読書。
『日本人のための世界史入門』 小谷野敦
を読んだ。
西洋では古代ギリシャ、東洋では三皇五帝、といった紀元前の時代から現代までを一気呵成に通貫した世界史読本。
著者の印象は、いわゆる「むずかしい人」とされるタイプなのではないのかなあ、と読み始めからちょっと感じました。これはダメ、あれは良い、と端々で仕訳が始まるのですが、その判断基準の統一性がよくわからず「むずかしい」のでした。それでも歴史の要約の仕方が巧みで、語り口もおもしろいので、著者のクセさえ認められたならばあれよあれよと読めてしまうでしょう。
世界史のアウトラインを辿っていくような感覚です。270ページに世界史を詰めこんでいるぶん、かなりのスピードで一時代が過ぎ去っていきます。でも要諦をつかんで書かれていますし、生煮えの知識を出してくるわけではありませんから、かゆいところに手が届くような心地よいわかりやすさがあり、そして面白みがある。
歴史の流れを追っていく中で、たびたびの豆知識やちょこちょこ脱線する箇所がでてきます。しかしそれが、ただただ歴史の流れを追っていくならばずっと平面図を見ているような感覚でいるだろうところを、世界史勉強に起伏のようなものを感じることができる仕掛けになっている。といっても、著者にそういった意図があったかどうかはわからないですが。しかしながら、ほんとうに博識だからこそ成せる書き方ではあります。
英国の王家ってドイツやフランスなど各国から連れてきていて、現在の王家はドイツ系なんだなあだとか、モンゴル帝国の版図の広げ方のすさまじさを改めて感じたりだとか、フランスの死刑執行人は代々サンソン家だった(漫画作品がありましたね)などのフランス革命の周辺知識だとか、京都を米軍が空襲しなかったのは、文化遺産を尊重したというのは日本人の誤解をGHQが利用しただけで、原爆投下の候補地のひとつだったからその効果を後で検証するべくそのままにしておいただとか、この本ひとつでも、雑談を咲かせるネタが豊富です。
こうやってまず概観してから世界史の気になるところを知っていくのは方法として良さそう。著者は最後に述べています。学者でもない一般人は、「だいだい」知っていればいいのだ、と。何も知らないのでは困るけれど、でも「だいたい」でいい、ほどほどでいいんだよ、と言ってくれていました。気張らずに学べることって、ふつうの人には良いことです。