報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「成田から東京へ」

2019-12-29 11:52:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月26日11:18.天候:晴 千葉県成田市 JR空港第2ビル駅]

 展望デッキでダンテ達を乗せた飛行機を見送った稲生達は、その足で今度は地下に向かった。
 東京駅へ移動する為、JRに乗るからである。

 稲生:「大師匠様の飛行機、あまり大きくありませんでしたね」
 イリーナ:「あれならファーストクラスが無いのも頷けるわ」
 マリア:「日本〜ロシアの行き来はあまり無いということでしょうか?」
 稲生:「ウラジオストクは、日本人観光客が急増しているとテレビで観ましたよ?」

 その為、ウラジオストクへの定期便が増えるという。

 マリア:「それで勇太、もし次の『大師匠様を囲む会』がロシアで行われるのなら、今度はウラジオストクでってアナスタシア先生に言ったの?」
 稲生:「まあ、そういうことです」
 イリーナ:「多分、ロシア開催はしばらく無いと思うから心配しなくて大丈夫だよ」
 稲生:「そ、そうですか」

 永遠を生きる大魔道師の言う『しばらく』の期間がどれくらいかは、【お察しください】。

 ベイカー:「多分また日本でやると思うわ。まだダンテ先生はお分かりにならなかったみたいだもの」

 ベイカーは60代くらいの女性の姿をしている。
 もう少し魔力を解放すればもっと若返るのだが、あえてそこは節約しているのだろう。
 ポーリンなんか、もっと年上の老婆だ。
 確かダンテと一緒といた時は、かなり若い姿をしていたはずだが、それだけ肉体年齢を戻すのは大きな魔力を必要とするのだろう。

 イリーナ:「お分かりにならなかったとは……?」

 イリーナは少し目を開いて、大先輩に質問した。
 同じ1期生でも入門した時期が1000年単位で違うので、2期生以上に先輩後輩の関係が厳しいのである。
 ベイカーは目を細めたまま、魔法の杖を稲生とマリアに向けた。

 ベイカー:「その子の閉ざされた心を解放できた理由と、呪縛から解き放たれた理由よ」
 イリーナ:「うちの勇太君のおかげでは?」
 ベイカー:「だから、ただ単に『優しくしてあげた』だけで、こうも変わった理由が分からないのよ。普通、心を閉ざした人間が、『優しくしてあげた』だけでそう簡単に開くものじゃないでしょう?」
 イリーナ:「まあ、それは確かに……」
 ベイカー:「稲生君は仏教徒としての顔もある。ダンテ先生は、そこに理由があるんじゃないかと思って、しばらく注目されるみたいよ。だから、きっとまた『囲む会』は日本で行われる。私はそう思うの」
 イリーナ:「確かにうちの一門は基本、神への信仰禁止ですけど、仏への信仰は禁止されませんでしたね」
 ベイカー:「そうね」

 だが、ポーリンは不機嫌そうだ。

 ポーリン:「じゃが、うちの弟子がその仏に殺されたようなものじゃ」
 ベイカー:「あなたがイリーナとケンカしなければ良かっただけの話でしょ?」
 ポーリン:「じ、じゃが、しかし……」
 イリーナ:「ベイカーさん、今はこうして仲直りしていますから……」
 ポーリン:「ダンテ先生の手前、停戦しているだけじゃ!」

 それぞれの師匠のやり取りを見ていた弟子達は……。

 稲生:「先生同士でも色々あるんですね」
 マリア:「そりゃそうよ」
 エレーナ:「先生に命令されたら、私はまたマリアンナを殺るぜ?」
 マリア:「イブキに後ろから串刺しにされて、まだ懲りないのか」
 稲生:「そういえばここ最近、威吹と会ってないなぁ。年末までに会えるかな?」
 エレーナ:「稲生氏だけは先生に命令されても、うちのホテルの地下通路通っていいぜ?」
 ルーシー:「あのねぇ……」

 駅の改札口を通る。

 稲生:「そっちは京成のホームへ行くので、間違えないでください」
 ルーシー:「どうせ自動改札機に弾かれるでしょう」

 それからホームに降りる。
 京成線とホームが一緒なので、ここは誤乗が起きやすいという。
 一応、停止位置はそれぞれ異なっており、境目に柵を設けてホーム上はJRと京成の客がごっちゃにならないようになっているのだが……。

 稲生:「あー、来ました来ました」

 接近放送が鳴ってトンネルの向こうから、強風と轟音が近づいて来る。
 初日に都内へ移動した時は最後尾の12号車と隣の11号車に乗ったが、今度は6号車と5号車である。
 要は6両編成を2台繋いだ12両編成ということだ。
 ドアが開くが、全車両指定席で、しかも隣の駅が始発駅では降りてくる者はいない。

 稲生:「それでは先生方はグリーン車へどうぞ」
 イリーナ:「ありがとう」

 どうぞとは言いつつも、一応席まで案内する稲生。
 “成田エクスプレス”のグリーン席は革張りである。
 その後ですぐに隣の普通車に向かったので、師匠達が仲良く座席を向かい合わせにして歓談するのかどうかまでは確認しなかった。

 稲生:「先生達を案内して来ましたよ」
 マリア:「もうこれで東京駅まで直行でしょう?」
 稲生:「そうです」

 こちらは稲生が戻って来るまでの間に、向かい合わせにされていた。
 電車がインバータの音をトンネル内に響かせて走り出す。
 デッキに出る扉の上に設置されたモニタや、自動放送などでも、次の停車駅が東京駅であることを主張していた。
 列車によっては成田駅や千葉駅にも停車するダイヤがあるのだが、この列車では東京駅まで直行ということだ。
 で、車内販売は無い。

 稲生:「エレーナ達はどこまで乗ってくの?」
 エレーナ:「東京駅だぜ。先生と一緒にホテルに向かうからな、八重洲口からタクシーに乗ることになるだろうさ」
 マリア:「魔界へ行くのか」
 エレーナ:「ああ。先生がそこの宮廷魔導師だからな。ついでにリリィの様子でも見に行くさ」

[同日12:14.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔♪♪♪♪。まもなく東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、上野東京ラインと地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。……〕

 総武快速線の線路を走っている電車は、錦糸町駅を通過すると再び地下トンネルに入って行った。

 マリア:「そろそろ師匠達を呼びに行った方がいいんじゃない?」
 稲生:「そうですね」

 稲生は席を立った。

 エレーナ:「下っ端は大変だなー。こういう時、リリィとかいるとそいつらに投げれるんだけど……」
 稲生:「別にいいよ」

 本来、『ダンテを囲む会』に見習は参加できない。
 稲生だけ特別なのは、開催国の者だからだ。
 見習とはいえ、アテンド役に日本人を起用しない理由が無いからである。

 稲生:「先生方……」
 ベイカー:「ああ、分かってるよ」
 ポーリン:「起きんか、こら」
 イリーナ:「むー……」

 やはり座席は向かい合わせにされておらず、イリーナが1人で座席を倒して寝ていた。
 で、それをポーリンが胸倉を掴んで無理やり起こす。
 いくら何でも、弟子の身分でマリアでさえもそんなことはできないが、同期の先輩ならできるのだろう。

 ベイカー:「次は新幹線ね?」
 稲生:「そうです」
 ポーリン:「私はタクシーじゃ」
 稲生:「エレーナがアテンドしてくれるらしいですから」
 ポーリン:「うむ」

 列車が地下ホームに滑り込む。

〔とうきょう〜、東京〜。ご乗車、ありがとうございます。……〕

 ここで下車する乗客は多い。
 12両編成の電車も、ここで分割を行うので停車時間が取られている。
 放送で、それぞれ行き先が違うので誤乗注意の喚起が行われていた。
 全車指定席になっているのも、それが理由なのだろう。

 稲生:「それでは、まずは地上へ向かいましょう。こちらへどうぞ」

 稲生が向かった先はエレベーター。
 このエレベーターで、地下改札口まで直行できるのである。
 もちろんそこから外に出るわけではないが、エスカレーターを乗り継いで行くよりも時間短縮は図れる。
コメント (6)
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