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サリクの仕事は、狩人だった。
毎年春になると、オロソ沼の東手に広がるイタカの野には、やわらかなアマ草が茂る。その草が甘くてうまいので、山の方からハイイロ鹿の群れが降りてくる。
だから春になると、カシワナ族の村では体のいい男たちが集められ、鹿狩りが行われた。サリクは毎年組まれるその狩人組の一人だったのだ。二十人くらいの男たちがチームを組み、弓と罠を使って、一春に鹿を二十頭ほど狩るのだ。
鹿はカシワナカがくれた宝だった。その肉は最高にうまい。すぐに焼いて食うのもうまいが、干した肉をゆでて食うのもうまい。角は細工物に使い、皮は最高の衣服になった。カシワナ族の大人はたいてい鹿皮で作った腰布を身につけていた。子供は裸で育てられたが、十歳くらいになると子供の鹿の皮を着ることを許された。
しかし鹿狩りは春に行うものなので、ほかの季節は、サリクは弓矢や罠を作って過ごした。森でちょうどいい木を探し、弓弦になる葛を探し、弓を作る。魚や蛙をとる罠も作った。ちなみにカシワナ族は蛙も食った。オロソ沼には、太った蛙がうようよといたのだ。簡単な罠をしかけるだけで、たくさん捕まえることができる。
蛙の肉はあっさりとしていてうまい。捕まえてきたらすぐに皮をはいで、香草と一緒にゆでて食った。皮は干して、いろいろなことに使った。蛙の皮は、干して刻んだものを、腹を下した時に飲むと効くと言われていた。足を干したものは、魚を釣る時の餌に使った。
だが今のサリクには、罠作りよりも重要な仕事があった。アシメックに、コクリの花が咲いているかどうか見て来いと言われたのだ。