[11月25日21:45.天候:晴 東京都台東区花川戸 浅草ビューホテル]
マリア:「じゃ、ちょっと行ってくるから!」
マリアは荷物を置き、トイレを済ませると急いで客室を出た。
客室には他にエレーナとルーシーがいる。
エレーナ:「行ってらっさー」
ルーシー:「気をつけて」
マリアが出て行くと、エレーナとルーシーは顔を見合わせた。
ルーシー:「随分急いでるね。イリーナ先生から急なお使いを頼まれたと言ってたけど……」
魔道士の世界における師弟関係は、本来厳しいものである。
お使いを頼まれるのが例え夜であろうと、弟子はそれを拒めない。
それはいいのだが……。
エレーナ:「ちょっと水晶球で見てみようぜ」
エレーナは水晶球を取り出した。
ルーシー:「やめなさいよ。てか、理由によってはまたブロック掛かってるかもよ?」
エレーナ:「いや、大丈夫だ。今度はちゃんと映った」
するとエレーナの水晶球に、稲生とマリアがホテル前からタクシーに乗る所が映し出された。
エレーナ:「稲生氏も一緒だ!てことは、どこかへランデブーか?あぁ?でへへへへ……」
ルーシー:「んなわけないでしょ。稲生さんとマリアンナの仲は半ば公認なんだから、マリアンナが稲生さんの部屋で過ごせばいいだけの話じゃない」
エレーナ:「わざわざタクシーに乗ってんだぜ?」
ルーシー:「だからよ。イリーナ先生にお使いを頼まれたから、タクシーで移動してるんじゃない」
エレーナ:「ちっ、ガチか」
ルーシー:「ガチガチよ」
エレーナ:「それにしても、どこに行くんだ?」
ルーシーはタクシーの車内映像を水晶球に映している。
都内のタクシーでは、もはやカメラの無い車など珍しいくらい。
てか、あるのかって感じだ。
それを車外カメラ(ドライブレコーダー)に切り替える。
しかしながら、それでもどこへ向かうのかまでは分からない。
エレーナ:「せめてナビの映像でも映ればいいんだけどな」
ルーシー:「そんなに難しい所じゃないんじゃない?」
エレーナ:「どうして分かるんだぜ?」
ルーシー:「さっきの映像、巻き戻してよ。稲生さん達がタクシーに乗り込んでから、走り出すまで」
エレーナ:「分かったぜ」
エレーナ、水晶球に手を翳す。
すると映像が巻き戻された。
エレーナ:「何か気になる点があるのか?」
ルーシー:「気になる点というか……。ほら、見てよ。稲生さんが行き先を告げて、運転手が2つ返事で車を走らせたでしょ?もし稲生さん達の行き先が複雑で、運転手が道を知らなかったら、走り出す前に運転手が聞き返すでしょ?或いはナビを操作するとか……」
エレーナ:「そうか。確かに東京のタクシーの殆どは、ナビが付いてるぜ」
ルーシー:「ナビを操作している感じもない。もちろん運転手が道を知り尽くしたベテランって可能性もあるけど、やっぱり普通に考えて、簡単な行き先なんじゃないかな?」
エレーナ:「なるほどだぜ。おっ、どうやら西へ向かってるみたいだぜ?」
映像が今現在のものに変わり、今はドライブレコーダーになっている。
青い道標が映り込み、『上野』という文字が見えた。
エレーナ:「ワンスターホテルに行く感じじゃねーぜ。方向が違う」
ルーシー:「もういいんじゃないの。マリアンナも日付が変わる前には帰るって言ってるし」
エレーナ:「このまま稲生氏の部屋に泊まったりしてな?」
ルーシー:「それはそれでいいじゃない。私、そろそろお風呂入るよ」
エレーナ:「おう。私はもう少しこの2人の様子を見てるぜ」
ルーシー:「全く……」
ルーシーはバスルームに行き、清掃されたバスタブにお湯を入れた。
溜まるまでの間、再びエレーナの所に行く。
ルーシー:「エレーナ、前々から気になってたんだけど……」
エレーナ:「何だぜ?」
ルーシー:「あなた、何回か体を交換してるよね?」
エレーナ:「……まあな。それがどうした?」
ルーシー:「見た目の姿に反して、その性格と喋り方……。まるで、男みたい」
するとエレーナは笑みを浮かべた。
エレーナ:「おいおい。私は女だぜ?一緒に風呂入った時、私のグラマラスな体を見ただろ?」
ルーシー:「ええ、もちろん今は名実共に女だと思う。だけど……」
エレーナ:「前の体も女だって。これよりもブスだったけどな」
ルーシー:「私は何もそんなことは聞いてないから」
エレーナ:「! ルーシっ!?」
ルーシー:「前のブス女だった頃の体は、恐らくシルバーフォックス(威吹邪甲)に殺されたのでしょう。しかし、交換する体が無かった。たまたま魂と適合した体が、よりにもよって男だったんじゃないかな?もちろんなるべく早く交換する必要があって、幸いすぐにその体を手に入れることができた。だけど、魂の性別と肉体の性別が違うと無理が生じる。後遺症として、あなたは女でありながら思考や性格が男みたいになった……って、思ってるんだけど?」
エレーナ:「ふ……ふふふ……ふふふふふふ……。いや、面白い考えだな、ルーシー。そういうヤツに知り合いがいるのか?」
ルーシー:「ええ。目の前にいるわ」
エレーナは水晶球の映像を消すと、スッと立ち上がった。
そして、バッと魔法の杖を取り出す。
ルーシーも魔法の杖を出して、構えた。
エレーナ:「これだから魔女は嫌いなんだ。仲間同士、腹の探り合いをしやがる。男に生まれた稲生氏がガチで羨ましいぜ!」
ルーシー:「魂が女でありながら男の体を使うのは掟違反だと思うけど?」
エレーナ:「証拠なら隠滅したさ。いや、あと1つ。……気づいたオマエを消す!!」
ルーシー:「やってみなさい!」
と、そこへ部屋の電話が鳴った。
エレーナ:「くそっ!」
だが、2人とも電話に出ようとしない。
もちろんそこで隙が発生し、殺されるかもしれないからだ。
しかし、受話器が勝手に外れた。
イリーナ:「2人とも、何やってるのかな?」
エレーナ:「イリーナ先生か」
ルーシー:「な、何でもありません!」
イリーナ:「そーお?何かエキサイティングな物音が聞こえたんだけどォ?」
エレーナ:「修学旅行名物、枕投げっス!」
イリーナ:「それならいいけど、これ以上エキサイティングすると、あなた達の先生に報告しないといけなくなるからね?」
エレーナ:「ちっ……」
ルーシー:「それは困ります……」
イリーナ:「それが嫌なら、今すぐ寝る事。分かった?……分かったら返事はどうしたの?」
エレーナ:「……ハイ」
ルーシー:「分かりました……」
電話が切れたので、ルーシーは受話器を戻した。
ルーシー:「別に秘密バラしてやる、とか言ってないじゃない」
エレーナ:「魔女はすぐウソ付くからな」
ルーシー:「私は気になったことを調べて真相を知りたいだけ。もしエレーナ、そういう秘密を知られたくなかったら、もう少し気をつけた方がいいよ」
エレーナ:「お気遣い、ありがとさんだぜ」
後にマリアが帰って来た時、室内がやけに静かだったのに首を傾げたという。
マリア:「一体、何があった?」
と。
マリア:「じゃ、ちょっと行ってくるから!」
マリアは荷物を置き、トイレを済ませると急いで客室を出た。
客室には他にエレーナとルーシーがいる。
エレーナ:「行ってらっさー」
ルーシー:「気をつけて」
マリアが出て行くと、エレーナとルーシーは顔を見合わせた。
ルーシー:「随分急いでるね。イリーナ先生から急なお使いを頼まれたと言ってたけど……」
魔道士の世界における師弟関係は、本来厳しいものである。
お使いを頼まれるのが例え夜であろうと、弟子はそれを拒めない。
それはいいのだが……。
エレーナ:「ちょっと水晶球で見てみようぜ」
エレーナは水晶球を取り出した。
ルーシー:「やめなさいよ。てか、理由によってはまたブロック掛かってるかもよ?」
エレーナ:「いや、大丈夫だ。今度はちゃんと映った」
するとエレーナの水晶球に、稲生とマリアがホテル前からタクシーに乗る所が映し出された。
エレーナ:「稲生氏も一緒だ!てことは、どこかへランデブーか?あぁ?でへへへへ……」
ルーシー:「んなわけないでしょ。稲生さんとマリアンナの仲は半ば公認なんだから、マリアンナが稲生さんの部屋で過ごせばいいだけの話じゃない」
エレーナ:「わざわざタクシーに乗ってんだぜ?」
ルーシー:「だからよ。イリーナ先生にお使いを頼まれたから、タクシーで移動してるんじゃない」
エレーナ:「ちっ、ガチか」
ルーシー:「ガチガチよ」
エレーナ:「それにしても、どこに行くんだ?」
ルーシーはタクシーの車内映像を水晶球に映している。
都内のタクシーでは、もはやカメラの無い車など珍しいくらい。
てか、あるのかって感じだ。
それを車外カメラ(ドライブレコーダー)に切り替える。
しかしながら、それでもどこへ向かうのかまでは分からない。
エレーナ:「せめてナビの映像でも映ればいいんだけどな」
ルーシー:「そんなに難しい所じゃないんじゃない?」
エレーナ:「どうして分かるんだぜ?」
ルーシー:「さっきの映像、巻き戻してよ。稲生さん達がタクシーに乗り込んでから、走り出すまで」
エレーナ:「分かったぜ」
エレーナ、水晶球に手を翳す。
すると映像が巻き戻された。
エレーナ:「何か気になる点があるのか?」
ルーシー:「気になる点というか……。ほら、見てよ。稲生さんが行き先を告げて、運転手が2つ返事で車を走らせたでしょ?もし稲生さん達の行き先が複雑で、運転手が道を知らなかったら、走り出す前に運転手が聞き返すでしょ?或いはナビを操作するとか……」
エレーナ:「そうか。確かに東京のタクシーの殆どは、ナビが付いてるぜ」
ルーシー:「ナビを操作している感じもない。もちろん運転手が道を知り尽くしたベテランって可能性もあるけど、やっぱり普通に考えて、簡単な行き先なんじゃないかな?」
エレーナ:「なるほどだぜ。おっ、どうやら西へ向かってるみたいだぜ?」
映像が今現在のものに変わり、今はドライブレコーダーになっている。
青い道標が映り込み、『上野』という文字が見えた。
エレーナ:「ワンスターホテルに行く感じじゃねーぜ。方向が違う」
ルーシー:「もういいんじゃないの。マリアンナも日付が変わる前には帰るって言ってるし」
エレーナ:「このまま稲生氏の部屋に泊まったりしてな?」
ルーシー:「それはそれでいいじゃない。私、そろそろお風呂入るよ」
エレーナ:「おう。私はもう少しこの2人の様子を見てるぜ」
ルーシー:「全く……」
ルーシーはバスルームに行き、清掃されたバスタブにお湯を入れた。
溜まるまでの間、再びエレーナの所に行く。
ルーシー:「エレーナ、前々から気になってたんだけど……」
エレーナ:「何だぜ?」
ルーシー:「あなた、何回か体を交換してるよね?」
エレーナ:「……まあな。それがどうした?」
ルーシー:「見た目の姿に反して、その性格と喋り方……。まるで、男みたい」
するとエレーナは笑みを浮かべた。
エレーナ:「おいおい。私は女だぜ?一緒に風呂入った時、私のグラマラスな体を見ただろ?」
ルーシー:「ええ、もちろん今は名実共に女だと思う。だけど……」
エレーナ:「前の体も女だって。これよりもブスだったけどな」
ルーシー:「私は何もそんなことは聞いてないから」
エレーナ:「! ルーシっ!?」
ルーシー:「前のブス女だった頃の体は、恐らくシルバーフォックス(威吹邪甲)に殺されたのでしょう。しかし、交換する体が無かった。たまたま魂と適合した体が、よりにもよって男だったんじゃないかな?もちろんなるべく早く交換する必要があって、幸いすぐにその体を手に入れることができた。だけど、魂の性別と肉体の性別が違うと無理が生じる。後遺症として、あなたは女でありながら思考や性格が男みたいになった……って、思ってるんだけど?」
エレーナ:「ふ……ふふふ……ふふふふふふ……。いや、面白い考えだな、ルーシー。そういうヤツに知り合いがいるのか?」
ルーシー:「ええ。目の前にいるわ」
エレーナは水晶球の映像を消すと、スッと立ち上がった。
そして、バッと魔法の杖を取り出す。
ルーシーも魔法の杖を出して、構えた。
エレーナ:「これだから魔女は嫌いなんだ。仲間同士、腹の探り合いをしやがる。男に生まれた稲生氏がガチで羨ましいぜ!」
ルーシー:「魂が女でありながら男の体を使うのは掟違反だと思うけど?」
エレーナ:「証拠なら隠滅したさ。いや、あと1つ。……気づいたオマエを消す!!」
ルーシー:「やってみなさい!」
と、そこへ部屋の電話が鳴った。
エレーナ:「くそっ!」
だが、2人とも電話に出ようとしない。
もちろんそこで隙が発生し、殺されるかもしれないからだ。
しかし、受話器が勝手に外れた。
イリーナ:「2人とも、何やってるのかな?」
エレーナ:「イリーナ先生か」
ルーシー:「な、何でもありません!」
イリーナ:「そーお?何かエキサイティングな物音が聞こえたんだけどォ?」
エレーナ:「修学旅行名物、枕投げっス!」
イリーナ:「それならいいけど、これ以上エキサイティングすると、あなた達の先生に報告しないといけなくなるからね?」
エレーナ:「ちっ……」
ルーシー:「それは困ります……」
イリーナ:「それが嫌なら、今すぐ寝る事。分かった?……分かったら返事はどうしたの?」
エレーナ:「……ハイ」
ルーシー:「分かりました……」
電話が切れたので、ルーシーは受話器を戻した。
ルーシー:「別に秘密バラしてやる、とか言ってないじゃない」
エレーナ:「魔女はすぐウソ付くからな」
ルーシー:「私は気になったことを調べて真相を知りたいだけ。もしエレーナ、そういう秘密を知られたくなかったら、もう少し気をつけた方がいいよ」
エレーナ:「お気遣い、ありがとさんだぜ」
後にマリアが帰って来た時、室内がやけに静かだったのに首を傾げたという。
マリア:「一体、何があった?」
と。