40年ぶりに梅雨入りが大幅に遅れているそうで、山の木々の開花も遅れているような気がします。去年はとっくに咲いていたエゴノキがまだ咲いていません。今頃は落花で林道を真っ白に染めていたのですが…。それでも妻女山のウツギもやっと咲き始めました。春は黄色い花が多い山も、初夏を迎えると白い花の季節になります。最初に咲くのがガマズミの花。やや高いところではコブシの花。そして梅雨を迎える頃、ウツギの白い花が咲き乱れ始めます。エゴノキに続いてイボタノキなども。 森に分け入ると、明るい林床には強烈な香りを放ってキリの薄紫色の花がたくさん落ちています。
この季節になると、コバエやクロメマトイがしつこくつきまとうので、山歩きにゴーグル眼鏡は必須です。ヤブ蚊も現れてきますし、油断するとズボンの裾からは色々な虫がよじ上ってきて刺されます。一番気をつけなければいけないのは、なんといってもハチ。カチカチと大きな音で威嚇し、時に小石を投げつけられたような衝撃を伴って体当たりしてくるオオスズメバチは最も警戒しなければならないハチですが、草むらの低い位置に営巣し、不用意に踏み込むとあっという間に刺されるムモンホソアシナガバチが実は一番の曲者です。去年は山仕事で4回も刺されているのでなおさら警戒します。
ふと目を上げると、深い緑の仲に真っ赤な色が見えます。ミヤマウグイスカグラの赤い実です。ウグイスカグラの変種で、実や葉、葉柄などに細毛があります。花は、なんとなれば秋から冬を超して春まで見られるので、ハイカーにもおなじみですが、実は梅雨の季節になるので知らない人もいるかもしれません。やや透明がかった小さなルビーのような実は、この季節の森の宝石のようです。6、7ミリと実はこぶりですが、夏グミのように渋みはまったくなく甘くおいしいグミです。ただ、あまりに小さいためかこれを使ったスイーツは信州の観光地でも見たことがありません。実がまばらにしかならないので大量に集めるのが困難だからでしょう。
足下にはヤブヘビイチゴの赤い実がたくさんなっていますが、これは食べられません。毒はないようですが、甘くなく美味しくもありません。まもなく赤い実のエビガライチゴやオレンジ色のモミジイチゴがなりだします。山桑の実もたくさんなります。こちらは数も採れるのでジャムなどに加工されます。こどもの頃は、これらの木イチゴがなるのがとても楽しみでした。桑の実で白いシャツをま紫に染めて叱られたものです。しかし、最近は里山をあるいても木イチゴを摘んでいる子供達の姿はまったく見られません。総合学習や遠足で山には行くようですが、まず教師が山の自然を知らない。教科書の知識はあっても、実際の里山の自然に対するリテラシー(読解力)がないんですね。子供達も昔のように友達やガキ大将と山に遊びに行くこともないので覚えないわけです。葉の裏側に小さな桃のような小花を咲かせているのは信濃柿。今年は柿渋を作ろうと思います。
妻女山に観光に訪れる人達も、山を見てどういう状態なのかわかる人はほとんどいないでしょう。緑がきれいだなとか、花が咲いているなぐらいでしょうか。つまり、どう荒れているかとか、手入れが行き届いていないとか、帰化植物にどれくらい侵されているとかが、見えていてもわからないわけです。さらに昆虫や鳥類、ほ乳類の変化については、何度も続けて山に通っていないと見えてきません。たまに訪れる専門家よりも、毎日のように訪れて見ている人の方が、その変化に気づいたりするものです。もっとも毎日のように来ていても、妻女山の駐車場でお弁当を食べて帰るだけのサラリーマンには、なにも見えていないかもしれませんが…。
ウツギは「卯の花の匂う垣根に~」と歌われる花ですが、萌芽力が旺盛で適度に刈り込まないと里山はウツギだらけの薮になってしまいます。アゲハチョウや甲虫が吸蜜に訪れるのであまり伐採したくはないのですが。里山の管理はしないとならないし、加減が難しいところです。梅雨も本格的になると、萩の花も咲き始めます。クララや帰化植物のマルバフジバカマなどにシジミチョウが群れ飛びまわる日もまもなくです。「夏は来ぬ」の北信濃。本格的な夏もまもなくです。
★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、地衣類、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。
★夏の信州のトレッキングは、フォトドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】にいくつかアップしてあります。ご覧下さい。