[9月9日12:10.天候:晴 JR白馬駅]
駅前広場に1台の車が到着する。
稲生:「ありがとうございました」
黒塗りの高級車だが、どこのメーカーかは分からない。
魔法で作り出したイリーナ専用車と運転手だからだ。
助手席から降りた稲生が、トランクから荷物を降ろす。
マリア:「ほら、師匠。着きましたよ。降りてください」
イリーナ:「うんにゃ……」
車から降りた3人は、駅の中へと入って行った。
イリーナ:「今回は電車なのね、稲生君?」
稲生:「そうです。この前、上京した時はバスだったので」
イリーナ:「なるほどね」
待合室には木製のベンチが並んでいる。
無人駅ではないのだが、高速バスが発着する八方バスターミナルと比べると活気が少ないような……?
稲生:(知らないうちに少し本数減った?こんなものだったかな???)
稲生は改札口の上に掲げられている時刻表を見て首を傾げた。
稲生:「そうだ。お昼時なので、そこで何か買って行きましょう」
稲生はキヨスクを指さした。
イリーナ:「ほい」
何のためらいも無くアメリカンエクスプレスを出すイリーナに、
稲生:「いや、多分使えるかどうか怪しいです」
と、稲生は言いにくそうに答えた。
[同日12:25.天候:晴 JR白馬駅→大糸線5328M電車内]
マリア:「スナックやスイーツくらいとか無いとは……」
稲生:「おにぎりやサンドイッチもあったじゃないですか」
イリーナ:「そうそう。どうせ夕食は豪華なものになるんだから、ランチは軽めでいいさね」
ホームで電車を待っていると2両編成の電車がやってきた。
行き先表示はLEDで松本と表示されているが、『ワンマン』という表示がしてある。
〔「1番線に到着の電車は12時26分発、普通列車の松本行きです」〕
E127系電車である。
東北地方で運行されている交流電車701系の直流版といった感じ。
但し、新潟地区のそれがロングシートのみに対し、こちらはボックスシートもある。
稲生達はそのボックスシートに座った。
稲生:「あ、先生。そっちは逆向きですよ」
イリーナ:「いいのいいの。アタシゃ寝てるから」
イリーナはそう言ってフードを被り、窓枠に寄り掛かるようにして目を閉じた。
その直後、電車がVVVFインバータの音を立てて走り出した。
マリア:「師匠はブレないなぁ……」
イリーナ:「そうですね」
〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は大糸線上り、各駅停車の松本行き、ワンマンカーです。これから先、飯森、神城、南神城、簗場の順に、各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、飯森です〕
初秋の日差しが車内に降り注ぐ。
さて、稲生達は何をしに山から下りたのだろう。
それは先週、エレーナが届けた荷物の中にあった。
その中に入っていたのは、魔王城からの招待状。
魔界王国アルカディアの宰相(首相)、安倍春明の誕生日を祝う晩餐会が行われるという。
安倍は魔界では人間代表として政権を担う者として、人間の国民からは期待されている。
但し、魔族からは本来、魔王討伐の『勇者』として魔界にやってきた経緯を知って“怨嫉”する者もいるという。
それは主に西洋妖怪。
威吹のような日本妖怪は、そもそもRPGにおける勇者の概念が無い為、そこまでの怨嫉はしない。
但し、鬼族は該当しない。
和風RPGとも取れる桃太郎の話を深く知る者は、魔王討伐の勇者一行だった安倍達を見て桃太郎と重なるらしいのだ。
因みに童謡“桃太郎”の歌詞を全て知ると、桃太郎は鬼族に対して一切容赦しなかったことが分かる。
稲生:「エレーナのホテルから、魔界へのルートを使わせてくれるということですが……」
マリア:「結局、ホテルに荷物を置くことで料金を取るんじゃないか。エレーナの商魂に上手く引っ掛かったよ」
稲生:「ですね」
[同日14:20.天候:曇 JR松本駅]
白馬から約2時間。
〔まもなく終点、松本です。松本では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。松本から篠ノ井線、中央本線とアルピコ交通上高地線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
だいぶ車内が賑わっていた。
さすがに長野県でも都市部に近づくと、車内の乗客数は増える。
稲生:「そろそろ先生を起こしませんと」
マリア:「そうだな。師匠、師匠。そろそろ起きてください」
イリーナ:「お……」
稲生:「乗り換えが1回ありますからね。まあ、時間的には余裕ですが……」
マリア:「そうか。ちょっとトイレに行っておきたい」
稲生:「大丈夫ですよ」
電車はインバータの音を響かせて減速した。
運転席からATSの警告音が聞こえて来るが、これから電車が入線するホームは切り欠きホームの6番線なので、速度照査が行われているのだろう。
〔まつもと〜、松本〜。……〕
ドアが開くと、ぞろぞろと乗客が降り出した。
稲生:「えーと……特急はどこのホームかな……?」
コンコースに上がって、途中にある発車票を見る。
稲生:「2番線か。14時49分発だから、まだ20分以上ありますね」
コンコースの突当りにトイレがあった。
マリア:「ちょっと行ってきていい?」
稲生:「どうぞどうぞ。……てか、僕も行ってきます」
イリーナ:「アタシも付き合うよ。トイレの前で待ち合わせよう」
稲生:「はい」
と言っても、やはり稲生の方が戻って来るのが早い。
〔まもなく0番線に、列車が到着致します。黄色い線まで、お下がりください。……〕
トイレの前の階段は0番線と1番線のホームに続く階段だ。
そこから自動放送が聞こえて来るが、その放送の声優は沢田敏子氏である。
この沢田氏、かつてATOS導入前のJR上野駅、中距離電車と長距離ホームの自動放送も担当していた。
それらの列車で上野駅に乗り付けた際、中年女性の声で、「うえのぉ〜、上野ぉ〜」という放送を聞いて未だ覚えている人もいるだろう。
あの声だ。
その為、「上野おばさん」という愛称が付いているのだとか。
因みにこの人、かつては東武特急“スペーシア”の自動放送も担当していた。
日本語放送はとても落ち着いたもので好評だったのだが、JRでは外国人声優にやらせるであろう英語放送まで沢田氏に担当させた。
その英語放送の発音やイントネーションは、【お察しください】。
あと、鉄道放送だけではない。
ラジオライブラリー“新・人間革命”の朗読まで担当している。
稲生:(あの“新・人間革命”聴いて思ったんだけどさぁ……。昔の創価学会って、昔の顕正会とよく似た団体だったんだね。古き良き時代って感じ)
稲生は自分が顕正会に入っていた時のことを思い出した。
稲生:(自分が入った時はどんな感じだったんだろうか?……もう、忘れたな……)
しばらくして魔女2人が戻って来た。
イリーナ:「あー、コホン。ユウタ君、まだもう少し時間ある?」
稲生:「は?はあ……少しくらいでしたら……」
イリーナ:「よし。マリア、あそこのコンビニに行こう」
稲生:「何か忘れ物ですか?」
イリーナ:「うん。マリアには必要なもので、稲生君には必要無いもの。なーんだ?」
マリア:「師匠!」
稲生:「……いくつか思い当たりますが、わざとそこは化粧品とでも答えておきます」
イリーナ:「はい、ブブーッ!ユウタ君は買う所、見てあげない方がいいよ」
稲生:「ええ、僕は待ってます。(生理用品だったか。……顕正会時代は、まさかロシア人とイギリス人の魔法使いと一緒に暮らすなんて思いもしなかったな。変わったなぁ、僕の人生……)」
駅前広場に1台の車が到着する。
稲生:「ありがとうございました」
黒塗りの高級車だが、どこのメーカーかは分からない。
魔法で作り出したイリーナ専用車と運転手だからだ。
助手席から降りた稲生が、トランクから荷物を降ろす。
マリア:「ほら、師匠。着きましたよ。降りてください」
イリーナ:「うんにゃ……」
車から降りた3人は、駅の中へと入って行った。
イリーナ:「今回は電車なのね、稲生君?」
稲生:「そうです。この前、上京した時はバスだったので」
イリーナ:「なるほどね」
待合室には木製のベンチが並んでいる。
無人駅ではないのだが、高速バスが発着する八方バスターミナルと比べると活気が少ないような……?
稲生:(知らないうちに少し本数減った?こんなものだったかな???)
稲生は改札口の上に掲げられている時刻表を見て首を傾げた。
稲生:「そうだ。お昼時なので、そこで何か買って行きましょう」
稲生はキヨスクを指さした。
イリーナ:「ほい」
何のためらいも無くアメリカンエクスプレスを出すイリーナに、
稲生:「いや、多分使えるかどうか怪しいです」
と、稲生は言いにくそうに答えた。
[同日12:25.天候:晴 JR白馬駅→大糸線5328M電車内]
マリア:「スナックやスイーツくらいとか無いとは……」
稲生:「おにぎりやサンドイッチもあったじゃないですか」
イリーナ:「そうそう。どうせ夕食は豪華なものになるんだから、ランチは軽めでいいさね」
ホームで電車を待っていると2両編成の電車がやってきた。
行き先表示はLEDで松本と表示されているが、『ワンマン』という表示がしてある。
〔「1番線に到着の電車は12時26分発、普通列車の松本行きです」〕
E127系電車である。
東北地方で運行されている交流電車701系の直流版といった感じ。
但し、新潟地区のそれがロングシートのみに対し、こちらはボックスシートもある。
稲生達はそのボックスシートに座った。
稲生:「あ、先生。そっちは逆向きですよ」
イリーナ:「いいのいいの。アタシゃ寝てるから」
イリーナはそう言ってフードを被り、窓枠に寄り掛かるようにして目を閉じた。
その直後、電車がVVVFインバータの音を立てて走り出した。
マリア:「師匠はブレないなぁ……」
イリーナ:「そうですね」
〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は大糸線上り、各駅停車の松本行き、ワンマンカーです。これから先、飯森、神城、南神城、簗場の順に、各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、飯森です〕
初秋の日差しが車内に降り注ぐ。
さて、稲生達は何をしに山から下りたのだろう。
それは先週、エレーナが届けた荷物の中にあった。
その中に入っていたのは、魔王城からの招待状。
魔界王国アルカディアの宰相(首相)、安倍春明の誕生日を祝う晩餐会が行われるという。
安倍は魔界では人間代表として政権を担う者として、人間の国民からは期待されている。
但し、魔族からは本来、魔王討伐の『勇者』として魔界にやってきた経緯を知って“怨嫉”する者もいるという。
それは主に西洋妖怪。
威吹のような日本妖怪は、そもそもRPGにおける勇者の概念が無い為、そこまでの怨嫉はしない。
但し、鬼族は該当しない。
和風RPGとも取れる桃太郎の話を深く知る者は、魔王討伐の勇者一行だった安倍達を見て桃太郎と重なるらしいのだ。
因みに童謡“桃太郎”の歌詞を全て知ると、桃太郎は鬼族に対して一切容赦しなかったことが分かる。
稲生:「エレーナのホテルから、魔界へのルートを使わせてくれるということですが……」
マリア:「結局、ホテルに荷物を置くことで料金を取るんじゃないか。エレーナの商魂に上手く引っ掛かったよ」
稲生:「ですね」
[同日14:20.天候:曇 JR松本駅]
白馬から約2時間。
〔まもなく終点、松本です。松本では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。松本から篠ノ井線、中央本線とアルピコ交通上高地線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
だいぶ車内が賑わっていた。
さすがに長野県でも都市部に近づくと、車内の乗客数は増える。
稲生:「そろそろ先生を起こしませんと」
マリア:「そうだな。師匠、師匠。そろそろ起きてください」
イリーナ:「お……」
稲生:「乗り換えが1回ありますからね。まあ、時間的には余裕ですが……」
マリア:「そうか。ちょっとトイレに行っておきたい」
稲生:「大丈夫ですよ」
電車はインバータの音を響かせて減速した。
運転席からATSの警告音が聞こえて来るが、これから電車が入線するホームは切り欠きホームの6番線なので、速度照査が行われているのだろう。
〔まつもと〜、松本〜。……〕
ドアが開くと、ぞろぞろと乗客が降り出した。
稲生:「えーと……特急はどこのホームかな……?」
コンコースに上がって、途中にある発車票を見る。
稲生:「2番線か。14時49分発だから、まだ20分以上ありますね」
コンコースの突当りにトイレがあった。
マリア:「ちょっと行ってきていい?」
稲生:「どうぞどうぞ。……てか、僕も行ってきます」
イリーナ:「アタシも付き合うよ。トイレの前で待ち合わせよう」
稲生:「はい」
と言っても、やはり稲生の方が戻って来るのが早い。
〔まもなく0番線に、列車が到着致します。黄色い線まで、お下がりください。……〕
トイレの前の階段は0番線と1番線のホームに続く階段だ。
そこから自動放送が聞こえて来るが、その放送の声優は沢田敏子氏である。
この沢田氏、かつてATOS導入前のJR上野駅、中距離電車と長距離ホームの自動放送も担当していた。
それらの列車で上野駅に乗り付けた際、中年女性の声で、「うえのぉ〜、上野ぉ〜」という放送を聞いて未だ覚えている人もいるだろう。
あの声だ。
その為、「上野おばさん」という愛称が付いているのだとか。
因みにこの人、かつては東武特急“スペーシア”の自動放送も担当していた。
日本語放送はとても落ち着いたもので好評だったのだが、JRでは外国人声優にやらせるであろう英語放送まで沢田氏に担当させた。
その英語放送の発音やイントネーションは、【お察しください】。
あと、鉄道放送だけではない。
ラジオライブラリー“新・人間革命”の朗読まで担当している。
稲生:(あの“新・人間革命”聴いて思ったんだけどさぁ……。昔の創価学会って、昔の顕正会とよく似た団体だったんだね。古き良き時代って感じ)
稲生は自分が顕正会に入っていた時のことを思い出した。
稲生:(自分が入った時はどんな感じだったんだろうか?……もう、忘れたな……)
しばらくして魔女2人が戻って来た。
イリーナ:「あー、コホン。ユウタ君、まだもう少し時間ある?」
稲生:「は?はあ……少しくらいでしたら……」
イリーナ:「よし。マリア、あそこのコンビニに行こう」
稲生:「何か忘れ物ですか?」
イリーナ:「うん。マリアには必要なもので、稲生君には必要無いもの。なーんだ?」
マリア:「師匠!」
稲生:「……いくつか思い当たりますが、わざとそこは化粧品とでも答えておきます」
イリーナ:「はい、ブブーッ!ユウタ君は買う所、見てあげない方がいいよ」
稲生:「ええ、僕は待ってます。(生理用品だったか。……顕正会時代は、まさかロシア人とイギリス人の魔法使いと一緒に暮らすなんて思いもしなかったな。変わったなぁ、僕の人生……)」