新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

4月20日 その2 アメリカの貿易政策の考察

2018-04-20 16:26:33 | コラム
私の主張:

私が言いたいことは「我がW社は懸命に努力して対日輸出を伸ばせば、幾らかでも貿易赤字を削減できるだろうか」と思っていました。W社であって私ではありません。だが、対日輸出が2,000億円/年にも満たない売上高しかない会社が全アメリカの第2位とあっては、他の会社は何をしていたのかという嘆きです。我々とその他の対日輸出に努力して来た企業をトランプ大統領に認めて頂かなければならないという主張です。幾ら努力しても日本からの輸入には追い付かなかったということです。

我が社が幾ら努力しても、アメリカが我が国から輸入し続ければ、赤字は解消しないのです。クリントン政権下だったと記憶しますが、2,000億円にも満たないという金額でも通産省から「対日貿易赤字削減に貢献した」と表彰されたと何度も言いました。それほど我が国の政府も工夫していたのですが、赤字はアメリカが思うようには減少しませんでした。

そういう努力をしていた企業もあったとトランプ様はご認識かという疑問です。貿易赤字が大きいのは努力していない会社が、業種があったということです。その点を無視して「売り続けた日本が怪しからんから安全保障の為に関税をかける」というのは宜しくないと思うのです。マスコミには色々な説を為す論客がいますが、彼らが対日輸出の現場に携わったのでしょうか。嘗て、上智大学経済学部の緒田原教授は一次産品ばかりの対日輸出の主な品目のリストを見て「これではアメリカは日本の植民地かと思わせるではないか」と指摘しました。

責めるべきは対日輸出に努力しなかったアメリカの企業です。我が社が2位だったということは牛肉等の畜産物業界も我が社以下しか売っていなかったし、カリフォルニア米でも同じでしょう。20世紀までは日本に最も近い地の利が良い西海岸から輸出されていたのは飼料用の干し草、アイダホー州のフレンチフライ用のジャガイモ等に加えて我が社の紙パルプ・林産物とうとうでした。自動車業界は未だに「非関税障壁があるのが怪しからん」などと言って他人のせいにしています。

トランプ大統領が世界の貿易の体系と言うか仕組みを変えてしまう方向を目指しておられるという見方があるのは結構なことでしょう。だが、その前に自国の企業の輸出マインドを向上させもっと対日輸出を増やせと督励されることもお考え願いたいのです。極論を言えば、私は貿易赤字の削減を考える前に、自分の仕事を目一杯やって job security を確実にすることを第一義に考えていました。

最後にこれを論じればまた大論文が書けますが、アメリカの企業が日本で雇っている日本人社員の質が最適だったかという問題があります。日本の企業が最優秀の人材で世界を股にかけて手腕を発揮したような人材をむざむざと手放すかということです。英語が出来るだけの能力の者を雇って結果を出そうとしていなかったかということを忘れてはなりません。

トランプ大統領が大きく広い視野に立って世界の貿易の秩序を変えてしまおうと考えておられるのかも知れませんが、私には中間選挙と第2期目の為の準備期間に早くも入られて、彼の公約を極力実行して、支持層であるプーアホワイト以下だけではなく、広い層からの支持獲得を目指しておられるのだと思えば、急に鉄鋼とアルミに関税をかけただけではなく、親友である安倍総理と貿易とその赤字を巡っての意見の相違が明らかになったのも当然かと思うのです。

アメリカの貿易赤字の考察

2018-04-20 07:54:57 | コラム
トランプ大統領の主張が正しいのか:

私はこれまでに少なくとも2度、所謂専門家が「トランプ大統領は担当部門や側近からのご進講(ブリーフィングでも良いか)を聞くのを好まれず、レポート類も精々レターサイズ(我が国のA4判に相当)で1枚程度に纏まっていないと読まない」と聞いた。矢張りそうだったかと妙に安心し納得した。矢張り、昨日だったかその専門家の一人が「トップダウンを好まれている」と指摘したが、それは最高権力者としての言わば executive decision に近いものだろうと思う。

昨19日までの安倍総理との首脳会談でトランプ大統領は鉄鋼とアルミへの関税賦課の除外とTPPへの復帰を肯んずることなく、何としても貿易赤字を削減する為にはFTAを好むと主張され、安部送致というか我が国との間に大きな溝があるという実態があらためて明らかとなった。私は何度も言ったことで「トランプ大統領が『アメリカファースト』の旗印の下に貿易赤字削減に邁進されることは理解できる」のである。

だが、私はトランプ大統領の主張は「日本とアメリカの貿易の歴史」という点から見れば正しくはないと思って聞いた。トランプ大統領は就任以来1年数ヶ月を経ているが、未だに我が国と中国がアメリカの貿易赤字を肥大化させた主犯だと思い込んでおられるようだと思う。恐らく側近か担当部署からのブリーフィングもご進講も受け入れておられないのだと疑う。歴史を詳細に資料を添えて語れば1時間やそこらで終わる性質ではないし、聞かれる大統領にとっては決して愉快な内容にはならないと思っている。

私は在職中にも、リタイヤーしてからも「自分からというか自発的に買っておきながら、売った方が悪いと言う主張は受け入れがたい」と主張してきた。何度も繰り返し指摘してして来たことで、産業を空洞化し、非耐久消費財を中国とうからの輸入に依存する態勢にして、基本的に内需に依存する経済を東海岸を中心とする形にしてしまっていながら、今更「貿易赤字は輸出してくる相手国の責任だ」というのはフェアーではないと思う。

これも既に何度か指摘したが、紙パルプ・林産物を我が国に年間精々2,000万円以下の輸出をしてきたW社が1990年代初頭には「アメリカの会社別対日輸出額ではボーイング社から遙かに離されたとは言え、第2位であったほどアメリカの対日輸出は不振というか少額だったのである。より細かいことを具体的に言えば「W社は米国の西北部に立地する会社で太平洋沿岸のアジアの諸国に輸出するのは当然」なのであった。

1990年代前半に幾度も方々で語る機会を得たが、アメリカの対日輸出が伸びない原因の一つとして「アメリカの少品種大量生産の製品の質が我が国の多品種少量生産で高品質の製品に慣らされ、且つ馴れていて『それが当然」』と受け止めている日本の消費者には容易に受け入れられなかった」という厳然たる事実があった。製紙業界では売れない原因を「日本の流通機構が複雑過ぎる」と捨て台詞を言って撤退していったメーカーが何社もあった。不見識で勉強不足だ。

これなどは「日本市場に対する調査不十分と、相互の文化の相違に全く気付いていない」で「我が社の品質こそ世界最高。買わない御社が間違っている」というアメリカではごく当たり前のマーケティングの手法が「傲慢」、「高飛車」、「認識不足」として、まるで通じなかったことを、あらためて指摘したい。国が違えば文化も違い、消費者の好みも違うという点を理解できなかった点が不振の原因でもあった。消費者の好みに合わせて物を作るという文化はアメリカにはなかったのである。

その悪い例が未だに左ハンドルの車しか作っていないにも拘わらず「買わない日本が悪い」と言い続けているデトロイトであろう。我が国の製造業界では「何としても輸出せねばならない」となれば左ハンドルの車を作ったし、我が社でも何とかして日本市場の細かくて厳しく(小うるさい)品質基準に合わせるよう、労働組合を「日本市場向けの品質を達成しない限り成功は愚かメーカーとして存続できない」と督励し説得して、日本市場における地位を確立した。

私には今更W社の自慢話をする気などない。だが、相手国の市場の要求(カタカナ語ならば「ニーズ」か)に合わせて、世界中何処に行っても通用するような品質とサービスノネットウワークを確立すべきだと言っているだけだ。そういう努力に欠けたアメリカの製造業者というかメーカーというか輸出業者が脱落していったという簡単な理屈を述べているのだ。

これも以前に何度か指摘した実話だが、かなりな論客の船社の営業担当者がいて言わばトランプ大統領のような「アメリカこそが世界最高」と常に主張していた。ところが、ある日彼が新車を買ったというので見れば日本車だった。「それは貴殿の日頃の主張と矛盾している。それでは貿易赤字を増やすだけでは」と言えば「何を言うか、自分の資金で買った自分の好みの車が偶々日本車だったというだけだ。自分にはここで貿易赤字などを考慮する必要などない」と言い切ったのだった。

この辺りにアメリカ人の自己主張の強さと「自分の為になれば、国益まで優先しないこともある」という個性が表れた実例であると思って聞いた。「アメリカ人は自分の好みを品物を買うのであるから、貿易赤字は免れないのだ」という、些か暴論のようなことが言えると思っている。ここで上述の「買っておきながら文句を言うとは」という点に戻ってくるのだ。私はトランプ大統領はこういう自国民の思考体系までお考えなのかと伺いたい気がするのだ。

私はそこには既に指摘した通りのことで、安倍総理とはゴルフをともに楽しむ間柄でありながら、アメリカの大統領としての職務と「アメリカファースト」の旗印は降ろす訳には行かなかったのだろうと見ている。ここから先の対アメリカの通商交渉は難しくなっていくだろうが、USTR等の人たちだけではなく、トランプ大統領に如何にして日本とアメリカの貿易の歴史とアメリカ側の問題点を正当に認識させるかも重要な課題となるだろう。

ここで私は最も気になることは「果たしてトランプ大統領は何もかもご承知で安倍総理との見解の相違を厭わずに主張しているのか、あるいは担当部署からのブリーフィングもご進講も無視されたので、ご存じないのかという点だ。もしも全てを把握された上での主張であれば、とんでもない安倍総理にも麻生大臣如何にも難題を突きつけられたと思うのである。私は上記の所謂専門家たちのトランプ大統領のお好みに関する情報が正しかったら良いがと思っている。