[9月9日19:00.天候:晴 冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)スターオーシャン号・大食堂内]
因みに冥界鉄道公社には自動車事業部もあって、そちらは『冥鉄バス』と呼ばれる。
幽霊バスのことなわけだから、稲生達が乗り込んだ船は幽霊船ということになる。
しかし……。
稲生:「全然幽霊という感じがしないなぁ……」
稲生達はパーティー会場となっている大食堂へ足を運んだ。
稲生:「何だか、今でも思い出しますよ。この食堂の片隅にあるあの洗面台で、聖水を補給したこととか……」
イリーナ:「お〜、そうだったの。じゃ、アタシもマネしようかねぇ」
イリーナはローブの中から聖水を入れる瓶を取り出すと、それに水を入れた。
稲生:「僕はスーツだからいいですが、先生も……イブニングドレスとかに着替えなくていいんですか?」
イリーナ:「なーにを言ってるのー?アタシ達、魔道師にとってはこれが礼装なんだよ」
稲生:「そうなんですか?」
マリアも白のブラウスの上はクリーム色のベストを着ていたのだが、今は緑色のブレザーを着ている。
アデランス:「皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今より、アルカディア王国首相にして、魔界共和党党首であります安倍春明総裁のバースデー・パーティーを開催致します。このパーティーの開催に当たりましては、冥界鉄道公社の全面協力の元、会場と致しまして、公社の誇るクルーズ船“スターオーシャン”号の貸切運行を持ちまして……」
稲生:「げっ!あ、あれはケンショー・ブラック!?」
マリア:「何故に!?」
イリーナ:「党員の欠員が出たからって、横田理事が総務として縁故採用させたそうよ」
稲生:「しまった。横田理事もまだ現役だったんだ。……ま、マリアさん、落ち着いて。ね?」
マリア:「ああ。大丈夫だ……!」
だが、マリアの体からは明らかに憤怒のオーラが出ていた。
アデランス:「それではまず始めに、魔界共和党理事の横田より御挨拶をさせて頂きます」
横田:「先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。……」
稲生:「出た!お決まりのセリフ」
イリーナ:「ほーんと、軸はブレない人だよねぇ……」
マリア:「…………」
横田の挨拶に、立ち寝する参加者が発生する。
因みにこのパーティーは立食タイプである。
アデランス:「……はっ!こ、これは失礼致しました。えー、横田の挨拶でした。それでは気を取り直しまして、党首・安倍春明総裁に……」
イリーナ:「うんうん、眠くなるよねぇ……」
拍手と共に出て来たのは、燕尾服を着た安倍春明。
安倍:「えー、皆さん。この度は御多忙の中、私の誕生日パーティーにご参加頂きまして、真にありがとうございます。……」
安倍が壇上で挨拶を行う。
さすがは一国の総理大臣として、先ほどの横田と違って眠くなるような演説ではない。
アデランス:「ありがとうございました。あ、申し遅れました。私、本日の司会進行を務めさせて頂きます、魔界共和党総務の八島と申します。人間界における業務は、横田とほぼ同じです。それでは皆様、乾杯の後は存分にお楽しみください」
乾杯の後でパーティーが始まった。
立食形式ではあるものの、ちゃんと椅子やテーブルもある。
イリーナ:「あたしゃここでいいよ。ユウタ君、料理持って来て」
稲生:「分かりました。何がいいですか?」
イリーナ:「うーん……。あそこに乗っかっている料理、端から端まで全部」
稲生:「はあ!?」
マリア:(このオバハンは……)
稲生とマリアで師匠の料理を皿に盛っていると、安倍がやってきた。
安倍:「やあ、こんばんは」
稲生:「総理!」
マリア:「Good evening.」
安倍:「久しぶりだね。この前会ったのは……ああ!“魔の者”に冥鉄汽船が乗っ取られた時だったかな?」
稲生:「すいません、あの時は……」
安倍:「いや、いいんだよ。さすがに後でレナにはブッ飛ばされたけどね」
稲生:「レナ?……ああ」
魔王軍のレナフィール・ハリシャルマン大佐。
安倍率いる勇者一行で、女戦士だった者である。
現在は人間の身でありながら、魔王軍の司令官を務めている。
安倍は大将や元帥の階級を持って迎えようとしたのだが、佐官以下でないと前線に出られないからという理由で断った。
士官学校卒業者と同じ少尉からスタートしたのだが、瞬く間に昇進し、今では大佐である。
安倍:「女性らしく、イブニングドレスでも着てくれれば良かったのに……」
レナ大佐:「これが軍人の礼装ですから」
レナは礼装用の軍服を着ていた。
スラリと高い背丈に引き締まった肉体は、とても稲生よりずっと年上の女性には見えない。
何故か一瞬……。
稲生:(“バイオハザード”のジル・バレンタインに見えた)
レナ:「護衛の部下も乗船させてますので」
その護衛の部下達の多くが女性兵士だった。
軍幹部が女性だと、必然的にその部下も女性が多くなるのか。
安倍:「俺とは冒険者仲間だったんだから、別に敬語はいいのに……」
レナ:「あなたは『勇者様』だったわけですし、ここでは首相ですよ」
安倍:「いやはや、戦士だった頃はもっとざっくらばらんな女性だったのに、軍人になってからはこれだよ」
安倍は苦笑した。
稲生:「その勇者様が首相ですから、物凄い出世ですね。政治のやり方は、どうやって勉強を?」
安倍:「未だに『遠い親戚の伯父さん』から学んでるよ。だから、日本の政治と似てる所があるかもしれないけど許してね」
稲生:「その『遠い親戚の伯父さん』とは、こちらでも向こうでも国家機密でしょうから聞かないでおきます」
安倍:「うん、そうしてくれると助かる。……おっと!じゃ、わたしはこれで。楽しんで行ってね」
稲生:「はい。ありがとうございます」
安倍は別のゲストの所へ向かった。
稲生はそれを見送った後で、イリーナの所に戻る。
稲生:「先生、こんなんでいかがでしょうか?」
イリーナ:「おお〜、スッパスィーバ!」
稲生:「じゃ、今度は僕達が食べる物、持って来ましょうか」
マリア:「そうだな」
稲生とマリアは、再び料理が並んでいるテーブルへと向かった。
因みに冥界鉄道公社には自動車事業部もあって、そちらは『冥鉄バス』と呼ばれる。
幽霊バスのことなわけだから、稲生達が乗り込んだ船は幽霊船ということになる。
しかし……。
稲生:「全然幽霊という感じがしないなぁ……」
稲生達はパーティー会場となっている大食堂へ足を運んだ。
稲生:「何だか、今でも思い出しますよ。この食堂の片隅にあるあの洗面台で、聖水を補給したこととか……」
イリーナ:「お〜、そうだったの。じゃ、アタシもマネしようかねぇ」
イリーナはローブの中から聖水を入れる瓶を取り出すと、それに水を入れた。
稲生:「僕はスーツだからいいですが、先生も……イブニングドレスとかに着替えなくていいんですか?」
イリーナ:「なーにを言ってるのー?アタシ達、魔道師にとってはこれが礼装なんだよ」
稲生:「そうなんですか?」
マリアも白のブラウスの上はクリーム色のベストを着ていたのだが、今は緑色のブレザーを着ている。
アデランス:「皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今より、アルカディア王国首相にして、魔界共和党党首であります安倍春明総裁のバースデー・パーティーを開催致します。このパーティーの開催に当たりましては、冥界鉄道公社の全面協力の元、会場と致しまして、公社の誇るクルーズ船“スターオーシャン”号の貸切運行を持ちまして……」
稲生:「げっ!あ、あれはケンショー・ブラック!?」
マリア:「何故に!?」
イリーナ:「党員の欠員が出たからって、横田理事が総務として縁故採用させたそうよ」
稲生:「しまった。横田理事もまだ現役だったんだ。……ま、マリアさん、落ち着いて。ね?」
マリア:「ああ。大丈夫だ……!」
だが、マリアの体からは明らかに憤怒のオーラが出ていた。
アデランス:「それではまず始めに、魔界共和党理事の横田より御挨拶をさせて頂きます」
横田:「先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。……」
稲生:「出た!お決まりのセリフ」
イリーナ:「ほーんと、軸はブレない人だよねぇ……」
マリア:「…………」
横田の挨拶に、立ち寝する参加者が発生する。
因みにこのパーティーは立食タイプである。
アデランス:「……はっ!こ、これは失礼致しました。えー、横田の挨拶でした。それでは気を取り直しまして、党首・安倍春明総裁に……」
イリーナ:「うんうん、眠くなるよねぇ……」
拍手と共に出て来たのは、燕尾服を着た安倍春明。
安倍:「えー、皆さん。この度は御多忙の中、私の誕生日パーティーにご参加頂きまして、真にありがとうございます。……」
安倍が壇上で挨拶を行う。
さすがは一国の総理大臣として、先ほどの横田と違って眠くなるような演説ではない。
アデランス:「ありがとうございました。あ、申し遅れました。私、本日の司会進行を務めさせて頂きます、魔界共和党総務の八島と申します。人間界における業務は、横田とほぼ同じです。それでは皆様、乾杯の後は存分にお楽しみください」
乾杯の後でパーティーが始まった。
立食形式ではあるものの、ちゃんと椅子やテーブルもある。
イリーナ:「あたしゃここでいいよ。ユウタ君、料理持って来て」
稲生:「分かりました。何がいいですか?」
イリーナ:「うーん……。あそこに乗っかっている料理、端から端まで全部」
稲生:「はあ!?」
マリア:(このオバハンは……)
稲生とマリアで師匠の料理を皿に盛っていると、安倍がやってきた。
安倍:「やあ、こんばんは」
稲生:「総理!」
マリア:「Good evening.」
安倍:「久しぶりだね。この前会ったのは……ああ!“魔の者”に冥鉄汽船が乗っ取られた時だったかな?」
稲生:「すいません、あの時は……」
安倍:「いや、いいんだよ。さすがに後でレナにはブッ飛ばされたけどね」
稲生:「レナ?……ああ」
魔王軍のレナフィール・ハリシャルマン大佐。
安倍率いる勇者一行で、女戦士だった者である。
現在は人間の身でありながら、魔王軍の司令官を務めている。
安倍は大将や元帥の階級を持って迎えようとしたのだが、佐官以下でないと前線に出られないからという理由で断った。
士官学校卒業者と同じ少尉からスタートしたのだが、瞬く間に昇進し、今では大佐である。
安倍:「女性らしく、イブニングドレスでも着てくれれば良かったのに……」
レナ大佐:「これが軍人の礼装ですから」
レナは礼装用の軍服を着ていた。
スラリと高い背丈に引き締まった肉体は、とても稲生よりずっと年上の女性には見えない。
何故か一瞬……。
稲生:(“バイオハザード”のジル・バレンタインに見えた)
レナ:「護衛の部下も乗船させてますので」
その護衛の部下達の多くが女性兵士だった。
軍幹部が女性だと、必然的にその部下も女性が多くなるのか。
安倍:「俺とは冒険者仲間だったんだから、別に敬語はいいのに……」
レナ:「あなたは『勇者様』だったわけですし、ここでは首相ですよ」
安倍:「いやはや、戦士だった頃はもっとざっくらばらんな女性だったのに、軍人になってからはこれだよ」
安倍は苦笑した。
稲生:「その勇者様が首相ですから、物凄い出世ですね。政治のやり方は、どうやって勉強を?」
安倍:「未だに『遠い親戚の伯父さん』から学んでるよ。だから、日本の政治と似てる所があるかもしれないけど許してね」
稲生:「その『遠い親戚の伯父さん』とは、こちらでも向こうでも国家機密でしょうから聞かないでおきます」
安倍:「うん、そうしてくれると助かる。……おっと!じゃ、わたしはこれで。楽しんで行ってね」
稲生:「はい。ありがとうございます」
安倍は別のゲストの所へ向かった。
稲生はそれを見送った後で、イリーナの所に戻る。
稲生:「先生、こんなんでいかがでしょうか?」
イリーナ:「おお〜、スッパスィーバ!」
稲生:「じゃ、今度は僕達が食べる物、持って来ましょうか」
マリア:「そうだな」
稲生とマリアは、再び料理が並んでいるテーブルへと向かった。