
「オラブが病気でも持ってくるのか?」
「わからん。とにかく、オラブと関係があることは確かだろう」
アシメックはミコルに礼を言うと、まずはとにかくイタカの野に足を走らせた。そこからはオラブが潜んでいる山が見える。アシメックは遠目に山を見ながら、未来を探ろうとした。空には鷲が舞っている。それが何かを意味しているようにも思えるが、何もわからない。
ケバルライ
ふと彼は誰かの声を聞いたような気がした。耳にではない。
ケバルライ
そう。ミコルが言っていた。心に神がささやいてくれる。そんな感じだ。
アシメックは目を閉じた。そしてその声を探ろうとした。すると心に、鮮やかに一つに幻影が現れた。
自分よりも大きな男だ。背中に鷲の翼がある。だが影になって顔はわからない。その男は、不思議に自分に似た声で、言うのだ。
イタカの野に細い川を描き
稲を歩かせ
豊の実りを太らせよ
アシメックは目を開けた。きいっと、どこかで鳥の声が聞こえた。いやそれは鳥の声ではなかったかもしれない。彼の心が驚いた音だったのかもしれない。
これは何かの予言か。ミコルにはわからないことを、神は直接おれに教えようとしているのか。それにしても、ケバルライとは何なのか。
気が付くと、アシメックは村への道を急いでいた。家の前に戻ると、サリクがそこで待っていた。目を輝かせ、手に白いコクリの花を持っている。
サリクは去年アシメックに言われたことを、まだ忘れていなかったのだ。
咲いた白いコクリの花を見て、アシメックの頭はいきなり現実に戻ってきた。そして高らかな声で、言った。
「稲刈りだ!!」