報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「浅草へ戻る」

2019-12-25 19:48:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日21:08.天候:晴 東京都荒川区町屋 都営バス町屋駅前停留所]

 夕食も終わり、稲生達は浅草のホテルに戻ることにした。
 幸いレストランの最寄り駅から浅草まで、路線バスが出ている。

 稲生:「いやー、今日はいっぱい歩いたなぁ……」
 ルーシー:「温泉が良かったね。お土産もあるし」

 ルーシーとマリアは両手にペーパーバッグを抱えている。
 1つは箱根湯本で買った土産、もう1つは原宿で買ったブレザーやスカートなどだ。

 エレーナ:「お、バス来たぜ。あれか?」
 稲生:「草41系統……で、間違いない」
 エレーナ:「浅草って書いてあるからガチだろ?」
 稲生:「まあ、そうなんだけど……」

 前扉が開く。
 反対側の足立梅田町行きは賑わっていたが、浅草方面は空いていた。

 稲生:「ここに運賃を……入れなくてもいいか」

 今やルーシーですらSuicaで乗っている。
 前回来日した時に、お土産代わりに買ったものだ。
 今はチャージして乗っている。
 後ろの2人席に座った。
 もちろん、稲生はマリアと一緒に座る。

〔発車致します。お掴まり下さい〕

 バスはドアを閉めて発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。この都営バスは三河島駅前、鶯谷駅前経由、浅草寿町行きでございます。次は荒川五丁目、荒川五丁目でございます〕

 マリア:「! そういえば、明日は成田空港までバスで行くんだって?」
 稲生:「そうです。もうバス会社に貸切バス1台手配してますよ」
 マリア:「大師匠様のフライトに合わせてチェックアウトでしょ?行き先が変わって、時間は……」
 稲生:「ああ、それは大丈夫です。本来の予定ですと、成田空港で時間を潰すことになっていたんですよ。ほら、ローマ教皇も明日は羽田空港から離日しますから、僕達はそれに巻き込まれないように、都内を脱出するということなんです」

 モスクワ行きは午前中に離陸するのだが、元々の出発予定の変更をする必要は無いという。

 稲生:「そういうことなんで」
 マリア:「それならいいんだけど……。今バスに乗ってみて、ふと気づいた」
 稲生:「飛行機のチケットはアナスタシア先生が取ってくれたみたいですし、僕達は新幹線のキップだけ確保していればいいんですよ」
 マリア:「なるほど」
 エレーナ:「電車のキップはいいのか?」

 後ろに座っているエレーナがヒョイと顔を出す。

 稲生:「ん?」
 エレーナ:「成田空港で大師匠様を見送った後は、電車で東京駅だろ?」
 稲生:「それについては何の指示も無いから、何もしなかったけど……」
 マリア:「ベイカー大先生と御一緒でしょ?ハイヤーを手配するとかになるんじゃないの?」
 稲生:「成田空港でハイヤーの手配は可能ですけどね。ちょっとそういうのは現地に行って確認してみないと……」
 エレーナ:「イリーナ組とは別行動になるかもしれないぜ?」
 稲生:「いや、それはないだろう。新幹線を一緒に乗るってことは、東京駅までも一緒になるってことさ」
 ルーシー:「私からもベイカー先生に確認してみるよ」

 ルーシーは水晶球を取り出した。

[同日21:30.天候:晴 台東区花川戸 浅草ビューホテル]

 最寄りのバス停でバスを降りた稲生達は、その足で宿泊先のホテルに戻った。
 ロビーにはイリーナが座っていた。

 稲生:「あっ、先生」
 イリーナ:「やあやあ、仲良くやってるねぇ」
 マリア:「師匠、これお土産です」
 稲生:「箱根の温泉に行って来たんです」
 イリーナ:「おや、まあ……。美味しそうな饅頭だねぇ」
 稲生:「入浴剤もありますので、帰った時に温泉気分が味わえますよ」
 イリーナ:「それは素晴らしい。というか、今夜から使わせてもらうわよ」
 稲生:「おっ、そうでした」
 エレーナ:「イリーナ先生が自らここにいらっしゃるというのは……」
 イリーナ:「ああ。私はこのコ達に用があるだけだから、あなた達はそれぞれの先生にお土産渡して来なさい。皆、部屋にいるから」
 ルーシー:「大師匠様の御相手で忙しいのでは?」
 イリーナ:「それは大丈夫。ダンテ先生はVIPとの会合で忙しく、皆して手持無沙汰だから。私はボランティアで占いやってるだけ」
 マリア:(カネを請求しないだけで、客から出してくるチップは受け取ってるな……)
 ルーシー:「それじゃ、私はこれで失礼します。マリアンナ、明日その服ね」
 マリア:「ああ、分かった」
 エレーナ:「じゃ、失礼しまっす」

 ルーシーとエレーナは先にエレベーターに乗って行った。

 イリーナ:「何だい?マリアも新しい服を買ったのかい?」
 マリア:「ルーシーが欲しい服があるっていうんで一緒に付き合ったんですけど、私も欲しくなっちゃって……」
 イリーナ:「新しいブレザーとスカートか。ま、いくら制服代わりとはいえ、いつも同じ服だと飽きるでしょうから、たまには違う服を着てもいいんじゃない」
 マリア:「はい。こっちのは少し生地が厚いので、冬用に着れそうです」
 イリーナ:「ふむふむ」

 今着ているマリアのブレザーが少し生地が薄めのモスグリーンのダブルだが、今度買ったブレザーは生地が厚めのダークグリーンのダブルである。
 ルーシーがシングルを着ているのとは対照的だ。
 マリアとしては、シングルよりもダブルの方が大人っぽく見えることを期待して着ているようなのだが、実際は大して変わらない。
 まあ、そりゃそうだ。
 男は女性と対面した時、顔と胸を見るのだから。

 稲生:「それで先生、何かあったんですか?」
 イリーナ:「実は言うの忘れてたんだけど、成田空港から東京駅までのベイカー組の分のチケットの購入を頼んでなかったわね」
 稲生:「あ、やっぱそうですか」
 イリーナ:「ええ。で、そこにポーリン組も乗っかるってよ」
 稲生:「エレーナ達も」
 イリーナ:「もっとも、ポーリン組は東京駅で降りるだろうけどね」
 稲生:「エレーナが、ワンスターホテル経由で魔界へ行くとか言ってましたからね。分かりました。それじゃ、大師匠様をお見送りした後、東京駅に行く“成田エクスプレス”のキップを買ってくればいいんですね」
 イリーナ:「そう。これがカード。駅までタクシー使っていいから」
 稲生:「ありがとうございます」

 稲生はイリーナからプラチナカードを預かった。

 稲生:「“みどりの窓口”は上野駅が近いと思うので、そこまで行って来ます」
 マリア:「私も行く。荷物を置いて来るから」
 稲生:「分かりました。じゃあ、僕も部屋に荷物置いてきます」
 イリーナ:「慌てなくていいよ。タクシーなら、ホテルの前から乗れるから」
 稲生:「はい」

 アテンド役の仕事は、ダンテが離日した後も続く。
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“大魔道師の弟子” 「洋食レストラン」

2019-12-25 15:31:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日19:30.天候:晴 東京都荒川区荒川 某洋食レストラン]

 店員:「お待たせしました。先にドリンクの方、お持ちしました」

 稲生達は再び千代田線に乗り、今度はそこから町屋駅まで向かった。
 駅近くある某洋食レストランで夕食を取る為である。
 既に予約はしていた。

 エレーナ:「腹減ったーぜ」
 ルーシー:「あんた、さっきクレープ食べてたでしょ?」
 エレーナ:「あぁ?甘い物は別腹だぜ」
 ルーシー:「太ってホウキに乗れなくなっても知らないよ」
 エレーナ:「魔界でダイエットしてるから心配すんな」

 魔王城旧館にて、デストラップを体を使って解体するエレーナの図が水晶球に浮かび上がった。
 旧館は内戦で半壊したが、今でも即死トラップがそこかしこで生きており、再建するも解体するもこれらのトラップをまず解除してからでないと工事ができない為、これらを何とかするアルバイトが随時募集されていた(もちろん経験者のみで)。

 エレーナ:「カネの為なら何でもやるぜ。但し、きれいなカネな」
 ルーシー:「そういった意味では働き者だね」
 エレーナ:「だろォ?」
 稲生:「さあさあ、取りあえず飲み物でも……」

 稲生は中生、魔女達はワインをデカンタで。
 それで腹を誤魔化していると、やっと注文した料理が来た。
 ハンバーグステーキだったり、ビーフステーキだったり。
 あえて日本食にしなかった稲生。

 エレーナ:「日本のステーキは脂身が多くてさ、でも当たりの所は当たりなんだよな」
 ルーシー:「まあ、それは言えてるけど……。アメリカに行った時はどうだったの?」
 エレーナ:「そしたらさぁ、日本の場合は当たりハズレの格差が小さいんだよ。アメリカはとにかく当たりハズレの差がデッカい」
 ルーシー:「州や地域にもよるでしょ?」
 エレーナ:「いや、それがそうでもない。同じ州や地域でも店によって、ヘタすりゃ同じ店でもコックによって当たりハズレが大きいんだぜ」
 稲生:「日本のようにマニュアル化されてないんだろうね。日本人からすれば、硬い赤身肉に変なソースが口に合わないとか言うね」
 エレーナ:「肉は私も赤身の方が好きだぜ。ただ、ソースに関しては日本人と同意見だ。変な魔法でも使ってんのかとツッコみたくなる味とかな」
 ルーシー:「どう対処してた?」
 エレーナ:「あ、こりゃダメだと思ったら、『ソース掛けんな。塩とコショウだけでいい』って言っとく」
 稲生:「それで味あるの?」
 エレーナ:「赤身肉なら大丈夫だぜ」
 稲生:「ふーん……。そういえばオーストラリア産のオージービーフも、欧米向けとかあるみたいだけど、日本だけわざわざ『日本向け』があるらしいからね。国1つピンポイントで」
 ルーシー:「多分、特別に脂身の多い肉を輸出してるんでしょうね。Shimofuriって言うの?」
 稲生:「そうそう。霜降り」
 エレーナ:「ああ、稲生氏。あと、アメリカでステーキ食う時の注意点を1つ」
 稲生:「何だい?」
 エレーナ:「稲生氏はステーキはどんな焼き方がいい?」
 稲生:「そうだなぁ。僕はレアかミディアムレアかな」
 エレーナ:「この店が当たりの理由の1つに、ちゃんとレアで焼いてと言ったらレアで焼いて来ることだぜ」
 稲生:「当たり前だろう?」
 エレーナ:「いや、それがアメリカではそうでもないみたいだぜ。少なくともマフィアの情報探りにニューヨークを歩いていて、で、何軒かレストランでステーキ食ったんだが、まずレアで焼いてこない」
 稲生:「え?」
 エレーナ:「ウェルかウェルダンで来るんだ、これが」
 稲生:「へえ……」
 エレーナ:「だからウェイターにやかましく、『レアで焼いて来いよ、レアで。分かってんな、あぁ!?』と言っとく」
 稲生:「それなら大丈夫でしょ」
 エレーナ:「それがそうでもない。それでも良くてミディアムで来る」
 稲生:「ええっ?」
 エレーナ:「そこでさっきのウェイターを呼んでアメリカンイヤミだ。『私の故郷ウクライナじゃ、これはウェルダンって言うんだけど、アメリカではこれがレアって言うのか?』ってな」
 稲生:「ウェイターさんの反応は?」
 エレーナ:「2つ。そこで良心的な店かそうでないかが分かる。どっちの話から聞きたい?」
 稲生:「じゃあ、悪質な店の方から」 
 エレーナ:「了解。『はい、さようでございます』っていけしゃあしゃあと答えてチップを要求してきやがる」
 稲生:「そうか。アメリカはチップ社会だもんね」
 ルーシー:「エレーナが外国人だと知って、ナメてるね」
 稲生:(日本人……というかアジア人相手なら人種差別意識でそんな嫌がらせしてきそうな店がありそうだけど、欧米社会で優遇されている白人でもこんなことあるんだ)

 白人同士でもヒエラルキーがあることを一瞬忘れていた稲生だった。
 特にウクライナはかつての旧ソ連の1つ。
 アメリカ人の中で旧ソ連……どころか、今のロシアも嫌いな類の者なら有り得るかもと思う。

 稲生:「で、そんなことされたらどうするの?」
 エレーナ:「とっとと店を出て行くさ。そして3分後にはコントロール不能に陥った、オイル満タンのタンカートラック(タンクローリー)が店に突っ込んでくるって寸法だ」
 稲生:「怖っ!」
 エレーナ:「魔女をナメるとこうなる」
 ルーシー:「まあ、しょうがないね」
 マリア:「私なら人形達に放火させるかな」
 稲生:「……!!」

 エレーナの過激な発言をさも当然のように同意する魔女達に、稲生は一瞬背筋が寒くなった。

 エレーナ:「稲生氏はバスでも突っ込ませるか?」
 稲生:「やめてくれ!」
 マリア:「良心的な店の場合は?」
 エレーナ:「ああ。それは『申し訳ありません』と素直に謝ってくれる。で、『私はちゃんと厨房の者に伝えました。これは厨房のスタッフの責任です。すぐに焼き直させて参りますので、しばらくお待ちください』と、言ってくれる」
 稲生:「それから?」
 エレーナ:「で、また新しい肉が来るわけだが、今度はウェイターを下がらせずに、肉のど真ん中をナイフで真っ二つに切ってやる。すると大抵は、ようやくレアで焼かれてるって寸法だぜ」
 稲生:「ほう!」
 エレーナ:「そこでやっとこさチップを渡してやると、ウェイターもホッとしてくれるってわけだぜ」
 稲生:「なるほどねぇ……」
 ルーシー:「ウェイターも自分のチップが欲しいからね。客の機嫌を損ねるとチップがもらえず、生活できなくなるからね。なるべく機嫌を損ねないように、自分の責任ではないことも明確に伝えるわけね」
 稲生:「チップ制の無い日本とはだいぶ違うなぁ……」

 ただの客ならチップがもらえないだけで済むが、これが魔女だとタンクローリーの特攻というオマケ付き!
 というか、都合良くタンクローリーが店の近くを走っているものだ。
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“大魔道師の弟子” 「ロマンスカーで新宿へ、そして原宿へ」 2

2019-12-23 19:36:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日18:05.天候:晴 東京都新宿区西新宿 小田急新宿駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、新宿、新宿です。2番ホームに到着致します。お出口は、左側です。……」〕

 稲生達を乗せた特急ロマンスカーが、新宿駅に接近した。
 車窓からは超高層ビル群が見える。

 稲生:「あっという間だね。もう新宿だ」
 エレーナ:「ロマンスカーの中でも、これは比較的速い方なんだろ?」
 稲生:「まあね。小田原からノンストップの“スーパーはこね”より、停車駅が2つ多いだけだから」
 マリア:「さあ、降りるよ」

 マリアは席を立って、荷棚に乗っている人形達をローブの中にしまった。

 ミク人形:「ムギュ」
 ハク人形:「ムギュ」
 エレーナ:「オマエも隠れてろ」
 クロ:「ニャ」

 エレーナは黒猫を完全に中折れ帽子の中に入れると、そのまま被った。
 ハトの手品のように、被っている状態だと中にネコがいるようには見えない。
 ロマンスカーは地上の専用ホームにゆっくり入線して行く。
 ホームには駅員や折り返しの電車を待つ乗客達の他、鉄ヲタがカメラを構えていたりする。
 ホームで待つ乗客達にサラリーマンが多いことで、今日が平日だと分かる。

 稲生:「夕方のラッシュの最中だから、ちょっと山手線とか混んでると思うけど、我慢してね」
 エレーナ:「ケンショーグリーンみたいなヤツが痴漢してきたら、電車が脱線するぜ」
 稲生:「それは困る」
 マリア:「脱線で済めばいいけどね」
 ルーシー:「まあまあ、2人とも……」(←鉄道員一家で育ったので、他の2人の魔女とは別に思う所がある)

 電車がホームに停車してドアが開く。
 本来なら1番ホームが降車専用なのだが、何故かそのホームは使用されず、乗車ホーム側のドアが開く。
 もちろん車内整備・清掃があるし、通勤時間帯のロマンスカーも全車指定席なので、慌てて乗り込んでくる乗客はいないのだが。

 稲生:「さて、次は山手線で原宿ですね。この時間の新宿駅は夕方ラッシュでごった返しているので、注意して行きましょう」
 マリア:「分かった」
 エレーナ:「乗り掛かったバスだ。行くしかねーな」
 マリア:「乗り掛かった舟だろ。しかも全然意味違うし……」

[同日18:19.天候:晴 JR新宿駅→JR原宿駅]

〔まもなく14番線に、渋谷、品川方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側までお下がりください。次は、代々木に止まります〕

 夕方ラッシュで賑わう新宿駅を進んだ魔道士達。

 エレーナ:「大江戸線より混んでるぜ」
 稲生:「そりゃそうだよ」
 ルーシー:「反対側の黄色い電車は……」
 稲生:「そっちは中央総武線。秋葉原とか千葉まで行く電車」
 マリア:「そっちも混んでるよ」
 稲生:「この時間はどの電車も混んでますよ」

 やってきた山手線は最新型のE235形。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、代々木に止まります〕

 ここで下車する乗客も多いが、乗り込む乗客も多い。
 その為、ここでは1分ほどの停車時間が設けられている。
 新宿駅に限らず、ターミナル駅では停車時間が長めに取られていることが多い。
 もっとも、遅れが生じている時はすぐに発車するが。
 こういう時でも先頭車に乗り込みたがる稲生。
 発車メロディがホームに鳴り響く。

〔14番線の山手線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 まだJR新宿駅ではホームドアが設置されていない。
 これは駅改良工事が行われている為である。
 なので電車のドアがちゃんと閉まると、すぐに発車する。

〔この電車は山手線内回り、渋谷、品川方面行きです。次は代々木、代々木。お出口は、左側です。総武線各駅停車、中野、三鷹方面と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです〕
〔This is the Yamanote line train bound for Shibuya and Shinagawa.The next station is Yoyogi(JY18).The doors on the left side will open.Please change here for the Sobu line local service for Nakano and Mitaka,and the Oedo subway line.〕

 稲生:「服を受け取ったら、そのまま着るの?」
 ルーシー:「うーん……。いや、明日着る」
 エレーナ:「楽しみは後に取っておくってか?」
 ルーシー:「それもあるんだけど、これから夕食でしょう?誤解されないように、今はこの私服でいいと思う」
 稲生:「あ、なるほど」
 マリア:「それじゃ私の立場は……」
 エレーナ:「またパスポート見せりゃいいだろ」
 マリア:「段々それも面倒臭くなってきた」
 稲生:「まあまあ」

 その為、魔女によっては契約悪魔に命令して、体だけは成人女性になるまで成長させて欲しいとすることがある。
 イリーナなどは若返りの魔法を使うが、未成年の魔女は成人年齢になることを臨む。

[同日18:30.天候:晴 東京都渋谷区 某制服販売店]

 午前中に購入した服を取りに行くと、ちゃんとマリアとルーシーのサイズに合うように直されていた。
 一応、試着室で試着してみるとピッタリだった。

 エレーナ:「このまんま留学生として、どっかの高校に潜り込めそうだなー」
 稲生:「昔、なんかそういうアニメがあったような……?」
 店員:「このまま着て行かれますか?」

 店員の日本語を英語に通訳してルーシーに言うマリア。
 マリアも今は何とか日本語が理解でき、話せるようにまでなった。

 マリア:「いいエ、着替エまス」
 店員:「かしこまりました」

 もっとも、元々ブレザーを着ていたマリアは着替えることもないのだが、一応着替えた。

 マリア:「私も明日まで取っておくよ」
 ルーシー:「了解。明日2人で着ようね」

 で、着替えて試着室から出ると、待っていたのは稲生だけだった。

 マリア:「エレーナはどこ行った?」
 稲生:「クレープ食べたいとか言って出てったけど……」
 マリア:「これから夕食なのに!?」
 稲生:「って、僕も言ったんだけど、『甘い物は別腹だぜ』とか言って……」
 ルーシー:「太ってホウキに乗れなくなっても知らないよ」

 稲生だけでなく、2人の魔女も呆れるしかなかった。
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“大魔道師の弟子” 「ロマンスカーで新宿へ、そして原宿へ」

2019-12-23 11:13:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日17:00.天候:晴 小田急電鉄小田原線特急“はこね”30号3号車内]

 ルーシー:「すっかり外が暗くなったね」
 マリア:「日本の冬は日が短いんだ」
 稲生:「そういえば、もうすぐ冬だな」
 エレーナ:「ルーシー、随分と機嫌が良くなったな?さっきまでは新幹線乗れなくてブスッとしてたのに……」

 エレーナがからかうように言った。

 ルーシー:「き、機嫌悪くなんて無かったよ。顔の表情は生まれつきなんだからしょうがないでしょ」
 エレーナ:「またまたぁ……」
 車販嬢:「お食事、お飲み物はいかがでしょうか〜?」

 そこへワゴンサービスがやってきた。

 稲生:「あ、すいません。こっちにホットコーヒー1つと……」
 エレーナ:「いや、私もだぜ」
 稲生:「ホットコーヒー2つに紅茶2つ、それにバニラアイス2つと……」
 マリア:「ロマンスカークッキー……か?ルーシー」

 ルーシー、大きく頷く。

 稲生:「ロマンスカークッキー4つください」
 車販嬢:「はい、ありがとうございます」
 エレーナ:「おお、稲生氏、太っ腹〜!」
 稲生:「支払いはSuicaで」
 車販嬢:「はい」

 因みに稲生はお茶請けの代わりにビスケットを購入したが、実はコーヒーを買うだけでビスケットが1つ付いて来る(単品のみ)。
 “走る喫茶室”の名残りだろうか。

 車販嬢:「ありがとうございました〜」

 飲み物とクッキーを購入した。
 クッキーの箱はロマンスカーを象ったものだ。

 エレーナ:「ロマンスカーの1つか、これは?」
 稲生:「さっきすれ違ったけど、最新型の70000形GSEだね」
 ルーシー:「昔のTGVみたい」
 稲生:「ああ、塗装が……」

 フランスの高速列車のこと。

 マリア:「はい、アイスクリーム」

 マリアは荷棚に乗っているミク人形とハク人形にカップアイスを渡した。
 人形形態でありながら、器用にスプーンで食べている。

 ハク人形:「硬くない」
 ミク人形:「硬くない」
 稲生:「何で新幹線のアイスだけ硬いのか、【お察しください】」

 多分、小田急の方は保存の仕方が違うのかもしれない。
 ああ、そうそう。
 箱根湯本駅を出発した時にあった着信の内容だが……。

 稲生:「それにしても、大師匠様が次の行き先を急にモスクワに変更されるとは……何かあったかな?」
 エレーナ:「プーチン大統領が、何かしでかすのかもしれないぜ?」
 稲生:「うーん……。(日本人としては、プーチン大統領に圧力掛けて、北方領土を全島返還させて頂きたいものだけど……)」
 ルーシー:「航空チケットはアナスタシア先生が手配したみたいだから、私達はもっと別の仕事ができたわ」

 それがルーシーの機嫌が良くなった理由。
 本来の予定はロンドンまでダンテをアテンドしなくてはならなかったのだが、急きょ行き先をモスクワに変更したものだから、アテンド役もアナスタシア組に変わった。
 その代わりベイカー組には、マリアの屋敷の視察を任された。
 つまりルーシーとしては、今度は北陸新幹線に乗れるという楽しみができたのである。

 エレーナ:「稲生氏、屋敷へは高速バスで帰るのか?その方が安上がりだし、乗り換え無しで楽だぜ?」

 エレーナが悪戯っぽく笑いながら言った。

 稲生:「うん、そうだねぇ……」
 ルーシー:「!!!」

 するとルーシーの足元の影に隠れていた、彼女の使い魔の黒い犬(ラブラドールレトリバーに似ている)が現れて、エレーナにワンワン吠えた。
 余計なことを言うなと抗議しているのだろう。

 エレーナ:「な、何だよ?」

 ところが今度はエレーナの帽子の中から、エレーナの使い魔の黒猫が飛び出して来た。

 クロ:「フーッ!!」
 ブラッキー:「ウウウ……!」
 稲生:「やめなさい!うちの組はともかく、ベイカー先生は新幹線でないとダメでしょう!分かってるよ!」
 ルーシー:「ブラッキー」
 ブラッキー:「プスッ!」(←まだ少し不満があるが、主人の命令には逆らえない)

 ブラッキーは再びルーシーの足元の影に隠れた。

 稲生:「クロも!」
 エレーナ:「……クロ」

 エレーナは帽子掛けから帽子を取ると、その中にクロを入れた。

 マリア:「動物の使い魔は大変だな」
 エレーナ:「いや、これが普通だからな?」

 使い魔はWi-Fiのルーターという表現にするとしっくり来るかと。
 インフラを供給するのが契約悪魔なら、使い魔はルーター。
 呪文はWi-Fiを接続する為のパスワードと同じ。

 稲生:「新幹線のキップを改めて取るように言われたから、途中の“みどりの窓口”で購入するよ」
 マリア:「……だって。良かったね」
 ルーシー:「うん」

 魔法で移動すれば楽だろうに、それをあまりしないのは乱用を禁止しているからである。
 Wi-Fi通信のように、接続中は使い放題なのなら、別にいいじゃないかと思うもしれない。
 しかし、Wi-Fiを使う人は誰でも経験したことがあるだろう。
 Wi-Fiが何故か突然切れた、ということを。
 それは魔法も同じ。
 乱用していたところ、突然契約悪魔か使い魔か分からないが、どちらかに不具合が発生し、魔法が突然切れた魔道士が命を落としたという事例があったため。
 その為、魔法の使用は必要最低限にして、物理的にできることは自分の力で行うことが奨励されている。

 エレーナ:「航空チケットはどうなんだ?」
 ルーシー:「それもアナスタシア先生が購入してくれたみたいよ」
 エレーナ:「アナスタシア先生、イリーナ先生には厳しいけど、ベイカー先生には優しいな」
 ルーシー:「そりゃうちの先生は、1期生の中でも年長組だもの」

 同期生の中にも上下関係があって厳しい1期生(軍隊のようなもの)。
 一応、先輩・後輩の関係がある2期生(学校のようなもの)。
 全員入門時期がほぼ同じなので、そもそもそんな関係すら無い3期生。

 稲生:「新宿駅か原宿駅で新幹線のキップを買い直そう」
 マリア:「クレジット払いにしたけど、大丈夫?」
 稲生:「大丈夫でしょう。グリーン車の座席を2つ買えばいいんですから」
 エレーナ:「ん?イリーナ先生がグリーン車で、稲生氏とマリアンナが普通車2人席だろ?」
 稲生:「いや、イリーナ組で普通車3人席。うちの先生のキップをルーシーに融通してもらって、あとは先生達2人のグリーン車の座席を買えばいいだけ」
 ルーシー:「本当にイリーナ組はユルい上下関係ねぇ……」
 マリア:「一応、気は使ってるんだけどね」

 『一応の気遣い』で済むイリーナ組。
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“大魔道師の弟子” 「“はこね”30号」

2019-12-22 19:47:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日16:10.天候:晴 神奈川県足柄下郡箱根町 箱根湯本駅→小田急ロマンスカー“はこね”30号3号車内]

 温泉に入った稲生達は、今度はバスで再び箱根湯本駅に戻った。
 帰りのロマンスカーまで、駅前の商店街や駅の中の売店を覗いたりした。

 稲生:「帰りはロマンスカーに乗ろうと思います」

 稲生は魔女3人にそう言った。

 エレーナ:「おー、ロマンスカーか。稲生氏らしいプランだぜ」

 都内で仕事をしているエレーナだけは、その列車について知っていた。
 恐らく宿泊客からも、そういった話が出て来るのだろう。

 ルーシー:「新幹線じゃないの?」
 稲生:「残念ながらね。でも、新幹線とはまた違った面白い電車だよ」
 エレーナ:「展望席か?」
 稲生:「さすがにそれは無理だった」
 エレーナ:「……だよなぁ、いくら平日とはいえ」
 稲生:「その代わりに、コンパートメント席が取れた」
 エレーナ:「んん?」
 稲生:「キップは1人ずつ持とう」
 マリア:「了解」

 1番ホームに行くと、白い車体が目立つ50000形VSEが停車していた。

 稲生:「改めて見ると、東武スペーシアとはまた違った趣きだなぁ……」

 豪華性(個室や広いシートピッチ)を重視した東武スペーシアは、他の東武特急と同様、頑なに展望席を設けようとはしなかった。
 それに対し、小田急ロマンスカーでは展望席を復活させた。
 展望席を廃止した30000形EXEが主流になったらどうなったかは、【お察しください】。
 鬼怒川と箱根では、客層が違うのだろう。
 写真を撮るのは稲生だけではない。

 ルーシー:「稲生さん、この列車の最高速度は?」
 稲生:「車両の設計速度は130キロと、東武スペーシアと同じだよ。但し、営業速度は110キロと東武スペーシアよりも遅い」

 走行距離が東武スペーシアよりも短いからかもしれないし、東武スカイツリーラインより、小田急小田原線の方が混んでいるからというのもあるだろう。
 線形に問題は無いので、それが原因ではない(むしろ東武の方がよっぽど線形に問題がある)。

 エレーナ:「真正面から見たら、合体ロボの頭部みたいだな」
 稲生:「それは言えてる。戦隊ヒーローが話の終盤で乗り込んで敵と戦う……」

 その時、ルーシー以外のメンバーにケンショーレンジャーの思い出がフラッシュバックした。

 稲生:「……ま、この話はここまでしておこう」
 エレーナ:「了解だぜ」
 マリア:「激しく同意」
 ルーシー:「? 皆、どうしたの???」

 ケンショーレンジャーはゴレンジャーのインスパイア。
 当然、ケンショーレンジャーがショボい合体ロボで戦うシーンもあった。

 稲生:「いや、いいんだ、ルーシー。『知らぬが仏』っていう言葉がある」
 エレーナ:「……仏教徒が使う言葉じゃねーからな?」

〔「お待たせ致しました。1番ホームの特急“はこね”30号、新宿行き、まもなくドアが開きます」〕

 ドアが開いて乗客達が乗り込み始めた。
 稲生達もその中に続く。

 稲生:「ここだ、ここ」

 東武スペーシアみたいな完全な個室ではなく、通路とは座席の脇をガラスパーテーションで仕切っただけのボックスシートであった。
 但し、普通列車のそれと違ってシートピッチは広いし、真ん中に大きなテーブルもある。
 構造上、リクライニングはしない。

 稲生:「東武スペーシアほど高級な席ではないから、僕達が乗っても大丈夫だと思うよ」
 エレーナ:「ま、この程度ならな」

〔「ご案内致します。この電車は16時26分発、特急ロマンスカー“はこね”30号、新宿行きでございます。停車駅は小田原、本厚木、町田、新宿の順です。全ての車両が指定席です。お手持ちの特急券の座席番号をお確かめの上、指定の席にお掛けください。……」〕

 マリア:「ワゴンサービスがあるの?」
 稲生:「あるある。ありますとも。だから、アイスクリームも売ってます」

 稲生は荷棚の上に乗っている人形達の方をわざわざ見ながら言った。

 ミク人形:「アイス早よ!」
 ハク人形:「アイス早よ!」
 マリア:「因みにこの席って、他の席とは違って特別料金掛かったりしないの?」
 稲生:「しますよ。但し、1つからくりがありまして、4人で乗れば実質的に一般席と同じ料金になるよう設定されています。3人以下で乗ると割高ってことですね」
 エレーナ:「なるほど。そこはホテルとはまた違う売り方だぜ」
 稲生:「まあ、列車だからね」

[同日16:26.天候:晴 小田急ロマンスカー“はこね”30号3号車内]

 ホームから発車メロディが聞こえて来る。
 “箱根八里”をアレンジしたものだ。
 上りだとアップテンポにアレンジされている為、原曲を知らないと何の発車メロディだか分からないかもしれない。
 列車は定刻通りに発車した。
 停車していた1番線は本線ホームなのでポイントを渡ることもなく、そのまま本線に入る。
 どこの路線でもそうだろうが、やはり優等列車は運行上においても優遇されている。
 連接台車なので、床下から聞こえてくる車輪と線路のジョイント音が違う。
 車内放送は自動放送だが、車内チャイムが“ロマンスをもう一度”である。
 これは小田急ロマンスカーのCMソングだ。

 エレーナ:「山から下りるって感じだな」
 稲生:「小田原までが、本来の登山鉄道だからね」

 今、小田原〜箱根湯本間における電車は小田急の車両しか無い。
 この区間は利用者が多い為、箱根登山鉄道の路面電車に毛を生やしたような小さな車両では利用者を捌けないからである。

 稲生:「お土産、だいぶ買ったねぇ……」
 エレーナ:「先生へのお土産もあるぜ」
 ルーシー:「同じく」
 マリア:「師匠には健康枕とかでいいと思ったけど……」
 稲生:「あと、温泉饅頭とかね。うちの先生も、甘い物好きですから」
 マリア:「それもそうだね」
 ルーシー:「いいね、永住者は……」
 エレーナ:「お?だったらルーシーも永住者になったらどうだぜ?」
 ルーシー:「そう簡単に行くわけないでしょう……」

 ルーシーは溜め息をついた。
 ダンテが離日するのは明日。
 つまり、日本国籍を有している者や永住者達以外はダンテに付いて離日しなければならないのだ。

 ルーシー:「本当はもう少しいたいんだけど……」

 と、その時、ルーシーの水晶球が光った。
 師匠ベイカーからの着信である。
 ルーシーは水晶球を出すと、それを大きなテーブルの上に置いた。
 と、同時に今度は稲生のスマホに着信がある。

 稲生:「あっ、先生からです。ちょっと失礼します」

 稲生はスマホを手にデッキに向かった。
 実はルーシーの着信内容と、稲生の着信内容はほぼ同じ。
 その内容は何なのかというと……次回へ続く!
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