新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

3月12日 その2 今から真価が問われるトランプ大統領の貿易赤字削減策

2018-03-12 15:24:00 | コラム
何処まで違いを認識出来ておられるかが問題だ:


先日も長老と語り合った際にも話題に上ったことだが、我が国は自動車の製造ではいち早くアメリカ自身が設定した排ガス規制をアメリカより先に達成したことが切っ掛けで、アメリカ市場を席巻して言わばデトロイトの崩壊の芽を作ったと言えるかも知れない。結果としてアメリカ側の要望を入れて自動車は輸出ではなく現地生産に転換した。それでも、未だにあの品質で左ハンドルしか作らないデトロイトの対日輸出が不振なのは当然だろうということ。

彼も私も、トランプ大統領に請願に出掛けたデトロイトのメーカーも、トランプ大統領自身もそういう歴史的な事実というか経過を知らないはずはないだろうに、依然として知らない(自覚していないとでも言うか)としか思えないような姿勢で、非関税障壁等でアメリカ産の車の輸入を阻んでいると非難するのは「本当に知らないのか、あるいは知っていて知らんふりなのかが見えない」という点で我々の見解は一致した。

以前にも述べたが、クリントン政権の下で対日輸出が不振で「買わない日本が怪しからん」と、スーパー301条の発動まで言い出して恫喝された時期に、W社はアメリカの対日貿易赤字削減に貢献したとしてアメリカ側の意向もあって通産省から表彰された実績がある。対日輸出を伸ばせないアメリカの多くの製造業者からは「何故、御社は日本にそれほど売れるのか。ノーハウを伝授願いたい」と依頼が本社に殺到したそうだ。

本社の答えは「何も特別なことをしている訳ではない。相手の市場の特質を理解してそれに合わせる努力をしただけ」だったそうだが、それ以外に何があるのかという問題だ。実際にはW社は「日本のメーカーや業者と競合する製品は売らない。日本の製造業では出来ない製品を輸出して補完することを第一義とする」を実践していたので、アメリカの同業他社との競合はあったものの、国産品との競合は先ず引き起こしていなかった。

例えば、私の主たる担当分野液体容器原紙などは実質的に1トンの国産紙もなかった。製紙用パルプは全輸入の30%以上のシェアーを持っていたが、それは我が国には競合する樹種がない針葉樹パルプを主体にしていたからだった。私は何も今更W社の宣伝をする気などはないが、このような我が国の市場の特殊性を認識して無用な競合を回避したから、ボーイング社に次いで全アメリカの会社の第2位となる対日輸出実績を積み上げられたのだった。

私が言いたいことは、トランプ大統領以下の連邦政府とアメリカの製造業の会社がそういう日本市場の特性を何処まで認識できていたか、自国の産業の問題点が何処にあるかを正確に把握することが、対日輸出を伸ばせるか否かの最重要課題だという点だ。私が知る限りでは、USTRの嘗ての強硬派カーラ・ヒルズ大使も、アメリカ大使館の商務部も問題が何処にあるかを正確に把握しておられた。

更に後難を恐れて具体的に言えば、アメリカ企業の日本乃至は東京駐在員に日本市場の特質をどれほど的確に心得た適切な人物を雇っていたかも問題だったと言えると思うのだ。ただ単に、英語が出来る人たちを「優秀で能力あり」と判断して採用していたのではないのかという問題はあると思っている。即ち、何もトランプ大統領に限ったことではなく、歴代の大統領がどれほど日本市場を理解し、その特質を認識しておられたかという問題はあると言えると思っている。

日本市場は国産品の優れた品質に馴れているので、非常に厳しく、小うるさくて難しくて、受け入れ基準が世界で最も厳しいと言えるのだ。アメリカ側の対日輸出の担当者たちがどれほどその日本とアメリカの違いを理解し認識して、日本の基準に合わせようと努力していたかどうかは重大な問題なのだ。具体的にいえば、アメリカ市場とは異なる品質を求めている市場に、アメリカで通用するからといって持ち込んでも受けないのは当たり前だったのだ。

例えば、未だに左ハンドルしか作っていないで「アメリカの優れた質の車を輸入しない日本が怪しからん」と言うのは「市場を理解せずに、日本規格に合わせようとしていない」努力を欠いている姿勢の問題なのだ。W社の我が事業部は苦心惨憺しても合わせたのだった。そういう市場の特性が異なる点をトランプ大統領に誰かがご進講申し上げるべきだと思う。

重ねて申し上げれば、トランプ大統領がこういう史実をご承知で言われているのかどうかが解らないのが辛いところなのだ。もしもご承知で言っておられるのだったら、事はより一層難しくなるだろうと危惧する。少なくとも、我が国で対アメリカ輸出を手がけているメーカーも商社も、アメリカ市場の特性を十分に承知で取り組んでいるのは間違いないと経験上も言えるのだが。

クリントン政権下で日本の紙パルプ産業界が「世界最高の品質であるアメリカ産の紙類を輸入しないのは怪しからん」と非難された頃に、日本市場に進出を企図していたW社の洋紙部の副社長に、私は「絶対に成功しないと保証する。それでも出たいと言われれば、成功しないことを立証する結果で宜しければ」という条件でお手伝いしたが、矢張り「成功」と言える段階には至らなかった。

理由は簡単で「アメリカの市場で受け入れられている紙質では、優秀な国産紙に飼い慣らされた日本市場には通用しない」と解りきっていたし、流通業者も「アメリカの原木とアメリカで受け入れられている品質は、例えどれほど優れていると自認されて持ち込まれても、日本市場には通用しそうもないほど違い過ぎるのでは」と判断していたからだった。米国と日本では「優れた品質」の基準が違いすぎたのだった。

トランプ大統領は「アメリカファースト」の旗印の下に対日貿易赤字の削減を目指されるのは当然だとは思う。だが、現実にこれまでにそのような歴史があって不振だったかを是非振り返って頂きたいものだと思う。少なくとも1990年代まではW社は上手く行っていたのだから。



USA対DPRK

2018-03-12 08:17:59 | コラム
トランプ大統領の真価が試される時では:

トランプ大統領は韓国の金正恩と会談した使節団の報告を聞かれて「首脳会談」を即決された。私には彼の政策の柱である「アメリカファースト」を忠実に実行されようという何ものをも恐れない固い決意の表れと見た。韓国の鄭義溶の報告では By Mayとなっていたことは4月中という意味であり、その4月には南北の首脳会談の予定が入っている。金正恩は二面作戦を強行する意図があるようだ。

私の個人的な見解では「ここから4月中にUSAとDPRKの首脳会談を実現させる為には、その準備も兎も角アメリカ側には検証しておくべき事柄が山ほどあるのではないかということ」になる。簡単な例を挙げれば、例の6項目にある「朝鮮半島の非核化」ではDPRKの非核化とは言っていないし、寧ろ在韓米軍が装備しているかも知れない核兵器の排除が含まれてしまうのだから、この点の確認は必要であろうという具合だ。

その次なる問題点と思わせる事柄は「この会談の決定をトランプ大統領は国務省には図っていなかった」という辺りだ。最早彼の周辺には外交問題の専門家が不在となってしまったようなので、大統領としては即断即決で動くしかない事態に立ち至っているという見方がある。木村太郎は既に「トランプ大統領は単身でも平壌に出向いてしまうような我が道を行かれる傾向があるのでは」と予測して見せていた。確かに即決されていた。

次に考えておくべき点は、私も予てから指摘してきたことで「金正恩自身が一筋縄ではいかない賢く且つ利口者であるだけではなく、その周辺には我々の目には入ってこない尋常ではない力量の持ち主である参謀が控えているのではないか」という点である。国際政治学者の藤井厳喜も先週のPrime Newsでそのことを指摘していた。

ということは、これまでにアメリカが金日成時代から何度も煮え湯を飲まされてきたDPRKの真意が何処にあるのか、またまたアメリカと全世界を誑かそうと企てているのか否かの確認は必須であろうという意味だ。私は少なくとも「非核化宣言などは上っ面だけのこと」と見做している方が無難だろう程度に考えているのだ。その確認の作業を会談前に一体誰が如何なる方法でやるというのか。

私はトランプ大統領の当選前から、昔の同僚とともに抱いていた疑問があった。それは「ドナルド・トランプ氏はもしかして本当は何もご存じなのかも知れない。あるいは政治・経済・軍事・外交・貿易等々に精通されていながら如何にも知らないように装って無理無体を通しておられるのかも知れない」という点だった。私は後難を恐れて言えば「ご存じない方」に賭けたいのだし、アメリカの同僚も同意見だ。

その点では先月久し振りに懇談した対日と対アメリカの国際的事情に精通された長老ですら「俺はトランプ大統領が本当は何も知らないのか、あるいは何もかも承知なのかが未だに解らないので弱っている」と述懐したことが、トランプ大統領の実態が如何にも解りにくいということを裏付けていたと思う。藤井厳喜に至っては「知らないということを知らないのでは」とまで極論していたが、極めて微妙な問題点だと思う。

その点が良く現れていたのが、この度の「安全保障の為にアメリカに輸入される鉄鋼に25%、アルミに10%の関税をかける」と発表された辺りにあると思う。兎に角「アメリカファースト」と公約の前には何物もないという政策である。アメリカを守るのが大統領の務めだと言われたのと同じだと思う。対日輸出に20数年も懸命に努力してきた経験から言えるのだが、トランプ大統領はアメリカという市場の実態を未だに完全に把握する途上にあられると言いたい。

それは「アメリカは輸出国ではなく、種々の止むを得ぬ事情で多くの産業を空洞化してアジア、欧州、中国等の国からの輸入に依存せざるを得ない態勢になってしまっている」という実態を、未だに完全に掌握されていないということになるのだ。兎に角、アメリカの製造業は自分たちに都合の良いスペックを設定して(需要の実態をほとんど無視してという意味)大量生産(英語では悪い意味で product outというが)で、かなり質の低い製品を需要家にも最終消費者にも押しつけてきたのだった。

その結果が自動車産業の惨敗であり何でありで、消費者は品質に対して極めて寛容にならざるを得なかったというのが偽らざる実態だった。そこには労働力の質の問題もあるが、その質の低い労働力の層がトランプ大統領を支持しているのだから、そこを目指した政策を打ってこられたのは当然だと思う。デトロイトだって何度も請願に赴き、未だに我が国の自動車がアメリカ市場を思うがままにしているだけではなく、非関税障壁でアメリカ車の輸入を妨げていると訴えたようだ。身の程知らずである。

これなどは何十年の昔のことで、自らが設けた排気ガス規制を達成できずに我が国と欧州車に市場を取られたと訴えているデトロイトこそが、認識不足なのである。それをトランプ様が未だに真に受けておられる様子なのが悲しいのだ。

やや遠回りしたが、私はトランプ大統領には是非とも金正恩と会談されて、我が国とアメリカの安全保障の為にも朝鮮半島の非核化ではなく、DPRKの非核化とmissileの放棄を約束させて頂きたいものと願っている。しかし、その会談が実現するまでにトランプ大統領にとっても金正恩にも、成し遂げておくべき home workが沢山あるのではないだろうか。何と言っても、CIAという機関をを有するアメリカであるから、準備おさおさ怠りないとは思うが。