さる三十数年前のことである。私は会社内における出世街道から滑り落ちた。」
順調な社会人生活のつもりであった。営業実績も良かったし、社内での立ち位置も、いささか女性陣よりではあったが、男性はどうせライバルだと割り切っていたから問題なし。
このまま突き進むはずだったのに、二つの病気が私を引き摺り落とした。急性腎不全は致死性はあっても治れば問題ない。しかし、もう一つの難病ネフローゼ症候群はそうはいかなかった。
現在でこそ難病指定から外れているが、当時は難治性の病気であった。この病気には大別して二種類ある。原発性、すなわち他に疾患がなく突発的に発病するケース。それと他の疾患から派生してネフローゼ症状が出るケース。
難病指定から外れたと書いたが、現在も後者のケースは非常に治癒が難しい。それは元となる病気自体が治療が難しいが故で、厄介な病気であることに変わりはない。
私の場合、前者であったが発病が成人後であった。ネフローゼは幼少時の発生が多く、この場合はほぼ完治することも珍しくない。しかし、成人後の発症の場合、治療は長引くことが多い。私はその典型例であり、ほぼ治ったと判断されるまで10年を超える歳月が必要であった。
組織人としての出世を諦めた私だが、この療養期間で資格でも取って、方向転換を図ることを目指した。税理士の国家試験は決して易しくはなかったと思う。しかし、暗記と計算の反復をすれば、合格は十分可能であった。
当時の私は病気のことで頭が一杯であり、むしろやるべき事をやれば結果が出る試験なんて気楽なものであった。難病はいくら努力しても治る保証はない。それに比べれば遥かに楽であった。
もっとも実務についてからも修行に20年あまりかかったが、どうにか東京銀座で事務所を抱えるまでに成功した。もっとも日本経済自体、下り坂にあるため、決して楽な仕事ではなかったと思う。
そんな私に降りかかったのが8年前の心筋梗塞であった。だが、無事乗り切り油断していたらしい。先月,年初めに心臓の不整脈で緊急入院である。まったく私の人生になかなか安寧の時は訪れない。
そして遂に二回目の不整脈である。医師の判断はICDの埋め込みである。要するに心臓が不整脈を起こした時、それを自動的に抑える電気ショックで致死の可能性を防ぐ機械を体内に埋め込むわけだ。
その手術は今週となった。
正直嫌だが、私はまだまだ人生を諦めるつもりはない。太く短く生きるなんて思わない。無様でもいいから長く生きたい。出来るならば健康な身体で生きたいが、それは叶わぬこと。ならば次善の策で生きるのも良しだ。
ただなぁ~、その手術は部分麻酔なんだよね。寝たままで終わる手術が好きなんだけど、ダメみたい。まぁあまりわがままな患者でいるのもどうかと思うので、これは諦めるしかないのでしょうね。
順調な社会人生活のつもりであった。営業実績も良かったし、社内での立ち位置も、いささか女性陣よりではあったが、男性はどうせライバルだと割り切っていたから問題なし。
このまま突き進むはずだったのに、二つの病気が私を引き摺り落とした。急性腎不全は致死性はあっても治れば問題ない。しかし、もう一つの難病ネフローゼ症候群はそうはいかなかった。
現在でこそ難病指定から外れているが、当時は難治性の病気であった。この病気には大別して二種類ある。原発性、すなわち他に疾患がなく突発的に発病するケース。それと他の疾患から派生してネフローゼ症状が出るケース。
難病指定から外れたと書いたが、現在も後者のケースは非常に治癒が難しい。それは元となる病気自体が治療が難しいが故で、厄介な病気であることに変わりはない。
私の場合、前者であったが発病が成人後であった。ネフローゼは幼少時の発生が多く、この場合はほぼ完治することも珍しくない。しかし、成人後の発症の場合、治療は長引くことが多い。私はその典型例であり、ほぼ治ったと判断されるまで10年を超える歳月が必要であった。
組織人としての出世を諦めた私だが、この療養期間で資格でも取って、方向転換を図ることを目指した。税理士の国家試験は決して易しくはなかったと思う。しかし、暗記と計算の反復をすれば、合格は十分可能であった。
当時の私は病気のことで頭が一杯であり、むしろやるべき事をやれば結果が出る試験なんて気楽なものであった。難病はいくら努力しても治る保証はない。それに比べれば遥かに楽であった。
もっとも実務についてからも修行に20年あまりかかったが、どうにか東京銀座で事務所を抱えるまでに成功した。もっとも日本経済自体、下り坂にあるため、決して楽な仕事ではなかったと思う。
そんな私に降りかかったのが8年前の心筋梗塞であった。だが、無事乗り切り油断していたらしい。先月,年初めに心臓の不整脈で緊急入院である。まったく私の人生になかなか安寧の時は訪れない。
そして遂に二回目の不整脈である。医師の判断はICDの埋め込みである。要するに心臓が不整脈を起こした時、それを自動的に抑える電気ショックで致死の可能性を防ぐ機械を体内に埋め込むわけだ。
その手術は今週となった。
正直嫌だが、私はまだまだ人生を諦めるつもりはない。太く短く生きるなんて思わない。無様でもいいから長く生きたい。出来るならば健康な身体で生きたいが、それは叶わぬこと。ならば次善の策で生きるのも良しだ。
ただなぁ~、その手術は部分麻酔なんだよね。寝たままで終わる手術が好きなんだけど、ダメみたい。まぁあまりわがままな患者でいるのもどうかと思うので、これは諦めるしかないのでしょうね。