横田:「クフフフフ……。日本ではもちろん、王国でも一般の人はなかなか実弾を撃てませんからね。ここでは何発でも自由に撃てますよ」
 サトー:「さあさあ!亡者への虐殺は合法だぜっ、ああっ!?ここに順序良く並べ!!」
 横田:「ハンドガンは1回1000円、ショットガンとマシンガンは1万円、ライフルは2万円でよろしくお願い致します」
 サトー:「オラァ!グリーンよ!稼いだ金で、女のマ◯コへ何発も俺のショットガンぶっ放すぜ、ああっ!?」
 横田:「クフフフフフフ……。その意気ですよ、ブルー。私は美人魔女さん達の使用済み下着を……嗚呼……」
 サトー:「汚物は消毒だぜっ、ああっ!?」

 ドカッ!(後ろから蹴飛ばされるサトー)

 雲羽:「撮影の邪魔だから帰ってくれ。お前こそ汚物だ、新潟在住の在日朝鮮人が」
 サトー:「あーれー……!千年恨むぜっ、ああっ?」

 ドボーン!(派手に海に落ちる)

 多摩:「よく調べたな?在日3世って……」
 雲羽:「こっちには在特会幹部の身内がいますんで」
 多摩:「それより、次の撮影の準備だ。『マリアンナの意識が回復して稲生が駆け付けるシーン』行くぞ」
 雲羽:「はいな」
 多摩:「妙観講の方も調べたのか?」
 雲羽:「おおかた。でもあそこは在日よりの方が多い。は管轄外なんで。利権を許さない市民の会さんに任せます」
 多摩:「なるほど。……って、あんのか、そんなの」
 横田:「あ、あの……。私は在日でもでもありませんので……」
 雲羽:「分かったからお前も帰れ。お前はもう出番ナシ」
 横田:「うそーん!」

[同日15:30.天候:曇 同船内 イリーナ組の客室]

 稲生:「あれ?静かになったし、暗くなった」
 イリーナ:「さすがにアメリカ西部開拓時代のようなイベントはマズいと思って中止命令が来たのかもね」
 稲生:「西部開拓時代?」

 大陸横断鉄道の汽車からインディアン達を銃で虐殺する白人達の図のことらしい。

 イリーナ:「全く。西側の連中はヒドいことするよねぇ……」
 稲生:「はあ……」

 さり気なく自分は東側の者(ロシア)を強調したイリーナだった。
 ロシア人はアメリカ西部開拓時代、移民組の中には入っていなかったのか。

 イリーナ:「暗くなったのはコキュートスに入ったってことだね。氷の地獄だから、外に出ると寒いよ」
 稲生:「なるほど……」

 と、そこへ客室の電話が鳴った。

 稲生:「はい、もしもし?……医務室ですか?……はい。……はい。えっ?マリアさんが?分かりました!すぐに行きます」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「マリアさんの意識が戻ったそうです!」
 イリーナ:「おおっ?思ったより早かったみたいね。それじゃ早速迎えに行きましょう」

[同日15:45.天候:曇 コキュートスの海域を航行中の冥鉄汽船スターオーシャン号 医務室]

 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「ユウタ……」
 イリーナ:「全く。心配掛けさせるんじゃないわよ、このコは……」
 稲生:「体の具合は大丈夫なんですか?」
 マリア:「ああ。まだ体がダルいけど……」
 イリーナ:「そりゃ黄泉の国の瘴気を吸ったことと、それを中和する薬のせいだね。あと、向こうの世界の住人に精気も吸い取られたことも大きいかな。それだけ危険なのよ」
 船医:「あと15分で点滴も終わりますから」
 稲生:「あ、すいません」
 イリーナ:「15分か。また戻って来るのも何だから、待たせてもらいましょうか」
 看護師:「待合室でお待ちになれますので……」

[同日18:00.天候:曇 スターオーシャン号 プロムナード内レストラン]

 マリアの快気祝いも兼ねての夕食だった。
 今度は洋食レストランの方である。

 ポーリン:「薬代の請求書じゃ。これを払うまでは人間界に帰ること、まかりならん」
 イリーナ:「ちょっと姉さん!高いわよ!もう少し安くして〜ン?ほら、取って置きのウォッカ出してあげるからァ〜ん?」
 ポーリン:「アホか!これでもギリギリじゃ!てか、姉さん言うなっ!」

 厚切りのステーキをガツガツ食べるマリア。
 精気を吸い取られたということもあり、その分、空腹になっていたようだ。

 エレーナ:「食い過ぎると太るぞー?」
 マリア:「うるさい!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。わ、ワインお代わりよろしくです……」
 稲生:「本当に禁酒令短かったね、リリィ?」
 リリアンヌ:「フフフ……お、おかげさまで……」

 リリィは最近、セーラーブレザーを着ている。
 おかげで歳は15歳になったとのことだが、より中高生らしく見えるようになった。
 だからこそ、ワインを口にすることがとても不自然になった。

 稲生:(ま、いいか。やっと通常に戻ったみたいだし……)
 サンモンド:「やあ皆さん、お揃いですな。失礼しますよ」
 稲生:「船長!」
 イリーナ:「まーたロクでもないオトコが来た」
 サンモンド:「まあ、そう言いなさんな。お弟子さんの快気祝い、私も持って来たよ」

 サンモンドはワイン1本を持って来た。

 サンモンド:「マリアンナ君はワインならグイッと行けるんだって?」
 マリア:「ええ」
 エレーナ:「日本酒と焼酎なら、一杯で『ヒャッハー!』状態だけどね」
 マリア:「果実酒しか体に合わないだけだよ」
 稲生:「そういえばマリアさん、もうワイングラス2杯目なのに全然酔ってませんね?」
 エレーナ:「じゃあ、このワインに芋焼酎をブレンドしちゃおう」
 稲生:「やめなさい!」
 サンモンド:「ハハハ……。船の旅を楽しんでくれているようだね。船長冥利に尽きるよ」
 稲生:「いつアルカディアの港に帰港するんですか?」
 サンモンド:「明日の午前中になるな。明日の朝食がこの船最後の食事だと思ってくれ」
 エレーナ:「コキュートスもなかなか広いもんね」
 サンモンド:「ああ、その通りだ。だが、安心したまえ。コキュートスはダンテ一門の魔道師さんが乗っているということで、黄泉の国よりも順調に航海できそうだよ」
 イリーナ:「そうしてもらいたいものね。何しろ、こちとら船酔い以上の事態になったわけだからね」

 イリーナはウォッカを口にしながらマリアを見た。
 エレーナに言われたからなのか、マリアは食事のスピードを少し落としていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 7

2017-09-18 20:21:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月10日10:00.天候:濃霧 冥鉄汽船スターオーシャン号 船橋(ブリッジ)]

 サンモンド:「御乗客の皆様、船旅のほどは如何お過ごしでしょうか?」

 サンモンドが船内の放送設備を使って、船内放送を行っている。

 サンモンド:「船長のサンモンド・ゲートウェイズより、皆様にお知らせを申し上げます。この船は間もなく、黄泉の国の海域へと入ります。ただいまこの船を取り巻く霧は白いものとなっておりますが、これが黄色くなりましたら黄泉の国へ入ったというお知らせになります。そこで、皆様に1つご注意を申し上げます」

 サンモンドが放送している様子を後ろで見ていた稲生だった。

 サンモンド:「……航行中の窓の開放並びにデッキへ出ることは固く固くお断り申し上げます。以上、大事なことですので2度申し上げました。……」

 サンモンドの放送が終わると、稲生が口を開いた。

 稲生:「あの、船長……」
 サンモンド:「どうしたね?キミ達の部屋のチェックは早目に済ますよう、係の者に伝えておこう」
 稲生:「あ、いえ、そういうことじゃなくて……」
 サンモンド:「ん?」
 稲生:「今も霧の中を通っていますけど、このまま船ごと霧に巻かれて最悪……なんてことは無いですよね?」
 サンモンド:「はっはっはっ!どうしてそんなこと聞くんだい?」
 稲生:「黄色い霧に巻かれただけで海に引きずり込まれるなんて……」
 サンモンド:「もちろんこれが他の船だったら、船ごと海の藻屑と化すだろう。しかし何度も言ってるように、黄泉の国海域においては冥鉄汽船のみ航路を設定することができた。航路が正式に通っているのに、海に引きずり込まれることは無いよ。文字通り、大船に乗ったつもりでいたまえ」
 稲生:「はい」
 一等航海士:「船長、黄泉の国側のコールサインが入りました!」
 サンモンド:「うむ。こちら側もコールサインを読み上げろ」
 一等航海士:「はっ!」

 稲生は寒気がした。
 黄泉の国側はどういった者が管制を行っているのかは分からない。
 だが寒気がしたところを見ると、やはり人外が行っているのだろう。

 サンモンド:「向こうさんは死者の国の者だ。ゆっくりと伝達するんだ。伝わらなかったりでもしたら……」
 稲生:「怖っ!」
 サンモンド:「ああ、稲生君。キミはそろそろここを出た方がいい。もし万が一仮に黄泉の国海洋警備隊が襲撃に来るようなことがあったら、真っ先に狙われるのはここだから」
 稲生:「さらっと怖いこと言わないでください!」

[同日10:15.天候:濃霧 同船内・船首甲板(ラウンジ)]

 稲生は船橋からエレベーターで下りた。
 エレベーターはプロムナードまで下りることができるが、稲生はあえて途中の選手甲板で降りた。
 もちろん今は甲板に出ることはできない。
 エレベーターを降りて、すぐの所にあるラウンジまでしか行けないようになっている。

 稲生:「わあ……」

 ラウンジの外は黄色い霧に包まれていた。
 外は殆ど見えない。
 これでは確かに霧の中から見えない手が現れて、海の中に引きずり込まれてもおかしくないかもしれない。
 しばらく稲生が見惚れていると、スマホが鳴り出した。

 稲生:「はいはい」

 モニタを見ると、イリーナからだった。

 稲生:「はい、もしもし?」
 イリーナ:「ダー、私よ。今、どこにいるの?まさかデッキってことは無いよね?」
 稲生:「ええ、もちろん。今、船首ラウンジにいます」
 イリーナ:「そう。マリアを連れ戻して来たから、あなたも見に来る?」
 稲生:「あ、はい。……見に来る?えっと……それはどういう?」
 イリーナ:「詳しい説明を聞きたければ、医務室まで来て。医務室の場所は分かるでしょう?」
 稲生:「はい……」

 稲生は電話を切った。

 稲生:(マリアさん、何かあったのかな……?)

 稲生は医務室への行き方を頭の中で検索した。
 クイーン・アッツァーの時は、カジノで大勝した船医からコールドコインを手に入れた思い出がある。
 ここからだと……。

 稲生:「はっ!?(デッキを通って、船尾に行くルートしか知らん!バカス!)」

 稲生は一瞬、外に出ようとしたドアの取っ手に手を掛けたところでそう気づいた。

[同日10:45.天候:濃霧 黄泉の国の某海域上を航行する冥鉄汽船スターオーシャン号 医務室]

 カジノの近くに医務室があったことを思い出した稲生。
 取りあえず先ほどのエレベーターでプロムナードへ下り、そこから大時計のある大ホールを通ってカジノへ向かった。
 カジノの裏手に医務室はある。
 そこに医務室がある理由は、カジノが1番トラブルが発生しやすい場所であり、泥酔者やケンカなどによるケガ人を収容しやすいからだろう。
 もっとも、クイーン・アッツァーの時、泥酔者の幽霊は客室エリアにいたのだが(但し、カジノとは何の関係も無かった)。

 稲生:(この裏手にはVIPルームがあるんじゃなかったかな……)

 と、稲生は思った。

 稲生:「失礼します」

 入るとすぐ小さな待合室があり、その奥に診察室がある。
 その診察室で稲生は船医と会話を交わしたのだ。
 もちろんここにいる船医はアッツァーのそれと違い、れっきとした生きている(?)船医である。

 イリーナ:「ああ、ユウタ君。こっちよ」

 イリーナが手招きして入れた所は処置室。
 アッツァーの時、稲生が世話になった部屋でもある。

 イリーナ:「先生」

 処置室のベッドにマリアは寝かされていた。
 そして、意識は無い。

 稲生:「先生、これは一体どういうことですか?」
 イリーナ:「黄泉の国には瘴気が充満してるの。船の周りの霧も毒霧なんだけどね」
 稲生:「毒霧!?」
 イリーナ:「もっとも、そんなこと言ったら船がパニックになるだろうから、さしものサンモンドも正直には言わなかったみたいね」

 しかしお茶を濁したままだと、乗客の納得は得られない。
 パニックは押さえつつ、しかし乗客が納得する話術をサンモンドは発揮したようだ。
 ある程度怖い話はしておくことで、乗客には適度な緊張感を持ってもらう。
 パニックにならない程度にする為には、乗客として注意すべきことを提示し、あとはこちらに任せてくれという感じにしたというわけだ。
 乗客として注意すべきことを守ってくれたら、あとは安心・安全ですみたいな感じ。

 稲生:「ひえー……」
 イリーナ:「で、マリアなんだけど、向こうの瘴気を吸い込んでしまったから、多少のダメージは食らってるのよ。私が回復魔法は掛けたけど、それだけでは足りないから、ポーリンの薬をもらって、投与してるってわけ」

 エレーナが所属するポーリン組は、魔法薬の製造を行うジャンルである。

 稲生:「それで、いつ治るんですか?」
 イリーナ:「今日はずっと苦しい状態が続くかもしれない。意識は……それまでに戻るとは思うけど……」
 船医:「中和剤はここにも積んであります。それも投与すれば大丈夫ですよ」
 稲生:「少なくとも、命の心配はしなくていいということですね?」
 船医:「そういうことです。意識が戻るまでは、ここで安静にしておく必要がありますが……」
 稲生:「分かりました」
 船医:「意識が戻りましたら、お知らせしますよ」
 稲生:「よろしくお願いします」

 稲生はホッとした。

 稲生:「……?」

 だが、ふとイリーナの顔を見ると、いつもは目を細めている彼女が緊張の面持ちで目を開いている状態だった。
 稲生の視線に気づいたイリーナは、すぐにまた元の細目に戻ったが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「スターオーシャン号」 6

2017-09-17 21:29:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月10日07:30.天候:霧 冥鉄汽船スターオーシャン号 サロメ中尉の部屋]

 稲生は昨夜の乱痴気騒ぎのことを思い出し、急いで部屋を出ようと思った。
 何だかこのまま留まってはいけないような気がする。
 薄暗い部屋をそっと出る。
 廊下は魔界の海ならではの霧のせいで、朝でも薄暗かった。

 イリーナ:「ユウタ君!」
 稲生:「うわっ、イリーナ先生!」

 ドアを閉めるとイリーナに声を掛けられた。
 突然声を掛けられたような気がして、稲生はびっくりした。

 イリーナ:「良かった。ユウタ君は無事だったのね」
 稲生:「えっ?な、何がですか?」
 イリーナ:「マリアはこの部屋ね?」
 稲生:「は、はい。あ、でもオートロックが……」
 イリーナ:「ア・ヴァ・カ・ムゥ。……何か言った?」
 稲生:「いえ、何でも無いです」

 大魔道師に常識的なツッコミは不要なのである。
 イリーナはドアを開けた。

 イリーナ:「うわ、やっぱり……」
 稲生:「な、何だこれは!?」

 稲生が驚いたのは、そこは普通の部屋ではなかった。
 さっきまではいかにも豪華客船のツインルームといった感じの部屋だったのに、今ではまるでどこかの素掘り洞窟みたいな空間が広がっていた。

 イリーナ:「あと1秒遅かったら、ユウタ君も黄泉の国行きだったよ」
 稲生:「何ですか!?まるで僕が乗り込んだ“最終電車”みたいなノリは!」
 イリーナ:「とにかく、アタシはマリア達を助けてボコしてくる。ユウタ君は先に朝食でも食べてて」
 稲生:「ええっ?僕も行きます」
 イリーナ:「いいからいいから。この先は『ハーレム地獄』だから、男が入ったが最後、2度と出れなくなるよ」
 稲生:「人によっては天国みたいな地獄ですなぁ……」

[同日08:00.天候:霧 同船内プロムナード]

 大食堂はあくまでコンベンションホールとしての役割である為か、朝食はプロムナードにあるレストランで食べることになる。
 クイーン・アッツァー号の時はクリーチャーの棲息区域であった為、とても乗客達で賑わった面影等は残っていなかった。
 が、ここでは現役。
 同型の姉妹船ということもあり、アッツァーでの戦いを偲びながら稲生はプロムナードへと足を運んだ。

 稲生:「おおっ、日本食がある!」

 稲生は軒先に赤提灯がぶら下がっているのがよく似合う佇まいの日本料理店に足を運んだ。
 テーブル席に通される。

 稲生:「あれ?メニューに値段が書いてない。時価かな?」

 稲生が首を傾げていると、すぐ近くに座っていた別の白人乗客が片言の日本語で答えた。

 乗客:「全テノ、レストラン、タダデース!」
 稲生:「マジですか!?」
 店員A:「お客様、貸切運航となっておりまして、お客様からお代は頂きません」
 稲生:「それは凄い!……それじゃ、この焼魚定食を」
 店員:「かしこまりました」
 稲生:「こういう店があったのかぁ……」

 アッツァーではクリーチャーの跋扈によって荒廃していたプロムナード。
 クリーチャーの侵入が遅かったバックヤード部分だけが、何とか往時を保っていた。
 稲生が料理が来るまでの間、アルカディアタイムス日本語版を読んでいると……。

 店長:「ほい。じゃ、これVIPルームまで持って行ってくれ」
 店員B:「総理の部屋ですね」
 稲生:(出前かな?……ルームサービスと言った方がいいのかな)

 稲生は首を傾げた。
 もちろん安倍首相は、この船の乗客の中で最大のVIPなのだから、ルームサービスを頼むことは何ら不自然ではない。
 だが、やはり日本食が恋しくなる所はやはり日本人だと思った。

[同日09:00.天候:晴 同船・船橋(ブリッジ)]

 船員A:「あ、お客様。こちらから先は船橋区画になりますので、お客様の立ち入りは……」
 サンモンド:「待て。その人はいい」
 船員A:「キャプテン!」
 稲生:「すいません、船長」
 サンモンド:「ははは、どうしたんだい?何か用があるなら、言ってくれれば出向いたのに」
 稲生:「あ、いえ、そういうわけには……。あの……今、どこを航行しているんですか?」
 サンモンド:「まもなく黄泉の海に入るな。昼にも関わらず、まるで嵐直前のような暗さになるからそれで分かるよ。外の風に当たりたいなら、今のうちにしておくといい」
 稲生:「えっ?」
 サンモンド:「あいにくだが、黄泉の海は船内にいれば安全なんだが、デッキなどにいると海に引きずり込まれる恐れがある」
 稲生:「そんな所通っていいんですか!?」
 サンモンド:「冥鉄汽船の航路だからね。あくまでも、ここは異世界なんだよ?航行はできても、100%の安全が保障できるとは限らない。軍艦ではないのにも関わらず、あれだけの軍人が乗船しているのは、そういう安全上の警備の為なんだ」
 稲生:「あ、それで思い出したんですけど……」

 稲生はサロメ中尉の部屋のことを思い出した。
 そしてその話をサンモンドに話した。

 サンモンド:「それは本当かね!?」
 稲生:「ええ。今、イリーナ先生が行ってます」
 サンモンド:「それはマズいな。幸いにも軍人さん達の部屋だったから良かったものの、他の一般ゲストの部屋がそうなったら大変なことになる」
 稲生:「ええっ?」

 サンモンドは近くにいた船員に命じた。

 サンモンド:「キミ、大至急確認だ!直ちに全ての客室の空間を確認しろ!」
 船員B:「了解しました!」

 船員Bはサンモンドに敬礼をすると、急いで船橋を飛び出して行った。

 稲生:「船長、一体何が!?」
 サンモンド:「これから航行する黄泉の国は少し危険な所でね。本来行くべき人間だけを連れ込めば良いものを、何故かそうでない人間も連れ込もうとする。例えば今この船を取り巻く霧は普通の霧だが、それが黄色に変わると黄泉の国に入ったという証拠になる。だが、その霧に巻かれると、この船の外に引きずり出されてしまうという寸法だ」
 稲生:「そ、そんな所を……!」
 サンモンド:「もちろん、船内にいれば安全だ。何しろ、冥鉄汽船だけが航行を許されている海域だからね。但し、黄泉の国の住民達はかなりのイタズラ好きらしい。もう既に、この船を歓迎する準備をしてくれたらしいな」
 一等航海士:「それならばキャプテン、乗客達には早目に船内に入ってもらうようアナウンスしますか?」
 サンモンド:「そうだな。どうせ、まもなく件の海域に入る」
 稲生:「船長、僕はどうすれば……?」
 サンモンド:「部屋のチェックが終われば部屋の中にいてもいいし、退屈なら船内のどこにいてもいい。但し、デッキなど外に出てはならない。また、窓を開けてもダメだ。黄色い霧は、そこから侵入してくる」
 稲生:「わ、分かりました」

 よくよく考えてみたら、昨夜の乱痴気騒ぎの時、誰かが換気の為と称して窓を開けていたような気がした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「スターシャン号」 バッドエンド

2017-09-16 20:12:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月10日07:30.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号 サロメ中尉の部屋]
(②を選んだ場合)

 稲生は昨夜の乱痴気騒ぎのことを思い出し、急いで部屋を出ようと思った。
 だがその前にマリアを起こしてからだ。
 さすがにこのまま置いては行けない。

 稲生:「マリアさん、マリアさん」

 稲生はマリアを揺り動かした。

 マリア:「ん……」
 稲生:「起きてください。もう朝ですよ」
 マリア:「んあ……?」
 稲生:「大丈夫ですか?酔いは醒めてますか?早く部屋に戻りましょう。ここは僕達の部屋じゃないです」
 マリア:「頭痛い……」
 稲生:「無理も無いです。昨夜、あれだけ飲みましたから。さ、早く。中尉達が寝ている間に」

 マリアは稲生の手伝いもあって、やっと上半身を起こした。
 だが、稲生の背後に立つ強い殺気に酔いが醒めた。

 稲生:「ブボッ……!?」

 稲生の胸を長剣が貫通し、マリアの胸にも突き刺さった。

 サロメ:「死ね……!悪魔の手先め……!!」
 稲生:「あ……?ああ……あぁあ゛……!」

 稲生は自分の血しぶきがマリアの顔に吹き掛かるのと、マリアの胸から噴き出る血しぶきが自分に掛かるのを見たが、それで何か思いを抱く前に体中の力が失せて行くのを感じた。
 直後、たたでさえ薄暗い部屋が真っ暗になっていった……。
                                      完

[9月10日07:30.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号 サロメ中尉の部屋]
(③を選んだ場合)

 稲生は昨夜の乱痴気騒ぎのことを思い出し、急いで部屋を出ようと思った。
 だがドアの前に、全裸の女性が倒れていた。
 確か、カジノでマリアと共に自分を連行した魔王軍のサロメ中尉だ。
 普段は飛空艇の操縦士として活躍する凛とした軍人だろうに、酒を飲んだらアレな所は万国共通なのだろう。
 航空自衛隊でも、戦闘機の操縦士は空尉が務めると聞く。
 尚、飛空艇であって、飛空挺ではない。
 アルカディア王国では公用語に日本語もあるが、漢字変換をミスるとそれだけでキレる飛空艇団員が多数。
 何故なら魔王軍飛空艇団は、正にこっちの世界で言う空軍や航空自衛隊のような部隊であり、空挺団とは『空から地上に舞い降りる部隊』のことであるので、全く意味が違うからだ。
 昨夜、これについて1時間はくだを巻いていた記憶がある。
 アルカディアタイムス日本語版でも誤変換されたので、その新聞社に対し、人間界から取り寄せたというナパーム弾を飛空艇から投下したり、毎分6000発のバルカン砲を取り寄せて撃ち込む計画をしたとかいう話も聞かされた。
 剣と魔法のファンタジーから全くズレた軍隊であるが、最後のファンタジーを謳いながら既に何十年もシリーズが続いている某RPGに出てくるその空飛ぶ軍艦の装備を見ると……

 稲生:「あの、中尉。すいません、サロメ中尉。あの……おはようございます」
 サロメ:「んん……?」
 稲生:「あの、朝ですよ」
 サロメ:「起床ラッパ」
 稲生:「えっ?」
 サロメ:「起床ラッパが無いと起きれない……」
 稲生:「え?でも、ここ宿営地じゃないですし……」
 サロメ:「まあいいや。起きよう」
 稲生:「あ、あの……服、持って来ましょうか?」
 サロメ:「おおっ?あのコに脱がされたまんまじゃん」
 稲生:「全く。マリアさん、一体どこに服を……」
 サロメ:「その前に下着からだ。イノー、あそこから持ってきて」
 稲生:「どこですか?」
 サロメ:「そこのベッドに転がってるヤツ……」
 稲生:「マリアさん?」
 サロメ:「そう。あいつ、自分も脱いだくせに、私達はスッポンポンにして、しかも人の下着はいてやがる」
 稲生:「ええっ!?」
 サロメ:「稲生。あいつから下着脱がして持ってきて」
 稲生:「僕が!?」
 サロメ:「あんたは身内だろ?責任取って持ってこい」
 稲生:「ええ〜」
 サロメ:「5秒以内に行動開始しないと頭撃ち抜く」

 サロメは稲生に床に落ちていたハンドガンを向けた。

 稲生:「ここは本当に剣と魔法のファンタジーの世界なのか!?」
 サロメ:「5、4、3……」
 稲生:「わ、分かった!行く行く!」

 稲生は急いでマリアの捲れたスカートの前に立った。

 稲生:「マリアさん、ごめんなさい」

 稲生はマリアのショーツの両脇に手を掛けた。
 が!

 稲生:「ん゛っ……!?」

 突然、稲生の胸から剣が突き出てきた。
 違う。
 背中から突き刺されて貫通し、胸から剣が出て来たのだ。

 稲生:「な゛っ……!?」

 稲生は振り向く力も無くなっていた。

 サロメ:「死ね。王国軍人を辱めた変態め……!」
 稲生:「ち、ちが……!」

 サロメは稲生から剣を引き抜くと、血糊を振り払い、今度はマリアの体に剣を突き立てる所を見た。
 だが、成す術も無く目の前が暗くなっていった……。
                                 完

[9月10日07:30.天候:晴 冥鉄汽船スターオーシャン号 サロメ中尉の部屋]
(④も同じバッドエンドです。サロメの台詞が部下の軍人と置き換わるだけです。⑤を選んだ場合)

 稲生は部屋の照明を点灯した。

 稲生:「皆さん、起きてください!朝ですよ!」

 稲生は二日酔いで頭が痛むのを堪えながら、大きな声を出した。

 サロメ:「う……」
 女性兵士A:「ん……」
 女性兵士B:「ぅあ……!」

 最初に起き出したのは女性軍人達。

 サロメ:「うるさいな……。って!わああっ!?」

 女性軍人達は自分達が何故か全裸になっているのに驚いた。

 稲生:「早く服を着て……」
 サロメ:「何しやがるんだ、変態!」
 女性兵士A:「中尉!こいつ殺しましょう!」
 女性兵士B:「中尉!ご指示を!」
 サロメ:「王国軍人を侮辱した罪、重いぞ!」
 稲生:「わああっ!?何でそうなるんだ!?」

 その後、稲生を見た者は誰もいない。
 展望台の上に括りつけられていた横田の証言によると、客室の窓から海に放り込まれたとのことだ。
                                                    完

 はい、というわけで①以外全部バッドエンドでした。
 難しい選択で、すいません。
 ま、要は女達の乱痴気騒ぎに巻き込まれたら、速やかに逃げましょうということ。
 後で、「この人、痴漢です!」とか言われたくないでしょう?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする