Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『日本語教室』

2013-07-12 00:56:25 | 読書。
読書。
『日本語教室』 井上ひさし
を読んだ。

「ひょっこりひょうたん島」の脚本を書いていたのが、
この本の著者である井上ひさしさんでした。
その他にも、小説や、芝居の戯曲を多数残し、2010年に亡くなっています。
僕は名前しか井上さんのことは知らなかったですが、
この本を読んでみると、彼の学識の深さと、
それを咀嚼して簡単な言葉で人に伝える力と、
その内容の面白さ(学問の面白さ)を大事する姿勢の素晴らしさに
圧倒されずにはいられませんでした。

序盤などは、茶髪にふれて、「ちょっと頭が固いおじさんだな」という
印象を持ちましたし、他にもそういうところがちらほら見受けられました。
でも、一冊まるまる読むと、そういったところはちょっとした
心のニキビのようなものだったりもして、
井上さんの根っこのところは、もう少し寛容でおおらかだよなぁと感じられる。

本書は、僕やあなたの母語である
(そうじゃない方もいるかもしれませんが)日本語について、
その「今」「なりたち」「特徴」「ルール」などをかいつまみながらも、
井上さんの視点からとらえた彼なりの要点というものを軸に、
しっかりと説明してくれます。
といっても、180pくらいの新書ですから、網羅的かつ専門的に
論じている本ではないわけです。
本ではないというか、もともとが上智大学での4回の講義をテキスト化したものなので、
研究のさわりや彼の推論を楽しむような講座なのです。
おまけに、笑いに満ちていたりします。

本書の内容を感じてもらうための具体的なトピックを一つ紹介するならば、
ちょっと日本語から離れてしまいますが、ピジン語とクレオールの話がいいでしょうか。
ピジン語というのは、たとえば英語を知らない奴隷の人たちが、
主人の英語を聴いて仕事をするうちに、少しづつその内容がわかってきて、
自分のネイティブの言語をもとに、それを応用しながら英語を話すようになる。
そういった英語をピジン・イングリッシュといい、
フランス語などでもそういうのが見られるそうで、総称するとピジン語です。
それで、その奴隷の二世ともなると、そんな不完全なピジン語を話す父母に
育てられるのですが、そのピジン語を完璧に使い始めるそうです。
そうすると、クレオールという、安定した言葉ができあがるのだそうです。
1世が自分のネイティブと被支配の言語の混ざったものをぎこちなく使うのに比べて、
それを生まれたころから聴いて育つ2世ともなると、
そんな言語の要点をうまく把握して、滑らかで合理的でさえある言葉にしてしまう
ということらしいです。

面白いと思いませんか。
言葉というものはこうやって柔軟に改造され創造されていく面があります。
日本でも、外来語が定着するのには、1世ではまだ不完全で、
2世になってから安定すると言われると、なんとなく納得できる節はないでしょうか。

さらに、僕は個人的に考えたのですが、これって音楽にも言えます。
たとえば、テクノという音楽が出てきて、それを作った人たちと同世代の人たちよりも、
一回り下の、それらを子どもの頃に聴いて育った世代のほうが、違和感なく
テクノの音楽を理解し、作れたりする。言葉でいえば、クレオールってものが
そこにあるんじゃないでしょうか。僕なんかがわかりやすくクレオールを感じるのは、
Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅさんをプロデュースする中田ヤスタカさんですね。
彼の音楽には、テクノやポップスが定着した後の、普段着的な音使い、音の構築を感じます。

閑話休題。
この本には、そういった脱線的な話題もふんだんに盛り込まれ、
そこが面白かったりし、なおかつ読者もそんな脱線に触発されて、
自由な脱線思索を読書中に味わうこともあろうかと思います。

井上さんの軽妙さがベースにありますので、読みやすい本です。
内容については、日本語についてもっと勉強したい人にとっては、
プロローグになるでしょう。

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