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彼は族長の顔をし、肩に威厳を出して歩き出した。行く先は、三軒隣の家に住んでいる、巫医のミコルのところだった。ミコルはもうすでに家の外に出て、地面に敷いた茣蓙の上に座り、何事かをしていた。アシメックは遠慮なく声をかけた。
「今日の占いはどうだ」
「これからだ」とミコルはすぐに答えた。
ミコルはひとひらの茅布を地面に敷き、その上に赤い色砂をまいた。そしてひとしきり神への祈りの呪文を唱えたあと魚骨ビーズの首飾りを振りながら、その砂に三度息を吹きかけた。そして茅布の上に現れた砂の文様を見ながら、しばらく考えていた。
それは風紋占いといい、カシワナ族に昔から伝わる、神の心を知る方法だった。アシメックはミコルのわきからその砂に現れた文様を見た。アシメックにはその意味はわからなかったが、ミコルにはわかるらしいのだ。
「どうだ」としばらくしてアシメックは言った。するとミコルは答えた。
「西の方がよい。今日は川の漁がうまくいくだろう」
「そうか」
アシメックはそれを聞くと喜び、ミコルに礼を言うと、そのまま川の方に向かって歩き始めた。村を横切り、しばらく歩くと、川の匂いがした。
ケセンの川と、カシワナ族が呼んでいる川は、村の西側をゆったりと流れていた。それは国境でもあった。川の向こうの土地はもうカシワナ族の土地ではなかった。そこにはヤルスベ族という部族の村があり、何もかもがカシワナ族の村とは違っていた。
肌の色は同じだったが、顔の特徴が違っていた。カシワナ族は鹿皮の腰布を着用するが、彼らは熊の皮の腰布を着用した。カシワナ族は赤土で顔に文様を描くが、彼らは胸に妙な刺青をしていた。言葉も微妙に違う。自分たちと違う部族には、人間はいつも強い不安を感じるものだ。だがヤルスベ族を馬鹿にするわけにはいかなかった。彼らはカシワナ族にはない高い技術を持っていた。それをカシワナ族は必要としていた。