新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

「オーバーシュート」が戸籍を得てしまった

2020-04-12 10:53:06 | コラム
カタカナ語の排斥論者の嘆き:

「なるほど。カタカナ語はこういう過程を経て日本語に組み込まれていくのか」という典型的(な悪い)例を、この度の新型コロナウイするの感染の急激な広がりのお陰で、初めて知ることが出来た。それは何度も繰り返して指摘した尾身茂副座長の「オーバーシュート」と「ロックダウン」を使われたことで、小池都知事が無分別に「所謂」を頭に付けて引用され、不勉強なマスメディアも追随したので瞬く間に「爆発的患者急増」と「都市封鎖」というチャンとした漢字を使った表現を蹴散らして、日本語の中に確たる地位を得てしまった。本当に嘆かわしいことだと怒っている。

何度か尾身茂副座長の記者会見での発言を録音で聞く機会があったが、同氏は「爆発的患者急増」と先に言っておきながら「オーバーシュート」と補足されているのだ。私にとっては初めて聞いた言葉だったが、字面で「何かよりも余計になったことか」という察しがついた。だが「爆発的患者急増」という意味はないだろうくらいは直ちに分かった。「ロックダウン」にしたところで同じ事で、如何なる辞書にも「都市封鎖」とは出てこないので、「オーバーシュート」と共に永年の知り合いであるMBAの知性高き、元の上司の奥方に教えを乞うたのだった。

私が再三指摘してきたように尾身茂副座長の英語の単語の使い方は明らかに誤りであるだけではなく、あの記者会見の中で英語の単語を使われる必然性はないだけではなく、その必要もなかったと思う。尾身茂氏が医学界でどれほどの権威者かなど知る由もないが、同氏が英語の使い手として専門家会議に招聘された訳ではないと思う。そうであれば、「どうだ、留学したから英語を知っているぞ」と衒っているだけのことになってしまう。そうすると「こういう地位の方がお使いになったのだから」とばかりに、追随する者どもが出てきてしまうのだと良く解った。

何度も指摘したことだが、「テレビや新聞の連中は辞書を見て確かめるくらいの知恵は無いのか」と呆れている。「尾身茂副座長様。お間違いではありませんか」というくらいの度胸はないのかと哀れにすら思っている。新聞社の連中は「社会の木鐸」とかほざいていたのではなかったのかと訊いてみたくなる。

マスメディアの連中が無秩序且つ無反省に日本語の中に組み込んでしまったカタカナ語は無数にある。「何故彼等には自浄能力がないのか」と不思議に思わせられる言葉が幾らでも手近にある。彼らが「これはおかしい」と気付かないのが不思議なくらいだ。MLBを気軽に「メジャー」と言うが、“major”の何処を読めば「メジャー」になるのか。だが、彼等は定着させてしまったし、知的水準が高いはずの専門家の方々も平気で「メジャー」と言うのも天下の奇観だ。しかも、彼等は同じMLBの“minor league”を「ミノル・リーグ」とは表記しない。

彼等は「チャート」を掲げて無反省に「フリップ」と言うし、専門家の方々も躊躇わずに真似ておられる。彼等には「大学か大学院かの何処かで、“flip chart”という表現に出会ったことがない」とは言わせたくないのだ。だが、知性高く教養のあるはずのお方が使われれば、誰でもが「フリップ」(=“flip”)がジーニアス英和辞典には「物を(指先などで)ピンとはじく」とあるくらいは調べられるはずだ。だが、既にこれも戸籍を得てしまった。要するにマスメディアは権威者に盲従する傾向があると思う。

私はもう言っても無駄だと思うのだが、何処かのアホな官庁というか官僚は「英語教育を小学校の3年から」などと戯言を言い、中止にはなったが大学の入試にTOEICだの何のというテストを使おうと言い出したくらいに英語教育に熱心なのだが、おかしなカタカナ語の製造と使用を止めよと一向に言わないのは矛盾ではないのか。何度も指摘して来たことで、カタカナ語の99.9%は英語本来の意味とはかけ離れていて、外国人には「通じない」のだ。

例えば、ハーバードのMBAである精鋭他数名のアメリカ人に「メイン・バンク」を知っているかと試み尋ねてみると「FRBか日本銀行のことか」という答えが出てきた。「ケースバイケース」(=“case by case”)は英語では「一件ごとに」という意味でしかあり得ない。だが、これも立派な専門家の方々は躊躇わずに誤用されている。英単語の知識が豊富になるように教え込まれてきたはずなのに、こんな簡単なphraseでも「専門家が使うのだから」と思ってしまうようだ。

もう、これくらい言えば良いだろう。カタカナ語の排斥論者はただ単に排斥しようとだけ考えているのではない。英語を外国人にも通用するように教えようというのならば、このような言葉の誤用を避けよと英語教師たちに指示(指令?)して然るべきではないのか。マスメディアは尾身茂副座長は英語の専門家として副座長に招聘されたのではないくらいは承知していただろうに。