
その頃、アシメックは、少し高い山の尾根に立ち、風景を見まわしていた。アルカの山は美しいが、先祖からの言い伝えで、これ以上奥に行ってはならないという境界の岩があった。その境界を越えると、アルカラではない魔の世界に迷い込んでしまうという言い伝えがあったのだ。
その境界の岩をなでながら、たぶんオラブはここを越えて言ったのだろうと、アシメックは思った。
きっと山の奥のどこかに住んでいるのだろう。なんとかしてやりたいが。
アシメックは少し考えた後、意を決して、大声で言った。
「オラブ! いるか!」
その声に反応してか、近くの木の枝の上で、栗鼠か何かが動いた。アシメックは続けた。
「返事をしなくてもいい! 聞いてくれ! もうそんな暮らしはつらいだろう! 戻って来い! おれのところにきたら、なんとかしてやる!」
もちろん返事などはない。背後で村人たちが、静かな目で自分を見ているのを感じた。アシメックは続けた。
「みんなに謝って、まっとうな仕事に戻るんだ! それが幸せだぞ!!」
風が起こり、山の木々の梢を揺らした。アシメックは木霊を待つように、何かの反応を待った。しかしそんなものは何もなかった。
だがいい。これからも山に来るたびに、こうして呼び掛けよう。いつか、オラブに届くかもしれない。アシメックはそう思った。
日が陰り、みなの袋が十分に膨らんできたころ、アシメックは皆を率いて山を下りた。