初めて読んだ、ディス・ユートピア小説であり、バッドエンディングであった。
信じがたいことだが、これは子供向けに書かれたSF小説である。私が読んだのは、小学校4年生であったと思う。当初は、ペットの犬を学校に通わせて、知性を向上させて人とより仲良くなるのかと、勝手に思い込んで読みだした。
しかし、読み終えた時の、どんよりとした重ぐるしい感覚に打ちのめされた。はっきり言います、これは子供向けではありません。さりとて大人向けでもない。なんだって、こんな問題のある作品が、学校の図書室に置かれていたのか。
子供に読ませる本は、必ずしもハッピーエンドである必要はないと思う。ただ本を読む喜びを伝えるためには、ハッピーエンドのほうが望ましいのは言うまでもない。しかし、哀しい悲劇だって、子供に読ませて将来遭遇するかもしれない不幸に対するワクチンとすることも、私は有りだと思っている。
子供には夢が必要だし、夢を実現する苦労と、その先の喜びを、読書を通じて知ることは大事だと思うのです。そして、心が成長するに従い、哀しい物語や、辛い物語を読むことで、心に免疫注射をする役割も、読書にはあると信じています。
でも、この作品はそうではない。喩えていえば、夢破れ、挫折した鬱憤を酒を飲むことで癒そうとし、二日酔いの朝を迎え、疲れ切った顔で起きてきた大人を見た気分なのです。昨日までの敬意が吹っ飛んでしまうほどの、だらしなさ、なさけなさが子供心に辛かった。
今にして思えば、この作品が書かれた時代は、日米安保闘争に敗れ、学園紛争に敗れ、自由と平等を目指した革命への夢が破れたことを、否応なしに自覚せざる大人たちが出てきた。
長かった髪を切り、七三分けでネクタイ締めて会社へ出勤し、組織の中に縛り付けられ、日々仕事に追われる毎日。もはや革命は夢と化し、酒のツマミにするには苦すぎる。
そんな挫折感が、この作品の背景にあったのではないか。
数年後に、しらけ世代と呼ばれる若者たちが出現するのも無理ないと、私なんかは醒めた目線で観てしまう。だから、この作品は再読していません。再読に値しないと思うし、図書館で見つけるのも至難の業でしょう。
この作者のような、革命を夢見て、挫折を味わい、その屈折した思いを捨てきれずにいる人、案外多いのかもしれません。
検索すれば出てくるのかも知れませんが、この書名に出会うとは思いませんでした。
話の作りは「注文の多い料理店」風で、どんどん改造されてゆく犬に飼い主の少年が直面する感じであったと思います。
ヌマンタさんより幾分、年下なせいか、あまりヌマンタさん程には左翼学生の挫折は感じませんでしたが、どよんとした二日酔いみたいな感じはしごく的中していると思います。
ディストピア小説としても、オーウェルの「動物農場」には遥かに劣る。
まぁ、それでも記事を読んで思い出せるのだから、それなりの作品なのかも知れませんが。
まぁ、また読みたいとは確かに思いませんね。SF者のワタシでも。
どう考えても名作とは言い難いのですが、記憶に深く残ってしまう、トラウマ的作品なのは確かだと思いますね。