
7階テラスから降りて新丸ビルの正面玄関前に戻ってきました。丸の内駅前広場の北縁を描くように散策しながら丸の内オアゾ前に戻ります。

日本国有鉄道の分割民営化以前から丸の内駅舎の復原について議論がなされてきましたが、民営化後はJR東日本に引き継がれることになります。赤レンガ駅舎を移転保存して全面新築する案、全面保存する案、ファサードのみ保存する案などに高層ビルの建築計画、35階建ての超高層ビルに建て替えホーム上部を広場にするという構想など様々な意見が出てきたそうです。

1988年(昭和63年)に八十島東京大学名誉教授を座長とする東京駅周辺地区再開発調査委員会では「東京駅周辺地区総合整備基礎調査」を発表し、丸の内側駅舎については現在地での形態保存が適当との報告がまとめられます。この際に駅舎上空の容積率を地区内の他の敷地に移転する方法に言及しています。1990年代には引き続き東京駅丸の内駅舎の復原や活性化に関する様々な構想が打ち出されるとともに、保存を考慮した具体的な調査が行われるようになりました。

丸の内北口・北ドームを正面からズームで撮影してみました。八重洲口にそびえ立っているグラントウキョウノースタワーの巨大な構造物が借景のようです。

1999年(平成11年)10月、当時の石原慎太郎東京都知事と松田昌士JR東日本社長の会談により、創建当初の形態に復原することで基本認識が一致します。2001年(平成13年)には東京都が「東京駅周辺の再生整備に関する研究委員会」を主宰し、東京駅周辺地区での都市基盤整備に関する課題解決と活力創造を推進するための検討を行い、12月に提言を行いました。

この流れと並行して2003年(平成15年)4月18日に「東京駅丸ノ内本屋」として文化審議会において重要文化財に指定するよう答申が出され、5月30日に重要文化財指定が告示されました。

丸の内オアゾ・日本生命丸の内ビル前から撮影した丸の内駅舎です。工事用仕切り板やプレハブ小屋が完全に撤去されたので見渡せるようになっています。

500億円かかると見込まれた復原工事の費用を捻出する手段となったのが、容積率の移転です。高度な業務集積地区において、歴史的建造物の保存・復原や文化的環境の維持・向上を図るために、高い容積率を利用することが望ましくない建物の未利用の容積率を、その周辺の一定地域内において移転することを認める「特例容積率適用区域」(2004年の法改正により特例容積率適用地区に改称)の制度が2000年(平成12年)の建築基準法・都市計画法の改正により認められるようになりました。

2007年(平成19年)5月30日に起工式が行われて保存復原工事に着手されます。この復原では赤煉瓦駅舎を恒久的に保存・活用することが目的であるため、耐震性能を確保する必要があります。そこで目標とする耐震性能として、震度5程度では煉瓦壁にひび割れが発生せず、想定する最大の震度7クラスではひび割れは発生するが、大きな補修を加えなくても使用を継続できることと設定しました。この耐震性能を満たすために必要な補強量を計算したところ、在来工法では壁の5割ほどに補強を施す必要があったが、免震工法を取り入れると耐震補強はほとんど不要であることが判明します。

免震層は駅舎1階と新たに設ける地下1階との間に設ける方式を採用しました。このため駅舎の内部や周囲でまず仮受けする支柱を打ち込み、その後駅舎下に徐々に駅舎を支える縦梁を構築して、仮受け支柱上に設置したジャッキで次第に荷重を受け替えています。その際に、駅舎は全長335メートルに渡って一体の構造物でエキスパンション・ジョイントなどはないため、変形角が1500分の1を超えると煉瓦壁にひび割れが発生することが分かっていたことから、変形角を測定しながら荷重の受け替えを進めました。

仮受けが完了した後、従来の基礎であった松杭をすべて除去して地下躯体を構築し、その後免震アイソレータ352基の上に駅舎の荷重を再度受け替える作業を行い、仮受け支柱を撤去して作業完了となりました。また一般的な免震建物では30-50センチ程度の変位量であるのに対して、中央線高架橋への接触を防ぐ目的でオイルダンパーを158台設置し、これにより変位量を10センチ程度に抑えています。2011年(平成23年)9月末に免震化が完成し、煉瓦のひび割れなどは発生させることなく完了することができました。

復元する3階部分については鉄骨鉄筋コンクリートで建設され、屋根組も基本的に現代の材料と技術により復原されています。線路側外壁のモルタルは撤去して、この部分と3階の外壁について化粧煉瓦、花崗岩、擬石により復原を行いました。以前のまま使用されている1・2階の壁面と色合いを統一させるために、赤レンガの試し焼きが実施されています。

丸ノ内ホテル前から撮影したグラントウキョウノースタワー。「東京駅が、街になる。」をキャッチフレーズとした再開発計画「東京ステーションシティ」構想の本丸とも言える高層ビルで、設計コンセプトは「水晶の塔」と「光の帆」。重厚で歴史を感じさせる丸の内側に対して、八重洲側の先進性・先端性を象徴することを期待したものとなっています。

丸の内駅舎の復原工事が完了して東京駅の再開発工事は一つの区切りを迎えましたが、「東京ステーションシティ」構想はまだ終わってはいません。次の目玉は旧大丸東京店跡地で建設中の歩行者用デッキと大屋根で構成されている「グランルーフ」です。2013年の春に竣工予定なので、引き続き注視していきたいと思います。
