いたづらに 限りある世を 歩み来て 君いづこゆく 月天の丘
うたがひも せずに来た夢 砂と消え 何をよすがと 君は空見る
忘れよと 耳に口寄す ものありて ふりむきざまに 赤き風見る
さいはひを ほしきといひき われのみの かたきさいはひ あほうが叫ぶ
身をそぎて つくりたる飴 甘きぞと 子らに食はせる しらゆきの鶴
かろがろと をさなのごとく なうたひそ あいしていると あいしていると
あおぞらに とけてきえゆく あはゆきの ごときしらとり 去りし後の野
たまかぎる ほのかに灯る 月の火の しづかにしろき しじまにぞゆく
うしなひて のちの世の歌 さびしきと 歌ふこころは 無き夢の珠
血を吐きて 喉を砕きて 呼び戻す ひとの声泣く 君はまたゆく
さなきだに 空の鳥の音 さびしくも 目をとぢてゑむ 君の沈黙
空高く こころ飛ばさむ あふれだす 涙とまらず 喉も割れよと
白珠の ちひさき飴を まるめては ふたたび君に 会ふこともがな
たをやめの しろき花なる かたちして まなこにうごく 青黒き蛇
ほほゑみを 花のこぼるる ごとくして 仮面がずれる 心がばれる
しらゆきの ごときましろの ころもきて なよそほひそ 天使の顔を
白粉を 塗りて隠せぬ その心 そのままの顔 悲しき夢よ
くりかへす 準備をせよと くりかへす まことのみづの たかなみは来る
きたぐにを あらひしみづの 神ゆゑの まことを知るは ももとせを待て
恥づべきを 恥と思はず もてあそぶ 金は一夜で 馬鹿の思ひ出
情熱と 金をそそぎて 建てし塔 昔の馬鹿が のぼる煙突
くりかへす ふたたびみたび くりかへす 今準備せよ あほうがばれる
愛すれど かひなき道を 歩みきて ほほゑみのまま こほりつく君
かひなきも しらたまはあり 身のうちの 星のこころは まだ歩みゆく
ますぐなる こころもてゆく 君の背の 孤独に膿みし 赤き傷見る
愛なれば ゆかむとのほか いふべきの ことばをしらず わらふてもよし
甘き夢と 責むるこころは 痛けれど いつはれもせず 君追ふこころ
道すみの 馬糞のそばも 厭はずに 咲く花こそは 黄すみれの君
青すみれ 見上ぐる空に まなこ染め かなしきことも 風に溶けゆく
ひとしれず 流す涙は てぬぐいの 裏のかすかな 薔薇の染みかな
なのはなの 絹を裁ち縫ひ 春の香の こがねの着物 君に似合はむ
口を閉じ まなこで許す ほほゑみの 真の心は 花のみぞ知る
行く末を 知らぬさいはひ 玉として みるべきかとぞ 君は目をとづ
ため息の こほる悲哀を 言ならぬ 言にせよとて 涙も黙す
ひとのよに しづのをだまき くりかへし おとなひきては 玉の種まく
あまつとり ひとこえ鳴けば うつそみの 世に川の割れ 大地をあらふ
行く末を 知らぬひとらよ ただひとつ 我は言する 来し道戻れ
まぼろしの あまき林檎の かたちして 来るものの声 聞かぬか阿呆
花園に 日差しを浴びて しづかにも ほほえむ影は 少年のとき
われ琴を はじきてうたふ めわらはの 花の夢なる 幻のとき
目を閉ぢて 心にぞ見る まぼろしの 花のいろにぞ われはまどろむ
いにしえの かなたにきけり 神の目の 青きしじまは 君の君ゆゑ