先日、
スイスのシャスラワイン8アイテムを飲み比べるワイン会を、輸入元さんの協力の下、開催しました。
参加者は、ワイン好き&ワインに詳しい友人が中心です。
シャスラワインについては、以前に何度かここでも紹介してきましたが、改めてまとめてみます。
シャスラ -Chasselas-
【産地】
シャスラは、スイス、フランスのサヴォワ、ロワール、アルザス、ドイツやオーストリア、ハンガリーのほか、東欧、北アフリカ、アメリカなどでも栽培されている白ブドウ品種です。
シャスラの歴史はミステリアスで、5000年前のエジプトで栽培されていたとも、中東が起源だともいわれます。
非常に古いブドウ品種であることは、栽培地域が広いことが証明しているでしょうか。
エジプト説の一方で、シャスラのルーツはスイスやフランスであると、DNAなどから分析するスイスの研究者もいます。
世界のシャスラの8割はスイスで栽培されていますから、スイス&フランス起源説の方が有力といえそう?
スイス全体では、ヴァレー州(Canton of Valais)が最もブドウ栽培面積およびワイン生産量が多く(35%)、ヴォー州(Canton of Vaud)は第2位(26%)。
しかしながら、
シャスラに関していえばヴォー州が最大の産地であり、また、
ヴォー州の生産量の65%をシャスラが占めています。
ヴォー州はレマン湖北岸を中心とする地域を中心に栽培地が集中し、ヴァレー州は、レマン湖の南東に栽培地が広がります。
なお、スイス全体で第3位の栽培地域はジュネーヴ州(Canton of Geneve)で、レマン湖の西端のジュネーヴの周辺にブドウ畑が広がっています(9%)。
シャスラの栽培地域はフランス語圏(フランス国境に近い西部地域)に集中しています。
スイス北東部のドイツ語圏では、シャスラはほとんど見られません。
フランス でのシャスラは、テーブルワイン用に使われたり、アルザスでは最も下の品種としてエデルツヴィッカー(複数品種のブレンドワイン)に混ぜられたりと、少々軽く扱われてきました。ただし、スイスに近いサヴォワのクレピーでは、高品質のシャスラのワインを産出することで知られています。
シャスラの起源がスイスとフランスにあるという説は、このあたりと関係が深そうです。
ドイツ では、シャスラは“グートエーデル”(Gutedel)、“すぐれた高貴なもの”と呼ばれます。フランスでは下級扱いされがちでしたが、ドイツでの呼び名は厚遇されているのが面白いですね。バーデン南部のトゥーニベルクの南から、スイス国境の町バーゼルに至る周辺で最も多く栽培されています(地域全体の50%にもなります)。
シャスラの別名はほかにもあり、スイスのヴァレー州では
ファンダン(Fendant)と呼ばれ、ヴォー州でもまれに
ドラン(Dorin)と呼ばれることがあります。
また、フランスでは、
シャスラ・ドレ(Chasselas Doré)と、ドレ(黄金の-)が付けられることもあります。
【特徴】
シャスラの果皮は緑で、熟すと黄色味を帯びます。
赤い果皮のRoter Gutedelと呼ばれるものもまれにありますが、基本的には黄緑~黄色のブドウと考えていいでしょう。
品種特有の香りや味わいがニュートラル であり、また、樹勢が強くて多産な性質ゆえ、適切な剪定や収量コントロールを行わなければ、特徴のない軽いタイプのワインになりがちで、他の品種(ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、ピノ・グリなど)とブレンドされてしまう理由もよくわかります。
しかしながら、シャスラは、品種特有の香りや味わいがニュートラルだからこそ、
土地の気候や土壌をよく表現する品種といわれます。
つまり、
シャスラは、栽培される場所により、さまざまな個性をもつワインになります。
ただし、ニュートラルとはいえ、基本的には、
フルーティーさ、フローラルさ、ミネラル感があり、繊細で上品という資質をもち、
よい酸味があります。また、よくできたものは長期熟成も可能なワインになるといわれます。
今回は、シャスラ最大の産地である
ヴォー州から6生産者の8つのシャスラワインを用意し、産地ごとに比較しながら飲んでみました。
シャスラの前に、まずは
ロゼワインで乾杯し、軽く舌慣らしです。
AOC La Côte Vinzel Grand Cru Nizeré 2012 Château le Rosey
(ラ・コート ヴァンゼル・グラン・クリュ - ニゼーレ シャトー・ル・ロゼー)
ガメイ100%で、直接圧搾により白ワイン的につくられたロゼワイン。
かわいらしい色とチャーミングな酸味が魅力で、タッチが軽やかで上品。
アペリティフに最適ですが、軽い前菜の料理にも余裕で合わせられます。
産地は、
ラ・コート地区ヴァンゼル村。
次からのシャスラに進む前に、ヴォー州の産地を確認しておきましょう。
【ヴォー州の産地】
ヴォー州の産地は大きく4地区あります(AOC数は28)
La Côte、 Lavaux、 Chablais、 Northern Vaud
今回登場したのは前3つで、ブドウ畑はレマン湖の北側~南東部に広がります。
レマン湖の北岸のちょうど真ん中に州都のローザンヌがあります。
ローザンヌよりも
西側はゆるやかな地形ですが、
東側は山々がレマン湖の近くまで迫り、傾斜が厳しい地形になります。また、土壌も異なります。
ラ・コート - La Côte-
ローザンヌから西側のレマン湖北岸に広がり、ヴォー州のワインの40%を生産する最大の産地。
石灰質、粘土質、チョークなど、さまざまなタイプで構成される堆積土壌(モレーン土壌)で、湖に近い場所では特に多くの小石を含みます。
ラ・コートのシャスラは、フローラルなアロマを特徴としているといわれます。
ラヴォー -Lavaux-
ローザンヌの東側からレマン湖東端のモントルーの間に広がる生産地区で、畑自体がユネスコの世界遺産に登録されています。
小石、マール、粘土などが混ざるモレーン土壌で、ブドウは、太陽、レマン湖からの反射光、急斜面の石垣の地熱で育てられ、ワインはミネラリッシュな風味が特徴といわれます。特筆すべきは、デザレー村とサンサフォラン村で、スイス最高峰のシャスラワインを生み出します。
シャブレー -Chablais-
レマン湖の東の湖畔に流れ込むローヌ氷河の谷の東側に広がる生産地区です。標高1000mほどの山々の南向き斜面の中腹付近までブドウ畑が広がり、日照時間が長いことが特徴です。大雨や嵐などの自然災害もほとんどありません。土壌は、堆積土、地滑りでできた土壌や、泥灰岩、石膏質、マグネシウムを含むものなど、バラエティに富んでいます。ワインは、ミネラル感があり、骨格がしっかりしたものになるといわれます。
まずは、
ラ・コート地区 -La Côte-から。
左)
AOC La Côte Vinzel Grand Cru Côte Nil 2011 Château le Rosey
右)
AOC La Côte Mont-sur-Rolle Grand Cru 2012 Chateau de Mont
ヴァンゼル村はラ・コートの中でも西寄りに位置し、
モン・スール・ロール村はヴァンゼルの東側にある隣村です。
シャトー・ル・ロゼーがヴァンゼルに所有する畑は標高約500mにあり、土壌は砂と粘土に石灰質が混ざります。
ほどよい軽やかなミネラル感と、ふっくらしたピュアな果実味が心地よく、透明感のある味わいに、心が洗われるようです。
“コテ・ニル”とは、“ナイルのほとり”の意味で、シャスラの起源がエジプトにある?という逸話から名付けられています。
シャトー・ド・モンのシャトーとブドウ畑は、なだらかな丘の中腹(標高約500m)にあり、土壌は小石が多く混ざる石灰質。晴れの日が多く、日照時間が長いですが、昼夜の温度差があるため、ブドウは後間を蓄積しながらじっくりと熟していきます。
少し発泡しているかのようなハツラツ感があり、ヴァンゼルのシャスラと比べると、こちらの方がミネラルの厚みがあり、ストイックに感じました。
次は、
ラヴォー地区を2セット。
左)
AOC Lavaux Villette Grand Cru Le Chasselas Selection 2012
右)
AOC Lavaux Villette Grand Cru La Legende 2012 / Domaine du Daley
ローザンヌのすぐ東に位置する
ヴィレッテ村の土壌は、小石が多くやや重い粘土で、深いところは石灰分を含んでいます。
ドメーヌ・デュ・ ダレーは1392年創業で、スイスで最も古い醸造所のひとつ。
伝統を大事にしながら、シャルドネ、ヴィオニエ、ソーヴィニヨン・ブランといったフランスのブドウ品種も積極的に取り入れています。
上記2本はキュヴェ違いで、
ヴィレッテ・グラン・クリュ - シャスラ・セレクション は、樹齢の高いシャスラ100%なのに対し、
ヴィレッテ・グラン・クリュ - レジェンド(伝説)は、シャスラ80%に、18%のシャルドネと2%のソーヴィニヨン・ブランがブレンドされています。
セレクションは、スイスのシャスラでは通常行われるマロラクティク発酵(MLF)を行なっていません。
まず、ブドウがよく熟したまろやかさを感じます。同時にピュアな透明感があり、しっかりした芯もあります。また、ほのかですが塩味のニュアンスも感じました。バランスよく、そのままでもおいしいけれど、チーズと合わせてみたいですね。
レジェンドは、ブレンドで加えたブドウの影響があり、やや雑味が感じられます。以前このワインを飲んだ時も思いましたが、個人的には、シャスラ100%のワインの透明感のある味わいの方が好みです。これは飲み比べをしたからこそ感じたことなので、このセットのトライは、ぜひ皆さんにも試していただきたいところです。
面白いことに、レジェンドのラベルには、漢字で“伝説”と書かれています。これは当主が自ら書いた文字で、大好きな日本の料理文化へのオマージュだそうですよ。
左)
AOC Lavaux St-Saphorin Grand Cru Les Blassinges 2012 Pierre-Luc Leyvraz
右)
AOC Lavaux St-Saphorin L’Archevesque 2012 Domaine Loius Bovard
ラヴォー2セット目は、同じ村の生産者違いの飲み比べです。
サンサフォラン は、レマン湖北岸の東寄りに位置する村で、すぐ西隣にあるデザレー村と並び、スイス最高峰のシャスラーを産出するといわれています。
サンサフォランは石灰質が多いモレーン土壌(堆積)で、この土壌構成とラヴォーの恵まれた気候が、筋の通ったミネラルを感じさせるワインをつくります。
ピエール=リュック・レイヴラは所有畑3.2haの小規模生産者で、10カ所に散在する急斜面の畑を手ずから世話をする職人気質の人物。
サンサフォラン・ グラン・ クリュ レ・ブラッサンジュは、酸とキレイな果実味が印象的で、非常にクリーンな味わいです。アロマがやさしく、ボディにほどよい厚みがあり、肉料理にも合わせられるタイプで、全体の均整が取れています。
このワインもそうですが、ピエール=リュック・レイヴラでは、栓はすべてスクリューキャップを使用しています。
創業300年になる
ルイ・ ボバールはラヴォーで最も古い醸造所のひとつで、当主は12代目。
長い伝統を守りながら、ビオディナミへの試験的な取り組みを始めたり、シャスラをクローン別に少量ずつ仕込み、ワインの違いを比較するなどの研究にも取り組んでいます。三ツ星レストランで多く採用されている造り手です。
ラルシュヴェスクは“大司教”の意味。これもサンサフォランらしい筋の通ったミネラルを、とりわけ強く感じました。
左)
AOC Lavaux Dezaley Grand Cru Medinette 2012 Domaine Loius Bovard
右)
AOC Chablais Yvorne Grand Cru 2012 Domaine de la Pierre Latine
最後は、
ラヴォーの最高峰といわれるデザレーと、シャブレー地区の比較です。
デザレーはサンサフォランの西隣に位置する村で、ヴォー州のワインづくりはここから始まりました。12世紀にシトー派の僧侶がデザレーの急斜面に石垣を積み上げてテラス状のブドウ畑を拓き、それが周辺に広がっていきました。
これらラヴォー地区のテラス式のブドウ畑は、2007年にユネスコ世界遺産に登録されました。
ラヴォーは砂岩が多い堆積土壌ですが、デザレーは礫岩の比率が高くなります。
基底部に石灰質を多く含む砂岩があり、その上にマール(泥灰岩)が重なり、畑は南西向き斜面です。ここから生まれるワインはミネラリティと繊細なフルーティーさを併せ持つのが特徴です。
ドメーヌ・ルイ・ ボバールの
デザレー・グラン・クリュ メディネッテ は、とろっとソフトな口当たりで、果実味がつややか。ふっくらしたやわらかなボディに、ミネラルが品よく溶け合い、余韻まで長く続きます。
1905年からのデザインのエチケットのクラシカルなデザインが、個人的にとっても好きです。このワインは、ジュネーヴやローザンヌの格式あるレストランのほとんどが扱う名品。おそらく、このエチケットも人気に一役買っているのではないでしょうか。
対するは、
シャブレー地区イヴォルヌ村のグラン・クリュ。
ドメーヌ・ド・ラ・ピエール・ラティネでは、所有畑はすべてシャスラ。
イヴォルヌの土壌は、砕石のがれ、マール、地滑りでできた土壌、三畳紀の石灰岩などで構成されており、石灰岩はスポンジ状にやわらかいもの。
ちなみに、オーナーのフィリップ・ジェックス氏はイヴォルヌ村の村長です。
このワインの資質を考えて、最後に持ってきました。今回の8本の中で最も骨格がしっかりしたワインと考えてのことなのですが、飲んでみると、ミネラルの骨格はしっかりしていますが、どこか繊細さ、エレガントさも備えていました。
この日に飲んだすべてのシャスラに
芯のしっかりした強さは持っているけれど、内に秘めた強靭でしなやか力、透明感、繊細さ、控えめな品の良さ、そうしたものを感じました。
食事に合わせやすいタイプのワインでもあります。
スイスワインの生産量の90%以上が国内消費され、輸出量は非常に少ないですが、現在、日本にスイスワインを輸入する会社は12社ほどあるそうです。
今回は、ヴォー州のワインを輸入する「ヴァン・レマン株式会社」さんからピックアップしました。
スイスには、生産量NO.1のヴァレー州や、ピノ・ノワールで名高いヌーシャテル州など、ほかにも魅力的な産地、ワインがありますので、興味を持たれた方は、ぜひ探してみてください。
一見すると控えめかもしれませんが、芯のある静かな強さと、繊細なエレガンスを備えたスイスワインは、力でグイグイ押してくる濃厚すぎるワイン、強すぎるワインに疲れ果てたわたしたちをハッとさせ、ほっとひといきを与えてくれることでしょう。
※今回のワインおよび生産者の詳細は、輸入元ヴァン・レマンさんのHPを参照ください。
ヴァン・レマン株式会社
http://vinleman.com/
ワインに合わせたお料理はこちら。
オードブルバリエ スズキとズッキーニのフリット トマトソース和え
伊達鶏のローストと豚バラシチュー デザート
スズキのフリットの上には溶かしたチーズがかかっていたので、シャスラとバッチリ。
シャスラには白身の肉料理が合うように思います。
しっとりと仕上げた鶏と、こっくりとした旨味のあるソースがからんだ柔らかな豚バラは、シャスラとよく合いました。
デザートは、8月に誕生日を迎えた3名を祝うバースデーケーキでした
参加者の皆さん、ありがとうございました。
スイスワインのヴァン・レマンさん、レストラン ラ・リヴィエールさん、お世話になりました。
レストラン ラ・リヴィエール
東京都千代田区神田多町2-2 第三ハヤカワビルB1
Tel.03-3258-1800
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