何処まで違いを認識出来ておられるかが問題だ:
先日も長老と語り合った際にも話題に上ったことだが、我が国は自動車の製造ではいち早くアメリカ自身が設定した排ガス規制をアメリカより先に達成したことが切っ掛けで、アメリカ市場を席巻して言わばデトロイトの崩壊の芽を作ったと言えるかも知れない。結果としてアメリカ側の要望を入れて自動車は輸出ではなく現地生産に転換した。それでも、未だにあの品質で左ハンドルしか作らないデトロイトの対日輸出が不振なのは当然だろうということ。
彼も私も、トランプ大統領に請願に出掛けたデトロイトのメーカーも、トランプ大統領自身もそういう歴史的な事実というか経過を知らないはずはないだろうに、依然として知らない(自覚していないとでも言うか)としか思えないような姿勢で、非関税障壁等でアメリカ産の車の輸入を阻んでいると非難するのは「本当に知らないのか、あるいは知っていて知らんふりなのかが見えない」という点で我々の見解は一致した。
以前にも述べたが、クリントン政権の下で対日輸出が不振で「買わない日本が怪しからん」と、スーパー301条の発動まで言い出して恫喝された時期に、W社はアメリカの対日貿易赤字削減に貢献したとしてアメリカ側の意向もあって通産省から表彰された実績がある。対日輸出を伸ばせないアメリカの多くの製造業者からは「何故、御社は日本にそれほど売れるのか。ノーハウを伝授願いたい」と依頼が本社に殺到したそうだ。
本社の答えは「何も特別なことをしている訳ではない。相手の市場の特質を理解してそれに合わせる努力をしただけ」だったそうだが、それ以外に何があるのかという問題だ。実際にはW社は「日本のメーカーや業者と競合する製品は売らない。日本の製造業では出来ない製品を輸出して補完することを第一義とする」を実践していたので、アメリカの同業他社との競合はあったものの、国産品との競合は先ず引き起こしていなかった。
例えば、私の主たる担当分野液体容器原紙などは実質的に1トンの国産紙もなかった。製紙用パルプは全輸入の30%以上のシェアーを持っていたが、それは我が国には競合する樹種がない針葉樹パルプを主体にしていたからだった。私は何も今更W社の宣伝をする気などはないが、このような我が国の市場の特殊性を認識して無用な競合を回避したから、ボーイング社に次いで全アメリカの会社の第2位となる対日輸出実績を積み上げられたのだった。
私が言いたいことは、トランプ大統領以下の連邦政府とアメリカの製造業の会社がそういう日本市場の特性を何処まで認識できていたか、自国の産業の問題点が何処にあるかを正確に把握することが、対日輸出を伸ばせるか否かの最重要課題だという点だ。私が知る限りでは、USTRの嘗ての強硬派カーラ・ヒルズ大使も、アメリカ大使館の商務部も問題が何処にあるかを正確に把握しておられた。
更に後難を恐れて具体的に言えば、アメリカ企業の日本乃至は東京駐在員に日本市場の特質をどれほど的確に心得た適切な人物を雇っていたかも問題だったと言えると思うのだ。ただ単に、英語が出来る人たちを「優秀で能力あり」と判断して採用していたのではないのかという問題はあると思っている。即ち、何もトランプ大統領に限ったことではなく、歴代の大統領がどれほど日本市場を理解し、その特質を認識しておられたかという問題はあると言えると思っている。
日本市場は国産品の優れた品質に馴れているので、非常に厳しく、小うるさくて難しくて、受け入れ基準が世界で最も厳しいと言えるのだ。アメリカ側の対日輸出の担当者たちがどれほどその日本とアメリカの違いを理解し認識して、日本の基準に合わせようと努力していたかどうかは重大な問題なのだ。具体的にいえば、アメリカ市場とは異なる品質を求めている市場に、アメリカで通用するからといって持ち込んでも受けないのは当たり前だったのだ。
例えば、未だに左ハンドルしか作っていないで「アメリカの優れた質の車を輸入しない日本が怪しからん」と言うのは「市場を理解せずに、日本規格に合わせようとしていない」努力を欠いている姿勢の問題なのだ。W社の我が事業部は苦心惨憺しても合わせたのだった。そういう市場の特性が異なる点をトランプ大統領に誰かがご進講申し上げるべきだと思う。
重ねて申し上げれば、トランプ大統領がこういう史実をご承知で言われているのかどうかが解らないのが辛いところなのだ。もしもご承知で言っておられるのだったら、事はより一層難しくなるだろうと危惧する。少なくとも、我が国で対アメリカ輸出を手がけているメーカーも商社も、アメリカ市場の特性を十分に承知で取り組んでいるのは間違いないと経験上も言えるのだが。
クリントン政権下で日本の紙パルプ産業界が「世界最高の品質であるアメリカ産の紙類を輸入しないのは怪しからん」と非難された頃に、日本市場に進出を企図していたW社の洋紙部の副社長に、私は「絶対に成功しないと保証する。それでも出たいと言われれば、成功しないことを立証する結果で宜しければ」という条件でお手伝いしたが、矢張り「成功」と言える段階には至らなかった。
理由は簡単で「アメリカの市場で受け入れられている紙質では、優秀な国産紙に飼い慣らされた日本市場には通用しない」と解りきっていたし、流通業者も「アメリカの原木とアメリカで受け入れられている品質は、例えどれほど優れていると自認されて持ち込まれても、日本市場には通用しそうもないほど違い過ぎるのでは」と判断していたからだった。米国と日本では「優れた品質」の基準が違いすぎたのだった。
トランプ大統領は「アメリカファースト」の旗印の下に対日貿易赤字の削減を目指されるのは当然だとは思う。だが、現実にこれまでにそのような歴史があって不振だったかを是非振り返って頂きたいものだと思う。少なくとも1990年代まではW社は上手く行っていたのだから。
先日も長老と語り合った際にも話題に上ったことだが、我が国は自動車の製造ではいち早くアメリカ自身が設定した排ガス規制をアメリカより先に達成したことが切っ掛けで、アメリカ市場を席巻して言わばデトロイトの崩壊の芽を作ったと言えるかも知れない。結果としてアメリカ側の要望を入れて自動車は輸出ではなく現地生産に転換した。それでも、未だにあの品質で左ハンドルしか作らないデトロイトの対日輸出が不振なのは当然だろうということ。
彼も私も、トランプ大統領に請願に出掛けたデトロイトのメーカーも、トランプ大統領自身もそういう歴史的な事実というか経過を知らないはずはないだろうに、依然として知らない(自覚していないとでも言うか)としか思えないような姿勢で、非関税障壁等でアメリカ産の車の輸入を阻んでいると非難するのは「本当に知らないのか、あるいは知っていて知らんふりなのかが見えない」という点で我々の見解は一致した。
以前にも述べたが、クリントン政権の下で対日輸出が不振で「買わない日本が怪しからん」と、スーパー301条の発動まで言い出して恫喝された時期に、W社はアメリカの対日貿易赤字削減に貢献したとしてアメリカ側の意向もあって通産省から表彰された実績がある。対日輸出を伸ばせないアメリカの多くの製造業者からは「何故、御社は日本にそれほど売れるのか。ノーハウを伝授願いたい」と依頼が本社に殺到したそうだ。
本社の答えは「何も特別なことをしている訳ではない。相手の市場の特質を理解してそれに合わせる努力をしただけ」だったそうだが、それ以外に何があるのかという問題だ。実際にはW社は「日本のメーカーや業者と競合する製品は売らない。日本の製造業では出来ない製品を輸出して補完することを第一義とする」を実践していたので、アメリカの同業他社との競合はあったものの、国産品との競合は先ず引き起こしていなかった。
例えば、私の主たる担当分野液体容器原紙などは実質的に1トンの国産紙もなかった。製紙用パルプは全輸入の30%以上のシェアーを持っていたが、それは我が国には競合する樹種がない針葉樹パルプを主体にしていたからだった。私は何も今更W社の宣伝をする気などはないが、このような我が国の市場の特殊性を認識して無用な競合を回避したから、ボーイング社に次いで全アメリカの会社の第2位となる対日輸出実績を積み上げられたのだった。
私が言いたいことは、トランプ大統領以下の連邦政府とアメリカの製造業の会社がそういう日本市場の特性を何処まで認識できていたか、自国の産業の問題点が何処にあるかを正確に把握することが、対日輸出を伸ばせるか否かの最重要課題だという点だ。私が知る限りでは、USTRの嘗ての強硬派カーラ・ヒルズ大使も、アメリカ大使館の商務部も問題が何処にあるかを正確に把握しておられた。
更に後難を恐れて具体的に言えば、アメリカ企業の日本乃至は東京駐在員に日本市場の特質をどれほど的確に心得た適切な人物を雇っていたかも問題だったと言えると思うのだ。ただ単に、英語が出来る人たちを「優秀で能力あり」と判断して採用していたのではないのかという問題はあると思っている。即ち、何もトランプ大統領に限ったことではなく、歴代の大統領がどれほど日本市場を理解し、その特質を認識しておられたかという問題はあると言えると思っている。
日本市場は国産品の優れた品質に馴れているので、非常に厳しく、小うるさくて難しくて、受け入れ基準が世界で最も厳しいと言えるのだ。アメリカ側の対日輸出の担当者たちがどれほどその日本とアメリカの違いを理解し認識して、日本の基準に合わせようと努力していたかどうかは重大な問題なのだ。具体的にいえば、アメリカ市場とは異なる品質を求めている市場に、アメリカで通用するからといって持ち込んでも受けないのは当たり前だったのだ。
例えば、未だに左ハンドルしか作っていないで「アメリカの優れた質の車を輸入しない日本が怪しからん」と言うのは「市場を理解せずに、日本規格に合わせようとしていない」努力を欠いている姿勢の問題なのだ。W社の我が事業部は苦心惨憺しても合わせたのだった。そういう市場の特性が異なる点をトランプ大統領に誰かがご進講申し上げるべきだと思う。
重ねて申し上げれば、トランプ大統領がこういう史実をご承知で言われているのかどうかが解らないのが辛いところなのだ。もしもご承知で言っておられるのだったら、事はより一層難しくなるだろうと危惧する。少なくとも、我が国で対アメリカ輸出を手がけているメーカーも商社も、アメリカ市場の特性を十分に承知で取り組んでいるのは間違いないと経験上も言えるのだが。
クリントン政権下で日本の紙パルプ産業界が「世界最高の品質であるアメリカ産の紙類を輸入しないのは怪しからん」と非難された頃に、日本市場に進出を企図していたW社の洋紙部の副社長に、私は「絶対に成功しないと保証する。それでも出たいと言われれば、成功しないことを立証する結果で宜しければ」という条件でお手伝いしたが、矢張り「成功」と言える段階には至らなかった。
理由は簡単で「アメリカの市場で受け入れられている紙質では、優秀な国産紙に飼い慣らされた日本市場には通用しない」と解りきっていたし、流通業者も「アメリカの原木とアメリカで受け入れられている品質は、例えどれほど優れていると自認されて持ち込まれても、日本市場には通用しそうもないほど違い過ぎるのでは」と判断していたからだった。米国と日本では「優れた品質」の基準が違いすぎたのだった。
トランプ大統領は「アメリカファースト」の旗印の下に対日貿易赤字の削減を目指されるのは当然だとは思う。だが、現実にこれまでにそのような歴史があって不振だったかを是非振り返って頂きたいものだと思う。少なくとも1990年代まではW社は上手く行っていたのだから。