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その言葉通り、アシメックは夕方近くになるまで、スライの仕事を手伝った。スライは喜んだ。彼もアシメックのことはとても好きだったからだ。いい体をしたいい男が、自分の言うことを聞いて仕事を手伝ってくれる。それだけで、オラブにとられた魚のことなどすっかり忘れてしまった。
仕事が一段落すると、スライは嬉しそうに言った。
「あと十日もすれば、稲刈りが始まるだろう。十分に舟はできている。今年の稲はどんな感じだね」
アシメックは答えた。
「オロソ沼の見張り役によると、上々だそうだ。この秋もいい米がたくさんとれるだろう」
「またうまい米がいっぱい食えるな」
「そうとも」
夕方、アシメックが帰る頃になると、スライは天幕の中に入って土器の壺に手を入れ、栗を十個ほども出してきた。そしてそれを皮袋に入れながら言った。
「今日の礼だよ。手伝ってくれて助かった。少しだけど持ってってくれ」
「いいのか」
「いいとも、いいとも」
スライが嬉しそうに言うので、アシメックは栗を快く受け取った。皮袋はまた返しに来なければならない。
家路をもどりながら、アシメックはもらった栗をさわりつつ、オラブのことを思った。山に住んでいるというが、どんな暮らしをしているのか。山で木の実でも拾って食っているのだろうか。誰にも相手にされず、さみしくはないのか。
いずれ山に行って、探してやらねばなるまい。
アシメックはそう思った。そして自分の家が見えるころ、アシメックは気付いた。米の匂いがする。おお、今日は米を食う日だ。ソミナが青菜と一緒に米を煮ているのだ。
そう思うと、急に腹が鳴った。米ほどうまいものはない。おれに食わせるため、時間をかけて米をついてくれたのだろう。ソミナはいい女だ。おれのために面倒なことはなんでもやってくれる。大切にしてやらねばならない。
アシメックが自分の家の入口の覆いに触れるころ、東の空には夜の気配が漂い始めていた。