勉強と認識の不足かあるいは勘違いでは:
私は怒っているのだ。
小田急百貨店(小田急電鉄)から葉書で「紙の削減による自然環境保護推進のため、WEB明細への切り替えをお願いしております」との通知が来た。偽らざる所を言えば「又かよ。何を勘違いしているのか」というのが感想だった。昨年だったか、東京電力からも同様な主旨で「毎月の検針票をこれまで通りの紙にするかWebにするかの選択」を迫られた。紙の検針票を選択しておいた。
非常に遺憾なことは、我が国には製紙会社と日本製紙連合会の懸命な広報活動にも拘わらず、未だに1980年台に我が国では「紙は貴重な天然資源である森林を野放図に伐採するだけはなく、無闇に浪費して環境を破壊している。紙の消費を避けるべきだ」という誤った観念が広く普及して、製紙会社は悪の如くに指弾された時期があった。我々に言わせれば「環境保護論者たちのとんでもない誤った認識である」のだった。
それ以後は業界を挙げてその誤解と誤認識と勘違いを正すべく努力してきた。私は1994年1月末で引退したが、この誤解が未だに尾を引いているとは思ってもいなかった。ウエアーハウザー社は我が国に対する製紙の原料の木材チップと製紙用パルプ(そして一時は古紙も)の最大の供給会社だった。木材資源の面では我が国は決して豊ではないので、アメリカ他の森林資源が豊かな国からの輸入に依存していた。
勿論、北海道や東北地方には豊かな闊葉樹林があり自給自足とまでは行かなくても、その資源も活用されていた。そして、間違いなく認識して貰いたい事は「如何なる製紙会社も木材業者も、無計画に貴重な森林を伐採するようなことはない」のだ。しかも現在では森林認証制度があって
「適正に管理された認証森林から生産される木材等を生産・流通・加工工程でラベルを付すなどして分別し、表示管理することにより、消費者の選択的な購入を通じて持続的な森林経営を支援する仕組みです。 これにより、森林・林業の成長産業化に寄与し、地域振興や資源循環型の社会の実現を目指すことができます。」
なっているので、木材資源はキチンと管理されている。
言い換えれば乱伐や盗伐などあり得ないのだ。また、製紙会社自社林を厳重に管理して、伐採した跡には自社で育てた苗を植えて伐採できるようになるまで育成しているのだ。また、我が社では50年かけて育成した針葉樹を伐採し、製材し、残渣を木材チップにしてパルプと製紙の原料にしている。更にそのパルプとチップを我が国に供給してきた。
この頃、私が環境保護論者を揶揄していたことは「紙の消費を節約すれば、何処か海外の国の木材資源を保護していることになるとご承知か」と。あの当時だったか、あるそそっかしい有識者は東南アジアの某国で焼き畑農法によって消えてしまったマングローブ林の跡地を見て「こうやって貴重な天然資源が百貨店の包装紙などになって浪費されているのか」と嘆いて見せたのだった。将に無知と不勉強の産物だった。
私が引退した後では、多くの製紙会社は海外に大規模な自社林を育成し、そこで発生したチップを国内に輸送して消費していると聞いている。その海外の森林でもウエアーハウザーが実施していた「管理された森林」(=managed forest)と同じように「種苗から育成して、伐採した跡の森林地に植えて、成長したら伐採し、又苗を植える」と循環させているのだ。管理の意味には「間引きし下枝を払って酸素の循環を計り、日光が地面に当たるようにする」がある。
この度の小田急電鉄(小田急百貨店)のお知らせを見て感じたことは、「もしかして、彼らは未だに1990頃までに認識でいるのか、何か勘違いしているのではないか」なのだ。また、楽楽清算のテレビCMでは「未だ紙かよ」などと横沢に絶叫させている。何時何処で、製紙産業が天然資源を浪費していると言うのか。認識不足も甚だしい。
敢えて申し添えておくと、ウエアーハウザーが来たアメリカに保有する森林地は約600万エーカー(1エーカー≠1,200坪)だから、四国全体の面積よりも広いのだ。そこで切り出された木は円形の真ん中から製材品を伐りだして、残った外側の三日月型の部分を砕いてチップにしている。又、間伐材や風倒木や切り落とした下枝等は工場に持ち込んで燃やして、発電等のエネルギー源にしている。何一つ無駄はないのだ。これでも「自然環境保護推進」の為に紙の消費を削減すると言うか。