![]() | 万能鑑定士Qの推理劇I (角川文庫) |
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角川書店(角川グループパブリッシング) |
脅威のハイペースで刊行されている松岡圭祐のQシリーズの最新刊「万能鑑定士Qの推理劇Ⅰ」が発売された。最近、本といえば図書館で借りてくるのが主流になっているが、このシリーズだけは自腹で買っている。図書館で借りるとなると何時になるわからないし、出たらすぐに続きを読みたいので、本屋で見つけたらすぐに買いである。
以前は、「万能鑑定士Qの事件簿」というタイトルであったが、今回から「推理劇」にタイトルが変わった。ただ、タイトルがかわったとはいえ、内容は以前とそれほど変わってはいない。高校までどん底の成績だった天然少女の凛田莉子だが、沖縄から上京後、感受性を学習に役立てるすべを知り、わずか5年で驚異の頭脳派に成長する。そして、次々に難事件を解決していくという設定はそのままで、事件簿シリーズの続きと言っていい。今回は、絢爛豪華な宝石鑑定イベントに潜む巧妙なトリックを解き明かすという内容である。
相変わらず『面白くて知恵がつく人の死なないミステリ』という路線は崩さず、読みやすくあっという間に読み終わってしまう。物語中には、実在する商品や社名がそのまま出てくるので、会社の裏側を覗くような面白さがある。まあ、かなり作り話も多いと思うが、どこまでが本当で、どこからが架空のことなのかが判らないのがいい。また、作品中に出てくる物についての作者の呆れるほどの専門的な知識には感心する。
ただ、これで13冊目になるが、読み終わったあとの読後感は、さらっとしすぎて物足らなさを感じるようになってきた。千里眼シリーズから、松岡圭祐の世界に嵌った者としては、荒唐無稽な世界観が懐かしい。莉子にそんなキャラを望むのは無理だろう。この先、このシリーズがどのように続いていくかは気になるところだ。
「推理劇Ⅰ」の中で、浅倉絢奈(あさくら あやな)という新キャラがちょこっとだけ登場する。華奢だが背丈と年齢は莉子と同じくらいで、明るく染めたショートヘアにばっちり見開いた瞳と通った鼻筋にアヒル口という容姿の持ち主という設定だ。巻末には、『特等添乗員αの難事件』シリーズのヒロインとして、姉妹編が刊行されることが発表されていた。莉子は、ロジカル・シンキング(理路整然とした論理的な思考)の持ち主とされているが、浅倉絢奈は、ラテラル・シンキング(水平思考と呼ばれるように、思考を水平に移動させる考え方。ロジカル・シンキングのように同じ観点で掘り続けるのではなく、違った観点、違う側面からの思考法)の持ち主とされ、『特等添乗員αの難事件』は、Qシリーズとは一味違う物語が展開しそうである。そちらにも注目したい。