新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

「そういう事態が起きることなどないだろう」などと思うな

2022-07-11 08:20:19 | コラム
アメリカ/ヨーロッパの人たちの物の考え方:

「白人たち」としても良かったかも知れない。この度の何とも取り返しが付かない安倍晋三元総理が狂弾に倒れられた事案で、あの奈良県における警備体制の不行き届きが大きく取り上げられ、アメリカのその道の専門家にまで批判されてしまった。私は我が国の警察組織自体がこのような不測の事態に対する速やかな対応に不慣れな点があったと見ているが、最悪の結果になってしまったことの原因は他にもあると思っている。

それが、私が永年指摘し続けてきた「我々と白人の世界との思考体系の違いであり、物の考え方の違いである」に帰結すると思っている。奈良県警の警戒態勢に問題はあったが、あの安倍元総理の背中側が全く無警戒だったことが示していたのは「まさか、我が国、しかも我が県で安倍晋三元総理を狙撃する悪漢が現れることなどあるまい」と決め込んでいた事ではないのか。であるから、数十名もいた警察官の中で誰一人として背中側の警備に当たっていなかったのではないか。

私はこの度の事件もあって、既に彼ら白人たちがどのように「まさか」乃至は「万が一」という事態が発生したら如何に対処するかを常に考えて行動している実例を挙げてきた。だが、実際に彼らの中で働いたことがない評論家やジャーナリストたちは「このような彼らの物の考え方というか『まさか』の事態への彼我の対処の違いを認識出来ていないのではないか」としか思えないのだ。解っていれば、奈良であのような事態に至る前に防げたかも知れないのだ。

改めて「相違点」を示す具体的な例を挙げていこう。1980年台末期だったと思う。我が事業部で未だ未だ伸び代が残っていると期待していた中規模の得意先に、副社長と図って刺激策(インセンティブ等とも言うが)を提示しよう(英語では“dangle a carrot”などと言う)と売上げを伸ばして原紙の購入量が増えた場合の「数量値引き契約」を提案したのだった。

その前の副社長との打ち合わせの際に、私は現状を100として、最高到達点を150として段階的に値引き額を増やそうと提案した、副社長の案は最高到達点を300にするとなっていた。「あの会社の能力ではあり得ない数字だ」と反対したら一蹴された「万が一300に達した時の値引き額を提示してなかったから、何もしないという気か」と言って。打ちのめされた気がした。300を限度として契約した。私が94年の1月でリタイアした後では300に到達するまで成長していた。

リタイアした後のことだったが、かのイチロー君が我が社の地元の球団である「シアトルマリナーズ」で大活躍した。私が知る限りでは恰も単打製造機であるかの如きイチロー君は、翌年の契約を結ぶ際には「ホームラン王になったら」との条項を必ず入れていたそうだ。

その事をアメリカに遊びに行った際に元の仲間たちと食事の機会があった。そこでイチロー君の契約の件を持ちだしてみた。すると彼らは「その話の何処が珍しいのか。当然だろう。何でそんな事を言うのか」と、全く相手にしてくれなかった。20年以上も彼らの中にいて、こんな事を話題に持ち出して不明を一人静かに恥じていた。このように「まさか」に備えておくのが彼らの物の見方であり、考え方なのだ。

また先日は「フランスの会社と合弁の化学工場の安全対策案」を立てた級友が完璧だと自信があった案をフランス側に提示した。所が「航空機を使って襲われた場合の対策が入っていない」と却下されたという経験談を取り上げた。この例が示すことは、奈良県警は「まさか、暴漢が車道に出て安倍晋三元総理を背面から狙撃するとは想定していなかったのだ」という点ではないか。ここでも「万が一」と「まさか」を想定しておくべきだとの教訓になっていたのだった。

何も自慢しようというのではないが、私は白人の世界に20年以上も勤務していたので、彼らの物の見方と考え方を現場で知り得るというか学ぶ機会があったのだ。何も、そういう事を学習しようとして入っていった世界ではないが、知らず知らずの間にこのような彼我の思考体系の違いと文化の相違点を経験し、理解できただけのことだ。

だが、この度の残念至極な事件があって、矢張り彼らの物の考え方と見方には我が国でも取り入れるべき点がある事を、あらためて痛感したのだ。そこで、何も奈良県警にだけではなく、広く失敗の例に学んで貰えば如何と考えて、経験から得た教訓を取り上げた次第だ。