
茅布というのは、ケセン川の川原に生える茅草を干して割き、糸にしたものを織って作る布だ。もちろんこの時代には立派な道具などない。ソミナは床に糸を並べ、それを手で編むようにして織っていくのだ。
ソミナは織るのは上手だった。美しい指先を器用に使い、見る間にきれいに布を織っていく。織り上げた布はしばらく乾かした後、水で洗って干す。そうすると、適度に布が縮んで、しっかりした茅布ができるのだ。
アシメックはそんなソミナの仕事を見ながら、自分も囲炉裏のそばにすわり、茅を使って茣蓙を編み始めた。冬にやる仕事はだいたいそんなものだ。村人は家にこもって、茅で布を織ったり茣蓙を編んだりする。魚骨ビーズで首飾りを作ったり、木を削ってへらやさじを作ったりもする。外で働くのは漁師くらいのものだった。蛙は冬眠するのでとれなくなるが、魚は冬も眠らない。また冬の魚は、身がきれいになってうまかった。漁師は鹿皮の肩掛けをかけながらも、寒さや水の冷たさを我慢して川に舟を出しだ。
そんなある日のことだった。夕方、アシメックが村の見回りから帰って来ると、ソミナがそわそわしながら言った。
「あにや、今日は米を食う日なんだけど、できなくなったの。悪いけど、これを食べてくれる」
言いながら、ソミナは囲炉裏のそばにおいた糠だんごを指さした。