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石を削る技術などないこの時代には、魚骨ビーズが身を飾るものだった。美しい色を塗り、茅草で作った糸に連ねると、それはきれいな首飾りができた。文様を入れ込み、いいものができると、神にささげた。村で高い役をする男には、優先的に与えられた。女にも時々与えられた。
魚骨ビーズは一匹の魚から十個ほどしかとれない。貴重なものだった。一つの首飾りを作るのにかなりの苦労がいった。だからその首飾りをつけられるのは、村でとてもいいことをしたものに限られた。
当然、アシメックの胸にも魚骨ビーズの首飾りがあった。それは三連の立派なもので、アシメックの広い胸でいつもちらちらと光っていた。それを見るたびに、村人は、アシメックがみなのためにどんなことをしてきてくれたかを、思い出すのだ。
魚をより分けながら嬉しそうな声をあげている男たちを、アシメックは愛おし気に見ていた。そして声をかけてやった。
「たくさんとれたな。神の恵みだぞ。ありがたく思え。まじめにはたらいて、いいことをしていると、神がたくさんのものをくれるからな」
アシメックの暖かい声は、みなの心に解けるように入っていった。それだけで幸せになるような気がした。また川に舟を出して働こうと、明るく思うことができた。