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それから、冬にさしかかるまで、山での採集は毎日続いた。山の宝はすばらしかった。土器の壺に、栗の実が満々と満ちて、それがいくつも家の周りに並んだ。酒つくりの上手な女は、さっそく林檎を壺にいれ、水と種を入れて酒を造り始めた。子供がとってきたグミや、キノコを干す板がそこら中に並んだ。寒い冬を過ごすためにとってきた榾も、広場に山のように積まれた。
また人々の中から自然に歌が生まれた。
山はいい
山はいい
なんで神は
こんなにたくさんくれるのか
ひとよひとよ
いいことをしろ
正しいことをしろと言って
くれるのだ
アシメックも毎日、山に言った。山にいくたびに、オラブに呼び掛けた。だが返事は一切なかった。それでも呼び続けた。
そして、もうそろそろ冬がやってくるという、最後の山行きの日、アシメックは意を決して、境界の岩を越え、オラブを探してみた。道に迷わないように枝折をしつつ、用心深く藪をまたぎながら、オラブをよびつつ探してみた。
「オラブ! もう冬が来る。寒いだろう! どうやって暮らすつもりだ! かえってこい!!」
だが、何度叫んでも答えはなかった。アシメックはあきらめるしかなかった。
そんなアシメックの様子を、村人たちは、尊いものを見るように見ていた。悲し気に泣く者さえいた。オラブのやつめ。アシメックはいいやつなのに。
山行きが終わると、冬がやってくる。とうとうオラブは見つからなかった。ただ一度だけ、川で漁をしている男がこう言ったのを、アシメックは聞いた。
「昨日、ケセンを泳いでいる変なやつがいたけど、あれはオラブかもしれない」
「ケセン川で?」
それを聞いた時、アシメックはふとアロンダのことを思い出した。まさかとは思うが。
しかしその不安が的中するとは、このときアシメックはひとかけらも思ってはいなかった。