報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「雪に閉ざされて」

2018-02-18 19:28:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月7日06:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 エミリーはバージョン達が製作した玉座に座り、充電しながらスリープモードになっていた。
 機能美も造形美も最大に追求されて製作されたマルチタイプは、他のAI搭載ロボットやロイド達から見ても「女王様」なのである。

 B4.0-4:「エミリー様、大変デス!」

 そこへ記念館の警備ロボットとして稼働しているバージョン4.0が飛び込んで来た。
 右腕には4という数字がペイントされている。
 現在稼働している個体で、今や珍しい初期タイプであった。
 初期タイプの殆どがテロ用途として敷島達に敵対した為、破壊されたものだが、こちらの4号機は修理不能なほどの大破は免れ、修理された上、テロ用途としてのプログラムは解除されている。

 エミリー:「ん……」

 ブゥンとエミリーのモーターが再起動する。
 スリープモードが解除されたのだ。

 エミリー:「何事だ……?」
 B4.0-4:「外ガ大変ナ事ニナッテイマス!」
 エミリー:「外が……?」

 エミリーは玉座から立ち上がると、自分の体を繋いでいた充電用の電源ケーブルを外した。
 今現在、バッテリーは正・副・予備全て100%。
 バッテリーを3個も搭載しているのはマルチタイプのみ。
 メイドロイドや執事ロイドは通常2個であり、ボーカロイドにあっては軽量化の為に1個しか搭載していない。
 尚、アルエットやデイジーなどのフルモデルチェンジタイプにあっては燃料電池駆動の為、そもそもそういったバッテリーは搭載していない。
 9号機のデイジーのみ、非常用の予備バッテリーは搭載しているという。

 エミリー:「何があった?」
 B4.0-4:「トニカク来テクダサイ!」

 エミリーは訝し気にバージョン古参機についていった。
 尚、古参機も後期タイプの100番台も見た目は変わらない。

 エミリー:「……!」

 エントランスホールに行くと、エントランスの扉と格闘しているバージョン4.0が3機ほどいた。
 記念館は大学でも1、2を争う古い建物であるが、記念館として再生されるに辺り、大改築されている。
 それでも古い洋館風の建物の良さを遺す為と称して、外観に関しては補修作業くらいしか行われなかった。
 従って、扉も重厚な木製の観音扉がそのまま使われている。
 その扉に、バージョン達が苦労していた。
 エミリーほどではないが、馬力に関しては重機械並みの物を持つバージョン達だ。
 それが開けるのに苦労しているとは……。

 B4.0-108:「オオッ、エミリー様ガ来テクダサッタ!」
 B4.0-457:「我ラガ女王!」
 B4.0-286:「エミリー様、オ助ケクダサイ!」
 エミリー:「ドアが開かないのか?」
 B4.0-4:「サヨウデス!ドウヤラ、外側カラ物凄イ力デ押サエツケラレテイル模様デス!ドウカ、エミリー様ノ御力デ何卒ヒトツ……」
 エミリー:「……!」

 エミリーは眉を潜めた状態で、ドアノブに手を掛けた。

 エミリー:「……!?」

 最初はグッと押してみるが、殆ど動かない。
 試しに力を込めてグググッと押してみるが、それでも動かない。
 このままでは、ドアの方が壊れてしまう。

 B4.0-4:「え、エミリー様デモ開ケラレナイナンテッ!?」
 B4.0-457:「モウ駄目ダーッ!閉ジ込メラレタ!詰ンダーッ!」

 エミリーは窓に駆け寄った。
 窓に関しても外側に開く観音開きタイプの他、上に開けるタイプもある。

 エミリー:「窓を開けてみる!シャッターを開けろ!」
 B4.0-4:「ハハッ!」

 古参の4号機は窓の外のシャッターを開けようとした。
 こちらもシャッターというよりは鎧戸といった感じのもので、改築前は全て手動タイプであった。
 それが今や電動タイプとなり、しかも記念館専属警備のバージョン達が信号を送って開閉できるというものに変わった。
 だが……。

 エミリー:「!?」

 モーターの音はした。
 そして、シャッターが少しだけ開いたのだが、その後はなしのつぶてであった。

 B4.0-108:「ウワッ!?シャッターも開カナイ!?」
 エミリー:「……?」

 エミリーは上下に開閉するタイプの窓を開けた。
 そして数センチだけ開いたシャッターの隙間に手を入れた。
 センサーには、マイナスの温度が測定された。

 エミリー:「雪だ……!まさか……!?」

 エミリーは階段を上がって2階に向かった。
 そして今度は2階の窓を開けてみる。
 こちらのシャッターも数センチしか開かなかったが、頑張ればもっと開きそうだった。

 エミリー:「手動に切り替えろ!」
 B4.0-4:「ハハッ!」

 モーターの音が止まった。
 エミリーは僅かに開いたシャッターの隙間にに手を入れ、無理やりこじ開けた。
 すると!

 エミリー:「!!!」

 ドドドッと雪がなだれ込んで来た。
 2階の窓の半分ほどは雪に埋まっていたのだった。

 B4.0-4:「エミリー様!?」
 エミリー:「大丈夫だ」

 エミリーは雪山の中から出ると、パッパッとそれを払った。

 エミリー:「何て事だ……!雪に記念館が埋まってる……!」
 B4.0-4:「な、何デスト!?」

 尚も柔らかい雪が開いた窓から侵入しようとしていた。
 なのでエミリーは急いでシャッターを閉めた。

 エミリー:「3階なら大丈夫だ。3階に天窓があっただろう?そこから脱出できる」
 B4.0-457:「サスガハ、エミリー様!」

 エミリー達は3階に上がった。
 天窓と言っても天井に張り付いているものではなく、屋根裏の窓といった感じ。
 それでもバージョン4.0の体が何とか通り抜けられるほどであった。

 B4.0-108:「ヨーシ、脱出〜!」

 108号機が窓から飛び出した。

 エミリー:「待て!!」

 エミリーが大声で制したが、時既に遅かった。
 バージョン4.0の自重も相当ある。
 降り積もった柔らかい雪に、重い体をズブズブと沈みこませて行った。

 B4.0-108:「た、助ケテクダサーイ!!」
 エミリー:「ロケットアーム!」

 エミリーは左手の有線ロケットアームを飛ばして、108号機を掴んだ。
 そして、それを巻き上げて館内に引き込んだ。

 エミリー:「このバカ!こんな柔らかく降り積もった雪山に、そんな体を飛び込ませたら沈み込むに決まってるだろうが!」
 B4.0-108:「も、申シ訳ゴザイマセン!」

 108号機は全力で土下座した。

 エミリー:「シンディだったら、間違い無くお前なんか放置していたぞ」
 B4.0-108:「ヒィ〜……!」
 B4.0-4:「デハ、ドウナサイマスカ?」
 エミリー:「お前達はここで待っていろ。私は敷島社長と平賀博士の様子を見て来る。この分だと、街中も雪に埋まっている恐れがある」
 B4.0-4:「か、カシコマリマシタ!」

 エミリーは自身が履いているブーツに搭載された超小型ジェットエンジンを起動させた。
 本来は、こういう孤立した場所に閉じ込められた際に使用する緊急脱出用である。
 それで飛び上がると、見た目は鉄腕アトムだ。
 だがアトムが長時間、長距離を飛行できるのに対し、こちらはせいぜいもって30分ほどで切れてしまう。
 エミリーは記念館を飛び立つと、敷島達が宿泊しているホテルに向かった。

 エミリー:(役立たずどもがっ……!)

 そして不機嫌な顔をして、留守役をさせたバージョン達を訝しく思うのだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小説の途中ですが、ここで本日の雑感をお送りします。20180217

2018-02-17 22:51:19 | 日記
 今日は夕方から新宿・歌舞伎町で飲み会をやった。
 歌舞伎町と言っても、西武新宿駅の近隣にある居酒屋というだけで、あの『歌舞伎町一番街』の中に入ったわけではない。
 西武新宿駅近辺の住所が歌舞伎町というだけだ。

 飲んだ相手は報恩坊のトチロ〜さんと講員のYさんの2人。
 いおなずんさんにも是非参加して頂きたかったところだが、Yさんによると、「なかなか捕まらない」とのこと。ハテ?
 話の内容は互いの近況を話し合うというのはベタな法則。
 それはそうと、相手はあの報恩坊の講頭さんだ。
 話がそれだけで終わるかどうかは、【お察しください】。
 再びこのブログのタイトルを“冨士参詣深夜便”に変えたくなるような内容だったよ。
 あまりにもオフレコ話が多くて、ここでは全く紹介できないくらい。

 尚、酒席であるのだが、多少は私に対する折伏も含まれていたのだろう。
 こう書くと熱血顕正会員や武闘派法華講員は、「酒を飲みながらの折伏だと!?怪しからん!」と怒るだろうが、それぞれの支部にそれぞれの折伏精神があるのだ。
 怪しからんと思うのは勝手だが、吠えるのはその組織や支部内だけにするべきである。
 そのおかげで、退転者の私に対して多少の食指を動かせたのだからそれで良いではないか。
 え?なに?誓願達成に直結しなければ意味が無いって?
 あー、ハイハイ。それはお宅の支部だけに通用する方針ね。
 他支部のやり方に、いちいち口を挟まないように。
 私が最後に所属していた法道院さんなんか、私のような不良信徒がほとんど折伏しなくたって誓願が達成できちゃうくらいだもの。
 そこの支部に、「どうせ育成はできねーんだべ?」と言えるかい?
 それと同じこと。

 酒の席だからね、私も色々と白状しちゃったよ。
 法道院を辞めた本当の理由、そしてこのブログにも書いた、「他にやりたいことを見つけたから」とは一体何だったのか?
 もちろん、洗いざらいトチロ〜さんに吐いたヨ。
 うん、スッキリした。
 後者に関してはそれが成功したらこのブログで発表したいと思っていたのだが、どうも現実味が帯びて来ると、それをする暇が無くなるような気がしてしょうがない。
 現実味を帯びて来た時点で、ここで発表しよう。
 どうしても気になるという方は、トチロ〜さんに聞いて欲しい。
 別に、隠し立てはしない。

 それにしても、いくらつい最近までグラスビールの一杯すら飲めなかった私が、今やジョッキまで行けるようになったとはいえ、本当の酒飲みの人達から見ればまだまだだということを思い知らされたね。
 トチロ〜さん、何杯くらい行ったかな?
 3杯以上は行っていたと思う。
 それでも顔色1つ変えていなかったのだから、本当飲める人は凄いよね。
 私なんかジョッキ一杯程度で、もう顔が赤くなっていることを自覚できるほどだ。
 試しに先月の社員旅行で宴会に参加した時、調子に乗って3杯分ほど飲んだことがある。
 そしたら、ものの見事に後で吐いた。
 ……うん、やっぱり私はジョッキ一杯までがせいぜいということか。冬場は!
 いや、夏場だったら行けるのではないか!?(←文証、現証共に無し。理証は【お察しください】)

 飲み会は一次会だけで、ほんの2時間程度といった所だったが、とても楽しい時間であった。
 誓願に縛られたガチガチの支部だと、こういう機会も無いのではないか。
 あのアンチ日蓮正宗の香月車楽さんをして、
「報恩坊さんだけは、ええお寺でんな〜!罰当たりどころか、きっと仏サンも喜んでまっせ!」
 と言わしめるようになったら凄いと思う。
 ……となると、F屋さんみたいな人達から見ると、眉を顰められるということになるか。
 まあいい。
 最初にも書いた通り、それぞれの支部にそれぞれの折伏精神、方針があって良いと思う。
 私は誓願達成後の打ち上げ、もしくは未達成による残念会もできないような支部よりは、前向きにパーッとやれるような所がいいと思っているよ。

 今すぐ勧誡を考えるには至らなかったが、いずれはまた『バスに揺られて大石寺参り』をしたいとは思った。
 もっとも、Yさんの話によると、大石寺登山バスの本数がまた減便になったそうだな。
 大丈夫か?公共交通機関が減らされることも、“フェイク”のネタになりそうなものだが。

 まとまりの無い文章になって申し訳無い。
 私もまだアルコールが体内に残っている状態なものでね。

 最後に、貴重なお時間を費やして頂き、トチロ〜さんとYさんに御礼申し上げます。
 今では部外者となってしまいましたが、いずれまた酒席に呼んで頂ければ幸いです。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“戦う社長の物語” 「大雪特別警報」

2018-02-15 19:32:57 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月6日20:00.天候:大雪 宮城県仙台市青葉区国分町]

 ほろ酔い加減で宴会の終わった敷島達。

 ロイ:「博士、タクシーが来ました」
 村上:「おうっ、そうかね!それじゃ、そろそろワシらはこれで帰るからな。おっととと!」
 ロイ:「博士!飲み過ぎですよ!」
 村上:「何の何の。これでまだ腹8分目じゃぞーい」

 カプセルホテルやサウナも併設されている居酒屋。
 その外に出ると……。

 敷島:「うわ、凄い雪だ!」

 既に東北一の繁華街は雪景色だった。
 村上を迎えに来たタクシーも、チェーンを巻いている。

 敷島:「大雪だから気をつけてくださいよ?」
 村上:「うむうむ。それではな」
 有泉:「失礼致します」

 村上と助手の有泉はリアシートに座り、執事ロイドのロイは助手席に座った。
 ロイは井辺に負けず劣らずの長身、大柄な体なので後ろに3人は狭いだろう。
 3人を乗せたタクシーは雪道を出発した。

 敷島:「平賀先生は……ああっ!?」

 そこで敷島、ある重大なことに気づく。
 ここには平賀の車で来たことを。

 敷島:「平賀先生、飲んじゃったじゃないですか!」
 平賀:「ウィ〜。もちろんここに泊まりますよ〜」
 敷島:「ええっ?」

 平賀、サウナとカプセルホテルのフロントの方へ行く。
 そして……。

 平賀:「敷島さんと同じ、デラックスタイプを取りましたよ〜」
 敷島:「奈津子先生に、今日は帰れないことを伝えませんと?」
 平賀:「もう既にLINEしてまーす」
 敷島:(研究者達は酔っ払うとハイになる人達が多いんだろうか……?)

 敷島達は取りあえず、カプセルに行くことにした。

 敷島:「3連休の初日で良かったですね。これが平日なら、雪による帰宅困難者が出るところです」
 平賀:「全くですね。……あ、お隣みたいなんで、よろしくです〜」
 敷島:「どうもどうも」

 通常のカプセルとは違い、上段と下段が互い違いになっており、それぞれにデスクスペースも用意されている。
 カプセルの出入口にカーテンがあるのはもちろん、デスクスペースの前にもカーテンがあった。

 平賀:「敷島さん、着替えたら風呂行きましょ、風呂」
 敷島:「そうですね」

 尚、男性専用施設である為、女性の姿はスタッフ以外に無い。
 館内着の作務衣に着替えると、それで最上階の5階へ向かった。

 敷島:「エミリーのヤツ、大丈夫かなぁ……?」
 平賀:「記念館は見た目はボロですが、あれでもかなり頑丈な造りですよ」
 敷島:「結局今日は、黒いロボットは現れませんでしたね」
 平賀:「ですねぇ……」

 大浴場にサウナ、露天風呂まであるのだが、さすがに天然温泉ではない。
 人工ラジウム温泉らしい。

 敷島:「どーれ、露天風呂は……」

 もちろん、体を流してからだ。

 敷島:「うわ……」

 屋根の無い所は牡丹雪(ボタ雪とも)が直撃していた。

 平賀:「さーさー、行きましょう」
 敷島:「ちょっと、平賀先生!酔っ払ってますよ!」

 敷島は平賀に背中を押されて、ボタ雪の直撃を受けながら湯に入った。

 平賀:「頭が冷たく、体は熱いですねぇ……」
 敷島:「もうちょっと屋根のある所に行きましょうよ」
 平賀:「! 今の自分の発言……」
 敷島:「何ですか?」
 平賀:「それで思い出したんですけど、1つクイズを出したいと思います」
 敷島:「あんまり難しいのは勘弁してくださいよ?」
 平賀:「簡単ですよ。『上は大水、下は大火事、なーんだ?』」
 敷島:「何だ、そんなことですか。据え膳を食う直前の男の上半身と下半身
 平賀:「ピンポーン♪」

 ……18歳未満の方は、素直に『お風呂』と答えましょう。
 アラフォーオヤジ共のスケベなぞなぞでした。

 露天風呂から上がると敷島は洗い場で体を洗いに行き、平賀はサウナに入った。

 敷島:(平賀先生、また飲む気か?あの様子じゃ……)

 敷島は呆れながら体を洗うと、今度は内湯に入った。
 内湯にはジャグジーがある。

 利用者A:「何だか凄い雪だべな?」
 利用者B:「明日、帰れっぺかね?」
 利用者A:「いンや〜、無理でねぇの、これ?除雪ば追い付かねべっちゃ」
 利用者C:「駅の方ば、大変なことになってるってよ?JR全部止まったってや」
 利用者A:「マジで!?」
 利用者B:「こりゃヨンパチ(※)も通行止めだべな」

 ※ヨンパチ:国道48号線のこと。仙台市と山形県天童市を結ぶ為、山越えルートがある。

 敷島:(今日泊まる計画にして良かったなぁ……)

 敷島は地元の利用者達の会話を聞き、まったりしながらそう思った。

 敷島:(この分だと、明日も帰れなかったりして?ま、その時はその時で)

 それからしばらくして、風呂を出た。
 階段を1つ降りると、休憩コーナーがある。
 テレビ付きのリクライニングチェアが並んでいるが、座敷もある。
 そこに座り……。

 平賀:「風呂上がりの一杯」
 敷島:「来ると思った。まあ、瓶ビール一本にグラス2つでいいですね。おつまみは……」
 平賀:「枝豆」
 敷島:「枝豆ね。あと、私はフライドポテトでも頼むか」

 ピンポーンと呼び出しボタンを押してスタッフを呼ぶ。
 そして、今のを注文した。

 平賀:「ここは静かだから、あんまり大きな声では話せないですね」
 敷島:「ま、そんなもんですよ」

 先にビールが運ばれてくる。

 敷島:「明日がどうなっているか……」
 平賀:「明日は明日の風が吹くものですよ」
 敷島:「いや、全く」

 あとは枝豆とフライドポテトをつまみにしたのだった。

[同日22:00.天候:豪雪 キュア国分町3F]

 敷島:(うーん……関東はまだそれほど酷い雪ってわけでもないのか……)

 平賀はさっさと自分のカプセルに入って眠ってしまった。
 敷島はデラックスタイプ利用者だけの特権として、各自与えられているデスクスペースにノートPCを置いて作業をしていた。
 といっても、殆どの場合、敷島に届いたメールの確認である。
 どうでもいいようなものはスルーするし、迷惑メールは削除するし、これはというものは返信する。
 幸いWi-Fiが利用できるので、それでメールもネットもできる。
 仕事関係のメールと言えば、超強力な南岸低気圧のせいでイベントが中止になる恐れが出て来たという、いかにも芸能事務所ならではの内容なのだった。

 敷島:(ま、いいや。俺もそろそろ寝よう)

 敷島はPC閉じると、歯磨きをしに洗面台へ向かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“戦う社長の物語” 「エミリーのピアノ」

2018-02-15 10:13:25 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月6日16:00.天候:雪 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 大学構内でトップを争う古さを誇る建物。
 南里志郎記念館。
 元々は研究棟として建設され、使用されていたものの、老朽化に伴って廃墟と化していたものであった。
 それが前期型のエミリーのボディを常設展示するに伴い、大改築されてオープンしたものがこの記念館である。
 エミリーの生みの親で、平賀の師匠でもあり、東北工科大学の教授でもあった南里志郎の軌跡を称えるのが目的となっている。
 展示物は何もエミリーの前のボディだけではなく、ロボットテロの恐ろしさを世間に認知させる為に、捕獲したバージョンシリーズなども展示されている。
 後期型のエミリーがここに来ると、警備用として稼働しているバージョン4.0達から歓迎を受ける。
 まるで視察に来た某元帥様を出迎える某人民の人々みたいだ。

 バージョン4.0-4:「ピアノの整備ハ万全デス」

 バージョン4.0-4(以下、B4-4)は揉み手をしながら言った。
 尚、元テロ用途であったバージョンシリーズのバージョンをアルファベットで書くと、『Version』ではなく、『Barsion』と書く為。

 エミリー:「そうか……」

 2階吹き抜けエントランスホールには、1台の古いグランドピアノが置かれている。
 エミリー自身がここに常設展示されていた頃は、毎日17時、このピアノを弾いていたものだ。
 交換用の後期型ボディの製作が遅れた為、耐用年数の過ぎた前期型ボディを休ませる為にここに常設展示されていた。
 毎日17時に弾くという習慣は、南里志郎研究所時代から変わらない。

 エミリー:「…………」

 エミリーはピアノの前に座った。
 そこで弾くのはショパン作曲の幻想即興曲。

 B4-286:「アリッサー!」
 B4-457:「違ウ違ウ。ソレ別のゲーム」
 B4-108:「多分、読者ニハ286ノ台詞ノ意味ハ分カッテナイゾ?」
 B4-6:「“クロックタワー3”のステージ1ノBGMナ?」
 B4-4:「オ前ラナァ……」
 B4-286:「“大魔道師の弟子”ノヒロイン、マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットがアリッサ・ハミルトンに似テイル件ニツイテ」
 B4-457:「似テナイ似テナイ」
 B4-108:「金髪ショートカットと服装ダケダロ?」

 バァンとピアノの鍵盤を叩いて演奏を止めるエミリー。

 エミリー:「お前達うるさい!!」
 バージョン4.0一同:「モ、申し訳ゴザイマセン!」

 ババッと全力土下座をするバージョン達だった。

 エミリー:「……っ!17時には前の通り、またここで弾く。今度は静かにしてろ」
 B一同:「ハハーッ!!」

 エミリーは席を立つと、奥の部屋に引っ込んだ。
 そこは元館長室だった部屋があり、今はバージョン達が製作した玉座がある。
 どうやらエミリーの席らしい。
 だが、たまにシンディも座っていたりする。
 バージョン達としてはエミリー専用席として作ったのでシンディに座られるのは困るのだが、同型の姉妹機に対して排除行為などできるわけもなく、1機は足蹴にされるという別の意味での女王様ぶりを発揮されるのであった。

 エミリー:(テロ用途を止めたら止めたでウザい連中になりやがった……)

 エミリーは不機嫌そうに座ると充電ケーブルを引っ張って来て、しばしの間、自分のバッテリーを充電することにした。

[同日17:00.天候:雪 南里志郎記念館エントランスホール]

 エントランスホール内にエミリーのピアノが響き渡る。
 それが建物の外にも響いてきて、土曜日でも大学に来ている関係者達の耳を癒す。

 曲目リストは『ショパン作、幻想即興曲』『ベートーヴェン作、月光』の他、東方Projectより『人形裁判 〜人の心弄びし少女〜』(エミリーの前期型ボディ使用時のテーマ)、『パンデモニックプラネット』(エミリーの現在のテーマ)、『千年幻想郷 〜History of the Moon』(前期型シンディのテーマ)、『故郷の星が映る海』『ピュアヒューリーズ 〜心の在処』(後期型シンディのテーマ)、『九月のパンプキン』(妖精型ロイド萌のテーマ)、『竹取飛翔 〜Lunatic Princess』(8号機のアルエットのテーマ)、『上海紅茶館 〜Chinese tea』(7号機のレイチェルのテーマ)、最後は『鉄腕アトム』で完結。

[同日18:00.天候:雪 仙台市青葉区国分町 キュア国分町“八波亭”]

 会議が終わった後は東北一の繁華街、国分町で宴会をするロボット会議のメンバー。

 敷島:「もうそろそろエミリーのピアノは終わったかな」
 平賀:「あ、そうか。エミリー、ピアノ弾くんでしたね。すっかり忘れてましたよ」
 村上:「今や自動演奏ピアノなど珍しくも無いだろうに、あえてロイドが弾くってのも面白い試みじゃな」
 敷島:「南里志郎研究所や財団があった頃は、よくエミリーやシンディで演奏会をやらせていたものです。シンディはフルートが吹けます」
 村上:「なるほど。それなら今度、ロイにもヴァイオリンを弾かせてみよう。調整期間は1ヶ月くらいでいいじゃろう」
 有泉:「先生。楽器でしたら、この前あいつトランペット吹いてましたよ?あとサックスも」
 村上:「何ぃ?何故それを早く言わんのじゃ!?」
 敷島:「ロイドの進化は凄いな。いずれは人間に取って変わったりして」
 村上:「そういうSF映画とかもあるみたいじゃな。じゃが、現段階ではまだ大丈夫。人間も一緒に進化している間なら」
 敷島:「なるほど」
 平賀:「敷島さんが現役の間は大丈夫だという安心感がありますね」
 敷島:「そうですか?」
 平賀:「シンディのヤツ、後期型として稼働している間も、どこか人間に対して叛心があるような気がして……」
 敷島:「気のせいだと思いますがねぇ……」

 と、そこへ有泉の電話が鳴った。

 有泉:「ちょっと失礼します」
 敷島:「はいはい」

 有泉が電話に出る為に席を外す。

 敷島:「優秀そうな助手さんですね」
 村上:「まあ、大学院での成績は優秀なのじゃが……」
 敷島:「平賀先生も助手は取らないんですか?」
 平賀:「自分は今、どちらかというとDCJの仕事の方が忙しいので……」
 敷島:「DCJの非常勤役員ですが、ついに本格的に常勤へと?」
 平賀:「話はあるんですけどねぇ……」

 すぐに有泉が戻って来た。

 有泉:「ロイからです。仙台市内に大雪特別警報が発令されたそうです。雪で身動きが取れなくなる前に、お早くお戻りくださいということです」
 敷島:「なに?今そんなに雪強いの?」
 平賀:「例年に無い最強の南岸低気圧が迫っているという予報は見ましたが……。警報じゃなく、特別警報が出るほどですか」
 村上:「むぅ……致し方無い。本当は二次会のカラオケで“千本桜”歌いたかったところじゃが、今日はやめておこうかの」
 有泉:「その方がいいですよ、先生」
 敷島:(てかこの爺さん、うちのミクの持ち歌歌う気だったのかよ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“戦う社長の物語” 「黒いロボット対応・対策会議」

2018-02-13 21:04:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月6日14:00.天候:雪 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学]

 村上大二郎:「あー、コホン。今日は御多忙の中、このようにお集まり頂き、真に恐れ入ります。皆さんもニュース等で既知の通り、ここ最近黒いロボットが日本各地において局所的に現れ、その意味不明な行動に人々を混乱に陥れておる」

 日本アンドロイド学会の代表である村上が壇上に上がって、参加者達に向かって喋っている。

 村上:「『黒いロボット』と呼ぶ所以は、見た目の通りとしか言いようが無い。彼らは誰に開発され、誰に製造され、如何なる目的で稼働し、如何なる命令で行動し、誰の命令で、どのような指令系統で行動しているのかが全く不明であり、そもそも正式名称を知る由も無いからであります。これについては敷島エージェンシーの代表取締役社長、敷島孝夫氏が現時点において1番知っている者ということになりますので、敷島氏より説明を賜りたいと思います」
 敷島:「えっ、私ですか?」
 エミリー:「社長。私のメモリーに、件の黒いロボットとの戦いの映像が記録されていますので、それを公開させてください」
 敷島:「そ、そうか」

 敷島とエミリーも壇上に上がる。
 代わりに村上は壇の脇にある椅子に座った。
 因みに高齢の村上の介助は、執事ロイドのロイや助手の有泉が行っている。
 東京から来たのが一目惚れしたシンディではなく、姉のエミリーだったことで、少しロイはがっかりした感じだった。
 エミリーは微笑を浮かべて、シンディには口添えしておくと言った。

 敷島:「えー、皆さん、こんにちは。東京より参りました敷島エージェンシーの代表を務めさせて頂いております敷島と申します。都内でボーカロイド専門の芸能事務所を経営しております。さて、件の黒いロボットについてですが、北海道で似たような個体と戦闘を交えたことが過去にございましたので、御紹介させて頂きます。こちらにいるマルチタイプ1号機のエミリーが実際に奴らと戦闘を交えていますので、その際の映像記録を御覧に入れます」

 敷島はエミリーに合図した。
 エミリーは白いスクリーンの前に座ると、右目を光らせた。
 右目から放たれた光がスクリーンに映り、そこにはエミリーが北海道の廃船内で遭遇した黒いロボット達との戦闘シーンが映し出された。

 参加者A:「これは……!」
 参加者B:「正しくあの黒いロボット……!」
 参加者C:「やはり凶悪なロボットだったか……」

 ざわつく会議室内。

 敷島:「壮絶な戦いでした。よく生き残れたものです」
 平賀:「さすがは『不死身の敷島』です。だけど自分は、いま現れている機種とそいつらは別種であると考えています」

 平賀が手を挙げて発言した。

 村上:「平賀君。そう思う根拠は何かね?」
 平賀:「簡単です。北海道で敷島さん達を襲った黒いロボットは、残虐な殺人マシーンだったでしょう。ところが今回現れているロボット達は、不思議と死者を1人も出していないんです」
 村上:「単なる偶然ではないのかね?」
 平賀:「それと、今までの行動も不可解過ぎます。実は今日、黒いロボットが1機、敷島エージェンシーに侵入したそうです」
 村上:「何と!?」
 平賀:「留守番していたシンディに破壊されたそうですが……」
 ロイ:「何と頼もしい御方です」
 村上:「また破壊したのか。生け捕りにせいと学会から命令しておいたのに……何ともはや、あのあばずれガイノイドめ」
 敷島:「うちの第二秘書がどうもすいません」
 エミリー:「うちの愚妹が申し訳ありません」
 平賀:「その黒いロボットが敷島エージェンシーに忍び込んで何をしていたのかというと、ボーカロイドの下着を盗んで着用しようとしていたそうです」
 参加者D:「な、何だってー!?」
 参加者E:「何の意味が!?」
 敷島:「終いにはシンディの下着にも手を出したんで、ブチギレたシンディにバラバラに破壊されたそうですが」
 平賀:「東京・錦糸町に現れた群体は、セクサロイド専門の風俗店を襲撃し、中にいたセクサロイドを拉致したそうです。……何と言いますか、奴らの目的は何となく判明しつつあるのですが……これは言っていいものなのかどうか……」
 村上:「言ってみなさい」
 平賀:「奴らの目的はガイノイドに対する変態行為。窃視、盗撮、下着泥棒、強制わいせつ辺りではないかと……」
 村上:「何の目的でそんなことしとるんじゃい?人間じゃないんだぞ?」
 平賀:「それは自分にも分かりませんが、性犯罪目的で動いているとしか……」

 と、そこへ有泉がスマホを片手に発言した。

 有泉:「大変です!今、西日本大学工学部から電話がありまして、大阪で黒いロボットが3機ほど現れまして、メイドロイドを拉致したそうです!」
 村上:「それで?」
 有泉:「後でメイドロイドは解放されたそうですが、彼女曰く、『おっぱいをしこたま揉まれた』と……」
 村上:「じゃから、一体何が目的じゃい!?」
 敷島:「ロボットに目的を問うより、奴らを指揮している人間を取っ捕まえる方がいいですよ」
 平賀:「こりゃ確かに、生け捕りにして奴らのメモリーを解析した方が良さそうだ」
 村上:「じゃが、そんなことできる者がおるかね?」
 敷島:「ご安心ください。その為のエミリーです」

 エミリーはスクリーンから向き直ると右目を消灯した。

 エミリー:「私にお任せください。必ずや、ご期待に応えて御覧に入れます」
 敷島:「エミリーも美人ガイノイドです。もし黒いロボットがエロ目的で動いているのなら、絶対に狙ってくるはずです。そこを叩くわけです」
 平賀:「叩くのはいいですけど、壊しちゃダメですよ?」
 敷島:「……だ、そうだ。エミリー」
 エミリー:「はい、もちろんです」

 エミリーは大きく頷いた。
 尚、会議が終わった後で、ロイがシンディそのものには被害が無かったのかどうか敷島に聞いて来た。
 あくまで狙われたのが下着だけであると敷島が答えると、心底ホッとしたような感じだった。

 エミリー:「某バカ兄弟の弟の調査によると、シンディのヤツ、白いセクシー下着を隠し持っていたそうだ。一体、何に使うつもりだったのか、後で問い質しておいてやる」
 ロイ:「い、いえ、そこまでは……」
 敷島:(アリスが何か吹き込んだか……?)

 会議は無事終了した。
 しかし、確かに敷島の予想通り、エミリーにも魔の手は迫っていたのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする