
怖さのためか、体が震え、涙が頬を流れた。しかし動悸が落ち着いてくると、アロンダの脳裏にはまたあの男の姿がよみがえった。
アシメック。あの男、怪我をしたのか。
そばにいきたいという、女の気持ちになっている自分を、アロンダは認めないわけにいかなかった。
アロンダは、その日、川辺で妙なカシワナ族の男に会ったことを、誰にも言わなかった。言っては、自分の心が誰かにばれるような気がしたのだ。
知られたくなかった。誰にも、知られたくなかった。異部族の男のことで悩んでいる自分の心など。
永遠に、誰にも言うことはできない。