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夜が明けて、フウロ鳥が鳴き始めるころ、ソミナがみなに糠だんごを持って来てくれた。いい女だ。いつもこういうことをしてくれる。誰にも言われないのに、腹を空かせているだろうと思うと、みなのために働いてくれる。見張り役をしていた男たちは歓声をあげてとびついた。ソミナの作る糠だんごはうまいのだ。
それで腹を満たしたあと、村役の一人が至聖所にお参りにいかねばならないと言った。みながそれに賛成した。アシメックも、あの夢のことが気になっていたが、村の風習を邪魔するわけにはいかないので、従った。稲の収穫が一段落した次の日には、一番に至聖所に向かい、神に感謝せねばならないのだ。
ソミナが花を摘んできてくれていた。村役の一人がそれを受け取り、一掴みの米と一緒に、土器の皿に盛った。そのときを見計らったかのように、ミコルが広場にやってきた。鹿皮の肩掛けをまとい、魚骨ビーズの首飾りをつけている。顔には赤土を塗って派手な化粧をしていた。彼は、村役の男から米と花を載せた土器の皿を受け取ると、それを捧げ持ちながら、アシメックともうひとりの村役の男とともに、至聖所に向かった。
至聖所とは、村の北のはずれにある、大きな岩のことだ。昔、カシワナ族の祖先が、神のお告げを受けて作ったという石である。灰色の岩に、ナイフで二重の三角形の文様が刻み付けられていた。それは神カシワナカのしるしだ。