最高気温が11度という信州の冬としては異常な温かさの午後、用事ついでに松代町西条のノロシ(狼煙)山に登りました。松代城(海津城)から見ると、南に三角にそびえる秀麗な山で、標高は843.9m。北西に延びる尾根には舞鶴山があり、その中腹には日本武尊命と真田家の祖と伝承される貞元・貞保親王とともに真田信之公(松代藩初代『武靖大明神』)の霊をあわせてお祭りした白鳥(しろとり)神社があります。今回はここを登山口としました。
白鳥神社は、小学校の遠足以来の訪問。七代幸専(ゆきたか)公が、文化10年(1813年)に改築を行ったという久能山東照宮(祭神は徳川家康公)を模した社殿は、拝殿の敷地に入れないという珍しい形式。ここには、まるで生き馬のようといわれる立川流和四郎富昌〔天明二年(1782)生-安政三年(1856)没〕作の木造神馬像があります(写真)。小学校の時は、そのあまりの迫力に怯えた記憶さえあるほどです。参道からは、象山や松代が一望できるので、杏や桜の季節に訪れるといいでしょう。
狼煙山へは、白鳥神社を正面にして左上に見える尾根にとりつく必要があります。とりあえず本殿の裏手にまわって道を辿りましたが灌木に遮られ、右手の山道を辿りました。そのまま行くと左ではなく右の支尾根に行ってしまうので、適当な沢道から左へ。すると作業道があったので辿ると、すぐに舞鶴山から南西に延びる尾根に乗りました。舞鶴山は、城郭の跡のようで、小さな曲輪が見られました。ここが西条城という説と、竹山城が西条城であるという説があるそうだと後で出合ったかたから聞きました。
舞鶴山からは尾根の正面に三角の狼煙山が見えるので迷うことはありません。尾根も道がはっきりしない所もありますが、基本は尾根の高みを外さなければ、いつか頂上には着きます。むやみに谷にさえ下らなければ危険な箇所もありません。尾根を辿って檜林で真っ直ぐ登る急登と左へトラバースして左の赤松の尾根を登る一般的なルートに分かれますが、どちらを行くかは好みで。私は雨後でもあり、雪も少し残っていたので後者を選びました。急登のバリエーションルートは、大峯山で堪能しましたし。
麓の白鳥神社の鳥居から山頂までは、季節天候個人差によりますが、1時間半から2時間みておけば充分だと思います。今回は1時間20分ぐらいでした。山頂は見晴らしはほとんどありませんが、冬枯れや芽吹きの頃であれば、樹間からそこそこ楽しめます。武田信玄の狼煙台があったというので、狼煙を上げる狭い山頂のみかと思っていたら、ちゃんと山城の構造を持っていたので驚きました。西と北東に段郭を持ち、南東に延びる尾根には腰郭と堀切、第二郭と堀切、尾根が続いてもう一つの頂上、その向こうには段郭と、それなりの構えです。調べると、狼煙台には常時20人ほどの武士を置いていたそうですから、これぐらいの規模は当然必要だったということでしょう。非常に重要な通信施設ですから防備も必要だったということです。
25分ほど頂上で撮影したり休憩したり思索に耽ったりした後、同じコースを今度は駆け下りました。50分ほどで神社に戻りましたが、そこで散歩に来られた地元の初老の男性と知り合いになりました。神社やこの地の山名について伺っていると、その方は40代の頃からこの辺りの山城の写真をほとんど全て撮影しているという方だと分かりました。
西条山について伺ったのですが、やはり西条城の本城がどこにあったかが定かでなく、それによって説は分かれるとのこと。江戸時代後期の狩野文庫所蔵の『河中島合戰圖』小幡景憲には、高遠山に西条山と記されているという話をすると興味を示されました。大嵐山、御姫山についてはご存じなかったのですが、母袋山については、字の最高地点を母袋山とした私の話に、腰(越)山の下にある城跡のところが母袋山だと言われました。なんでも中世の母袋氏の山城があったといわれているそうで、埴科郡誌に記されているということなので、後日調べてみようと思います。母袋は、現在は母と袋と書きますが、本来は甕(もたい)という一字を用いたそうで、瓶(かめ)という意味です。城門の外に出た小城を甕城(おうじょう)といいます。
狼煙山は、もう少し登山道を整備して北面の展望が得られれば、ビギナーや子供まで登れるいい山になるだろうと思います。その方の話では、白鳥神社ではなく、舞鶴山から北へ延びる尾根の先端が登山口とのことでした。また、参道の途中からその尾根に乗る道もありました。参拝した後で、少し下ってそこから登るのがいいでしょう。また、神社の左手からトラバースして尾根に乗る道もあるようです。最近は舞鶴山裏手の地震観測所まで車で上ってそこから登る人も多いと聞きました。参道を下りながら色々な情報が得られて非常に有意義な時を過ごしました。遠くに雪をかぶった戸隠の雄姿が異常に暖かい陽射しを浴びて光っていました。
このトレッキングは、後日フォトドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】にアップします。
ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、特殊な技法で作るパノラマ写真など。