[9月11日21:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル1Fロビー]
稲生:「マリアさん、キャサリンさんの情報、どう思いますか?」
マリア:「キャサリン師の言ってることが嘘だとは思わない。だから、正しい情報なんだと思う」
稲生:「東京中央学園の合宿所。あそこは僕も、新聞部の取材で行ったことがあります。運動部の合宿の取材で」
マリア:「その合宿所、ユウタが知っている限りではどんなものがある?」
稲生:「ボクシング部のヤツが有名です。昔は東京中央学園もボクシング部は強豪だったんですが、合宿所での事件を機に弱小部へと堕ちてしまったというものです」
運動部の強豪というからには、それはもう指導は厳しいものだと想像はつくだろう。
件のボクシング部も御多聞に漏れず、今ならパワハラと訴えられてもおかしくない指導内容が目白押しだったという。
パワハラというと、部活の顧問や監督から部員へというものが多いが、ここのボクシング部は非常にアグレッシブな所なのか、2年生や3年生、そしてOBが率先して指導を行い、1番下である1年生へのしごきが有名だった。
合宿もまた軍事教練以上のものであり、毎年脱落者が出て当たり前という状態だったという。
そんな時、事件は起きた。
1年生達が先輩達のしごきに耐えられず、ついに合宿を抜け出そうという相談をしていた。
その1年生達がある1人の同じ1年生も脱走に誘ったのだが、思いの外根性が強かったのだろう。
それを断ったという。
だが断られたら断られたで、誘った1年生達は恐怖にかられたらしい。
その断った1年生が先輩達にチクるのではないかと、ヒヤヒヤしたそうだ。
そしてついにその緊張の糸は切れ、脱走に誘った1年生達は断った1年生をリンチにした。
だが、元々ボクシングをやっていた連中だ。
当たり所が悪かったのだろう。
死んでしまったという。
稲生:「慌てた1年生達は、そのリンチした1年生を合宿所の裏手に埋めたそうです」
1年生達はいつその事件がバレるかヒヤヒヤしたらしいが、禍を転じて福と為すというのか、そのおかげで彼らは地獄の合宿を乗り切ってしまった。
稲生:「自信がついて大喜びなのも束の間、夏休みが終わった後、更に事件は起きました」
何と、殺したはずの1年生がフツーに登校してきたという。
そして、部活にもフツーに参加した。
先輩達には合宿を抜け出したことになっていたから、それで物凄くしごかれたらしいが、彼は平然と部活に勤しんでいたという。
稲生:「そして何故だか、当時の1年生達が次々と行方不明になったとのことです。リンチされた方の彼は、卒業してから行方不明になりました」
マリア:「怖い話というか、ミステリーな話だな」
稲生:「ええ。とにかく、ボクシング部にはそれで変な噂が立つようになり、いつしか人材も集まらなくなって衰退してしまったとのことです」
マリア:「ふむ……。そのリンチされたヤツが魔道師になったというのなら分かるけど、そいつは日本人だろう?だったら、とっくに私達の間でも知られているはずだから、違うな」
稲生:「東アジア魔道団とか、他の門流に行っている可能性は?」
マリア:「あるけど、そんな特殊な入門の仕方をしたのなら、やっぱり噂くらいにはなっているはずだな」
稲生:「すると、キャサリンさんの話とは関連性は無いと……」
マリア:「うん」
キャサリンの話によれば、とある高校の合宿所を舞台にして生贄を求めた者がダンテ門流の中にいたという。
稲生:「あの時は怪談話の悪役を追う側でしたが、今は追われる側ですか……」
マリア:「もしキャサリン師の仰ることが本当なら、ちょっと確認する必要はありそうだ」
稲生:「どうします?イリーナ先生が戻るまで待ちますか?」
マリア:「その合宿所はどこにあるんだ?」
稲生:「栃木です。日光にあるんですよ」
マリア:「日光……」
稲生:「夏でも涼しい所だから、合宿をやるには素晴らしいだろうとのことで……」
マリア:「だけど、よくそんな遠い所に構えたな」
稲生:「山籠もりをするには、いい所らしいですよ」
マリア:「でも、関係者でないと行けないだろう?いくらユウタがOBだからって……」
稲生:「だから、OBでも行ける所で情報集めをするのがいいんじゃないかと思います」
マリア:「上野の方か」
稲生:「そうです。あそこには新聞部の部室もありますし、後輩もいますからね。逆に明日は平日だから、却ってそっちの校舎に行った方がいいってわけです」
マリア:「分かった」
と、そこへ……。
エレーナ:「難しい話は終わったぁ?」
リリアンヌ:「フヒヒ……」
稲生:「ああ。今終わったところ」
エレーナ:「オーナーがフロント業務代わってくれるってさ。一緒にゲームでもしない?」
稲生:「PSでもあるの?」
エレーナ:「『このゲームに勝ったのはァ〜?……ミスター稲生勇太ぁぁぁぁぁぁッ!!』」
稲生:「ブラックジャックか」
エレーナ:「そう」
稲生:「何だか、しばらくブラックジャックが流行りそうだな」
エレーナ:「そんな気がするね」
思いの外盛り上がり、部屋に戻る頃には日付が変わろうとしていたという。
[9月12日08:00.天候:晴 ワンスターホテル内レストラン“マジックスター”→ホテルフロント]
ワンスターホテルでは“マジックスター”に、朝食サービスを依頼している。
こちらはベタな法則のバイキングだ。
朝食は別の者が担当しているのか、そこにキャサリンの姿は無かった。
稲生:「取りあえず今日、東京中央学園に行ってみます。そこで情報を入れてみましょう。新聞部なら、何か分かるかもしれませんので」
マリア:「そうだな」
今朝になってもイリーナは戻っていないところを見ると、数日は掛かると思われた。
エレーナ:「あっ、稲生氏……とマリアンナ」
マリア:「何で私が後付けっぽくなるんだ!?」
稲生:「まあまあ。なに?」
エレーナ:「オーナーが、もし良かったらしばらく部屋が開くから連泊するかどうかってことなんだけど……」
稲生:「そうだな……。一応、そうしておくか」
エレーナ:「イリーナ先生が戻って来たら、伝えておくよ」
稲生:「それは助かる。取りあえず今日、僕は東京中央学園に行くよ」
エレーナ:「了解。マリアンナは?まさかユウタと一緒には行けないだろう?」
マリア:「まあ、それはそうだけど……」
エレーナ:「だったら、ちょっと私と付き合いなよ」
マリア:「なに?」
エレーナ:「心配無いって。前は魔女から脱却しようとするアンタを裏切り者と批判してきたヤツが敵対したけど、今度はその逆のヤツを紹介するよ」
マリア:「そんなのがいるのか……」
稲生:「マリアさん、キャサリンさんの情報、どう思いますか?」
マリア:「キャサリン師の言ってることが嘘だとは思わない。だから、正しい情報なんだと思う」
稲生:「東京中央学園の合宿所。あそこは僕も、新聞部の取材で行ったことがあります。運動部の合宿の取材で」
マリア:「その合宿所、ユウタが知っている限りではどんなものがある?」
稲生:「ボクシング部のヤツが有名です。昔は東京中央学園もボクシング部は強豪だったんですが、合宿所での事件を機に弱小部へと堕ちてしまったというものです」
運動部の強豪というからには、それはもう指導は厳しいものだと想像はつくだろう。
件のボクシング部も御多聞に漏れず、今ならパワハラと訴えられてもおかしくない指導内容が目白押しだったという。
パワハラというと、部活の顧問や監督から部員へというものが多いが、ここのボクシング部は非常にアグレッシブな所なのか、2年生や3年生、そしてOBが率先して指導を行い、1番下である1年生へのしごきが有名だった。
合宿もまた軍事教練以上のものであり、毎年脱落者が出て当たり前という状態だったという。
そんな時、事件は起きた。
1年生達が先輩達のしごきに耐えられず、ついに合宿を抜け出そうという相談をしていた。
その1年生達がある1人の同じ1年生も脱走に誘ったのだが、思いの外根性が強かったのだろう。
それを断ったという。
だが断られたら断られたで、誘った1年生達は恐怖にかられたらしい。
その断った1年生が先輩達にチクるのではないかと、ヒヤヒヤしたそうだ。
そしてついにその緊張の糸は切れ、脱走に誘った1年生達は断った1年生をリンチにした。
だが、元々ボクシングをやっていた連中だ。
当たり所が悪かったのだろう。
死んでしまったという。
稲生:「慌てた1年生達は、そのリンチした1年生を合宿所の裏手に埋めたそうです」
1年生達はいつその事件がバレるかヒヤヒヤしたらしいが、禍を転じて福と為すというのか、そのおかげで彼らは地獄の合宿を乗り切ってしまった。
稲生:「自信がついて大喜びなのも束の間、夏休みが終わった後、更に事件は起きました」
何と、殺したはずの1年生がフツーに登校してきたという。
そして、部活にもフツーに参加した。
先輩達には合宿を抜け出したことになっていたから、それで物凄くしごかれたらしいが、彼は平然と部活に勤しんでいたという。
稲生:「そして何故だか、当時の1年生達が次々と行方不明になったとのことです。リンチされた方の彼は、卒業してから行方不明になりました」
マリア:「怖い話というか、ミステリーな話だな」
稲生:「ええ。とにかく、ボクシング部にはそれで変な噂が立つようになり、いつしか人材も集まらなくなって衰退してしまったとのことです」
マリア:「ふむ……。そのリンチされたヤツが魔道師になったというのなら分かるけど、そいつは日本人だろう?だったら、とっくに私達の間でも知られているはずだから、違うな」
稲生:「東アジア魔道団とか、他の門流に行っている可能性は?」
マリア:「あるけど、そんな特殊な入門の仕方をしたのなら、やっぱり噂くらいにはなっているはずだな」
稲生:「すると、キャサリンさんの話とは関連性は無いと……」
マリア:「うん」
キャサリンの話によれば、とある高校の合宿所を舞台にして生贄を求めた者がダンテ門流の中にいたという。
稲生:「あの時は怪談話の悪役を追う側でしたが、今は追われる側ですか……」
マリア:「もしキャサリン師の仰ることが本当なら、ちょっと確認する必要はありそうだ」
稲生:「どうします?イリーナ先生が戻るまで待ちますか?」
マリア:「その合宿所はどこにあるんだ?」
稲生:「栃木です。日光にあるんですよ」
マリア:「日光……」
稲生:「夏でも涼しい所だから、合宿をやるには素晴らしいだろうとのことで……」
マリア:「だけど、よくそんな遠い所に構えたな」
稲生:「山籠もりをするには、いい所らしいですよ」
マリア:「でも、関係者でないと行けないだろう?いくらユウタがOBだからって……」
稲生:「だから、OBでも行ける所で情報集めをするのがいいんじゃないかと思います」
マリア:「上野の方か」
稲生:「そうです。あそこには新聞部の部室もありますし、後輩もいますからね。逆に明日は平日だから、却ってそっちの校舎に行った方がいいってわけです」
マリア:「分かった」
と、そこへ……。
エレーナ:「難しい話は終わったぁ?」
リリアンヌ:「フヒヒ……」
稲生:「ああ。今終わったところ」
エレーナ:「オーナーがフロント業務代わってくれるってさ。一緒にゲームでもしない?」
稲生:「PSでもあるの?」
エレーナ:「『このゲームに勝ったのはァ〜?……ミスター稲生勇太ぁぁぁぁぁぁッ!!』」
稲生:「ブラックジャックか」
エレーナ:「そう」
稲生:「何だか、しばらくブラックジャックが流行りそうだな」
エレーナ:「そんな気がするね」
思いの外盛り上がり、部屋に戻る頃には日付が変わろうとしていたという。
[9月12日08:00.天候:晴 ワンスターホテル内レストラン“マジックスター”→ホテルフロント]
ワンスターホテルでは“マジックスター”に、朝食サービスを依頼している。
こちらはベタな法則のバイキングだ。
朝食は別の者が担当しているのか、そこにキャサリンの姿は無かった。
稲生:「取りあえず今日、東京中央学園に行ってみます。そこで情報を入れてみましょう。新聞部なら、何か分かるかもしれませんので」
マリア:「そうだな」
今朝になってもイリーナは戻っていないところを見ると、数日は掛かると思われた。
エレーナ:「あっ、稲生氏……とマリアンナ」
マリア:「何で私が後付けっぽくなるんだ!?」
稲生:「まあまあ。なに?」
エレーナ:「オーナーが、もし良かったらしばらく部屋が開くから連泊するかどうかってことなんだけど……」
稲生:「そうだな……。一応、そうしておくか」
エレーナ:「イリーナ先生が戻って来たら、伝えておくよ」
稲生:「それは助かる。取りあえず今日、僕は東京中央学園に行くよ」
エレーナ:「了解。マリアンナは?まさかユウタと一緒には行けないだろう?」
マリア:「まあ、それはそうだけど……」
エレーナ:「だったら、ちょっと私と付き合いなよ」
マリア:「なに?」
エレーナ:「心配無いって。前は魔女から脱却しようとするアンタを裏切り者と批判してきたヤツが敵対したけど、今度はその逆のヤツを紹介するよ」
マリア:「そんなのがいるのか……」