報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「特急きぬ120号」

2019-12-07 13:53:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月24日10:12.天候:雨 栃木県日光市 東武鉄道鬼怒川温泉駅→特急きぬ120号6・5号車内]

 折り返し列車が到着し、車内整備も終わった後で、ダンテ一門の一行は車中の人となった。
 彼らが陣取ったのは先頭車となる6号車と、その隣の5号車の一部である。
 6号車は全て4人用の個室席となっており、JR線内ではグリーン車扱いされる席である。

 ダンテ:「ヨーロッパを旅した時を思い出すね」
 イリーナ:「私が今の体を使い始めた頃は貨車に便乗していたものですが、いい時代になりましたね」

 ルーシーは先頭車となる新幹線的なスタイルのフォルムを写真に収める。
 それをしているのは彼女だけでなく、他の旅行客も同じだ。

 ルーシー:「因みにこれで最高何キロ出るの?」
 稲生:「営業最高速度は120キロだよ」

 JR在来線では標準的な速度である為、ずば抜けて速いというわけではない。

〔「この列車は10時12分発、特急“きぬ”120号、浅草行きです。停車駅は東武ワールドスクウェア、下今市、新鹿沼、栃木、春日部、北千住、とうきょうスカイツリー、終点浅草の順に止まります。6両編成全部の車両が座席指定です。乗車券の他に指定の特急券が必要です。まもなく発車致します」〕

 個室席に乗れるのはダンテの他、大魔道師達のみ。
 稲生やマリアなどは、隣の5号車に乗ることになる。

 稲生:「今日も寒いなぁ……」
 マリア:「一段と寒くなってくる」
 稲生:「皆は寒さに強いんじゃないの?」
 エレーナ:「とんだ偏見だぜ。魔女だって寒いもんは寒い」
 稲生:「それは失礼しました」

 稲生達は座席を向かい合わせにして座っている。
 シートピッチはJRのグリーン車並みの1100mmであり、向かい合わせにしても狭くない。
 また、JR側の車両と違って、窓の下に折り畳みのテーブルも付いている。
 かつてはヘッドレストの所にスピーカーが付いていて、肘掛けの所に操作ボタンがあり、航空機のようなオーディオ・サービスもあった。
 現在はそれが取り外された代わりにWi-Fiが導入されている。
 ホームから陽気な発車メロディーが聞こえて来る。
 東武ワールドスクウェアのテーマをアレンジしたものだそうだ。
 こうして、稲生達を乗せた特急スペーシアは定刻通りに鬼怒川温泉駅を発車した。
 放送は自動放送で、当然ながら英語放送も流れて来る。
 かつては声優の沢田敏子氏によるものであったが、英語放送も彼女自身が喋るものであり、お世辞にも上手な発音とは言えなかった今は声優も日本語放送と英語放送が別の声優に刷新されている。
 沢田敏子氏は鉄ヲタからは『上野おばさん』と呼ばれ、昔はJR上野駅で『うえの〜、うえの〜』と到着放送を担当していたことからその愛称が付けられた。
 創価学会員からはラジオドラマ“新・人間革命”の朗読者として知られている。
 そのドラマを聴いている限り、当時の創価学会に顕正会の影が重なることから(顕正会は一切登場しない。当たり前だ)、やはりそこは同じ元・日蓮正宗なのだと分かる。

 エレーナ:「ん?この電車、ビュッフェがあるだと?」
 稲生:「そう。それも往路のJR車両とは違う所だね。ああ、それと車内販売もある」
 マリア:「……だって。良かったね?」

 マリアは上を向いて言った。
 荷棚にはマリアの人形、ミカエラとクラリスがいる。
 車内販売のアイスクリームが大好物なのであるが、年々日本の鉄道では車内販売が縮小されており、深刻な事態に陥っている。

 稲生:「営業は下今市から北千住の間までだから、ビュッフェも下今市を出てから行こう」
 ルーシー:「どうして途中の駅から?」
 稲生:「下今市駅で日光から来る乗客がドカドカ乗り込んで来るんで、それを意識してるんだと思うね」
 ミク人形:「アイスクリーム早よ!」
 ハク人形:「アイスクリーム早よ!」
 稲生:「下今市駅まで待ってー」
 マリア:「慌てるなっての」
 稲生:「それにしても、マリアさんはこうやって人形を連れて歩いてるけど、エレーナとルーシーはどうなの?」
 エレーナ:「クロならここにいるぜ?」

 エレーナは自分が今被っている黒い中折れ帽子を取った。
 すると中から、

 クロ:「ニャ」

 エレーナの使い魔の黒猫が顔を出した。
 エレーナは何食わぬ顔して、再び帽子を被った。

 稲生:「手品かな?」
 エレーナ:「白い鳩を出す時代は終わった。今度は黒猫の時代だぜ」
 ルーシー:「勝手に終わらせないの。因みに私のは……」

 ルーシーは足元に向かって、何かラテン語のようなものを呟いた。
 すると足元の影がズズズと動き出し、そこから黒いラブラドールレトリバーのような犬が顔を覗かせた。

 ルーシー:「私の使い魔、ブラッキーよ」
 エレーナ:「稲生氏の使い魔はどうするんだぜ?やっぱあのシルバーフォックスか?」
 稲生:「うん、そうだね。威吹ってことになるな」
 マリア:「妥当だと思う」
 稲生:「そういえば、エレーナとルーシーの使い魔はどうして犬と猫なの?契約悪魔とは連動していないよね?」
 エレーナ:「私の場合は元々ぬいぐるみを使ってたんだけど、それがいつの間にやら本物のネコになってただけだぜ」
 ルーシー:「私の場合は……」
 マリア:「あー、ルーシーの場合は話せば長いから」
 稲生:「え?そうなの?」

 要は監禁されていた教会の地下から脱出する際、ブラッキーが脱出の手助けをしてくれた縁で使い魔になったらしい。

 稲生:「皆、色々あるんだなぁ」
 エレーナ:「カラスが使い魔のキャシー先輩もいるし、コウモリが使い魔の人もいる。あとは黒蛇とか、黒ウサギとか、もう何でもござれだぜ」
 稲生:「確かになぁ……」

 大魔道師クラスになると、ドラゴンも使い魔である。
 さすがにそう簡単に召喚できない。当たり前だ。

 エレーナ:「行程表によると、都内で2泊することになってるぜ?」
 稲生:「大師匠様は、何も慰安目的だけで来日したわけではないってことだね」
 エレーナ:「偉い先生は色々考えて大変なこったぜ。私らヒヨッ子は気軽に観光させてもらおう」
 ルーシー:「いや、あなたは元々永住者でしょうが」
 稲生:「アナスタシア組以外の弟子の人達は、東京観光できそうだね」
 エレーナ:「もうその空気が蔓延してるぜ」

 エレーナはチラッと後ろの席を見た。
 5号車には他にも2期生や3期生達が乗車しているのだが、既に外国人向け東京観光のガイドブックを開ているのだった。

 稲生:「ルーシーは新幹線に乗れればいいのかな?」
 ルーシー:「いや、もっと観光させて」
 稲生:「了解」

 そぼ降る雨の中、一路東京に向かって歩を進める東武スペーシア。
コメント (3)
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