Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『夏の庭』

2011-05-18 20:57:27 | 読書。
読書。
『夏の庭』 湯本香樹実
を読んだ。

1992年発表の湯本さんの処女小説。
映画化もされた作品だそうで、海外でも何カ国かで翻訳されているようです。
というか、今回(けっこう前なんだけど)、なにげに新潮文庫のサイトを見て
面白いかなぁと思って買って読んでみたのです。

正統派の柔らかい感じの小説と読めました。
ところどころ、固有の経験からくる知識をちりばめたようなところや、
素直な感性からくる登場人物の感情表現や描写などが特徴的です。
といっても、すごく個性が強いというものでもありません。
奇人でも変人でもない、強烈な個性というものではない人が
書いた良作という気がしますが、その評価はまた湯本さんの他の作品を
読んでみなければはっきりと言いきることはできないでしょうか。

木山(主人公)、山下、河辺の小学生トリオ。
そして今ならばストーカー法で違法扱いになるような行為を通じて
関わることになるおじいさん。
彼らは彼らなりのキリキリした現実の中で生きているのだろうけれど、
この作品の中の描き方では、ふんわりしています。
まるで、問題をとらえても、視点を変えるとそれほど辛くないんだとでも言うような。
物事の捉えかた一つで、世の中は変わる。マインド次第。
その一つの、世の中の見え方を変えたものが、
木山の視点そして彼らの日常の描写なのかもしれない。
とはいえ、そりゃ、小学生の視点だからそんなに堅苦しくないんだなんて
言われたら、そうですね、っていうことになりそうですが、
それでも、そんな彼らの有り様でいて何か不都合はありますか、と逆に問いたいくらい、
特に困った点は見受けられなかったりするんですよね。

性的な意味じゃないですが、子供時代の終焉の夏をスケッチしていて、
穏やかに、滋味のある思い出が生まれたところが語られている。
宝石みたいだなんていう感じのきらきらした具合ではないかもしれない。
でも、宝石以上の、輝きの重みのあるものを、
少年たちは胸の中に手に入れたのだなという気がします。
そして、それを読む、僕らは、自分の少年時代の感性、
もう失われてしまったか、どこかにしまいこまれてしまった、
人間としての初期の感覚(子供の感覚)を、ほのかな香りを嗅ぐように楽しむことになります。

過度に感情に訴えないところが、抑制されたストーリーとして評価されるものなのかな。
そう感じない人もいるでしょうが、うまく構成されていますね。
読みやすくもあったので、読書をしてその内容から問題を抱えたくない人には向いていると思います。

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