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それを聞いてみんなはびっくりして鎮まった。妹だけがまだ泣いていたが、しばらくすると泣き止んだ。
「ハルトの母が、アシメックの友達だったのだ。だから来るそうだ。みんな、お祈りの歌を歌うのはもう少し待て」
サリクは知らず立ち上がり、族長が姿を現すだろう墓地の入り口の方を見つめていた。サリクは族長を見るのが好きだった。あの厚い体躯をした男を見るだけで、何かにつかれたかのように目が追いかけてしまう。
みなが静まりつつ待っている間に、フウロ鳥が三度鳴いた。そしてみなの期待通り、来ると予想していた入り口に、族長アシメックが現れた。皆の間にため息がもれた。
アシメックは大きな男だった。背丈はほかの部族の男より頭一つ抜きんでている。胸は厚く、族長のしるしである羽の冠をかぶったあかがね色の顔は、威厳に満ちていた。頬骨は高く、鼻は鷲のように突き出ていた。アーモンド形の目は小さいが深く澄み、不思議な慈愛が住んでいた。
みんな、アシメックがどんなことを部族のためにやって来てくれたか、知っていた。みんなをよくするために、どれだけ働いてきてくれたかを知っていた。部族の人間で、アシメックを嫌いなやつはいなかった。だれもがアシメックに従った。
サリクはアシメックの姿を見て、目に涙がにじむほどだった。まぶしいと思った。男なのに、恋してしまいそうなほど、美しく見える。アシメックがいると、サリクは彼ばかり見ていた。
「ハルトはよい男だった。逝ってしまって悲しい」
アシメックは深い声で言った。そしてみなに近づいてきた。茅布で包まれた遺体を見ると、彼はそばに足をつき、愛おし気に、その顔があるあたりに触れた。
「おまえは生きている頃、母親を手伝って、稲舟で働いた。ナイフの扱いが上手だった。みなによく教えていた。おまえはよい男だった」
アシメックはささやくように言った。そして振り向くと、巫医に目で合図をした。
とむらいが始まった。巫医のミコルが、神カシワナカにささげる歌を歌った。