新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ大統領の貿易赤字対策

2018-04-29 08:31:32 | コラム
我が国のせいにするのは間違いでは:

私は「我が国のトランプ大統領に関するマスコミ報道はアメリカのアンチ・トランプのテレビと新聞の fake news をそのまま垂れ流しているから悪評ばかりだ」という一部の有識者の意見をほぼ信じている。如何に個人的にトランプ大統領という人物が好きではない私でも、その偏向振りは奇怪であるというかフェアーではない思っている。

しかしながら、これまでに何度か批判してきたようにトランプ大統領は事国際的な貿易面には疎いのではないかと本気で疑っている。その典型的な例が我が国や中国に対してそこに長年生じている貿易赤字が怪しからん、即ちアメリカに売り込んでいる貿易相手国の責任であるが如き事を言われ、安全保障の為に鉄鋼とアルミの輸入に関税をかけるといいだしたのがその揺るがぬ証拠であると診てきた。だが、専門家ではない私にはそれ以上の解明が出来なかった。

そこに、宮崎哲弥氏が週刊文春に連載しているコラム「時々砲弾」でその点をUKの Financial Times(FT)の記事を引用して解りやすく説明していたので理解できたので、一寸長くはなるがご参考までに引用してみようと思い立った。

>引用開始
「トランプ大統領は、アメリカが全ての国に対して持つ「マクロの収支」における赤字と特定の一国に対して持つ「二国間収支」における赤字の双方をアメリカの損失と見做し、その責を貿易相手国に帰している。この貿易収支、あるいは貿易収支を含む経常収支についての認識は完全に間違っている。そもそも貿易赤字は氏の国の損失を意味するものではないし、貿易黒字はその国の得分を意味しない。かかる誤見を「重商主義の誤謬」と呼ぶ。

では経常収支(>貿易収支)の赤字の原因とは何か。FTは明解に答えている。「経常収支の赤字は主に関税や貿易規制ではなく、財政政策や人口動態、為替レートをふくめ主としてマクロ経済のさまざまな要因によって影響される。そうでなければ、赤字が意味するのは、インドのような国は慢性的な貿易赤字を抱えているから開かれた貿易体制を敷いているに違いない、ということになる。インドに輸出しようとした人なら誰でも、明らかにそうではないと証言するだろう。

経常収支の黒字、赤字は、各国の経済主体が最も有利と判断して選択した行動(=貯蓄投資バランス)の結果としてある。平たくいえば国内の需要が縮小し、国民の多くが貯蓄をする場合、経常収支は黒字に傾くことがあるし、国内消費が活発で、国民の多くが投資を行うような場合、経常収支は赤字となる。経常収支はこうした国内の経済活動を反映するものなのだ。

従って輸入産品に思い関税を課したり、貿易相手国に「市場開放」を強要したりしてしても、アメリカの貿易赤字は決して縮小することはない。仮に赤字減らしという目的が正しいとしても、この種の貿易政策は先ず役に立たない。トランプ大統領の国内向けの目玉政策である大幅な減税や巨額の公共投資は、米国の国内消費、投資を活発化させる。その結果として貿易赤字ますます膨れ上がるだろう」
<引用終わる

なるほどと思った。私は1970年代にM社に転出した頃に「アメリカは我が国に対して貿易では赤字になっているが、アメリカの産業界はこれに失望するべきではない。それは我が国の多くの製造業界の企業では米国の大手メーカーが持つ特許やライセンスを受けているので、それに対する出費というかアメリカ側が受け取っている毎年のローヤルテイーは決して少額ではない。こういう状況を考えればアメリカは必ずしも赤字を嘆く必要ないのでは」と聞かされていた。

この宮崎氏のFTの記事を引用して解説はより具体的な説得力があったと思って読んだ次第だ。いや、寧ろトランプ大統領とその側近にはあらためてFTをお読み願いたいとすら考えたのだった。いや、失礼を顧みずにもっと率直にいえば、この辺りにトランプ大統領の貿易の実務を経験されてこなかった弱点があるのではないかと思うのだ。