Fish On The Boat

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『サラバ! 上下』

2016-09-02 21:29:14 | 読書。
読書。
『サラバ! 上下』 西加奈子
を読んだ。

西加奈子さんの直木賞受賞作。

海外の伝記ものや人物特集ノンフィクションのように、
主人公のルーツ、それも祖父母にまでさかのぼって、
そのエピソードや自らにつながるエッセンスなどが綴られていっている。
海外のそんな伝記もののスタイルを小説に取り入れているなあと
読み受けながら、物語は始まっていきました。

重要人物の主人公の姉が、もう子どものころから、
常軌を逸する行動をとりますが、
そこに滑稽さと苦しみが表裏一体にあらわれています。
その姉が終盤にどうなっていくか、大きなポイントになっています。

また、
始めからそう感じたのだけれども、
発見というよりも、そして再発見というよりもむしろ、
「思い出させられる」という言葉がしっくりきます。
それも、記憶の深い底に沈澱していたものが眼前に浮上させられて、
再度味わい、感情や感覚が甦ってくるような体験をともなうかたちで。

でも、それと同時に、書き手の作為というか技術というか、そういうものも感じる。
作っているものだということを受けとめるような感情体験(知的体験)もある。
とくにそれは、幼少時のエピソードのところに強く感じました。
そして、『サラバ!』には知的な飛躍がなくて、
無理解の土壌と地続きになっている考察や内省の言語表現があるように読み受けている。

そこらへんには、
石川直樹さんのエッセイを読んだ時にも感じたけれど、
西加奈子さんの小説を読んでもその言葉の扱い方というか
表現の仕方に自分と近しいようなものを感じるんですよ、失礼ながら。
たぶん、それが同世代・同年生まれであるということでのみ繋がる
なにかなのかなあと思ったり。違うかな。

最後まで読んでみると、
ひとが30代にして直面していく重要な問題を、
そらすことなくぶつかっていく姿勢で書かれた、
面白くて最後には力が湧くような作品だったなあという感想。

主人公のように、
人生いろいろと思い出すのが面倒だったり
おざなりにしてきたこれまでの行動や思考なんかを、
できるだけ言語化して外部化してそれを再度取り入れるようなことをすると、
ひとって元気になるのかもしれないと思ったし、
自分もそうしてきたことを再確認しました。

なにより、膨大な、主人公が生きてきた時間をなぞる読書になりますから、
そうやって「僕以外の僕」として感情移入以上にその主人公になりきって
物語を体験していく性格の強い、本当に強い物語だったなあと感じています。
他の小説以上に他人の人生を体験しているかのようでした。

おもしろかったです。
そして、自分と、作者の西加奈子さんに近しいものを、
僭越ながら感じたりもしました。
なにせ、ぼくの書いた短編(まだ未発表)も、
(ツイッター友の『サラバ!』評の言葉を借りると)
「救いの物語」「肯定の物語」の方面だからなんですねー。
そのうち、公開になります。



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