新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

何故アメリカのビジネスマンたちが「春闘」を理解できなかったか

2021-12-05 10:50:25 | コラム
彼らアメリカの会社員たちは団体交渉で昇給を勝ち取るのではないのだから:

アメリカの製造業の世界では4年制大学の新規卒業者を定期的に採用することはない。また仮令新卒で採用されることがあっても、我が国とは異なって労働組合に所属することから出発する制度にはなっていない。但し、銀行・証券業界等では新卒者を採用しているようだ。我が国との絶対的な違いは「会社側に属する者たちはサラリー制(年俸制)であり、昇給するか据え置きかあるいは減俸か等は、人事権を持つ所属長との個別の話し合いで決まるので団体交渉などはあり得ないのだ。また、社員による労働組合などは勿論組織されている訳などない」のである。

であるから、何事も個人が主体であるアメリカで会社側に所属している管理職等が我が国にやって来て、春闘に接して「労働組合の代表が経営者側と団体交渉をすること」など理解できないのは当然なのだった。

また、「労働組合とは会社に属する組織ではなく、工場では業界横断の職能別組合(Craft union)の時間給制の組合員が生産業務を担当している」という点が我が国との大きな違いなのである。労働組合とは法律で保護された組織で、会社側と組合は別組織で、我が国のような社内の組織ではないのだ。労働組合が会社とは別個の組織であるから、組合員が(我が国のように)会社側に転じていく、乃至は一定年数を経れば昇進していくことはないのである。

因みに、アメリカ西海岸の紙パルプ産業界ではAWPPW(Association of Western Pulp and Paper Workers)という紙パルプ専門の組合に所属する者たちが紙とパルプの製造を担当し、電気関係はその専門の労組の者が担当し、他にも営繕関係や輸送関係の組合員が勤務しているという構造である。以前にも取り上げたことだが、製紙の現場で電気関係の事故が発生した際にAWPPWの組合員はコードをソケットから引き抜けば済むような場合でも、電気の組合員が到着するまで待っていなければならないのだ。

私は労働組合とは無縁の会社側にいたので、組合員の労働条件や時間給等の交渉の場が何処にあるのかなどに関心がなかったし、知る必要もなかったので、これ以上何も語るべき材料の持ち合わせはない。

労働組合とは別の組織である会社側では、人事権を持つ各事業部の長である本部長が必要によって新規に担当者を採用するか、引退か辞職等によって生じた欠員を補充する為に、即戦力となるだろう候補者と面談で話し合って採用するのだ。ウエアーハウザーではこういう場合には、先ず社内の公募から始めていた。と言うことは、その事業部に所属する者たちの入社年次も、学歴も職歴もまちまちであり、我が国の会社組織のように同じような年齢の者が定期的に採用されることもあり得ないのだ。

そして、事業部員たちは入社から1年経った後で事業部長との“review meeting”などと言われる面談で実績を検討して、昇給か、据え置きか、減俸か、馘首かを話し合うのである。この面談だが、全員の入社日がバラバラであるので事業部長は1年365日このreview meetingをしていなければならなくなる。そこで、我が事業部では一括して同じ頃に全員が1年に1度行うようにしていた。このような個人が単位となっている制度だから、年俸制の社員が所属長に闘争などを挑む訳がないのだ。

以上は、昨日の「我が国の上がらない給与水準に思う」が説明不足だったと反省したので、ここに敢えて補完しようと思うに至った次第である。