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自分の声が震えているのを感じた。すごくうれしい。すごくうれしい。すごくうれしい。アシメックに声をかけられるだけで、胸が破裂してしまいそうなほどサリクはうれしかった。
「おお、サリクか。今何してるんだ」
名前を憶えていてくれたことに、ぼんやりと痛みに似たものを感じつつ、サリクは上ずった声で答えた。
「矢じりを作ってるんだ。狩りにはいくらでもいるから。石を、い、石を……」
「ああ、石を割って作るんだな」
「うん。それと、毒も……」
「ああ、矢につける毒か。あれも作っておかないとな。だが気をつけろよ。子供がなめないようにしっかりしまえ」
「わかってる、わかってる」
帰ったら、蛙をとりにいこう、と思いながら、サリクはアシメックの前から下がった。自分のことを覚えていてくれたのがうれしかったのだ。上ずった声をあげながら、自分が泣いていたことに気付いたのは、席に戻ってしばらくしてからだ。馬鹿みたいだ、という目でじっと自分を見ている若者の目に気付いたからだ。
視線の持ち主は、トカムという若者だった。干し魚を噛みながら、アシメックとサリクを交互に見つつ、つまらなそうな顔をしている。
サリクは知っていた。トカムは二十代に入ってもまだ、自分の仕事が決まっていないのだ。村には、村の男の仕事を決める役男がいるのだが、その役男が勧める仕事を、まだ満足にやれたことがないのだ。だからトカムはいつも、ばつの悪そうな顔をしている。
きっと自分が、狩人の仕事を立派にやっていて、アシメックに酒をつぎにいけるのが妬ましいのだろう、とサリクは思った。そしてそんなやつのことは別に考えなくていい。とにかく明日は蛙をとりにいこう、とサリクは思った。オロソ沼でとれる蛙には、時々赤くて毒々しい色をした蛙がいる。あの蛙の肝からは、鹿が一発で死ぬ毒がとれるのだ。